歌曲解説:シューマン「詩人の恋」詩の対訳と音楽

音声はこちら→ https://stand.fm/episodes/654b7739a2192de0fc671bd6

こんにちは!テノール歌手の髙梨英次郎です。
本日はドイツ歌曲を解説して参ります。
歌曲って、素敵ですよ!

ロベルト・シューマン作曲による連作歌曲「詩人の恋 Dichterliebe 作品48」の詩と音楽の内容について、ご紹介して参ります。
前回もお話した通り、この歌曲集は詩人ハイネの「歌の本」から抜粋されたものです。

「詩人の恋」に限らず、シューマンは歌曲のピアノにおいて、もはや伴奏に留まらない、歌と同等の表現をさせていることで知られています。
先輩のベートーヴェンやシューベルトたちから影響を受けつつ、シューマン独自のピアノ表現に関しても、その都度ご紹介していきたいと思います。


1.
Im wunderschönen Monat Mai,
Als alle Knospen sprangen,
Da ist in meinem Herzen
Die Liebe aufgegangen.

驚くほど美しい月、五月に
全てのつぼみが弾け咲く頃、
僕の心にも
愛が芽生えて咲いた。


Im wunderschönen Monat Mai,
Als alle Vögel sangen,
Da hab ich ihr gestanden
Mein Sehnen und Verlangen.

驚くほど美しい月、五月に
鳥たちがみな歌い、
僕は彼女に打ち明けた、
僕の憧れと願いを。

ヨーロッパ諸国の冬は長く厳しいものです。
特にドイツは、日本と全く緯度が重ならず、つまり北海道よりもさらに寒い冬で、4月になってもまだ寒く、5月になればようやく過ごしやすくなってきます。
西洋のクラシック音楽において、歌曲でもオペラアリアでも、5月の気候や自然を歌った詩が多く取り上げられています。
この「詩人の恋」もそんな5月に、植物が芽吹いて花が咲く自然描写と共に、心に愛が芽生えた様子が美しく描かれます。
シューマンにしか書けないのではないかというような、繊細でロマンティックな音楽が始まります。


2.
Aus meinen Tränen sprießen
Viel blühende Blumen hervor,
Und meine Seufzer werden
Ein Nachtigallenchor.

僕の涙から咲き出でる、
たくさんの花が咲くのだ。
そして僕のため息は
ナイチンゲールの合唱となる。


Und wenn du mich lieb hast, Kindchen,
Schenk ich dir die Blumen all,
Und vor deinem Fenster soll klingen
Das Lied der Nachtigall.

そして愛しい君が、僕を愛してくれるなら、
君にその花を全部あげるよ。
そして君の窓辺には響くだろう、
ナイチンゲールの歌が。

切々と愛する人へ想いを歌う、というより音をつけて語っているというような曲です。
ピアノは最小限の動きでありながら、詩人の想いに寄り添うような音世界を繰り広げます。


3.
Die Rose, die Lilie, die Taube, die Sonne,
Die liebt ich einst alle in Liebeswonne.
Ich lieb sie nicht mehr, ich liebe alleine
Die Kleine, die Feine, die Reine, die Eine;

バラ、ユリ、ハト、太陽、
僕はそれら全て、喜びのうちに愛していた。
もう愛していない、ただ愛してるのは
小柄で、すてきで、純粋な、たった一人だけ。


Sie selber, aller Liebe Wonne,
Ist Rose und Lilie und Taube und Sonne.

その人こそ、愛の喜びそのもので、
その人こそバラ、ユリ、ハト、太陽なのだ。

めでたく恋人同士となったのでしょう。
詩人の喜びは早くも最高潮といった感じで、歌うというより、まくし立てて喋るかのような1曲です。
無条件の喜びは、あっという間に終わってしまいます。


4.
Wenn ich in deine Augen seh’,
So schwindet all mein Leid und Weh;
Doch wenn ich küsse deinen Mund,
So werd’ ich ganz und gar gesund.

僕が君の瞳を見ていると、
悩みや痛みは消え去っていく。
僕が君の口元にキスすると、
僕は心底、健やかでいられる。


Wenn ich mich lehn’ an deine Brust,
Kommt’s über mich wie Himmelslust;
Doch wenn du sprichst:“Ich liebe dich!”
So muss ich weinen bitterlich.

僕が君の胸に寄りかかる時、
天上の喜びが降りそそぐ。
でも君が”愛してる”と話すとき、
僕は激しく泣いてしまうんだ。

詩人と愛する人との愛の場面が描かれています。
そこにある安らぎと不安が詩と音楽で見事に表現されています。
「愛してる」と言われて激しく泣いてしまう詩人。あまりにも繊細ゆえの涙なのでしょうか。


5.
Ich will meine Seele tauchen
In den Kelch der Lilie hinein;
Die Lilie soll klingend hauchen
Ein Lied von der Liebsten mein.

僕はこの心を浸したい
ユリのがくの中に。
ユリはささやいて響かせるだろう
僕の愛する人の歌を。


Das Lied soll schauern und beben,
Wie der Kuss von ihrem Mund,
Den sie mir einst gegeben
In wunderbar süßer Stund’.

その歌は震えおののくだろう、
彼女とした口づけのように。
彼女が僕にくれた口づけ
すばらしく甘いひと時に。

幸せそうな情景の詩でありながら、ここで初めて短調(暗い調子)の曲となります。
幸せの中にも不安が芽生えてきたのでしょうか。
この曲から、ピアノによる長い後奏が演奏されます。
詩の言葉だけでは表現しきれない感情のようなものがその音楽に現れている気がいたします。


6.
Im Rhein,im heiligen Strome,
Da spiegelt sich in den Well’n,
Mit seinem großen Dome,
Das große heilige Köln.

ライン川、神聖な大河、
その波に映し出されているのは、
大きな大聖堂、
大いなる神聖なケルンの大聖堂。


Im Dom,da steht ein Bildnis,
Auf goldenem Leder gemalt;
In meines Lebens Wildnis
Hat’s freundlich hineingestrahlt.

大聖堂には、ある肖像画がある、
金色の革に描かれた肖像画だ。
僕の人生における荒野に
友のような光を投げ入れてくれた。


Es schweben Blumen und Englein
Um unsre Liebe Frau;
Die Augen,die Lippen,die Wänglein,
Die gleichen der Liebsten genau.

その絵には花や天使が浮かんでいる、
聖母マリア様の周りに。
その瞳、その唇、その頬は、
愛する人に瓜二つだ。

またしても短調の曲。
ケルンの大聖堂を詩人は訪れています。ピアノはまるで教会に響くオルガンのような音楽を奏でています。
詩人は何かを祈りにここへやってきたのでしょうか。聖母マリア様の絵が愛する人に似ているこの大聖堂に。
この曲も長い後奏で閉じられます。その音楽からは、詩人が心に不安や葛藤を抱えている様子が窺えます。


7.
Ich grolle nicht, und wenn das Herz auch bricht,
Ewig verlornes Lieb! ich grolle nicht.
Wie du auch strahlst in Diamantenpracht,
Es fällt kein Strahl in deines Herzens Nacht.
Das weiß ich längst.

僕は恨まない、心が張り裂けようとも。
永遠に失われた愛!僕は恨まない。
君がダイアモンドのきらめきで輝こうと、
君の心の闇には光も差さないだろう。
とっくにわかっていたんだ。


                            Ich sah dich ja im Traume,
und sah die Nacht in deines Herzens Raume,
Und sah die Schlang, die dir am Herzen frißt,
Ich sah, mein Lieb, wie sehr du elend bist.

君のことを夢で見た、
君の心の空間には闇が広がっていた。
蛇も見たんだ、君の心を食った蛇を。
僕は、愛した君がどれだけ惨めかわかったよ。

16曲中7曲目にして、詩人の恋、恋愛は破局を迎えてしまいました。
恨まない、と言いつつ恨み節全開の1曲です。なのに曲調は短調ではなく、あえて辛さを抑えた明るい長調で書かれているところが素晴らしいと感じます。
テノール歌手としては、ここで最高音のラ♮の音を歌うことになるので気合が入ります(笑)。


8.
Und wüßten’s die Blumen, die kleinen,
Wie tief verwundet mein Herz,
Sie würden mit mir weinen,
Zu heilen meinen Schmerz.

それから小さな花々が知ったなら、
僕の心がどれだけ深く傷ついたかを、
花たちは僕と一緒に泣くだろう、
僕の痛みを治そうとして。


Und wüßten’s die Nachtigallen,
Wie ich so traurig und krank,
Sie ließen fröhlich erschallen
Erquickenden Gesang.

それからナイチンゲールたちが知ったなら、
僕がどんなに悲しく病んでいるかを、
彼らは楽し気に響かせるだろう、
元気にさせてくれる歌を。


Und wüßten sie mein Wehe,
Die goldenen Sternelein,
Sie kämen aus ihrer Höhe,
Und sprächen Trost mir ein.

金色に輝く星々が
僕の苦しみを知ったなら、
その高みからやって来て、
僕への慰めを語ってくれるだろう。


Sie alle können’s nicht wissen,
Nur eine kennt meinen Schmerz:
Sie hat ja selbst zerrissen,
Zerrissen mir das Herz.

彼らはみんな知ることはない、
僕の痛みを知るのは一人だけ。
その人が自分で引き裂いたのだから、
僕の心を引き裂いたのだから。

花、ナイチンゲール、星々が詩人を慰めてくれるのですが、詩人の苦しみは消えません。
最後の “zerrissen 引き裂く” という言葉で、抑えていた感情が漏れ出るかのように音楽も激しく終わります。


9.
Das ist ein Flöten und Geigen,
Trompeten schmettern darein;
Da tanzt wohl den Hochzeitsreigen
Die Herzallerliebste mein.

それはフルートとヴァイオリン、
トランペットもその中で響き渡る。
婚礼の輪舞で踊っているのは
僕が心から愛した人。


Das ist ein Klingen und Dröhnen,
Ein Pauken und ein Schalmei’n;
Dazwischen schluchzen und stöhnen,
Die lieblichen Engelein.

それは鳴り響く音、とどろく音、
太鼓やシャルマイの音。
その中ですすり泣き、うめいているのは
愛らしい天使たち。

ピアノがリズミカルに踊りの音楽を演奏します。
それは結婚式で皆が楽し気に踊る様子。詩人はその場にいられるわけもなく、遠くから結婚式を眺めています。
その花嫁はかつての恋人。ピアノの後奏で詩人は、その場から立ち去る様子が伺えます。


10.
Hör’ ich das Liedchen klingen,
Das einst die Liebste sang,
So will mir die Brust zerspringen
Von wildem Schmerzendrang.

かつて愛した人が歌った歌を、
その歌が響くのを聞くと僕は、
胸が砕け散る思いがする、
激しい苦しみの衝動で。


Es treibt mich ein dunkles Sehnen
Hinauf zur Waldeshöh’,
Dort löst sich auf in Tränen
Mein übergroßes Weh.

その衝動は僕を暗い憧れに駆り立てる、
森の高い場所へと。
そこでは涙の中に溶けていくのだ、
僕の計り知れない苦しみが。

16曲中最も悲し気な1曲です。
あまりにもショックが大きかったのか、詩人は森で一人、人生を閉じようとしているかのよう。
しかし思いとどまり、後奏では徐々に諦めの境地に至り、次の曲ではガラッと心情が変わることになります。


11.
Ein Jüngling liebt ein Mädchen,
Die hat einen andern erwählt;
Der andre liebt eine andre,
Und hat sich mit dieser vermählt.

ある若者がある女の子を愛した、
その娘は別の男を選んだ。
その男は別の娘を愛して、
その娘とその男が結婚した。


Das Mädchen nimmt aus Ärger
Den ersten besten Mann,
Der ihr in den Weg gelaufen;
Der Jüngling ist übel dran.

振られた娘は腹立ちまぎれに、
たまたま最初にいた男、
道で会っただけの男を受け入れた。
最初の若者は惨めったらない。


Es ist eine alte Geschichte,
Doch bleibt sie immer neu;
Und wem sie just passieret,
Dem bricht das Herz entzwei.

これは昔のおはなしさ、
でも今でもこういうことはあるものだ。
これが実際起きようものなら、
心は真っ二つに引き裂かれるだろう。

最初の節、紛らわしいので整理します。
男性Aが女性Bを愛したのに振られ、女性Bは男性Cを愛した。でも男性Cは別の女性Dを愛して結婚。怒った女性Bは、行きずりの男Eと関係を持ち付き合いだした。哀れ、男性A。
この昔話を皮肉めいた口調と音楽で、客観的に表現しています。
詩人はある程度、失恋から吹っ切れたのでしょうか。


12.
Am leuchtenden Sommermorgen
Geh’ ich im Garten herum.
Es flüstern und sprechen die Blumen,
Ich aber wandle stumm.

光あふれる夏の朝に
僕は庭を歩き回る。
花々がささやき、話しかけてくる、
だが僕は黙ってさまよう。


Es flüstern und sprechen die Blumen,
Und schaun mitleidig mich an;
“Sei unsrer Schwester nicht böse,
Du trauriger,blasser Mann!”

花々がささやき、話しかけてくる、
僕のことを同情を込めて見ながら。
「私たちの姉さんに腹を立てないで、
 悲し気で、青ざめたお方!」

第1曲で5月だった季節は夏の朝になりました。
いくぶん気分が落ち着いた詩人は自然の中を歩いています。
しかし花々がそのような言葉をかけてくると感じられるほどに、詩人の傷はまだまだ癒えるには程遠いようです。
花々の言葉にかかる音楽は、シューマンの繊細なロマンティシズムが全開になっているものです。


13.
Ich hab’ im Traum geweinet,
Mir träumte, du lägest im Grab.
Ich wachte auf, und die Träne
Floß noch von der Wange herab.

僕は夢の中で泣いた、
君が墓に横たわる夢を見たんだ。
僕は目覚め、涙が
頬を伝って流れていた。


Ich hab’ im Traum geweinet,
Mir träumt’, du verließest mich.
Ich wachte auf, und ich weinte
Noch lange bitterlich.

僕は夢の中で泣いた、
君が僕を捨てる夢を見たんだ。
僕は目覚め、泣いていた、
なおも長く、激しく。


Ich hab’ im Traum geweinet,
Mir träumte, du wärst mir noch gut.
Ich wachte auf, und noch immer
Strömt meine Tränenflut.

僕は夢の中で泣いた、
君が僕をまだ想ってくれる夢を見たんだ。
僕は目覚め、いつまでたっても
涙の洪水がとうとうと流れるのだ。

歌が伴奏無しのアカペラで、つぶくやくように始まります。
全曲中最も緊張感のある1曲です。
ここから夢にまつわる曲が続きます。


14.
Allnächtlich im Traume seh’ ich dich
Und sehe dich freundlich, freundlich grüßen,
Und laut aufweinend stürz’ ich mich
Zu deinen süßen Füßen.

毎晩夢で君を見ている、
君は親し気に挨拶をしてくれる、
僕は声高く泣き、身を投げ出す、
君のすてきな足元に。


Du siehest mich an wehmütiglich,
Und schüttelst,schüttelst das blonde Köpfchen;
Aus deinen Augen schleichen sich
Die Perlentränentröpfchen.

君は僕を悲し気に見つめて、
小さなブロンドの首を振る。
君の瞳からひっそり流れる、
真珠のような涙の滴が。


Du sagst mir heimlich ein leises Wort,
Und gibst mir den Strauß, den Strauß von Cypressen.
Ich wache auf, und der Strauß ist fort,
Und’s Wort hab’ ich vergessen.

君は僕へ密やかに、かすかな言葉をかける、
そして僕にくれる、糸杉の束を。
僕は目覚め、その束は消え、
かけてくれた言葉は思い出せない。

前の曲よりは穏やかな内容の夢であったようですが、最後に出てくる糸杉は、死を象徴する植物です。これは詩人の、恋の思い出が死にゆくことを表しているのかもしれません。
ふっと、音楽と共に夢も消え去ってしまいます。


15.
Aus alten Märchen winkt es
Hervor mit weißer Hand,
Da singt es und da klingt es
Von einem Zauberland.

古いおとぎ話が招いてくる、
その白い手で招いてくる、
歌い、響いているのは
魔法の国から。


Wo bunte Blumen blühen,
Im goldnen Abendlicht,
Und lieblich duftend glühen
Mit bräutlichem Gesicht;

そこでは色とりどりに花が咲く、
金色に輝く夕陽の中で、
愛らしくかぐわしく燃え上がる、
花嫁のような顔をして。


Und grüne Bäume singen
Uralte Melodein,
Die Lüfte heimlich klingen,
Und Vögel schmettern drein;

そして緑の木々が歌う、
太古の昔のメロディーを。
風は密やかに響いて、
鳥は高らかにさえずり渡る。


Und Nebelbilder steigen
Wohl aus der Erd’ hervor,
Und tanzen luft’gen Reigen
Im wunderlichen Chor;

そして霧の姿をした者が
大地から立ち昇り、
軽やかな輪舞を踊る、
奇妙なコーラスと共に。


Und blaue Funken brennen
An jedem Blatt und Reis,
Und rote Lichter rennen
Im irren, wirren Kreis;

そして青い火花が燃えている、
あらゆる葉っぱと小枝の上で。
赤い光が駆け巡る、
狂い混乱した円を描いて。


Und laute Quellen brechen
Aus wildem Marmorstein,
Und seltsam in den Bächen
Strahlt fort der Widerschein.

そして泉が騒々しく溢れ出る、
天然の大理石から。
奇妙にも小川の中へ
光は照り返しつつ消えゆく。


Ach,könnt’ ich dorthin kommen
Und dort mein Herz erfreun
Und aller Qual entnommen
Und frei und selig sein!

ああ、僕がそこへ行けたらいいのに、
そこで僕の心は喜びを得て、
全ての悩みは取り去られ、
自由でいられ、祝福されるのだ!


Ach! jenes Land der Wonne,
Das seh’ ich oft im Traum;
Doch kommt die Morgensonne,
Zerfließt’s wie eitel Schaum.

ああ、そんな幸せの国を
僕はよく夢で見る。
でも朝日が昇ると、
むなしく泡となって溶けてしまうのだ。

全曲中最も長い詩につけられた、長い曲となっています。
しかし夢の様子を描いた詩は、一気にまくし立てられるように歌われ、長さを感じさせません。
やがて夢は冷め、現実に引き戻された詩人は、次の歌でこの恋を心から消し去る決意をするように思えます。


16.
Die alten, bösen Lieder,
Die Träume bös’ und arg,
Die laßt uns jetzt begraben;
Holt einen großen Sarg.

昔の、ひどい歌、
ひどくてよこしまな夢、
それらを今、埋めてしまおう。
大きな棺をひとつ持ってこい。


Hinein leg’ ich gar manches,
Doch sag’ ich noch nicht, was;
Der Sarg muß sein noch größer,
Wie’s Heidelberger Faß.

その中にはたくさんのものを入れる、
だが何を入れるかはまだ言わない。
棺はもっと大きくなくてはいけない、
ハイデルベルクの樽よりも。


Und holt eine Totenbahre
Und Bretter fest und dick;
Auch muß sie sein noch länger,
Als wie zu Mainz die Brück’.

棺の台も持ってこい、
あと、硬くて分厚い板も。
台は長くなくてはいけない、
マインツにある橋よりも。


Und holt mir auch zwölf Riesen,
Die müssen noch stärker sein
Als wie der starke Christoph
Im Dom zu Köln am Rhein.

それから巨人を12人連れてこい、
とびきり力持ちの奴らがいい。
ラインのケルン大聖堂にある
クリストフ像よりも強そうな奴を。


Die sollen den Sarg forttragen
Und senken ins Meer hinab;
Denn solchem großen Sarge
Gebührt ein großes Grab.

その棺を巨人たちに運ばせて
海の底へと沈めてもらうのだ。
これくらい大きな棺には
これくらい大きな墓がふさわしい。


Wißt ihr, warum der Sarg wohl
So groß und schwer mag sein?
Ich senkt’ auch meine Liebe
Und meinen Schmerz hinein.

皆さんお分かりか?どうして棺が
こんなに大きく重いのか。
僕は沈めたのだ、自分の恋を、
そして苦しみをその中に。

詩人は自分の恋愛を棺の中に入れて、海に沈める、と歌います。
そして最後にはピアノ・ソロのような長い後奏で歌曲集が締めくくられます。
12曲目の後奏と同じメロディが調性を変えて演奏された後は、遠くへと歩いていく詩人の姿を描写したように、穏やかな音楽が演奏されます。
人生を揺るがすような失恋をした詩人ですが、時折、その思いが乱れそうになりながらも、前向きに歩みだそうとしているかのように感じられます。


こうして全16曲の歌曲集「詩人の恋」は静かに幕を閉じます。

いかがでしたでしょうか。

「詩人の恋」全曲聴いても約30分ほどです。ぜひ多くの皆様に聞いていただけることを願っております。

ありがとうございました。

髙梨英次郎でした。

参考文献

「シューマンの歌曲集 詩人の恋」 アーサー・コーマー編 寺本まり子 訳

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