オペラ解説:モーツァルト「コジ・ファン・トゥッテ」②ストーリー(あらすじ)

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オペラ「コジ・ファン・トゥッテ」解説 - テノール歌手:髙梨英次郎のトークです | stand.fm
モーツァルト作曲のオペラ「コジ・ファン・トゥッテ」の解説です。 オペラ喜劇の大傑作!どうぞチェックしてみてください♫ 0.00〜 導入、作曲・初演までの経緯 7.00〜 序曲、第1幕 30.41〜 第2幕 #モーツァルト #コジファントゥッ...

モーツァルト作曲オペラ「コジ・ファン・トゥッテ」のストーリーをご紹介いたします。

「コジ・ファン・トゥッテ」

全2幕

登場人物

フェルランド:ナポリの士官
グリエルモ:ナポリの士官
フィオルディリージ:グリエルモの恋人
ドラベッラ:フェルランドの恋人、フィオルディリージの妹
ドン・アルフォンソ:士官ふたりの友人で哲学者
デスピーナ:姉妹に仕える女中

まずは序曲が演奏されます。

緩やかな音楽で始まりますがすぐに、後に出てくるこのオペラのタイトル「Cosi fan tutte」が歌われる場面でのメロディーが現れます。
そして快活なテンポとなり軽やかな音楽が展開されていきます。
木管楽器が順番に奏でられるところなど、まるで恋人たちの会話のようです。
再び「Cosi fan tutte」のメロディーが出てきて、いかにも幕開けにふさわしく、ワクワクさせるように序曲が締めくくられていきます。


<第1幕>
第1場
とあるカフェにて

3人の男性が何やら会話をしています。
そのうち2人は若き士官(軍隊で指揮を執る立場)のフェルランドとグリエルモ。
もう1人は哲学者のドン・アルフォンソです。

歌は会話の途中から始まります。(Nr. 1)
フェルランドがやや興奮して、
「僕の恋人ドラベッラが他の男に目移りするはずなんてない!」
と主張して、続いてグリエルモも
「僕のフィオルディリージだってそうです。僕を裏切るわけがない!」
と同調します。
するとアルフォンソは、
「白髪も生えてきた私がありがたく、教えてやってるんだがねー。」
と皮肉っぽく返します。
どうやらアルフォンソは、「君たちの彼女も浮気するかもよ?」という内容の話をしたものと思われます。

この最初の三重唱が終わると、レチタティーヴォと呼ばれる、会話の部分となります。
士官2人はアルフォンソに剣を抜いて切りかかろうとしかねない勢いで怒っています。
しかしアルフォンソはどこ吹く風。
すぐに2つ目の三重唱が始まります。(Nr. 2)

アルフォンソ曰く
「女性の貞操など、フェニックスの羽のようなものだ。つまり、そんなものは無いのだよ。」

士官2人は、そのフェニックスこそ我が恋人だ!と主張して譲りません。

続くレチタティーヴォで、ついに賭けをしよう!ということになります。
彼らの恋人たちが他の男に心変わりするかどうか、の賭けです。

こんな賭けをするということは、こんにちの観点から言えば、何とも女性に対して失礼な話です。
そこは18世紀末にできたお話、時代劇だということで何とかご容赦いただきたいところです。(賭けをした罰が当たったのかもしれませんが)男性たちはこのストーリーで大変ひどい目にあいます。


ベートーヴェンやワーグナーが”くだらない”としたこの台本に、モーツァルトは人間の感情の機微や、ある種の悲しみも滲ませた、本当に素晴らしい音楽をつけています。
どうぞ最後までこのオペラにご注目ください。

フェルランドとグリエルモはアルフォンソの指示に、明日の朝までの間、完全に従うことを軍人の名誉にかけて誓います。
これでともかく、賭けが成立しました。
すっかり賭け金を手にする気でいる若者2人は、どんちゃん騒ぎをするぞ!とこの場面最後の音楽を歌い出します。(Nr. 3)
このプロローグ的な場面のフィナーレとなって、賑やかに音楽が終わります。

第2場
場面変わって、海辺にある屋敷の庭園。

2人の女性が自分の恋人の肖像画が入ったロケットを眺めています。
ロケットは、宇宙に飛ばすロケットではなく(そちらはrocket)、懐中時計のような金属製の容器 (locket) のことです。

フィオルディリージとドラベッラは姉妹。
庭園があるお屋敷ということで、良いおうちの若いお嬢様なのでしょう。
それぞれ自分の恋人を自慢し合う、美しい二重唱を歌います。(Nr. 4)
こんな二人が、果たしてアルフォンソの言う通り、本当に心変わりするのでしょうか。

「何か今日は気分が盛り上がってしょうがないわ、何かいいことがありそう♪」
「あの人たちと結婚なんかしちゃったりして、キャー (≧∇≦)」

と、姉妹が他愛のない会話をしているところに、ドン・アルフォンソがやって来ます。
アルフォンソは士官の2人だけでなく、このお嬢様姉妹とも以前から面識があり、屋敷を気軽に訪れることが出来る関係性のようです。
アルフォンソは、大変落ち込んだ様子を見せています。…もちろん芝居です。

「まあアルフォンソさん、泣いてらっしゃるの??どうして??」

ここからアルフォンソのアリア、と名がついていますが30秒ぐらいで終わってしまう、超絶短いソロが歌われます。(Nr. 5)
「何があったか言いたいのだが、唇は震えるばかり。
 一体どうしたらよいのだ?何という運命だ!」
と、ことさら大げさに、何か良くないことが起きたという雰囲気で姉妹にまくし立てて、あっという間に音楽が終わります。
なにせ本当のことではないので、音楽も真実の表現などできず、盛り上がりようがないわけです。

「アルフォンソさん、一体何があったの?
 もしかしてあの人たちが、、死んでしまったなんてことは…」
「死んで!!…は、いないのだが、、同じくらい酷いことだ。
 彼らに戦場へ行くよう、命令が下ってしまった。。」
「そ、そんな…!!」

そして憔悴しきった(芝居をさせられている)フェルランドとグリエルモが入ってきます。
ここから五重唱が始まります。(Nr. 6)

しばしの別れを告げる男たちに、心からその別れを悲しみ、取りすがる姉妹たち。
その様子を見て、「ほれ見ろ、アルフォンソ、わかっただろ?」
と、小声でアルフォンソに向かって勝ち誇る男ふたり。
しかしアルフォンソは「まぁ、見てなさい。」と、余裕しゃくしゃくです。

続いてフェルランドとグリエルモが恋人たちを慰める二重唱を歌うのですが、シンプルな音楽でストーリー的にもあまり進展はないので、カットされることが多いです。(Nr. 7)

遠くから太鼓を打ち鳴らす音が聞こえます。
軍隊の船が出る合図です。
他の兵士たちや町の人々が集まって、軍隊の生活を賛美して歌い、若者2人の船出を祝っています。(Nr. 8)

この群衆はアルフォンソが呼び寄せたエキストラたちなのか。
そもそも軍隊の船出までアルフォンソが仕掛けたことなのか。
たまたま本当にあった軍隊の船出のイベントに、アルフォンソたちが乗っかり、フェルランドとグリエルモはそこに参加するフリをしているのか。
演出や解釈によって異なるところです。

アルフォンソは男性たちに出発を急かします。
恋人たちは名残惜しそうに、

「毎日、手紙を、書いてね。。」「もちろんだよ。。」
と優しく歌い合い、アルフォンソは笑いをこらえている、そんな五重唱が演奏されます。(Nr. 9)

もう一度、合唱が繰り返され、フェルランドとグリエルモは船へと向かいます。
この後彼らはすぐに登場するので、恐らく本当に船には乗り込んでいないと思われます。(あるいは1度乗って、近くの岸辺辺りで降りた?)

フィオルディリージとドラベッラはなかば呆然と恋人たちを見送ったのですが、我に返って悲しみます。
そして彼らの無事を祈る三重唱をアルフォンソと共に歌います。(Nr. 10)
このオペラ中1,2を争う、極上の美しさをもつ1曲です。

場面は別の部屋にうつります。
この後の場面も、基本的に姉妹の邸宅内で物語が進んでいきます。

そこにいるのは姉妹に仕える女中、デスピーナ。
年齢設定は演出によって様々ですが、少なくとも姉妹よりは年上。

Image of Despina


デスピーナは女中であるという自分の境遇に愚痴を言いながら、姉妹が飲むホットチョコレートを作っています。
こっそりホットチョコレートの味見をしたその時、姉妹が大いに嘆き悲しみながら部屋に入ってきます。
ドラベッラに至っては、デスピーナが差し出した朝食を振り払ってぶちまけてしまいます。

「まぁ、何をなさるんです!?」

デスピーナが聞いても、姉妹は嘆くばかり。
やがてドラベッラが口火を切って、アリアを歌います。(Nr. 11)
ドラベッラの嘆きは激しく、姉のフィオルディリージと比べるとドラベッラはラテン気質と言いますか、激しく喜怒哀楽を表す性格のようです。

よくよく話を聞いてみれば、姉妹の恋人たちが戦場に行っただけということで、デスピーナは呆れます。
「そんなに嘆くことですか?」
「戦場に行っちゃったのよ?」
「活躍して戻ってくればめでたいじゃないですか」
「死んじゃうかもしれないじゃない!」
「なおさら結構なことですよ」
「バカ!何てこと言うの!?」

デスピーナは姉妹たちに、人生の先輩として、
「男なんてみんな自分が楽しみたいだけで、浮気しまくりですよ。
 わたしたち女は仕返ししてやりゃいいんですよ!」
というような、陽気なアリアを歌います。(Nr. 12)
ここで歌われた内容は、徐々に姉妹の恋愛観に影響を与えていくことになります。

いったん誰もいなくなった部屋にドン・アルフォンソが入ってきます。
アルフォンソはデスピーナが抜け目ない性格で、男たちの企みに気づいてしまうことを警戒します。
そこで、アルフォンソはデスピーナをお金で買収して、自分の味方に引き入れることにします。

入ってくるデスピーナ。
この2人は前からの知り合いのようで、男女の関係にあったと匂わせる演出もあります。

アルフォンソは、
「落ち込んでいる姉妹のために、私の友人である男を2人連れてきた。
 紹介させてもらえるかな?」
「どこにいるの?」
「もう来ているよ。入りたまえ!」

そこから音楽が始まります。
フェルランドとグリエルモは、口ひげをつけて、デスピーナによると”何人だかよくわからない”恰好に変装してきています。
デスピーナは、この二人がフィオルディリージとドラベッラの彼氏たちであるとは気づいていないようです。
第2幕で、この変装はアルバニアの貴族のものと設定されていることがわかります。
アルバニアは、現在ヨーロッパの東南に位置する国ですが、18世紀のこの時はオスマン帝国の支配下にありました。
なのでキリスト教文化圏からすると、全くの外国。
2人の変装もたいてい、トルコ風の衣装が基本となっていることがほとんどです。

そこへフィオルディリージとドラベッラの姉妹2人が入ってきて、自分たちの知らぬ間に、部屋に見知らぬ男たちが入ってきていることに怒ります。
どうやら変装した彼らが、自分たちの恋人だとは気づいていないようです。
いやいや、気づくでしょ!というツッコミはこの際、抑えてください。
特に昔の喜劇においては、衣装が変わる=違う人物である、というくらい印象が変わるというお約束事のようになっています。

姉妹が怒っているのを見て、変装しているフェルランドとグリエルモは内心喜んでいます。

次々に起きる状況の変化にモーツァルトの音楽が対応して、見事な六重唱となります。(Nr. 13)

物陰に隠れていたアルフォンソが姿を現します。
「何という騒ぎですか!?」
「私たちの家に男が入っているのよ!」
「何と!!君たちは!!久しぶりじゃないか!!なぜここに?いつ?どうやって?なんて嬉しいんだ!!(調子を合わせろ!!)」
「お、…おお!!アルフォンソ・サン!我がトモダチ!!」

やがてフェルランドはフィオルディリージに、グリエルモはドラベッラにと、自分の本当の恋人ではない方へ愛の口説きを開始します。
この点も、19世紀においては「恋人を交換するなんて、破廉恥な!」とされたところです。

良家、恐らく貴族のお嬢様として育ちが良い姉妹二人は戸惑いますが、特に姉のフィオルディリージはその戸惑いが怒りに変わります。
そしてアリア「岩のように」を歌い出します。(Nr. 14)
高音から低音までの上下移動が凄まじい、大変な技術を要する1曲です。
モーツァルトがこのような音型で作曲したのは、アリアでは”岩のように固い”貞節を歌っているのですが、当時初演したソプラノ歌手が”岩のように”棒立ちで歌い、あまり演技が上手でなかったから音楽のインパクトを重視したためとか、そのソプラノ歌手が歌う時の癖で、高い音の時は頭が上に、低い時は下に動くので、それをモーツァルトがからかうように上下の激しい音で書いた、とか諸説あります。
いずれにしても、コロラトゥーラ(細かい音符を歌う)の技術も必要とする、聞きごたえのある素晴らしいソプラノのアリアです。

出て行こうとする姉妹たちを引き留める男性陣。
グリエルモがここでアリアを歌います。(Nr. 15)
当初は長めのアリアが置かれていたのですが、物語の流れを止めてしまうからと、初演の前、短めの曲に後から差し替えられたと言われています。
ちなみに長い方のアリアは「彼に目を向けてください Rivolgete a lui lo squardo K.584」として独立したナンバーとして聴くことが出来ます。
短い方のアリアでは、
「お嬢さんたち、そんなに怖がらないで、私たちのこの脚をよく見て、この立派な鼻を触ってみてください。そしてこの口ひげ!ほらほら」
と、かなりふざけた内容で、曲の途中であきれた姉妹たちは部屋を出て行ってしまいます。

そしてグリエルモのアリアはそのまま、三重唱へとつながっていきます。(Nr. 16)
フェルランドとグリエルモはとうとうこらえきれず大笑い。
アルフォンソはアルフォンソで、「こっちが笑えて来るわ。見てろよ」と思っています。
2人の大笑いをそのまま音楽にしたような楽しい1曲です。

賭けの勝ちを確信する若者2人ですが、アルフォンソの指示に明日の朝まで従う約束。
次なる行動へ移る準備をするよう指示をされ、グリエルモは「昼飯抜きかよ?」と愚痴りますが、フェルランドは
「愛の空気、愛の希望こそが俺たちの栄養になるさ!」と、美しいアリアを歌います。(Nr. 17)
いかにも軍人的、男性的なグリエルモと違って、フェルランドはとても繊細でロマンティックな性格の持ち主です。それがこのアリアによく表現されています。
モーツァルトを歌うテノールなら必ずレパートリーになるアリアの1つで、個人的にはアリアの後奏部分の音楽は、モーツァルト作品全てにおいて屈指の美しさだと感じます。

その場を去るフェルランドとグリエルモ。
アルフォンソは、後から来たデスピーナとその後の作戦を練ります。

さてフィオルディリージとドラベッラの姉妹は、急転直下な自分の状況に呆然としています。
ここからノンストップの第1幕フィナーレが始まります。(Nr. 18)
最初は姉妹の穏やかな二重唱で始まるのですが、すぐに音楽はテンポアップ。
フェルランドとグリエルモがなだれ込んできます。
絶望した二人は、アルフォンソが止めるのも聞かず、手に持っていた毒薬を一気にあおり、苦しみ出し、倒れます。…もちろん、演技です。

演技だと気づかずうろたえる姉妹たちは、たまらずデスピーナを呼びます。
かけつけたデスピーナ。
「まぁ!何てこと!!可哀そうなこの人たちを見捨てては、お嬢様たちのスキャンダルになっちゃいますよ!医者を呼んできますから、身を支えててあげて!」
そしてデスピーナとアルフォンソは部屋を出て行きます。

姉妹たちは最初立ちすくんだままでしたが、倒れている男たちに少しずつ興味を持ち始めます。
そして頭や腕を恐る恐る触って、「冷たいわ!」「脈がゆっくりになってるわ!」
などと、少しずつ距離も近くなっていきます。
男二人は、
「なんだかんだで、変装した俺たちに興味が出てきているぞ。こりゃ様子を見ないといけない」と思い始めます。

するとそこへ、医者の扮装をしたデスピーナがアルフォンソと共に戻ってきます。
姉妹たちはデスピーナが変装しているとは気づかず、本物の医者だと思っています。
「いや、自分たちの女中が変装してたら気づくでしょ!」と突っ込みたくなるところですが、これも決して、気づかないからといって女性をバカにしているわけではなく、この時代の演劇では衣装が変われば別人、というルールがあったり、彼女たちは気が動転しているということもあるので、どうぞお気を悪くされませんように。

もうここからは、今に通ずるドタバタコメディの元祖ともいえる展開を見せていきます。

やってきたデスピーナ
「Salvete, amabiles Buonae puellae!」
「まあ外国のお方!?」
「何語でも話せますよ、ご希望とあらば」
「外国語の知識は、今は置いといてください。さあ患者はこの男たちです。」

そしてデスピーナが取り出したのは、、磁石。
「こちら、偉大なるメスメルの石!」
メスメルとは18世紀に実在したドイツ人医師で、動物磁気説を提唱した人。
ざっくり言えば、動物には全て磁気が通っているから磁石で病気を治療しよう、というもの。
この説が医学的に立証されることはありませんでしたが、研究はわりと大きな規模で続けられ、その後イギリスで催眠術へとつながっていくことになりました。
メスメル先生は芸術全般のパトロンでもあり、色々なところへお金を出していた人で、かつてモーツァルトの作品の上演も協力してくれたようです。
そのお礼としてでしょうか、モーツァルトはこの恩人の名前をオペラに永久に残したのです。

Mesmer

ただ、このオペラにおいてこんな場面で磁石が出てくるというのは、当時のお客さんにとってもギャグとして受け入れられたのでしょう。
デスピーナによる磁気治療には、愉快な音楽がつけられています。

治療を受けたフェルランドとグリエルモが、起き上がりじたばたと動き出します。
そして、「ここはどこ?あなたは誰?」と、フラフラとしながらドサクサに紛れて姉妹の手にキスをします。

フィオルディリージとドラベッラはただただ戸惑うばかり。
アルフォンソとデスピーナは姉妹に「今、彼らは治っている途中なのです」などとテキトーなことを言っています。

そして笑いをこらえながら演技を続けるフェルランドとグリエルモ。

やがて音楽は活気を取り戻し、フェルランドとグリエルモはさらに
「キスをしてください!でないと死んでしまいます!!」
と、調子に乗り始めます。
当然、「何言ってるの!!」と怒り出すフィオルディリージとドラベッラ。

大騒ぎとなって第1幕が幕を閉じます。


<第2幕>

第1幕の大騒ぎから数時間後。

フィオルディリージとドラベッラ姉妹が先ほどの騒ぎを思い返してデスピーナに文句を言っています。
どこ吹く風のデスピーナは、やがて姉妹たちに恋愛を指南するアリアを歌います。(Nr. 19)
いわく、
「女も15歳にもなれば、色々とテクニックを使わないとダメですよ。
 本音は隠して、作り笑いやウソ泣きをして、女王様のように男たちを従わせるんですよ!」
そしてデスピーナは次なる仕掛けの準備をするため、部屋を出て行きます。

残されたフィオルディリージとドラベッラは、戸惑いつつも、
「ねえ、デスピーナが言ってたこと、、どう思う??」
「まぁ、、彼氏たちにバレなきゃいいんじゃない?…、ねえ、あの2人のうちどっちを選ぶ?」
と、ドラベッラからあの外国人たちのうちどちらを選ぶかを語り出し、フィオルディリージももう一方の男の魅力を語り、二重唱となります。(Nr. 20)
話しているうちに楽しくなってきて、若い姉妹ふたりはキャッキャッと、はしゃいでいます。
男性陣たちの知らない間に、姉妹たちの心は少しずつ動いてきているようです。

するとドン・アルフォンソがやって来て、姉妹を庭へと連れだします。

その庭へ、相変わらず変装したままのフェルランドとグリエルモがやって来ます。
合唱を伴った彼らの、とても美しい二重唱となります。(Nr. 21)
庭は花で飾られ、フェルランドとグリエルモが歌と音楽で姉妹をもてなそうということのようです。
驚く姉妹たち。

さあ、男たちによる告白タイム!
と思いきや、どぎまぎして話が出来ない男たち。
そんな彼らを見かねたドン・アルフォンソとデスピーナは、男たちと女たちそれぞれを鼓舞するように歌い出します。
フェルランドとグリエルモも少し歌う四重唱とされていますが、実質、アルフォンソとデスピーナの二重唱のような曲です。(Nr. 22)

アルフォンソとデスピーナが、「あとは若い人たちで…」のような感じで退場します。
しかし残された4人の会話は何ともぎこちないものです。
「いい、天気ですわね…」
「暑いような、そうでもないような…」
「木々がきれいですね。。。」
「ええ、ほんとに。果実よりも葉っぱが多いですよね。。」←当たり前ww

フィオルディリージとドラベッラのうち、どちらかというと積極的な性格なのは妹のドラベッラであるという描写がこれまで多かったのですが、ここで口火を切ったのは姉のフィオルディリージ。
彼女はフェルランドへ「あちらへ散歩しに行きませんか?」と持ち掛けます。
フェルランドは「ええ、喜んで。」と答え、2人でその場を離れていきます。

2人になったドラベッラとグリエルモ。
ここでグリエルモは本格的にドラベッラを口説き始めます。
グリエルモが高そうなハート形のペンダントをドラベッラにあげて、それまで彼女がつけていたフェルランドの肖像がついたペンダントを外します。
それはつまり、フェルランドを忘れて、変装したグリエルモの愛を受け入れること、に他なりません。
それまでこの変装したグリエルモのことが満更でもなかったドラベッラは、グリエルモのその行動、求愛を大した抵抗もせず受け入れてしまいます。
グリエルモは親友のフェルランドへ同情の念を抱きつつも、そのままドラベッラと愛の二重唱を歌います。(Nr. 23)
つまり、ここで二人はめでたくカップル成立!となってしまいました。

一方のフィオルディリージとフェルランド。
大げさな音楽と共に、フィオルディリージが駆け込んできます。
追いかけてきたフェルランド。
どうやらすんでのところでこの二人はいい感じにならなかったようです。
積極的なドラベッラと違ってフィオルディリージはグリエルモを裏切ることはできませんでした。
そんなフィオルディリージにフェルランドは、アルフォンソとの賭けに勝ったので嬉しいような、振られて悲しいような、複雑な心境を込めたアリアを歌います。(Nr. 24)
このアリアは技術的に大変難しい割には音楽的にそこまでドラマティックでもなく、この後にもフェルランドにはアリアがあるので、この24番はほとんどの公演でカットされます。
聴けたら、ラッキーです。

フェルランドがその場を去り、ひとり残ったフィオルディリージ。
ロンド(輪舞曲)と題されたアリアを歌います。(Nr. 25)
一瞬でも変装したフェルランドへ心が動いてしまったことに彼女は揺れ動いています。

「ああ、何という試練をあの人は私に与えるのかしら!」

彼女の心はひどく乱れています。遠くにいるであろうグリエルモへ「愛する人、許して!」と歌いますが、果たして何を許してほしいのか?

彼女は本当に、変装したフェルランドの求愛を”拒んだ”のでしょうか?
モーツァルトがこのアリアに託した音楽に、じっくり耳を傾けてみてください。

場面が変わります。
ドラベッラとのイチャイチャを終えたであろうグリエルモのもとに、何も知らないフェルランドが意気揚々と戻ってきます。
「友よ、僕たちの勝利だ!いやぁ、君の恋人フィオルディリージは大したものだ!僕の求愛をしっかり断ったんだから!」
「それは良かった!ありがとうフェルランド!」
「ところで、僕のドラベッラはどうだった??いや、聞かなくてもわかってるけどね!彼女が裏切るわけないもの」
「…、疑うということも時には必要かもしれないぞ??」
「……、どういうことだ?」
「えっと、、これ彼女からもらったんだよね。。」
グリエルモはフェルランドに、ドラベッラの首から外した、自分の肖像がついたペンダントを見せます。
「僕の肖像!!あの女、裏切ったのか!!?」
フェルランドは絶望と怒りから、ドラベッラのもとへ走り去ろうとしますが、グリエルモに止められます。

そしてグリエルモは絶望するフェルランドを慰めつつ、男性の心をもてあそぶ女性たちへ文句を言うアリアを歌います(Nr. 26)
グリエルモの態度、歌と音楽からは、男性としてフェルランドに対して自分の方が勝ったという優越感も感じられます。
ですが、グリエルモの伸びた鼻は後でこっぴどくへし折られることになってしまいます。。

グリエルモが去ってひとり残ったフェルランド。
自分の状況を嘆き、ドラベッラのことを心から追い出そうとしますが、そんなことは出来そうにない。
裏切られた、でも彼女のことを忘れられない心の葛藤を歌うアリアが演奏されます。(Nr. 27)
このアリアも24番同様カットされることがありますが、最近は演奏されることが多い傾向にあります。

戻ってきたグリエルモとドン・アルフォンソ。
これで賭けは終わりだ!としたいグリエルモですが、アルフォンソはそれを許しません。
「今日1日は私の言うとおりにする約束だ。もう少し私の計画に従ってもらおう。」

場面は姉妹たちの部屋へ。
すっかり変装したグリエルモに落とされてしまったドラベッラが、デスピーナを相手にのろけています。
「やるじゃないですか、ドラベッラお嬢さま」
「あの誘惑には逆らえなかったわー。」

そこへ駆け込んできたフィオルディリージ。
「あなたたちのせいで、私の心はおかしくなってしまったじゃないの!」
「え、姉さん、もしかしてあの方(変装したフェルランドのこと)を愛してしまったの?」
「…ああ、不幸なことに、そうよ!」
やはり実は、フィオルディリージも変装したフェルランドに心を奪われていたのです。
その事に後悔しているフィオルディリージに対して、ドラベッラはウキウキと恋を楽しんでいるアリアを歌います。(Nr.28)

ドラベッラとデスピーナはキャッキャッとはしゃいで部屋を出て行きます。
ひとりになったフィオルディリージ。
自分の心変わりに恐れをなした彼女は、自分の道徳心とのはざまで揺れ動いています。
思いつめたフィオルディリージは、自宅にあるフェルランドとグリエルモの軍服を持ってくるようデスピーナに命じます。
彼らの軍服を着て男装して、戦地にいる彼らに会いに行こうというのです。
さすがに思いつめすぎのような気もしますが、ここでのポイントは、フィオルディリージ自らの台詞。
「フェルランドの服は私にピッタリ、グリエルモはドラベッラにサイズが合いそうね。」

この時代の演劇において、衣装には重要な意味が与えられていると何度も申し上げていますが、ここでもそのことが言えます。

ここでフィオルディリージがフェルランドの軍服を着る、ということには、あからさまに言えばセクシャルな意味合いが込められているのです。
服がぴったり、とは、男女の相性がぴったり、と同じ意味だということです。

戦地に赴く決意を固めようとしているフィオルディリージのもとへ、変装したフェルランドが悲壮感を漂わせて近づいていきます。
ここから二重唱となります。(Nr. 29)
ソプラノとテノールの二重唱において、モーツァルトの全オペラの中でも屈指の名曲だと思います。
最初は情熱を溢れさせてフィオルディリージに迫るフェルランド。
剣を自分の胸に当てて
「さあ、このままこの胸を貫いてください!」
「ああ、そんなことできません!あなたはいったい何がお望みなの?」
「あなたの心、さもなくば死を!」
そこから一転、フェルランドはこれ以上ないほどロマンティックに愛を語ります。
その攻撃に、フィオルディリージはついに陥落。
「私をあなたの好きにして。。。」
この言葉と共に二人の旋律は重なり、豊かなハーモニーを奏でます。

その様子を後ろで見ていたグリエルモは、憤怒のあまり飛び出していこうとしますが、ドン・アルフォンソに必死に抑えられます。
軍人であるグリエルモを押さえつけることが出来る辺り、アルフォンソもなかなかの怪力の持ち主かもしれません。

フェルランドとフィオルディリージが二人でどこかへしけ込んでいきます。
それを見て絶望するグリエルモ。やがては自分を裏切ったフィオルディリージへ悪態をつき始めます。
アルフォンソの指示とは言え、自分が先にドラベッラを口説いておいて勝手なものです。

そこへ意気揚々と戻ってきたフェルランド。
最初はグリエルモに仕返ししてやったぜ、という満足感が見えますが、やがてはこの賭けの虚しさに気づいて、やはり肩を落とします。

そこに賭けの勝者となったドン・アルフォンソが、驚きの提案をします。
「変装したままで、フィオルディリージとフェルランド、ドラベッラとグリエルモの結婚式を挙げよう」
そして短いアリアを歌い出します。(Nr. 30)
いわく
「女性がこのように心変わりしても、私は恨んだりしない。
 恋する者が裏切られたときは、相手を責めるな。
 信じたことがそもそも間違いなのだ。
 みなご唱和あれ、Cosi fan tutte 女性は皆こうするのだ、と!」
男性一同がこのオペラのタイトルを繰り返します。

ここまでストーリーを追って感じるのは、この時代にこのメッセージが歌われたことの重要性です。
この作品は決して女性をバカにするものではなく、何百年と築かれてきた男性優位の社会に対するアンチテーゼである。
つまり、「男たちよ、調子に乗るな」
ということに他ならないのではないかということです。
女性は決して男性にとって都合の良い存在などではない。
女性も自ら選択し、自ら生きていく。 
このメッセージを受け入れる準備が出来ていなかった19世紀においては、このオペラの地位は一向に上がりませんでしたが、20世紀に入り2つの大戦を経てそれまでの価値観が崩壊していく中で、このモーツァルトとダ・ポンテが打ち出したメッセージが急速に受け入れられ、現代へと続いています。
単なる喜劇に終わらないこの物語は、どのように結末を迎えるのでしょうか。

ここから第2幕の、そしてオペラ全体のフィナーレへと向かっていきます。(Nr. 31)

屋敷の大広間でデスピーナが他の召使いたちに指示を出して、結婚パーティの準備を進めています。
アルフォンソも入ってきて皆の準備に満足します。

やがて厳かな音楽と合唱に促され、2組の新郎新婦、フィオルディリージと変装したフェルランド、ドラベッラと変装したグリエルモが入場してきます。
乾杯の杯を手に始まる四重唱は素晴らしいものです。
フィオルディリージから始まる歌は、
「このグラスの中で、過去の思い出が沈んで消えていきますように」
という内容で、これが大変ロマンティックな音楽で、フーガ(1つのメロディを追いかけていく形式)となっていきます。
最初に歌い出したフィオルディリージにフェルランドが、そしてドラベッラが同じ旋律をかぶせていきます。
しかしただ一人、グリエルモは小声で「毒でも飲めばいいんだ!恥知らずの女ども!」と文句を言っています。
ここでも男性2人の性格の違いが表現されています。
フェルランドは感情の起伏が激しく、このロマンティックな空気に乗っかっていますが、グリエルモはそれまで冷静だったのに一度プライドが傷つくと後々まで引きずるタイプのようです。

そこへドン・アルフォンソが公証人を連れてやって来ます。
公証人とは、この時代結婚に必要な法的書類を整える人。
ただし、今やって来た公証人は、変装したデスピーナです。
第1幕では医者に、そして今度は公証人になり切っています。
たいていの場合、喜劇の伝統にのっとって、デスピーナは鼻声のような声で歌い出します。

新郎新婦が、公証人の用意した書類にサインして結婚が成立したその瞬間!!
太鼓の音、そして第1幕と同じ軍の栄誉を称える合唱が響き渡ります。
「この音は!!??」
様子を見たドン・アルフォンソはびっくり仰天(のふり)!!
「何ということだ!彼らが帰って来た!!
 フェルランドとグリエルモが!!」
驚く姉妹たち。

見つかっては大変!と、変装したフェルランドとグリエルモを別の部屋に隠れるよう促します。
一旦はその部屋に入る男性2人ですが、姉妹たちの隙を見て変装を解きながら、裏から大広間の入口へ大急ぎで移動します。
公証人に化けたデスピーナはアルフォンソが物陰に隠します。

やがて大広間の入り口に、元の姿に戻ったフェルランドとグリエルモが入場して、恋人たちと再会する演技をします。
「君たちはなぜそんなに青ざめて静かなんだ?」
何も言えない姉妹たち。

するとすぐにグリエルモが、公証人に変装したデスピーナを見つけます。
「おい、こんなところに公証人がいるぞ!!」

このドッキリ計画の詳細を聞かされていないデスピーナは、
「わたし、、公証人じゃなくて、、デスピーナですぅ。。」
と正体を明かします。

ただただ驚くばかりの姉妹たち。
アルフォンソは先ほど4人が書いた結婚証明の書類をそっと床に落として、
「うまく拾えよ」
と男性たちに耳打ちします。

「ん?何だこの書類は?」
「ふむ、これは結婚証明書だな。……結婚証明書だとーー!!?」
演技とはいえ激怒して姉妹たちを問い詰める男たち。
うなだれ、必死に謝るフィオルディリージとドラベッラ。
「でも悪いのはあの人たちよ!!」
と、デスピーナとアルフォンソを指さします。

そこでアルフォンソは言います。
「あの部屋に証拠が隠してあるぞ」

フェルランドとグリエルモは、先ほど変装した自分たちが隠れた部屋へと駆け込んでいきます。

「この期に及んで、何をおっしゃるの??どうしてバラすのよ!?」

しかしその部屋からは、変装した衣装を持ったフェルランドとグリエルモ。
グリエルモに至っては、ドラベッラが渡したフェルランドの肖像入りペンダントを持って、26番の二重唱のメロディーを歌います。
そして男二人はデスピーナを、
「先ほどは磁石のドクターにもお世話になりましたね!!」
と皮肉っぽくからかいます。

呆然とする女性陣たち。
ネタ晴らしをしたは良いけれど、何だかやりきれない男たち。
姉妹は「この詐欺師のせいよ!!」
とアルフォンソをなじりますが、当のアルフォンソは歌います。

「君たちを騙すことにはなったが、それによって男たちの勘違いを正してあげたのさ。
 これで彼らも少しは賢くなって、私の思う通りに行動するだろう。
 さあ手を取って、君たちは新婚夫婦となるのだ。
 何も言わず抱き合って、みなで笑い合おうじゃないか」

そしてフィオルディリージはグリエルモ、ドラベッラはフェルランドと仲直りをして、
デスピーナは「騙されたけど、私も似たようなことしてるから、まあいいか」
と歌い、音楽は全員で歌う大フィナーレとなります。
いわく
「世の中、良い面だけをとらえる人の方が幸せだ。
 どんなことが起きても理性があれば大丈夫。
 そうすれば泣かされるようなことが起きても
 笑っていられるし
 竜巻みたいな世界にいたって
 静かに暮らしていけるのさ!」

その音楽は、どうも単純な”めでたしめでたし”ではないような、人生の苦みも感じさせるものとなっています。

これでオペラ全体の幕が下ります。


いかがでしたでしょうか。

最後の場面は、時代や演出の方針によって本当に様々な描き方が可能です。
例えば
・歌われている文字通り、4人は仲直り。
・もとのカップルにはなるが、非常に気まずそう
・完全にカップルは破局して、フィオルディリージはフェルランド、ドラベッラはグリエルモとくっつく
・誰ともくっつかず4人それぞれ別の方向へ走り去る
・こんな男は願い下げ!と、女性2人が別の方向へ走り去る

皆さんはどんな結末になると思いますか?

始めにナポリが舞台と申し上げましたが、ストーリー自体は時代に制約されない、普遍的な男女の葛藤を描いたもの。
なので時代を原題や違う時代に移したりして、演出的に自由度が非常に高い作品であると言えます。
筋を文字で書くだけだと本当にくだらないドタバタ劇なのですが、繰り返し申し上げると、モーツァルトの音楽は本当に極上です。
人間の心が変化していく様を、悲しみを滲ませながら展開されていく音楽は、ここまでのモーツァルトの音楽歴史をググっと集めた、まさにモーツァルト・ベストとも呼べるものと感じます。
ぜひ多くの皆様に触れていただきたい大傑作オペラです。


ありがとうございました。
髙梨英次郎でした。


<参考文献>(敬称略)

松田 聡「モーツァルトのオペラ 全21作品の解説」
名作オペラブックス「コシ・ファン・トゥッテ」
スタンダード・オペラ鑑賞ブック [3]「ドイツ・オペラ 上」

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