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こんにちは!テノール歌手の髙梨英次郎です。
本日はドイツ歌曲を解説して参ります。
ドイツ歌曲って、素敵ですよ!
今回ご紹介するのは、クラシック音楽界において”楽聖”とも呼ばれるレジェンド中のレジェンド、ベートーヴェンの歌曲です。
ドイツ歌曲の王様と呼ばれている作曲家はシューベルトですが、シューベルトの先輩ベートーヴェンも、ピアノ伴奏による歌曲を100曲近く書いています。
器楽曲にも劣らないぐらい、色々な音楽的試みが成されており、歌曲のジャンルにおいてもベートーヴェンは、後の作曲家に多大な影響を与えています。
ピアノと声楽は、18世紀末から19世紀当時のヨーロッパの中産階級以上の人々にとって、とても身近な習い事でした。
まだ女性の活動が今より制限されていた当時、ピアノと声楽は女性の習い事としても推奨されていました。
そしてピアノと声楽をたしなむ人の数は、どんどん多くなっていったと言われています。(「楽聖ベートーヴェンの誕生」)
つまりニーズがたくさんあったわけで、若きベートーヴェンも進んで歌曲というジャンルに取り組み、その作品の多くは出版され時にヒットを生み出すことになっていきました。
今回ご紹介するのは、「Zärtliche Liebe 優しき愛 (WoO.123)」と題された歌です。
歌い始めの詩、「Ich liebe dich 君を愛す」を題名にして呼ばれることも多いこの作品。
そのシンプルなメロディと優しい詩から、ときに音楽の教科書にも掲載されている、ベートーヴェンの歌曲の中でも最も有名な1曲ではないでしょうか。
作曲されたのは、1795年、ベートーヴェン24歳の頃だと言われ、1803年に楽譜が出版されました。
1792年に故郷のボンからウィーンに移っていたベートーヴェンは、1795年頃には多くの貴族たちから注目され、作品の人気も高まってきていました。
この年にはピアノ協奏曲第1番と第2番が初演され、初めてのチェロ・ソナタや、ピアノ・ソナタも書かれていて、1795年はベートーヴェンにとって輝かしい年であったようです。
「Zärtliche Liebe 優しき愛」の詩はヘロゼ(Karl Friedrich Wilhelm Herrosee : 1754-1821)という人のものです。
へロゼはドイツで牧師をしていた人物で、教育者でもあり、学校の設立もしたとのことです。
Zärtliche Liebeの詩にも、牧師であるという人物像が現れています。
ここからその詩をご紹介いたします。
Ich liebe dich,so wie du mich, Am Abend und am Morgen, Noch war kein Tag,wo du und ich Nicht teilten unsre Sorgen.
あなたを愛しています、あなたが私を愛するように、
夕方でも朝でも。
あなたと私が悩みを分かち合わない日など
1日もないのです。
Auch waren sie für dich und mich Geteilt leicht zu ertragen; Du tröstetest im Kummer mich, Ich weint in deine Klagen.
そうして分かち合った悩みは、あなたと私にとって
容易く耐えられるものになるのです。
あなたは私の悲しみをやわらげてくれて、
私はあなたの嘆きに泣いたのです。
Drum Gottes Segen über dir, Du,meines Lebens Freude. Gott schütze dich,erhalt dich mir, Schütz und erhalt uns beide.
ですから神の祝福があなたにありますように、
あなたは、私の人生の喜びです。
神があなたを救い、私のそばであなたをお守りくださいますように、
私たち2人共に救い、お守りくださいますように。
特に後半の詩から神様の存在がフィーチャーされ、とても穏やかな、題名の通り”優しい”雰囲気を持った詩となっています。
そこに初期ベートーヴェン特有の美しく緩やかなメロディを伴った音楽がつけられていて、口ずさみやすい歌となっているのではないでしょうか。
“Ich liebe dich”は、英語で”I love you”、日本語で”あなたを愛しています”、ですが、日本語の”愛してる”と欧米の文化でいう”Love”や”Liebe”とでは、ニュアンスがかなり異なっているのではないでしょうか。
日本語の”愛してる”には、恋愛の要素が多く含まれていると感じられるのですが、欧米では親や子供、きょうだい間でかなりフランクに”I love you”と言い合っているようで、恐らくドイツ語の”Ich liebe dich”もそのようなニュアンスを持っていると思われます。
この詩に歌われている”あなた”という対象に、恋愛相手だけではなく、身近にいる、もしくは遠く離れている、皆さまそれぞれの大切な人を当てはめて読んでいただくと、より味わい深く感じていただけるのではないかと思います。
どうぞ皆さまも聴いて、機会があれば歌ってみてください。
ありがとうございました。
髙梨英次郎でした。
参考文献 (敬称略):
西原 稔「『楽聖』ベートーヴェンの誕生 近代国家がもとめた音楽」
平野 昭「ベートーヴェン・作曲家 人と作品シリーズ」
Herrosee, Karl Friedrich. “Ich liebe dich”. Oxford Lieder. Retrieved 2019-06-08.
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