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ブリテン オペラ「夏の夜の夢」解説 - テノール歌手:髙梨英次郎のトークです | stand.fmブリテンのオペラ「夏の夜の夢」についてお話しました。 ご参考にの一つにしていただければ幸いです。 0.00〜 概要 0.49〜 ブリテンの半生 5.45〜 「夏の夜の夢」初演までの経緯 7.13〜 ストーリー 第1幕 25.35〜 第2幕 ...
こんにちは!テノール歌手の髙梨英次郎です。
本日もオペラを解説して参ります。
オペラって面白いですよ!
今回はイギリスの作曲家ブリテンの「A Midsummer night’s dream 夏の夜の夢」について解説して参ります。
夢とも現実ともつかぬ不思議な夜が、音楽となって現れたようなこの作品。
原作は同じくイギリスが生んだ偉大な劇作家シェイクスピア。
いわば、イギリスの国民的おとぎ話がオペラ化されたようなもので、1960年に初演されて以来、今なお世界中で上演され続けています。
まずは、ブリテンその人について簡単にご紹介して参ります。

イギリス近代音楽を語るとき、避けては通れない存在、それがベンジャミン・ブリテン(Edward Benjamin Britten, 1913–1976)です。
オペラ、合唱曲、室内楽、交響作品と多彩なジャンルで活躍し、特に英語で歌われるオペラを世界に示した点では比類なき存在となりました。
英語のオペラでブリテン以前に最も有名なのは、バロック時代を生きたパーセルです。
「ダイドー(ディド)とエネアス」が代表作ですが、実はパーセルもシェイクスピア「夏の夜の夢」を原作にした「妖精の女王」という作品を書いています。
ただしこちらはシェイクスピア原作からはかなり改変されたものです。
それ以降は数えるほどしか英語で国際的に有名になった作品は無く、やはりここまで英語のオペラを世界中に広げたのはブリテンが最初だと言えるでしょう。
ブリテンは1913年11月22日、イングランド東部の港町ロウストフトに4兄弟の末っ子次男として誕生。
父は歯科医で、母はアマチュアの声楽家でした。
ベンジャミンは生まれてすぐに肺炎に罹りましたが、やがて回復。ただし、これがきっかけで心臓を弱くしてしまい、後年ブリテンの命を奪う要因となってしまいました。
主に母親からの影響で、ベンジャミンはごく自然に音楽に親しみ、2歳頃からピアノに興味を持ち始めます。
幼い頃から楽器を弾く子供の親にはよくあることですが、やはりベンジャミンの母イーディスも、ベンジャミンへ過剰とも呼べるような愛情とスパルタ的教育を施したようです。
ベンジャミンは5歳で歌曲、7歳でピアノ曲の作曲を始め、9歳には弦楽四重奏曲の作品まで書いていたということで、ブリテンも「神童」と呼ばれるような子供でした。
フランク・ブリッジというイギリスで高名な作曲家の作品に衝撃を受けたブリテンは、ブリッジから作曲を習うことになります。
やがて1930年にはロンドン王立音楽大学の作曲奨学金を得て進学。
マーラーやストラヴィンスキー、ショスタコーヴィチなどの影響を受けつつ、学生生活を終えます。
映画音楽などに携わる仕事をしながら順調に作曲を続けていたブリテンですが、1937年にはブリテンに多くの影響を与えた母親が亡くなり、入れ替わるようにブリテンの生涯で大きな位置を占めるテノール歌手ピーター・ピアーズと出会います。
それ以前からブリテンの性的志向は男性に向いていることが自覚されつつありましたが、当初プラトニックな友人関係だったピアーズとは生涯に渡って公私を共にするパートナー関係を築くことになりました。

1939年ブリテンはピアーズと共にアメリカに渡り、初めての劇作品であるオペレッタなど様々な楽曲を作りますが、1942年にイギリスへ帰国。
1945年には初の本格的なオペラ「ピーター・グライムズ」を作曲し初演され、これが大ヒット。その時ブリテン31歳。
英語によるオペラとしてはパーセル以来の大成功と評され、これ以降、ブリテンは数多くの英語オペラを世に生み出していくことになります。
1948年、ブリテンの発案により、故郷に近い小さな町オールドバラで音楽祭が始まります。
その音楽祭で「アルバート・へリング」や「ヴェニスに死す」など、ブリテンの新作オペラが発表されていきました。
今回の「夏の夜の夢」も1960年のオールドバラ・フェスティバルのために書かれた新作オペラです。
ここからは「夏の夜の夢」のご紹介に移って参りましょう。
《夏の夜の夢》Op.64 は、シェイクスピアの戯曲《夏の夜の夢》に基づいて作られたのですが、シェイクスピアの戯曲をオペラ台本にアレンジしたのは、作曲家ブリテン自身とパートナーのテノール歌手ピーター・ピアーズでした。
シェイクスピアの原作をカットしたり並べ替えたりしていますが、セリフの内容はほぼそのままオペラに使われていて、シェイクスピアの世界観が同じイギリス人ブリテンによってブリテン風に表現されていると言えるでしょう。
1960年6月11日、オールドバラ音楽祭において初演され、指揮は作曲者のブリテン自身が務めました。ブリテン46歳。
パートナーのピアーズはブリテンのオペラにおいて主役の初演を務めることが多かったのですが、ここではあえて2番手と言えるフルート役を初演しています(その後の録音では1番手のライサンダー役)。
作品は評論家の間で賛否があったものの、概ね好評のうちに受け入れられ、現在も上演が続いています。
ここからストーリーの説明となりますが、シェイクスピアの原作に従ってではなく、オペラの順番を追っていきます。
登場人物はかなり多いので、その都度ご紹介して参ります。

<第1幕>
幕が上がるとそこは夜の森の中。
ギリシャのアテネ近郊にある森です。
原作はアテネの公爵シーシアス(ギリシャ名テセウス)やヒポリタ、若い貴族たちのシーンから始まるのですが、オペラではそこはカットされて、森でのシーンから始まります。
音楽は何とも不思議な弦楽器のグリッサンド(滑らせるような音技法)が繰り返され、観客はすぐに現実世界から引き離されて夜の森に迷い込んだような感覚を覚えることになります。
そんな音の間を縫うように、少年合唱によって演じられる妖精たちが登場します。
ブリテンは少年合唱をよく用いた作曲家でしたが、このオペラでも妖精たちを少年合唱に歌わせることによって、人間界とは違う無垢な自然の世界を表現したかったのでしょう。

妖精たちは不思議なメロディと共に、自分たち妖精の自己紹介をしたり、(妖精たちは)妖精の女王に仕えていることなどを歌います。
そこへ現れたのは、妖精たちの代表的存在パック(別名ロビン・グッドフェロー)。
このオペラにおいては唯一歌わずにセリフをしゃべるキャラクターとして、いわば物語のナビゲーター的な役割をもっています。
妖精たちによるとパックは悪戯好きとのこと。
この物語でも、パックの悪戯や誤解によって色々と事件が起きていきます。

そんなパックは、妖精の王様オベロンに仕えています。
ほどなく、森に妖精の王オベロンと女王ティターニアが同時にやって来ました。
ティターニアを演じるのはソプラノ、それも高い音を細かい音符で歌う技術を必要とするコロラトゥーラ・ソプラノです。
キャラクターと音域から、モーツァルト作曲「魔笛 (① https://tenore.onesize.jp/archives/1531 ② https://tenore.onesize.jp/archives/1545 」の夜の女王が連想されます。
しかしその音楽はモーツァルトよりもっと複雑で、歌うのは至難の業と言えそうです。

一方のオベロンは、カウンターテノールによって歌われます。
カウンターテノールの成立事情について詳しく語るとブログ1本分になってしまいますので割愛させていただきますが、このオベロンを初演したのがまさに元祖カウンターテノール歌手と言えるアルフレッド・デラーでした。
ざっくり言えば、声変わりをした成人男性が裏声を駆使して、かつてのカストラート(去勢した歌手)のような音域の歌を歌うのがカウンターテノール。
人間界とは違う妖精の世界を統べる王としては、現実離れした声のカウンターテノールがオベロンを演じることはまさに理にかなっていると言えます。

そんなオベロンとティターニアは夫婦喧嘩の真っ最中。
妖精の王と女王が喧嘩をしているせいで、自然界が乱れ悪影響が出ているとのこと。
仲たがいの原因は、ティターニアがインドの王様から奪ってきた少年を、オベロンが従者として近くに置いておきたいから、というもの。
この、インドの少年は物語には登場しません。
シェイクスピアの頃、16世紀のインドはまだ英国による植民地化が成されてはいませんが、イギリス人たちか見たらインドは神秘的な土地と感じられていたようです。
ここでインドの子供となっているのは、そうしたエキゾチシズム(東方文化への憧れ)的色付けをしたかったからということでしょう。
インドの子供の母親は子供を産んだ直後に亡くなってしまったのですが、その母親はティターニアの信奉者だったそうで、ティターニアが子供を囲っているのは子どもを守る意味合いもありそうです。
「あの子を手放すことはしません!」
そう言い放ち、ティターニアは妖精たちを連れてその場を去ってしまいます。
苛立つオベロンは、妖精パックを近くへ呼び寄せて
「お前は、とある草(ハーブ)のことを覚えているか?
眠っている者のまぶたにその汁を垂らせば誰でも、目覚めて最初に見た生き物に激しく恋焦がれるようになるあの草だ。
それを取って来い。その汁をティターニアのまぶたに垂らして、何者かに惚れている隙に、あのインドの子供を奪ってやる」
と命じて、パックはすぐさま飛んでいきます。
パックを表す際には常にトランペットや太鼓が軽やかに演奏されて、パックの軽快な動きを表現しているようです。
オベロンも姿を消して、森には誰もいなくなります。
場面が入れ替わることを表すように、冒頭で演奏された弦楽器による不思議なグリッサンドが繰り返されます。
続いては若い貴族の恋人たちのシーンとなるのですが、原作でカットされている部分を知っていただくと彼らが思い悩んでいることの前提が分かりますので、かいつまんでお話します。
アテネの貴族イージアス(オペラでは登場せず)にはハーミアという娘がいます。
イージアスはハーミアを、ディミートリアスという若者と結婚させたがっているのですが、ハーミアは既にライサンダーという若者と恋仲になっていました。
ハーミアはどうしてもライサンダーと一緒になりたいのですが、この時代、娘が父親の意に逆らって結婚することは出来ず、どうしても拒否するならなんと死刑、それが嫌なら尼寺へ行って尼僧として独身のまま人生を終えなくてはいけない、というのです。
ディミ―トリアスもハーミアと結婚したがっているのですが、ハーミアの幼馴染みのヘレナという女性がディミ―トリアスのことを好きで彼を追いかけています。
原作によると、ディミートリアスはヘレナと婚約していたそうですが、ある時点でディミートリアスはハーミアに心変わりしてしまったようです。
ディミートリアスはヘレナには今では全く興味がありません。
オペラに戻りますが、森へライサンダーとハーミアがやって来ます。
ちなみにライサンダーはテノール、ハーミアはメゾソプラノです。

2人が恋の障害に悩んでいることを表現する不安げな音楽での二重唱となります。
やがてライサンダーが言います。
「聞いてくれ、僕には未亡人の叔母がいて夫の財産を継いだのだが子供がいない。
僕を実の子供のように可愛がってくれている。
その叔母の所に二人で逃げよう。そこならアテネの厳しい法律も適用されない。」
つまり、ハーミアがディミートリアスを拒否しても、死刑にもならず尼寺に行かなくても済むというわけです。
要は駆け落ちしよう、ということですね。
少し希望が見えたところで二人はその場を離れていきます。
妖精の王オベロンが独り言を言いながら戻ってきます。
ところがそこにディミートリアスと彼を慕うヘレナがやって来るので、オベロンは聞き耳を立てることに。
もちろんオベロンたち妖精の姿は彼ら人間には見ることはできません。
ちなみにディミートリアスはバリトンで、ヘレナがソプラノです。

ディミートリアスは、ハーミアとライサンダーが2人で森へ向かったと知って彼らを追いかけてきたのでした。
そんなディミートリアスに取りすがるヘレナ。
「俺はお前のことなど愛していない、ヘレナ!」
「そう言われたらますます愛してしまうの、ディミートリアス!」
「お前を見ると吐き気がする」
「私はあなたを見ないと吐き気がする」
なんだかヘレナが気の毒になってきますが、ディミートリアスはそれだけハーミアに夢中な様子。
そこから走り去るディミートリアスと、彼を追うヘレナ。
切迫した音楽による彼らの二重唱です。
それを見ていたオベロンもヘレナに同情したのか、
「あの男(ディミートリアス)のまぶたにも、魔法の草の汁を塗って、あの娘を好きになるようにしてやろう」
と、つぶやきます。
オベロンにつけられる音楽はどこまでも幻想的で、ハープやチェレスタと言った楽器が効果的に使われています。
トランペットと太鼓の音と共に、パックが戻ってきます。
「あの花を取って来たか?
よしよし。この花の汁をティターニアが眠っている間にまぶたに塗り付けてやる。
パック、お前もこの汁を取ってある男を探してこい。
アテネの乙女がある若者に冷たくされて悲しんでいる。
その男のまぶたにもこの汁を塗ってやれ。森の中にいるはずだ。」

パックは森の中へ飛んでいきます。
しかしオベロンが命じたこの内容を、パックは後にとんだ誤解をしたまま実行してしまうことになります。
オベロンもティターニアの元へ向かい、再び誰もいなくなります。
弦楽器のグリッサンドが鳴る中、森へやって来たのは、今までの妖精や貴族とは全く違う種類の人々、街の無骨な職人たち6人です。
音楽もそれまでとは打って変わって、喜劇めいた響きを帯びていきます。

彼らは、近々行われる公爵シーシアス(テセウス)の結婚式の夕べでお芝居を披露しようとしています。
アテネ中からこのように出し物が提出されて、その中から公爵が気になったものが採用されるわけですが、それがうまくいけばご褒美がもらえるので、それならと職人たちも集まったのです。
しかし彼らは芝居に関してずぶの素人。
ひとまずここでは、芝居の題名とテーマが明かされます。
その名も「ピラマスとティスビー、最も悲しく、最も残酷な死を描いた喜劇」
もともとは「ピューラモスとティスベー」の名でも知られているギリシア、ローマ神話の題材です。
悲しい喜劇、とは既にトンチのような説明ですが、順に職人たちに役が割り振られていきます。
職人たちの中では機屋のボトム(バリトン)が芝居好きで、積極的な性格の持ち主です。そのボトムは主役のピラマスを任されます。
ふいご修理屋のフルートは、職人たちの中では恐らく若い方なので、ヒロインのティスビーを割り振られます。
フルートが、女性の役を演じることに多少の抵抗感を示すと、ボトムは
「だったら俺がヒロイン役もやってやる、ライオン役もやらせろ!」と少々暴走気味に主張を重ねるのですが、フルートが
「ボトムがあまりにライオンを恐ろしく演じたら、高貴なご婦人方が怖がっちゃうよ。
悲鳴を挙げさせた罪で俺たちみんな縛り首だ…」
と言い、皆も同調して、かなり過剰と思える心配をします。
職人たちの中で学級委員的な立場の大工ピーター・クインスに
「ピラマスはボトムにしかできないよ。イケメンで紳士的な人がやる役だからな。」
と、おだてられてボトムはようやくピラマスを演じることを承諾します。
他の職人たちにもそれぞれ個性があるのですが、その個性が爆発するのはもう少し後。
クインスがみんなに劇の台本を渡して、
「今夜までに覚えてきてくれ。この場所で稽古するからな」
と言い、職人たちはいったん解散していきます。
森の中の別の場所でしょうか、ライサンダーとハーミアが再び登場。
森をさまよって疲れてしまった二人は、ここでいったん眠りにつくことにします。
ライサンダーは
「この芝生で一緒に寝よう」
とハーミアに言いますが、ハーミアは
「ダメよ、お願いだから離れたところで寝て。」
と、状況的には駆け落ちをしながらもハーミアはしっかりと理性を保つよう、ライサンダーに頼み彼もそれを受け入れて、お互い距離を取って寝ることにします。
彼らが眠りについた直後、妖精パックが飛んできます。
「森を探してるけど、アテネの男なんていないなぁ…。
あ!いたぞ!ご主人様が言ってた、女性に冷たい男ってのはこいつか!」
なんとパックは、ディミートリアスのまぶたに魔法の汁を塗るべきところを、ライサンダーのまぶたに塗ってしまいました。
離れて眠っていたばっかりに、パックは勘違いしてしまったのです。
そしてそのままパックは退場。
ハーミアは寝言をつぶやいて、離れた場所で眠っています。
そこへ再びディミートリアスと彼を追いかけるヘレナが現れるのですが、ディミートリアスはすぐにヘレナを振り切って走り去っていきます。
残されたヘレナは、その場所で眠っているライサンダーを見つけて
「死んでるの?眠っているの?生きてたら返事して!」
とライサンダーを起こします。
すると、まぶたに魔法の汁を塗られているライサンダーは、起きてそこにいたヘレナを見て、
「僕が愛しているのはハーミアじゃない、君だったんだヘレナ!!」
とすっかり魔法にかかってヘレナを愛するようになってしまいました。
ヘレナは
「私は何でこんな風に馬鹿にされなきゃいけないの!?
あなたはもっと優しい人だと思っていたのに!!」
と怒り心頭、そこから走り去っていきます。
ライサンダーは「ハーミア、そこで眠っていなさい。僕のすべての力はヘレナに捧げよう!」
とヘレナを追いかけていきます。
ほどなくしてハーミアも眠りから覚めて起き上がります。
「怖い夢を見たの!ライサンダー!…ライサンダー?どこにいるの??」
ライサンダーを探して、ハーミアもその場所から走り去っていきました。
人間たちが去ったこの森の一角に、妖精の女王ティターニアが横たわり、周りに少年合唱による妖精たちが集まって来ます。
ティターニアは眠る前に、妖精たちに踊りや歌をリクエストします。
妖精たちは、「毒蛇」「クモ」「コウモリ」「カタツムリ」などの不吉な生き物からティターニアを守ろうとする内容の子守歌を可愛らしく歌います。
妖精たちが去ったところに、オベロンが現れ呪文を唱えながら、眠っているティターニアのまぶたに魔法の汁を振りかけます。
眠りから覚めて最初に見た生き物を好きになってしまうこの魔法で、ティターニアは何を見てしまうのでしょう。
ティターニアが眠ったまま闇が深まり、第1幕が終わります。
<第2幕>
第1幕の続きで、幻想的な音楽の中、ティターニアはまだ眠っています。
その近くの場所に、職人たちが集まってきます。
どうやらここで、芝居「ピラマスとティスビー」の稽古が始まるようです。
ところがこのお芝居を上演するに当たっていくつか問題があるようで、まず機屋のボトムが
「最後にピラマスが自害する場面は、高貴な女性たちが怖がるから良くないかも」と、提起します。
ふいご修理屋のフルートが
「じゃあ死ぬ場面はやめたほうがいいかな?」と言うのですが、ボトムは
「いや、大丈夫。最初にプロローグを入れて、『私はピラマスを演じていますが本当はピラマスじゃなくて、機織りのボトムです、これはあくまで演劇です』って説明すれば安心するさ」
と言うと、皆納得。
この辺りからだんだん芝居がシュールな方へ向かい始めます。
続いてライオン役を当てられている、指物師(クギなどを使わずに組み立てる大工仕事)のスナッグが
「ライオンの場面も怖がられんじゃないかな?」と心配しだします。
スナッグはみんなの中では少し鈍いというか、動作や言葉が緩慢な人物です。
これもボトムが
「また別のプロローグで、彼は本当はライオンじゃなくて指物師のスナッグですと伝えれば大丈夫だよ」と処理します。
演出上、月明かりが必要という問題が出ると、ボトムは
「暦の上で今日は月が出ない日なら、誰かがランタンと木の枝を持って“月の光”を演じればいい」と提案。
「ピラマスとティスビーの恋人たちを隔てる壁が必要だ」
となると、ボトムは
「誰かが壁役になって、指で隙間を作ればいい」と、すべてに妙案を出して半ば強引に問題を解決していきます。
職人たちは「よし、これで全部OKだ」となり、それぞれの役で稽古に入ります。
そこへ、パックが飛んできます。
もちろん職人たちにはパックの姿は見えません。
「なんだなんだこの田舎者どもは?
女王様が眠っておられる近くでうるさいなぁ!」
しかしパックは職人たちが不器用に芝居の稽古を始めているのを見て興味を持ち始めます。
稽古が始まり、ピラマスを演じるボトムが演技の上でいったんその場から離れます。
妖精パックは
「あいつに悪戯して、この場をかき乱してやろう」
と何やらたくらんでボトムについていきます。
ティスビーを演じるフルートが、初めはオドオドしたり、先の方の台詞まで読んでしまったりしながらも、段々とノリが良くなってきたところへ、
ボトムが戻ってきた、、、のですが、そのボトムの頭がなんとロバに変身してしまっているので、みなびっくり仰天!!
「うわぁあああ、化け物!!」みな一目散に逃げだします。
ボトムは訳が分からず
「おい、どうしたんだみんな!?俺を怖がらせようっていうのか?」
ボトムは自分の頭がロバになっていることには気づいていないようです。
他の職人たちも恐る恐る戻ってきて、どうやらこのロバがボトムらしいとは気づくのですが、それでもあまりに恐ろしいので、やはり皆その場から逃げ去ってしまいます。

1人になったボトム。
森に一人でいる恐怖を跳ねのけようと、大きな声で歌い出します。
すると近くで眠っていた妖精の女王ティターニアがボトムの声で目を覚まして、ボトムの姿を見かけます。
ティターニアのまぶたには先ほどオベロンが魔法の汁を塗っていたので、ロバの頭をしたボトムにティターニアは一目惚れ。
ボトムに
「ここに留まって。妖精たちにあなたのお世話をさせるわ!」
と、ティターニアは4名の妖精たちを呼び寄せて、ボトムがリラックスできるように指図します。
「木の実を食べさせておあげ、蛍の光る眼で灯りをともして!」
幻想的ながらウキウキとした女王の歌と、それに続いてボトムのお世話をする妖精たち、だんだんと妖精たちの世界に入り込んでいくボトムの愉快なシーンとなります。
そしてイチャイチャしだすティターニアとボトム。
妖精たちが楽器を演奏するという場面では、リコーダーや打楽器で、いかにも妖精たちが出てくるファンタジー作品といった音楽となります。
やがてボトムが眠くなってきたので、女王は妖精たちを下がらせ、ボトムと一緒に再びその場で眠りに落ちていきます。

そこに妖精の王オベロンと妖精パックがやって来ます。
「ご覧ください!女王様がロバに恋してますよw」
「ふむ、こちらは予想以上にうまくいったな。
だがパック、お前言いつけ通りにアテネの若者に魔法の汁を塗ったか?」
「あ、ちょうどアテネの男女がこちらに来ましたよ!…あれ?でもさっきと違う男だなぁ。。」
そこにやって来たのはディミートリアスとハーミア。
ハーミアは目覚めたところに愛するライサンダーがいなかったので、もしやディミートリアスがライサンダーを手にかけたのではないかと疑って、ディミートリアスを責め立てています。
「このろくでなし!あなたがライサンダーを殺したのね?」
「僕はそんなことやってないよ。」
やがてハーミアはライサンダーを探しにそこから去っていきます。
ディミートリアスは疲れたのでしょうか、その場で横になり眠り始めます。
オベロンはパックを𠮟りつけます。
「お前、間違えてるじゃないか!!
こいつに魔法を掛けろと言ったのに…
急いでヘレナという女を探してこい!」
「すぐに行きます!!」
そしてオベロンは眠っているディミートリアスのまぶたに汁を塗り、魔法をかけます。
そこにパックが戻ってきて
「ヘレナと、僕が間違えちゃった男もやって来ます。
まったく、人間ってやつはホントにバカだなぁ!」
と、自分が間違えて魔法をかけたことを棚に上げ、パックは人間をバカにしています。
やって来たヘレナとライサンダー。
相変わらずライサンダーは魔法にかかっていて、ヘレナを懸命に口説いています。
「僕は君をからかってなんかいないよヘレナ!
ディミートリアスはハーミアが好きで、ヘレナ、君のことは愛していなんだから!」
とライサンダーが言った直後、近くに横たわっていたディミートリアスが目を覚まします。
目を開けてみたのは、そこにいたヘレナ!
「ああヘレナ!愛しき人!!」
ヘレナはディミートリアスが急な心変わりをしたことに、かえって腹を立ててしまいます。
「なんてひどい仕打ちなの!
あなたたちみんなで私をからかうのね!!」
「ディミートリアス、お前はひどい奴だ!ハーミアのことが好きなんだろ!?」
「お前の恋人はあっちから来るぞライサンダー!」
こんな状況の所へ、ハーミアが到着!
事態はより混沌として行きます。
「どうして私を置き去りにしたの、ライサンダー?」
ヘレナは思わず
「ハーミア、ひどいわ!!
彼らをそそのかしてあなたが私をバカにしようって言うのね!?
姉妹みたいに仲良くしてたのに!!」
「何でそんなこと言うのよヘレナ、驚いたわ!
そういうことを言うあなたが私をバカにしてるんじゃないの!?」

もうグチャグチャです。
男同士がヘレナをめぐって争っているのはもちろん、ヘレナとハーミアも仲たがいしてしまい、愛情も友情も壊れていく様が描かれます。
若者たちが罵り合うこの場面につけられた四重唱の音楽は、イタリアにおけるヴェリズモ・オペラのように激しいものです。
ライサンダーとディミートリアスは今にも決闘を始めんと、その場を去っていき、女性たちも後を追って去っていきます。
彼らの様子を見ていたオベロンは、パックへの怒りを爆発させ、雷鳴のような音と共にパックを絞めあげます。
「痛い痛い!」
「おーまえは何をやっとるのだ!!
まったくもって間違っとるじゃないか!!
おまえわざとか?わざと悪戯してるのかおい??」
「すみません、信じてください、間違えた、間違えただけなんです!!」
「急いであの男たちの決闘を止めてこい!
夜の闇を暗くして、彼らがお互いどこにいるか分からなくせよ。
彼らがまた疲れて眠ったら、ライサンダーのまぶたにこの薬草を塗って、魔法を解くのだ。
目を覚ましたら、騒ぎもおさまるだろう。急げ!!」

つまりライサンダーさえ魔法が解けて元のようにハーミアを愛せばよくて、ディミートリアスはそのまま魔法にかけて、ヘレナを愛するようにしておくというわけですね。
オベロンが姿を消した後、パックは彼自身の魔法でライサンダーとディミートリアスが闇の中で出会わないようにかき回します。
ライサンダーが来て「どこだ、プライドばっかり高いディミートリアスめ!」
と言えばパックがディミートリアスの声を真似て、
「こっちだ悪党!お前こそどこにいるんだ?」
と声をかけてライサンダーをあらぬ方向へ導きます。
別の方からディミートリアスが
「ライサンダーどこだ!?」
と来れば、パックは今度はライサンダーの声を真似て
「こっちへ来い、男らしくない奴め!」
と挑発しながら、ディミートリアスをあらぬ方向へ誘導します。
やがてライサンダーとディミートリアスは疲れ果て、それぞれ別の場所で眠りについてしまいます。
彼らを追ってきたハーミアやヘレナも違う場所で眠り始めました。
パックは眠っているライサンダーへ魔法をかけて、元通りハーミアを愛するように修正。
そこへ、森の奥から妖精たちがやって来て、子守唄を歌いかけます。
眠りの世界へと観客をも誘うように、第2幕が終わります。
<第3幕>
夜が明けて朝になろうとしています。
夜と朝の間の、徐々に光が差していく様子が見事に表されている音楽です。
第2幕の続きで、森の一角に4人の若者たち、別の場所では妖精の女王ティターニアとロバの頭のボトムが眠っています。
そこへオベロンがパックと共に登場。
「見よ、美しい光景ではないか。
あのインドの少年は無事、私のものになった。
であるから、ティターニアにかけた魔法を解いてやろう」
オベロンが呪文を唱えると、ティターニアは目を覚まします。
「オベロン、私どんな夢を見ていたの?
ロバに恋をしていた気がする。。」
「そこに横たわっているぞ」
「どうしてこんな生き物に…?今は見るだけでイヤになる!」
オベロンはパックに、ボトムのロバの頭を外すよう命じて、再び妖精たちを呼び寄せます。
音楽と共に妖精たちやティターニアも踊り出し、横たわっている5人の人間たちをもう少し眠らせることにするオベロン。
やがてヒバリが鳴き出すので、妖精たちは姿を消していきます。
妖精たちが活動するのは夜なので、ここから日中、人間たちが活動する時間となるわけです。
まずは若者たちが目を覚ましていきます。
ライサンダーは無事、ハーミアを愛するように戻っていて、ディミートリアスはヘレナを愛し、女性たちも仲直り。
遠くからホルンの音が聞こえますが、これは今日公爵たちの結婚式が行われるということで、遠くの宮殿でファンファーレが演奏されているのかもしれません。
仲良く四重唱が演奏されて、彼らは森を去っていきます。

無事に人間に戻ったボトムも、寝言を言いながらゆっくり目覚めて、
「俺は、こんなところで眠ってたのか…。
とんでもない夢を見たなぁ。
何を見たのか、とても説明できない。
何を見たのか言おうとするやつは、ただのロバだ」
などと言いながらボトムは起き上がり、職人たちの元へ急ぎます。
時間も経ち、森の別の場所に変わったのでしょうか、そこに職人たちが集まってきます。
「ボトムは家にもいなかったのか?」
「いないよ。きっと、さらわれたんだ!」
「彼がいなきゃ芝居は出来ないよね?」
「無理だ、あいつほど上手く演じられる奴はいない」
「公爵が神殿を出たそうだから、披露宴がもうすぐ始まっちゃうよ。」
「披露宴での芝居が上手くいけば出世して、日当6ペンス貰えてたのに!」
この時代の6ペンスは現代の日本円で約3000円から1万円ほど。
毎日それぐらいもらえてたら、日々の暮らしは相当助かりますよね。
そこへ当のボトムがやって来ます!
「おおい、みんなーー!」
「ボトム!!どこに行ってたんだ!!?」
「それは…聞かないでくれ!
それより、俺たちの芝居が公爵に選ばれたぞ!!」
「俺たちの芝居が選ばれた!!
役者諸君、衣装を整えよう!
セリフを見直せ!ニンニクや玉ねぎは食べるなよ!!
”Sweet Comedy(すばらしい芝居)だった”と言ってもらえるように!!」
職人たちは張り切って宮殿へと向かいます。

場面は森から、公爵シーシアス(テセウス)の宮殿へと転換。
行進曲が演奏され、シーシアスとヒポリタが家来たちと共に入場。
オペラではここで初めてシーシアスとヒポリタが登場します。
結婚の宴を待ちわびているシーシアス。

そこへライサンダー、ディミートリアス、ハーミア、ヘレナがやって来ます。
シーシアスが「お前たちは恋をめぐって仲たがいをしていたと聞いたが、なぜそのように穏やかな和解が成されたのだ?」
と聞くと、ライサンダーとディミートリアスが経緯を話し出します。
原作ではもっと詳しく話されるのですが、シーシアスは途中で彼らを遮って
「そこから先はまた後で聞こう。
ハーミア、そなたの父親には私から言っておく。
このあと神殿で、我らと共にそなた達も永遠の愛を誓いなさい!」
と宣言し、恋人たちは喜んで抱き合います。
そこへ職人の1人、クインスがうやうやしくやって来て、ヒポリタに芝居のプログラムを手渡します。
読み上げるヒポリタ。
『若きピラマスとその恋人ティスビーによる、冗長にして簡潔なシーン。とても悲劇的な喜劇』
”冗長にして簡潔”や”悲劇的な喜劇”という、矛盾したワードが出てきて、この後の職人たちによる芝居がシュールなものになることを予感させます。
「モンティ・パイソン」というイギリスのコント・グループによるテレビ番組が1970年代に放送されて大人気となり、日本でも豪華な声優陣で吹き替え版が放送されていたのですが、ここからの職人たちの芝居『ピラマスとティスビー』は、どこか「モンティ・パイソン」的雰囲気のあるブラック・ユーモア的シーンとなっています。
イギリスの人々はシェイクスピアの頃からこうしたブラック・ユーモアが好きな、イギリス文化特有の国民性を持っていたようです。
まずは職人たちが行儀よく並んで、口上を述べます。
職人たちが入場する場面の音楽は、バロック音楽の行進曲風です。
「 もしもご気分を害したら、それは善意からであります。
我らのつたない技をお見せすることこそ、終わりの始まりでございます。
あなた方をご満足させようとは思っておりません…いや、全てはあなた方の喜びのためであります!」
などなど、言いたいことがぐちゃぐちゃに入り混じっており、善意を表明しようとして逆のことを口走ったり、訳が分からない文章です。
英語が分かる方は聞いているだけで笑いがこみあげてくることでしょう。
「彼らは何を言っているのかしら・・・」
「子どもが笛を吹くみたいに下手くそだな」
などと貴族たちは口々にゴショゴショ喋り出します。
そこへクインスが進み出て、”プロローグ”として口上を述べ出します。
第2幕で彼らが話し合っていたように、いきなりピラマスの自害やライオンでご婦人方が驚かないよう、クインスが登場キャラクターを全員紹介していきます。
「皆様!この男がピラマス、こちらがティスビー。
この者は壁を演じます。この者は月の光を演じます。
この者がライオンです。
ここから先はそれぞれ説明があります」
そして”壁”役のスナウトだけが残り他の職人たちは退場します。
第2幕で「宮殿に壁を持ち込めないから、壁を誰かが演じればいい」という話になっていたので、ここで職人の1人スナウトが”壁”を演じています。
ご丁寧に”壁”が喋り出します。
「私スナウトと申しますが、壁を演じます。」
そしてスナウトは指を2本出して、
「壁にはひび割れた隙間がございます。この穴越しに、恋人たちがささやき合うのです」
指を壁の穴に見立ててください、と説明するスナウト。
ここの音楽はかなり前衛的で、楽譜では音符の指定はあるものの、ほとんど歌わずに喋るよう指示されています。
当然貴族たちも、ここから困惑気味にツッコミを入れながら鑑賞。

そこへ、無駄に重厚な音楽と共に、ボトムが演じる主役ピラマスが登場。
「 おお、夜よ、昼が去れば常に現れる夜よ。
そしてお前、壁よ、愛しき美しき壁よ、
その隙間を見せてくれ、しかし、ティスビーがいない!
忌々しき壁よ、呪われよ!」
見ていたシーシアス公爵が呟きます。
「壁に感情があるなら、ピラマスを呪い返さないといかんなw」
するとピラマスを演じていたはずのボトムが急に素になって公爵のツッコミに応えます。
「いえ、壁は呪いません。このセリフはティスビーが出てくるキッカケなのです」
こうやっていちいち素に戻って説明してしまうのも、この劇中劇のシュールポイントの一つです。

そこへ、劇中劇のヒロイン、職人のフルートが演じるティスビーが登場。
”フルート”と言う名の人物が歌い、楽器の”フルート”も活躍するこの場面の音楽は、ドニゼッティの「ランメルモールのルチア」に代表される、いわゆる”狂乱の場”をパロディ化しているとのことです。
そしてピラマスとティスビーは、”壁”の穴越しにキス。
この間、すべてのセリフがわざとらしく韻を踏んだり、言い間違えたであろう文法で成り立っていて、古典悲劇のパロディとして描かれています。
ピラマスとティスビーは別の場所で落ち合うことを約束し、いったん退場。
”壁”も
「これで私の役目は終わりました。」
と言いながら退場。
思わずヒポリタは「今まで見た中で一番くだらないお芝居ね」と言ってしまいますが、
シーシアス公爵は
「 こういう芝居で一番良いものでも、ただの影にすぎないし、最悪なものも、想像力で補えば悪くはないよ。」
つまり、どんなに良いお芝居でもそれは単にお芝居に過ぎない。
悪いお芝居でも観る側の想像力で補えば面白くもなる、ということです。
現代でも、予算の都合などでどうしても簡素な舞台にせざるを得ないオペラや演劇というものはありますが、公爵の言う通り、そうしたものに当たった際は皆さまも、想像力を駆使していただくと鑑賞している時間がより充実したものになるかもしれません。
まだまだ続きます。
そこに職人スナッグが演じるライオンと、スターヴリングが演じる”月明かり”が登場。
やはりスナッグが
「私は職人のスナッグでして、ライオンを演じます」とわざわざ説明。

スターヴリング演じる”月明かり”に関しては、手に色々持っていて、
「手に持っているこのランタンが月で、私は月にいる男なのでして、この枝は私の茨、この犬は私の犬なのです」
と、もはや支離滅裂ですが、一説によるとイギリスの人々は満月の模様から、男が犬と共に枝を持って立っているというイメージを持っているとのこと。
日本人は月が餅をついている、というのの英国版でしょうか。

そこへティスビーが再び登場。
ライオンがティスビーに吠え掛かり、ティスビーを追い回します。
どちらかというとコミカルに吠えているライオンと逃げるティスビーを見て、観客の貴族たちは
「いいぞ!良い吠えっぷり、走りっぷりだ!
”月明かり”も良い照らしっぷりじゃないの!ww」
と、このシュールな劇を楽しみつつあるようです。
ティスビーは羽織っていたマントを落として逃げていきます。
そこへピラマスがやって来ます。
ピラマスは血が付いたティスビーのマントを発見して、ティスビーがライオンに食べられてしまったと思い、非常に仰々しい音楽と共に芝居をするのですが、相変わらず文法は滅茶苦茶です。
「ああ、何ということだ!!自然よ、なぜライオンなど創りたもうたのか!
彼女は美しい乙女なのに、いや乙女だったのに!
剣よ、ピラマスの胸に刺され、こう、こう、このように!」
自らの胸を刺してピラマスは倒れるのですが、なおも
「私は今死にます。魂が抜けます。天に上ります。」
と、いちいち説明してくれますw
「そして、死ぬ、死ぬ、死にます。。」
ディミートリアスが一言、
「優秀な外科医がいればまだ助かるかもなw」
と秀逸なツッコミをかますと、舞台にティスビーが戻ってきます。

「ピラマス、寝ているの?起きて、起きて!
死んでるの? ああ、その美しい目が墓場に行ってしまうのね!
彼の瞳はニラ(?)のように緑だった!
そしてさようなら、みなさん。これにてティスビーの最期。
アデュー、アデュー、アデュー!」
と、ティスビーも自分の胸を剣で刺し、倒れてしまいます。
ここも、ベルカント・オペラの”狂乱の場”をパロディにしたような場面と音楽です。
まるでシェイクスピア本人による「ロミオとジュリエット」のセルフ・パロディのような劇中劇がこれにて終わりました。
ピラマスを演じたボトムがムクリと起き上がって、
「 皆さま、エピローグをご覧になりますか? それともベルガマスク・ダンスをご覧になりますか?」
と尋ねます。
ベルガマスクとは、ベルガモ発祥の舞曲のこと。
公爵が
「エピローグは結構だ、ベルガマスクにしてくれ!」
と告げると、職人たち全員による、陽気でどこか滑稽な田舎風のダンスが繰り広げられます。
やがて午前0時を告げる鐘が鳴り、披露宴もそろそろお開き。
職人たちはうやうやしくお辞儀をして退場。
公爵が告げます。
「恋人たちよ、寝室へ向かおう。もうすぐ妖精たちの時間だ。」
そうして貴族の恋人たちは寝室へと去っていき、人間たちと入れ替わるように妖精たちが公爵の館に集まり歌います。
後からパックやオベロン、ティターニアも登場。
「この館を、妖精たち一人ひとりが巡り、寝室に祝福を捧げます。
そしてそこで生まれる子は、いつまでも幸運に恵まれるでしょう。
ここにいる3組のカップルは皆、永遠に変わらぬ愛を貫くことでしょう。」
と、妖精たちは愛を誓った貴族たちに祝福を捧げます。
その音楽はとても安らかで神秘的なもので、子供と言う無垢な存在への祈りにも似た、ブリテンの思いが込められているかのようです。

舞台にはパックが1人残り、有名なエピローグを客席に語り掛けます。
以下、その全文を原文と訳を並べてご紹介します。
「If we shadows have offended,
→ もし私たち “影”(=妖精たち、だけでなく、公爵が”芝居は影だと言ったように、『夏の夜の夢』の登場人物全員を指しているかも)がご無礼を働いたとしたら、
Think but this, and all is mended:
→ どうかこう思ってください、そうすればすべて丸く収まります:
That you have but slumber’d here,
→ 皆さんはここでほんの少しうたた寝をしていて、
While these visions did appear.
→ その間に幻が見えただけなのです。
Gentles, do not reprehend.
→ 皆さま、どうかお叱りはご容赦を。
If you pardon, we will mend.
→ お許しくださるなら、私たちは報います。
Else the Puck a liar call.
→ でなきゃ、私パックを嘘つきとお呼びください。
So good night unto you all.
→ では皆さま、おやすみなさい。
Give me your hands, if we be friends,
→ もし私たちが友達でいられるのなら、どうか拍手を。
And Robin shall restore amends.
→ そしたら私ロビンが、お礼に伺いますよ。」
こうしてオペラ全体の幕が下ります。
いかがでしたでしょうか。
ブリテンがこれ以前に書いてきたオペラは、社会的・倫理的な主題を鋭く掘り下げて人間の心理を深く追求する現代的なテーマが多かったのですが、「夏の夜の夢」ではブリテンがシェイクスピアによる魔法の世界をブリテン流に表現することに挑戦し、それが見事に成功しています。
少年合唱による妖精たち、カウンターテノールのオベロン、超絶コロラトゥーラのティターニアは声による幻想的表現の到達点であるかのよう。
加えて、貴族の若者たちの葛藤、職人たちが慣れない芝居に奮闘する様など、人間心理の描写も秀逸。
味わえば味わうほど癖になる、そんなブリテンによるオペラ「夏の夜の夢」。
多くの方に触れていただけることを願っております。
ありがとうございました。
髙梨英次郎でした。
<参考文献>(敬称略)
デイヴィッド・マシューズ「ベンジャミン・ブリテン」(中村ひろ子・訳)
シェイクスピア「新訳 夏の夜の夢」(河合祥一郎・訳)


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