オペラ解説配信の文字起こしです。
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こんにちは、テノール歌手、髙梨英次郎です。
本日も、オペラ全曲ざっくり解説、やって参ります。
オペラって面白いですよ!
今回は、ヴェルディ作曲、第4作目のオペラ「第1回十字軍のロンバルディア人」です。長いタイトルですね。イタリア語では「I Lombardi alla Prima Crociata」なので、ロンバルディと、最初の方を取って、呼びます。
ロンバルディアとか、ロンバルド、色々な呼び方があるのですが、北イタリアにある地方を指します。ミラノを含んでます。
十字軍は、世界史の授業でもおなじみの言葉かと思いますが、大まかに言うと、11世紀末、当時のローマ法王がヨーロッパ諸国に呼びかけました。
「聖地エルサレム(この頃はイスラム勢力の支配下にあったのですが)を取り返そう、奪い返そう」と呼び掛けたもので、第1回十字軍から第7回まで、あしかけ200年に及んだ軍の遠征のことです。
で、このオペラ、前作「ナブッコ」(https://tenore.onesize.jp/archives/86 ) で確立された、ヴェルディの力強くて壮大な、繊細でまた少し哀しげな、音楽の魅力にこれまた溢れた作品です。中世の頃の騎士のお話なので、ちょっとRPGみたいな世界観でもあるのかな、と思います。
では、それまでのヴェルディの人生についてお話します。
前作「ナブッコ」は、スカラ座始まって以来の再演記録を打ち立てる大ヒットとなりました。スカラ座支配人のメレッリとしては、またこのような大ヒットを当然望んで、
「いやぁヴェルディ君、次もナブッコと同じ台本作家のソレーラと組んでやってくれないか」
と依頼してきました。

このソレーラ、前作「ナブッコ」の時にお話しなかったのですが、相当破天荒な人物でした。イタリア独立革命運動に身を投じたり、イタリアを出てスペインの宮廷に仕えたり、エジプトで警察官になったり。

モーツァルトと組んで色んな名作を作った台本作家ダ・ポンテという人もいるのですが、彼も相当に破天荒で、よくソレーラはダ・ポンテに例えられたようですね。この後もいくつかの作品でヴェルディと一緒に作品を作っていくことになります。
「ナブッコ」で得た成功体験を、今回もふんだんに取り入れようと、ソレーラは考えました。「ナブッコ」があのようにヒットしたのは、オーストリア政府に支配されていたミラノの観衆が(「ナブッコ」を観ることで)民族意識を高揚させて、「ナブッコ」で圧政に苦しんでいたヘブライ人への共感でヒットしたんじゃないか、と思ったので、今回の「ロンバルディ」でも、相当そういった要素を入れようとしたんですね。
虐げられた状況から解放されるということ、合唱がすごく活躍する、「ナブッコ」の「行け、想いよ、黄金の翼にのって」という名曲があるのですが、そういった合唱曲もしっかり用意しますよ、と。
で、お話がロンバルディアですから、ミラノを含む地方のお話なので、ミラノの民衆にとっては地元感もあるわけですね。ヒット要素が満載です!
しかし、ミラノを支配していた当時のオーストリア政府に、どうも目をつけられたようでですね、「ナブッコ」が相当な人気を博して、民衆が騒いでいるようだと。オーストリア政府への不満も噴出しているようだ、これは危険だ。どうも次の作品も、また「ナブッコ」みたいな宗教的要素が入った作品らしい。
当時のミラノの政治的トップに据えられていたのは、キリスト教の枢機卿という偉いお坊さんだったので、ちょっと文句をつけてきたのですね。
「どうも次の作品には、舞台上でキリスト教の儀式シーンがあるらしいけど、そんなのやっちゃダメだよ!」
で、警察署に圧力をかけたんですね。上から圧力がかかった警察署長はヴェルディや支配人メレッリ、台本作家ソレーラを呼び出して、注意するんですね。
しかしヴェルディとしては、
「音楽もほとんど完成しているので、そういった、そのシーンをカットとか、そういうことは応じられません。」
ヴェルディ先生、断固拒否します。
この警察署長も、オペラが好きな人だったようで、
「じゃあわかった。ここの言葉をちょろっと変えればいいよ」
と譲歩してくれました。
ヴェルディも「まぁ、それなら」と応じて、この件は一件落着。
この後もヴェルディは、色んな作品で見舞われるのですが、政府による検閲との闘いの始まりなのですね。
ヒット要素満載のロンバルディ、いざ初演。1843年2月11日ミラノスカラ座です。ヴェルディ29歳になっていました。さすがに「ナブッコ」の二番煎じではそこまで受けないだろう…なんてことはなくですね、こちらも大ヒット。狙い通りでしたね(笑)。

ただし、あまりにもミラノの民衆受けをすごく狙ったようなところがある台本だったこともあり、その後ヴェネツィアで上演されたときは失敗、のようになってしまいました。
とはいえ、大変魅力的なオペラなので、現在もちょくちょく上演されているようです。
次回は、ついにスカラ座以外の劇場、そのヴェネツィアから依頼された新作オペラをご紹介することになります。
それでは、「ロンバルディ」の内容へ移りたいと思います。

全4幕
時は11世紀末、第1回十字軍の頃ですね。
登場人物は、
アルヴィーノ:ミラノ近郊にある都市の領主フォルコの息子
パガーノ:アルヴィーノの弟
ヴィクリンダ:アルヴィーノの妻
ジゼルダ:アルヴィーノとヴィクリンダの娘
オロンテ:アンティオキアの領主の息子。アンティオキアとは、現在トルコとシリアの辺りで、この頃はイスラム勢力の王国だったのですが、まさにそこに十字軍が攻め入ろうというところです。

<第1幕>
場所はミラノ。
今までの(ヴェルディの)オペラにはあった序曲のようなものはなく、短い前奏の後、すぐに物語が始まります
広場に市民が集っています。今日は、兄アルヴィーノに弟パガーノが謝罪して、兄弟が和解するとのこと。何があったんでしょうか?
この兄弟、美しい女性ヴィクリンダのことを二人とも愛していたのですが、彼女の心を射止めたのはアルヴィーノでした。嫉妬したパガーノはアルヴィーノを殺そうとするも、失敗。で、パガーノはミラノを追放されていました。今日、(パガーノがミラノに)戻ってくるんですね。

さあパガーノが広場に現れました。その目つきはどうも暗く、まだちょっと恨みがこもっていそうな感じがするんです、が、一応この場は謝罪し、兄アルヴィーノも、「なんか目つき悪いなぁ」と思いつつも、その謝罪を受け入れました。万歳!って感じですね。
アルヴィーノの側近ピッロってやつもいるのですが、どうもこいつもパガーノに肩入れして、アルヴィーノを裏切りそうな気配がします。
そこへ一人の司祭が現れて、十字軍のリーダーにアルヴィーノを指名してきました。喜んで応じるアルヴィーノ。一同、一層万歳万歳!って感じです。
皆が去って、遠くで女性が祈りを歌う声が聞こえます。
パガーノが、アルヴィーノの側近ピッロをそそのかして、準備をさせます。やはり案の定、パガーノは兄への復讐心が衰えてはいませんでした。刺客をピッロが集めてきて、アルヴィーノの寝室へ向かおうということになります。寝込みを襲う計画のようですね。
宮殿では、ヴィクリンダとその娘ジゼルダが不安を感じて祈っています。父親アルヴィーノも彼女たちを元気づけて、ジゼルダは祈りを歌います。
ですがその祈りもむなしく、パガーノがピッロたち刺客を連れて、兄の寝室へ向かいます。たいまつの灯りも消して、漆黒の闇の中…、そこに寝ていた、兄と思わしき人物をついに刺し殺してしまいました…!
これで邪魔な兄もいなくなったと、パガーノはアルヴィーノの妻と娘も奪って、自分が父親である領主を継げると喜ぶパガーノでした。
そこへ、殺したはずの兄アルヴィーノが軍勢を連れてパガーノたちを取り囲みます。
「なぜだ!この剣についた血は、誰のものだと言うのだ!?」
それは…、兄の寝室でたまたま眠っていた、領主である父親フォルコでした…。パガーノは父親を殺してしまったのです。
兄殺しもそうとうな罪でしょうが、こういう中世騎士の時代、絶対にやっちゃいけない、父殺し、しかも領主殺し。今度こそ永久にパガーノはミラノを追放となったのでした。
ここで第1幕が終了します。
<第2幕>
第1幕から1年が経ちました。
ここはイスラム勢力のアンティオキア。ここに十字軍が攻めてくるということで、男たちが奮い立っています。
ここの国王の妻、正妻のソフィーアは、ソフィーアという名前からしてヨーロッパ人だと思うのですが、かねてからキリスト教への信仰心を秘かに持っていました。
このシーンは彼女と息子オロンテの2人なのですが、オロンテも母の影響からか、キリスト教に傾きつつあり、しかもオロンテが愛する女性もその宗教を信仰しているようだ。
その女性とは、アンティオキアのハーレムに囲われているジゼルダ。…おや、なぜジゼルダがここアンティオキアにいるのでしょうか?
彼女は、父親アルヴィーノの軍勢についてきていました。なぜついてきたんだ?と思いますが、色々事情があったのでしょう。既に母親ヴィクリンダはこの世を去っています。
で、戦いのさなか、捕らえられてしまい、ここアンティオキアに連れてこられていました。
この時点で、オロンテとジゼルダは両想いになっています。出ました、敵方同士の男女が惚れあっちゃう、いわゆるロミオとジュリエット効果です。
オロンテはジゼルダと、新しい神、両方への想いを歌います。オロンテは我らテノールの役で、素敵なアリアが歌われます。

一方、アンティオキア近郊の洞窟に、とあるキリスト教の隠者(俗世間との交わりを捨ててひっそりと生きる人、行者ともいう)が、人々から尊敬を集めていました。
台本上はずっと「Eremita 隠者」とされていますが、実はミラノを追放されたパガーノでした。
色々な国を、まるでお遍路さんのように回って、ここアンティオキアにたどり着いていました。

そこへ、かつてアルヴィーノを裏切りパガーノに手を貸したピッロがやって来て、町で噂の隠者に自分の罪を告白します。パガーノだとは気づいていないもようです。相当、見た目が変わっていたのでしょうね。パガーノは自分の素性を隠して、ピッロを励まします。
さらにそこへ、アルヴィーノが十字軍を引き連れてやってきます。そして、隠者に会うのですがこちらもその隠者がパガーノのだと、弟だと気づきません。アルヴィーノは、隠者に扮するパガーノに、
「あなたは徳が高いと、みなが尊敬して噂しています。イスラム教徒たちにさらわれた娘を私は取り返しに行きます」
と話し、パガーノも
「協力しましょう」
と、やはり素性は隠しながら、十字軍と行動を共にすることになります。
再びアンティオキアの宮殿。
アンティオキアの女性たちが、悲しそうにしている外国人女性ジゼルダを慰めています。ジゼルダは、亡くなったお母さんに救いを求めています。

その時、女性たちの悲鳴が。オロンテの母で王妃のソフィーアが、
「王と息子が殺された!」
と駆け込んできます。
アルヴィーノたちが攻め入って来たのでした。アルヴィーノ達、ジゼルダを救いに入ってくるのですが、返り血を凄く浴びたアルヴィーノを見て、ジゼルダは立ちすくみます。ジゼルダは、信じる神が違うという理由で人と人が殺し合うことに、強いショックと憤りを覚えるのでした。しかも愛する人まで殺されたということで、より一層、ショックを受けたのですね。
アルヴィーノは、
「お前を救うためにこっちは苦労したんだろうが!」
と、怒りのあまり、あわや娘を手にかけようと剣を振り上げるのですが、周りに「ちょちょちょちょ!」と止められて、それでもジゼルダは怒りを叫んで、そのまま第2幕フィナーレとなります。
<第3幕>
遠くにエルサレムが見える渓谷(谷間)。
そこへ遠くから巡礼者たちが近づいてきます。聖地エルサレムへの想いを叫びながら、実際にエルサレムを目の当たりにできて、感動的な合唱となります。

この物語の頃、11世紀終わり頃には、ヨーロッパキリスト教徒たちの間で、簡単には行けない、自由に行き来出来ないエルサレムを一目見たいという巡礼が流行となっていました。
とはいえ、現代においてお伊勢参りをするのとはわけが違うので、危険の伴う命がけの巡礼の旅でした。この巡礼の流行が十字軍遠征のきっかけの一つにもなっていました。
当然、このオペラを観たミラノの観衆も、「ナブッコ」でのヘブライ人同様、エルサレムを求めて巡礼の旅をする彼らに、オーストリア支配下で不自由な自分たちを重ね合わせたことだろうと思います。
そんな巡礼者たちが通り過ぎた後、ジゼルダの姿が見えます。彼女は、父親アルヴィーノの陣営から抜け出して、この辺りをさまよっているようです。また1人でそんなところに行って、さらわれちゃうよ…?と思うんですけれども、それだけ、血生臭い男たちと一緒にいるのが嫌だったのでしょうね。
そこへ、アンティオキア王子にしてジゼルダの想い人オロンテが登場します!ジゼルダは死んだものと思っていたので、とても驚いて、喜びます。オロンテも攻められた時に逃亡して、ジゼルダを探していました。
「一緒に逃げましょう、共に生きよう!」
って感じの二重唱になります。
一方父親アルヴィーノの陣営では、アルヴィーノ父さん、娘ジゼルダへの怒りが収まりません。
さらにそこへ、部下が「パガーノがこの辺りに居た」という情報を持ってきます。まさか第2幕の時に協力してくれた隠者がパガーノだとは思っていないアルヴィーノ。
パガーノへの復讐を、その時誓います。
場面変わって、ヨルダン川に近い、とある洞窟。

ここで劇的なヴァイオリンのソロ音楽が、間奏曲のように置かれています。
ジゼルダが、負傷したオロンテを支えてやってきます。追手に見つかって、彼女を守りながらもやられてしまったようです。苦しむオロンテ。それを見て、ジゼルダは
「私からお母さまの次は愛する人を奪うのですか、残酷な神様!」
と訴えます。
そこに、
「神様を非難してはいけませんよ」
と、諭す声。
それは、洞窟に居た、隠者、に身をやつしたパガーノでした。
死に瀕しているオロンテに隠者パガーノは、キリスト教徒として天国に行かせてあげようと、洗礼を施します。
洞窟の近くにあるヨルダン川は、洗礼者ヨハネがイエスキリストに洗礼を授けたことで有名な川なのですね。
オロンテの死に際を看取り、祝福を与える美しい三重唱です。
この後の作品でも、ヴェルディはしばしば、死にゆく登場人物へ、魂が天に昇ってゆくような美しい音楽を与えていきます。
ここで第3幕が終わります。
<第4幕>
隠者に扮したパガーノが、気を失っているジゼルダを父親アルヴィーノのもとへ運んできていました。
ジゼルダは、夢、もしくは幻でしょうか、天使の声を聴き、やがてオロンテの幻も見ることになります。演出によっては声だけの場合もあるんですが。
そこでオロンテの声を聴いて、神の奇跡を感謝して、気力を取り戻すジゼルダでした。
一方、十字軍アルヴィーノの陣営では…。
ここにいるキリスト教側の人々が、約束の地エルサレムへの想いを歌います。
こちらもミラノの当時の観衆がすごく共感したところなのですが、「O Signore, dal tetto natio 主よ、故郷の家から」という歌なんですけれども、これが、前作ナブッコの「行け、想いよ、黄金の翼にのって」の、まぁ焼き直しのようなものなのですけれども、こちらも大変感動的な名歌となっており、全イタリアでこの曲も歌われてきました。もちろん初演当時も大流行したことは言うまでもありません。
そこへジゼルダ、アルヴィーノ、そして隠者に扮するパガーノもみんなの所へ来て、聖地エルサレム奪還の決戦に向かおうと皆を元気づけます。ジゼルダは、血を流すことへの嫌悪感はもう吹っ切れたみたいですねw
かっこいい戦いの音楽の後、先頭に立って戦っていた隠者ふんするパガーノが重傷を負い、運ばれてきます。
死を悟ったパガーノは、兄アルヴィーノやジゼルダに、自分の素性を明かします。驚く一同。
アルヴィーノは、十字軍に命を捧げた弟の、父親を殺したというかつての罪を許し、兄弟が本当の和解をして、パガーノは息絶えます。
皆が神をたたえるフィナーレとなり、オペラ全体の幕が下ります。
以上、ロンバルディでした。
いかがでしたでしょうか?
初めてこの作品に触れて、あらすじを読んだとき、物語の壮大さと複雑な感じで途方に暮れた記憶があります。
しかし、僕のこちらの解説でおおよそを掴んでいただいて、あとはヴェルディの美しく激しく感動的な音楽に、どうぞ身を任せてください。きっと充実した心の洗濯ができる時間になります。
どうぞ検索などして、まずはこの作品に触れてみてください。
ありがとうございました。
髙梨英次郎でした。
参考文献(敬称略)
小畑恒夫「ヴェルディ 人と作品シリーズ」「ヴェルディのプリマ・ドンナたち」
ジュゼッペ・タロッツィ「評伝 ヴェルディ」小畑恒夫・訳
永竹由幸「ヴェルディのオペラ」
髙崎保男「ヴェルディ 全オペラ解説」


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