オペラ全曲ざっくり解説の文字起こしです。
聴きながら読むと分かりやすい! 音声はこちら↓

こんにちは!テノール歌手の髙梨英次郎です。
本日もオペラをざっくり解説して参ります。
オペラって面白いですよ!
今回は、ヴェルディ作曲「リゴレット Rigoletto」の続きです。
ここからオペラの内容に移って参ります。

リゴレット
全3幕
時代設定は16世紀
北イタリアの町マントヴァとその近郊が舞台です。
登場人物
マントヴァ公爵:マントヴァは地名です。あまりに放蕩三昧で女たらしのキャラクターなので、人物が特定されないよう、固有名詞が与えられていません
リゴレット:生まれつき背中にこぶのようなものがあり、背中が曲がっている身体的特徴があるが、宮廷で道化として公爵を笑わせる仕事をして生きています。
ジルダ:リゴレットの娘
スパラフチーレ:宿付き居酒屋を営むが、殺し屋が裏の稼業
マッダレーナ:スパラフチーレの妹、兄の仕事を手伝う →実は妹ではなく、スパラフチーレの愛人では?という説もあります。
ジョヴァンナ:リゴレットの家に仕え、ジルダを養育してきた女性
公爵の家臣:チェプラーノ伯爵、マルッロ、ボルサ
オペラは、わずか34小節の短い前奏曲で始まります。
この前奏曲がまず簡潔にして凝縮された素晴らしい音楽です。
冒頭のリズムと和音は、主人公リゴレットが”呪い”への不安を表すシーンのもので、このオペラ全体が”呪い”をモチーフにしていることが示されます。
<第1幕>
・第1場
前奏曲が終わると、そこはマントヴァにある公爵の宮殿。
そこではどんちゃん騒ぎのパーティ真っ最中でした。

公爵が家臣の一人ボルサと話しながら登場します。
公爵は、3か月前から祝日のたびに教会に来る女性が気になっている様子。
その話はそこそこに、宴に集まっている女性たちの中で、家臣であるチェプラーノ伯爵の妻、伯爵夫人が一番キレイだなぁ、と話し、短いソロを歌います。
その内容は、
「女はどいつも、私にとっては同じだ、私の心は1人の女のものにはならない、今日愛した女は、明日には別の女に変わっているだろう、亭主がいようが関係ない!」
といった、この1曲だけで公爵がどんなパーソナリティーかがわかります。

この歌の直後、目をつけていたチェプラーノ伯爵夫人を口説きにかかります。
その様子を苦々しく見ることしかできない、亭主のチェプラーノ伯爵。
公爵の権力に逆らうことが出来ないのです。
そして、そのチェプラーノ伯爵を茶化しに、道化として公爵に仕えるリゴレットが登場。
リゴレットは、その身体的特徴のためにこの時代では特に差別を受けていましたが、道化に徹して宮廷の人間たちをバカにして公爵を笑わせることで、宮廷で生き抜いてきました。
ですがそのせいで、リゴレットを憎む人もたくさんいました。
リゴレットが公爵のもとに行くためその場を離れると、入れ替わりにマルッロという貴族が現れ、
「リゴレットに女がいるらしい」
「嘘だろ!?」
と、皆信じられない、といった様子で噂をしています。
そこへ、
「公爵と話をさせろ!」
と、年老いたモンテローネ伯爵が怒りの形相で現れます。
娘が公爵によって弄ばれたことに腹を立て、抗議をしに来たのでした。

※配信ではカット↓
<このモンテローネ伯爵は実在した人物がモデルで、陰謀に加担した罪で死刑にされそうだった所を、伯爵の娘が王に嘆願したことで罪が許された、と言うことが実際にありました。これをユーゴ―の原作では、娘が自分の身体を王に差し出したから、伯爵は許されたという話にしていて、オペラでもそのような経緯となっています。>
そんなモンテローネ伯爵を、リゴレットはモンテローネ伯爵の声真似をしたりしてバカにして周囲の笑いを取ります。
リゴレットにとっては、こうして笑わせることが仕事なので仕方がなかったのですが、モンテローネ伯爵は当然、怒り心頭。
「娘が傷つけられた父親をお前たちは笑うのか。お前ら二人とも、呪われろ!」
と叫びます。
公爵にはさほどこの呪いは響かなかったようですが、リゴレットは恐怖におののきます。
なぜなら、この時点では判明してませんが、リゴレットも娘の父親、だからです。
パーティーは混乱に包まれて、この場面が変わります。
・第2場
真夜中、人気のない路地で、リゴレットは1人とぼとぼと歩きながら、先ほどの呪いが頭から離れないでいます。
「あのじじい、俺を呪いやがった!」

そこへ突然、物陰から一人の男が現れ、リゴレットに話しかけます。
最初は強盗だと思ったリゴレットですが、その男はスパラフチーレと名乗り、殺し屋を営んでいるとのこと。
「御用の際はお声掛けを…。」
と、夜の闇の中に消えていきます。
それを見てリゴレットは、
「俺とあいつは同類だ。俺はこの舌で人を嘲り、あいつは剣で人を殺す」
と、アリアというよりは独り言を音楽にしたような、興味深いソロを歌います。
再び先ほどの呪いを思い起こし、自分をこのように生んだ自然に悪態をつくリゴレット。
若く陽気で富と権力に溢れる公爵のもとで、道化として生きるしかない自分。
しかしそんな彼もこの隠れ家に帰れば別の人間に変わることが出来る。

そして扉を開けると、中から一人の美しい少女がリゴレットを迎えます。
リゴレットの娘、ジルダです。
この瞬間、音楽もガラリと明るく、楽し気になります。この音楽の流れも本当に、今までのヴェルディ作品とは全く違う次元に到達した感があります。ぜひ聴いてください。
ここからリゴレットとジルダとの二重唱です。
リゴレットを唯一愛してくれた女性は、ジルダを生んですぐに亡くなってしまい、唯一残った娘のジルダは、孤児のように育っていましたが、リゴレットは時々娘の前に現れて無償の愛情を注いでいました。
16歳になったジルダは、リゴレットを愛してくれたあの女性にそっくりに美しく育ちました。
ジルダをもっと近くで見守っていたかったリゴレットは3か月前、この人気のない路地に隠れ家をもち、ジルダを住まわせていました。ジョヴァンナという女性をお守りの女中として雇っています。
大切にし過ぎて、ジルダを宮廷の人間、ましてや公爵の目には触れないよう、娘には一切の外出を許しておらず、祝日に教会に行くことだけを許していました。
そしてリゴレットは務めの合間にこの隠れ家に帰ってきて、娘と会うことが彼の唯一の心の慰めでした。
リゴレットは娘ジルダに、自分の仕事も、本名さえも教えてはいませんでした。
ジルダにせがまれて、亡くなった彼女の母の話をするリゴレット。
ジルダも16歳にもなれば、いいかげん外の世界に興味を持ってしまう年ごろです。
「町の見物もしてみたいのですけど…。」
と言ってみたところ、リゴレットは
「絶対にダメだ!ジョヴァンナ!娘を外に出してはいないだろうな?」と、取り乱してしまいます。
そこへ突然、家の外で物音が!
「誰か来たのか!?」
慌てて様子を見に行くリゴレット。
そのすきに、なんとマントヴァ公爵が現れ、庭の木の陰へ隠れます。
公爵がパーティの場面で語っていた、3か月前から教会に気になる女がいる、と言っていたのは、ジルダのことだったのです!
公爵は教会に行く際、身分を悟られないよう、学生のような格好に変装していました。
公爵はジョヴァンナに財布を渡して黙らせて、自分を家の中へ素早く案内させます。
ここで初めて公爵は、ジルダがリゴレットの娘であることを知ります。
だからと言って、娘を口説いたらリゴレットに悪いから、今日は帰ろっと、となる公爵ではないのでした。
外に何も見つけられなかったリゴレットは戻ってきて、再びジルダと二重唱を歌った後、何か用事があるのでしょうか、再び出かけていきます。
リゴレットが出かけていくと、ジルダはジョヴァンナに、
「教会で見かけた若い男性のことをお父さまに言えなくて後悔してるの」
と話しますが、気づくと部屋にいたのは、その若い男性!
公爵がジョヴァンナを下がらせて、ついにジルダを口説き落としにかかるのでした。
宮廷で女性をとっかえひっかえすることも、このように真剣に愛を語るのも、公爵にとってはどちらも楽しいお遊びでしかありません。
しかし、16歳のうぶなジルダにとっては、まさに天にも昇るような時間です。
すっかり恋に落ちたジルダ。その若い男に尋ねます。
「あなたのお名前は?」
父親に聴いても応えてくれなかった質問に、若い男はあっさりと
「グワルティエール・マルデです」
と答えます。ただしそれは偽名なのですが。
そこへジョヴァンナが、誰か家の外に来たようです、と告げに来るので、公爵は後ろ髪をひかれながらも、その場を去っていきます。
その場に残ったジルダによって、美しいアリアが歌われます。

公爵が名乗った偽名を夢見心地で繰り返し、「なんと愛しい名前 Caro nome」と歌います。
そこへ近づいていく複数の足音。
公爵の家臣たちが、噂になっていたリゴレットの愛人を見に来たのでした。
外から見えたジルダの姿は、それはそれは美しく、彼らはそれがリゴレットの娘とは思わず、
「あのピエロ野郎に、あんなに美しい愛人がいるなんて!」
と怒りを膨らませているような感じもします。
言い知れぬ不安を感じてリゴレットが戻ってきました。
家臣たちはいっそリゴレットを殺してやろうかといきり立ちますが、いやそれだと笑えない、何ならもっといい復讐をしてやろう、と、日ごろリゴレットにバカにされてきた恨みを晴らそうとします。
ここからは全て夜の暗闇の中、昔のことですから、本当に何も見えない闇を想像してください。
リゴレットがジルダを住まわせている隠れ家は、たまたまチェプラーノ伯爵の家の近所でした。
物音を聞いて、それが公爵の家臣たちとわかるとリゴレットは
「なぜおまえたちがここにいる!?」
と聞きますが、
「いや、チェプラーノ伯爵夫人をみんなでさらって、公爵に献上しようと思ってさ」
と言うマルッロ。
その場にはチェプラーノ伯爵もいたので、彼の家の鍵をリゴレットに触らせます。
暗闇なので鍵の形が見えないからです。
鍵を触ることで、チェプラーノ伯爵の紋章だとわかり、リゴレットはホッとします。
そして、
「一緒に伯爵夫人をさらおうぜ。俺たちはばれないように仮面をつけている。お前もつけろ」
といって、リゴレットに仮面をつけるのですが、仮面にハンカチ等を当ててリゴレットの目を完全に隠してしまいます。
目隠しされていると気づかず、暗闇だから何も見えないと思い込むリゴレット。
そのすきに、家臣たちはまんまとジルダを隠れ家からさらい出し、その場から逃げ去りました。
少ししてからようやく自分が目隠しされていることに気づいたリゴレット。
「まさか…、ジルダ!ジルダ!!」
隠れ家を探してもジルダはいません!
ジルダがつけていたショールが落ちている…。
ジルダは…さらわれた!
「ああ!呪いだ!!」
とリゴレットが叫び、第1幕が終了します。
<第2幕>
公爵の宮殿で

幕が開くと、公爵が憤った面持ちで現れます。
公爵は、もう一度ジルダを口説こうとリゴレットの隠れ家に戻ったところ、ジルダがいない、誰かにさらわれたのか!と怒っています。
自分の家臣たちがジルダをさらったことをこの時はまだ知りません。
そして、ジルダへの愛を歌うアリアとなります。
このシーンは原作にはありません。
※配信ではカット↓
<このアリアのメロディが美しいので、公爵はここで真実の愛の感情が芽生えたのだ、とされる説明も多いのですが、僕はもう少し複雑なキャラクター設定がなされている気がしています。
専門的なお話になりますが、音楽的に分析すると、アリアに入ってからは♭6つの変ト長調という珍しい調性で、心からの愛情を歌っているかのようだが実は真実の心ではないのでは、と解釈でき、また、レチタティーヴォやアリアの最後の方、アジリタやカデンツァが歌われることで、公爵にとってはこの感情、今まで感じたことのない愛情のようなもの、ですらも公爵の人生における遊びの一つに過ぎない、ということをヴェルディが表しているのでは、と僕は思います。>
その歌が終わると、家臣たちが駆け込んできます。
「リゴレットの愛人を盗んでまいりました!」
と、意気揚々と報告します。
話を聞くと、それは、あの娘のことではないか!
と気づきます。ちなみに公爵はジルダ、と名前を呼ぶことはありません。
リゴレットの愛人ではなく娘と知っているわけですから、それに気づいたのなら、いつも仕えているリゴレットに悪いからやめとくか、とはならないのがこの公爵です。
「強き愛が私を呼んでいる!」
と喜び最高潮!と言った感じでジルダのいる自らの寝室へ突進していきます。
一同が公爵を見送ったところに、リゴレットが、悲し気な歌を皮肉っぽい調子で口ずさみながらやって来ます。
道化の衣装をしっかりまとっています。
公爵に仕える道化としていつも通り出勤して道化を演じつつ、その心は疑惑と不安にさいなまれています。
「…娘はどこだ!?」
歌いながら宮殿に何かジルダの痕跡が残ってはいないかと探し回るリゴレット。
家臣たちに、
「昨夜はまんまと騙されました…。」
「昨夜?眠っていたけどな。」
「ほぉーお、眠っていたと?」
そこへ、公爵に仕える小姓が、公爵夫人が呼んでいる、と伝えに来ます。
今公爵は、ジルダとの、そのこと真っ最中ですので、当然部屋に呼びに行けるわけもありません。
家臣たちが
「おまえ、わからんか!?公爵は今、誰とも会わないんだよ!」
と追い払うようなことを言うと、リゴレットはついに状況をすべて理解します。
「ならばここにいるのだな!?お前たちがさらった若い女は!」
「落ち着けよ、愛人を取られたなら、他で探せばいいだろう」
「あれは俺の娘だ!!!」
「娘!!」
怒りを爆発させるリゴレットは、やがて悲しみや悔しさから涙が止まらない。
そういったすべての感情を爆発させる名アリアを歌います。
そこへ部屋の扉が開き、ジルダが駆け込んできます。
「お父様!」「ジルダ!」
家臣たちを追い払い、ジルダにいきさつを話すよう促すリゴレット。
教会で出会った若者が昨日家に忍び込んできて、愛を語ったのだが、その後さらわれて、ここに連れてこられたことをジルダは話します。
神よ!不名誉は自分だけに、と祈っていたのに…!
とリゴレットは苦しみながらも、ジルダを優しく慰め、ジルダは父親の胸で泣きはらします。
涙の二重唱の後、この地を離れることを決意するリゴレット。
するとそこへ、第1幕で公爵とリゴレットを呪ったモンテローネ伯爵が、衛兵たちに引き立てられ、牢獄へ入れられようとしています。
「公爵よ、わしの呪いも剣もお前を傷つけないなら、これからも幸せに生きていくんだろうよ」
それを聞いたリゴレットは
「じいさん、それは違う!あんたの復讐は俺が遂げてやる!!」
そうして、リゴレットは公爵を亡き者にする決意をして、興奮しながら歌います。
そんな父親をジルダは恐れて、なだめようとします。
そして、その心には、裏切られてもなお、公爵を愛する気持ちが消えてはいなかったのでした。
ここで第2幕終了です。
<第3幕>
一か月後。
マントヴァの近くの川岸と、そこに建つ家屋。

1階は田舎じみた飲み屋、2階に寝室があります。
そこはリゴレットが第1幕第2場で出くわした、殺し屋スパラフチーレが営む居酒屋。
店の外に、リゴレットとジルダが現れます。
リゴレットは、とうとうスパラフチーレに殺しの依頼をしようというようです。相手はもちろん、公爵。
ジルダはまだ公爵のことを愛していると父親に告げると、リゴレットは
「なら、ここから見ていろ」
と、ジルダに窓から店の中をのぞかせます。
すると奥の扉から公爵が、兵士の服装で入ってきます。
ここにいい女がいるという情報があったのでしょう。
ウキウキして、歌うは「女心の歌」
初演翌日からヴェネツィア中でバズった大ヒット曲です。
そこにスパラフチーレの妹(もしくは愛人?)のマッダレーナが入ってきます。
口説く公爵、口説かれるマッダレーナ、そしてその様子を窓から見る、怒りのリゴレットと嘆きのジルダの四重唱です。
この四重唱はオペラ史上随一の四重唱ともいえる一曲です。

原作者のユーゴーは、かねてから、自分の作品がオペラ化されることをあまり快く思ってはいませんでした。
この「リゴレット」がパリで上演された際、それをユーゴーは観に来ました。
自分の「王は楽しむ」の設定が変えられていて、観る前は不満だったユーゴ―が、オペラを観終わってから、途端にヴェルディを賛美するようになりました。
特にこの四重唱を、
「人物それぞれの感情を同時に表現できるのは、オペラによる音楽にしかできない特権だね!」と絶賛したそうです。
リゴレットはジルダに、一度帰宅して男性の服装を着て、馬に乗って先にヴェローナへ行くよう促します。
旅をするのに、男装の方がこの時代、危険が少なかったのです。
その後、正式にスパラフチーレに殺しの依頼をするリゴレット。
「前金として半分払い、残りは殺しの後に。夜の12時になったら戻ってくる」
と言い残し、リゴレットはその場を去っていきます。
一方、店の中ではまだ公爵がマッダレーナとじゃれ合っていましたが、夜も遅くなり、公爵は2階へと案内され、寝室で眠りにつきます。
外は嵐の気配。
仕事にとりかかろうとするスパラフチーレ。

しかし、マッダレーナはすっかり公爵に魅了されてしまい、
「ねぇ、あいつを助けてあげようよ」
等と言っていますが、スパラフチーレは聞き入れません。
そんな中、店の外に再び姿を現したのは、男装したジルダ。
公爵のことが気になってしまい、父の命に背いて戻ってきてしまいました。
そこで彼女はスパラフチーレとマッダレーナの会話を耳にします。

「今から上で寝ている色男を殺さなねばならない」
「いや、やめとこうよ、代わりにあのこぶ男を殺っちまえばいいよ」
「お前、何言ってやがる!俺は盗賊じゃない、プロフェッショナルの殺し屋だぞ!そんなことできるか!」
それでも公爵の命をこうマッダレーナに、ついに折れたスパラフチーレは
「よし分かった、真夜中までにここに誰か来たら、そいつを代わりに殺してやる」
外は嵐です。
ジルダは、揺らぎます。
裏切られても、まだ私は、あの人を愛している。
ちょうど今、私は男の格好をしている。
私が代わりにこの戸をたたけば、あの人の代わりに私が殺される。
怖い。
でも、あの人の代わりに死ねるなら。
お父さま…ごめんなさい!
そしてジルダは戸を叩き、雨宿りさせてください、と声をかけ、扉を開けたスパラフチーレに中へと案内されると…、その身体に剣を突き立てられてしまいました…。
しばらくたって嵐が静まった頃、マントに身をくるんだリゴレットが現れます。
鐘が鳴り、約束の時間が来たことを告げます。
戸を叩くと、中から、布でくるまれた遺体をスパラフチーレが持ってきます。
その遺体をスパラフチーレは川に投げ込もうとしますが、リゴレットが「俺にやらせろ!」とそれを止めます。
「ご勝手に。人に見られないうちにさっさとおやりなさい」
スパラフチーレは、そう言って中へ戻っていきます。
ついに復讐は遂げられた。
奴がここにいる。俺の足下に。何と嬉しいことか!ざまあみろ!
遺体を川へ引きずろうとすると、奥から、歌が聴こえてきます。
それは…、公爵が先ほど歌った「女心の歌」…!
この声は!!
いや、幻聴だ、心の迷いだ!
でもまだ聞こえてきます、はっきりと、あれは公爵の声…!
とすると、この袋に入っているのは誰だ!?
恐る恐る袋を開けると、中には、、、ジルダが!!!
俺の娘が!!なぜだ!!
ヴェローナに向かっているはずじゃないか!
いや、幻だ!
…違う、まぎれもなくジルダだ!
悪党ども!!
戸を叩いても返事はありません。すでに逃亡したのでしょう。
まだジルダには息がありました。
父親に許しを請うジルダ。
死ぬな!死なないでくれ!!俺をこの世に一人残さないでくれ!!
もうダメ…、お父さま、私は空で、祈ります……。お父さまの…ため、に…祈り……
ジルダ?ジルダ!!死んでしまった!!
あああ、呪いだ!!!!
…以上でオペラ全体の幕が下ります。
いかがでしたでしょうか?
あまりにも無情な、救いのない悲劇。
なぜリゴレットは、ジルダは、こんなにも理不尽な目にあわなくてはいけないのでしょう。
こんなにもこの世の不条理を描いたこの作品は、あまりにも素晴らしい歌と音楽がつけられることによって、永遠の命を得ることとなりました。
このストーリーを知ってもひるむことなく、どうぞ観て、聴いてみてください。
魂ごと揺さぶられる、そんな体験ができること請け合いです。
ありがとうございました。
髙梨英次郎でした。
参考文献(敬称略)
小畑恒夫「ヴェルディ 人と作品シリーズ」「ヴェルディのプリマ・ドンナたち」
ジュゼッペ・タロッツィ「評伝 ヴェルディ」小畑恒夫・訳
永竹由幸「ヴェルディのオペラ」
髙崎保男「ヴェルディ 全オペラ解説」
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