オペラ解説:ヴェルディ「イル・トロヴァトーレ」① 概要、作曲、初演

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オペラ全曲ざっくり解説の文字起こしです。

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オペラ「イル・トロヴァトーレ」解説① 概要、作曲、初演 - テノール歌手:髙梨英次郎のトークです | stand.fm
ヴェルディ18作目「イル・トロヴァトーレ」の解説前半です。イタリアオペラの代名詞、究極の作品! 文字起こしのブログはこちら↓ 参考文献(敬称略) 小畑恒夫「ヴェルディ 人と作品シリーズ」 ジュゼッペ・タロッツィ「評伝 ヴェルディ」小畑恒夫・...

こんにちは!テノール歌手の髙梨英次郎です。

本日もオペラ全曲をざっくり解説して参ります。

オペラって面白いですよ!

今回は、ヴェルディ作曲「イル・トロヴァトーレ Il Trovatore」です。

初演当時から大ヒットして、現在までも上演され続けるイタリアオペラの至宝とも呼べる作品、それが「イル・トロヴァトーレ」です。

前作の「リゴレット」(① https://tenore.onesize.jp/archives/101 ② https://tenore.onesize.jp/archives/102 ) は、それまでのイタリアオペラの伝統を、ある意味では全くもって覆すほどの音楽性とドラマ性をもった作品でしたが、

この「イル・トロヴァトーレ」は、それまでのオペラの伝統を究極まで高めた、伝統的イタリアオペラの完成形、到達点と言える作品ではないでしょうか。

タイトルのトロヴァトーレとは、中世ヨーロッパにいた、吟遊詩人のことです。

騎士などの身分ではあるのですが、どこかに仕えたりはせず、街を渡り歩いてハープとかキタッラ(昔のギター)などを弾きながら詩を読む、というか歌う人々で、貴族、主にご婦人方からおひねりを貰って生活していました。

ともかくこの作品、設定上の細かいツッコミは不要!

この血沸き肉躍る音楽を聴け!そんな感じでしょうかw

とはいえ、そのストーリーも非常に興味深く、面白いものです。

この解説で、なんとなくでも知っていただければと思います。


それでは、作曲と初演の経緯について。

「リゴレット」の初演後、ヴェルディは故郷に近い町ブッセートに帰りますが、恋人ジュゼッピーナ・ストレッポーニは相変わらず町の人々から受け入れてもらえず(この辺りの事情は「リゴレット」①作曲、初演の経緯編や「ルイザ・ミラー」( https://tenore.onesize.jp/archives/98 ) の項参照)、居心地も良くなかったので、2人は、以前から購入してあったサンターガタという土地の農園に館を作って、そこに住むことを決めます。

サンターガタの農園にはそれまでヴェルディの両親を住まわせていて、農園の管理をヴェルディの父親に頼んでいたのですが、父カルロは、自慢の息子の名前を使って、どうもあちらこちらに負債を作ってしまっていたようです。

そんなこんなで父と折り合いが悪くなったヴェルディは、農園の管理を全て自分が行うことにして、両親を2kmほど離れた土地に追いやってしまいました。

その数か月後には、ヴェルディの母ルイ―ジャが以前からの病気で亡くなってしまいます。

ヴェルディは悲しみ、ジュゼッピーナ以外誰とも会おうとはせず、もっぱら農園の管理にいそしむようになります。

この農園も相当なもので、小作人も相当数いて、多くの牛や羊などの家畜を飼育したり、麦やとうもろこし、ワインの製造までしていたそうで、もはや作曲をしなくても食べていけるだけの収入がある状態になりました。

ただ、人里離れた土地で、小作人としか顔を合わせない生活は、ジュゼッピーナにはキツイものになってきて、気分転換にと、2人は大都会パリで数か月過ごすことにします。

パリではオペラや芝居などいろいろ鑑賞して、充実した時間を過ごしました。

そのお芝居の中には、この後オペラ化することになる「椿姫」も含まれていました。これはまた次回。

さて、パリに来る以前からヴェルディは、スペインの劇作家グティエレスの「エル・トロヴァドール」という作品をオペラ化することを考えていました。

この題材は、ジュゼッピーナがヴェルディに話して聞かせていたもので、そのドラマの奇抜さをヴェルディは大変気に入りました。

台本は、ベテランのカンマラーノに依頼しました。

ヴェルディとしては、やはり”新しいオペラ”を作りたかったので気合も入ったのか、一度カンマラーノが書いた台本にかなりのダメ出しをして、カンマラーノはもう一度書き直していたのですが、最後の幕が完成しないまま、なんとカンマラーノが突然この世を去ってしまいました。

Salvadore Cammarano

ヴェルディはそのことを新聞で知って狼狽しましたが、バルダーレという作家が残った部分を完成させて、この「イル・トロヴァトーレ」は、ローマで初演されることになりました。

ヴェルディがこのオペラで最も重要視したキャラクターは、ジプシーの女性、アズチェーナです。

ジプシーという呼び方について。

もともとジプシーはヨーロッパにおける特定の地域に属さない移動民族のことを指した名称なのですが、これがあまり良くない名前、差別的ではないかということになったことがあり、ロマと呼ばなくては、という流れになったことがあります。

ただ、ロマというのも一つの民族の名前でしかなく、実際には多くの異なるルーツを持つ民族がヨーロッパにいて、ロマと呼ばれるのを嫌がったり、ジプシーと呼ばれることを望む民族もいたりと、非常に複雑な事情があります。

多くの解説書ではジプシーの表記をされていますので、ここでもジプシーと呼ばせていただきます。

ご意見等お持ちの方は、どうぞコメントなどに残してください。

このアズチェーナ、ヴェルディは手紙で「彼女こそが主役、タイトルロールです」というほど重視しています。

詳しくはストーリー解説で述べますが、彼女のキャラクターが重視された背景には、ヴェルディの母親の死も関係しているのではないかと思えます。

Giuseppe Verdi

初演は1853年1月19日、ローマのアポッロ劇場、ヴェルディ39歳。

この初演は大成功となりました。

聴衆は惜しみない拍手を送り、批評も好意的。

しかしそんな反応にヴェルディは振り回されることなく、次回作「ラ・トラヴィアータ(椿姫)」( https://tenore.onesize.jp/archives/107 ) の制作に向かっていくのでした。


本日はここまでとさせていただきます。

次回、「イル・トロヴァトーレ」のストーリーを解説して参ります。

ありがとうございました。

髙梨英次郎でした。


参考文献(敬称略)

小畑恒夫「ヴェルディ 人と作品シリーズ」「ヴェルディのプリマ・ドンナたち」

ジュゼッペ・タロッツィ「評伝 ヴェルディ」小畑恒夫・訳

永竹由幸「ヴェルディのオペラ」

髙崎保男「ヴェルディ 全オペラ解説」

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