オペラ全曲ざっくり解説の文字起こしです。
聴きながら読むと分かりやすい! 音声はこちら↓

こんにちは!テノール歌手の髙梨英次郎です。
本日もオペラをざっくり解説して参ります。
オペラって面白いですよ!
今回は、ヴェルディ作曲オペラ「アロルド」を取り上げます。
この作品は、16作目「スティッフェーリオ」( https://tenore.onesize.jp/archives/100 ) の改作、リメイクです。
登場人物の設定や名前がまるっと変更され、音楽にもかなりの部分が手直しをされて、実質的には別作品、いわば兄弟作品のようになりました。
それでも、おおもとは「スティッフェーリオ」と似た部分がほとんどですので、今回取り上げるか迷ったのですが、この作品、何しろ音楽が格段に素晴らしくなっています。
皆様に「アロルド」という作品をぜひ知っていただきたく、ざっくりと解説いたします。
まずは作曲と初演の経緯について。
「スティッフェーリオ」の内容については、過去の配信とブログをご参照いただきたいのですが、ごく簡単に言うと、”牧師スティッフェーリオが、不倫した妻を許すことが出来るかどうか”というお話でした。
これは現代日本の我々から見れば何てことない、よくあるドラマだという印象でしかありませんが、カトリック総本山のローマを有するイタリア、しかも19世紀の時代では到底受け入れられる題材ではありませんでした。
キリスト教の歴史と文化において、カトリックとプロテスタントというのは、本当にお互い相容れない存在同士なのですね。
「スティッフェーリオ」は、観客には受け入れられず、教会組織から検閲を受けたりして、他の都市でも上演ができない状態になりました。
なので出版社から楽譜が売り出されることもなかった「スティッフェーリオ」でしたが、ヴェルディとしては、
「音楽はわりといいものが出来たし、このまま埋もれさせてしまうのは勿体ないなぁ」
と思っていました。
そこでヴェルディは、忠実な台本作家ピア―ヴェを自宅に呼び出し、改訂作業に取り組むことにします。

ピア―ヴェの案で、時代を13世紀中世に移し、主人公も”プロテスタントの牧師”から、”十字軍の騎士”にして、夫が十字軍遠征に行っている間、妻が不倫しちゃったという話に変更することになりました。
こうなると「スティッフェーリオ」にあった、”プロテスタントの牧師という立場であるからこそ生まれる葛藤”が表現されず、ドラマとしては面白みがなくなってしまうのですが、背に腹は代えられぬと、ヴェルディもその設定変更を受け入れます。
そうして「アロルド」として完成したこの作品は、イタリア北東部の海沿いの街リミニにできた、新しい劇場のこけら落とし(初上演)の演目として1857年8月16日に初演されました。
ヴェルディ43歳。
イタリアオペラの名指揮者マリアーニの入念な準備のおかげもあって、公演は大成功となりました。
こうして「アロルド」は出版社からも楽譜が発売され、「スティッフェーリオ」は忘れられていったのですが、20世紀も後半になってようやく「スティッフェーリオ」が復活上演されるようになって、今度は「アロルド」の存在価値が薄れてしまうことになりました。
ですが「スティッフェーリオ」は「リゴレット」「イル・トロヴァトーレ」「ラ・トラヴィアータ」※いわゆる3部作の前の作品、「アロルド」は3部作の後の作品ですので、最初に述べたように、音楽が格段の進歩を遂げています。
興味深い作品であることは確かで、ごく最近でも「アロルド」イタリアで上演されたようで、YouTubeで全幕観ることが出来ます。
※
「リゴレット」(① https://tenore.onesize.jp/archives/101 ② https://tenore.onesize.jp/archives/102 )
「イル・トロヴァトーレ」(① https://tenore.onesize.jp/archives/103 ② https://tenore.onesize.jp/archives/104 )
「ラ・トラヴィアータ(椿姫)」(① https://tenore.onesize.jp/archives/107 ② https://tenore.onesize.jp/archives/108 )
それではここから内容とストーリーに移って参ります。

「アロルド」
全4幕
時は西暦1200年ごろ。
登場人物
アロルド:十字軍に参加したイングランドの騎士
ミーナ:アロルドの妻
エグベルト:ミーナの父 古くからある家柄の当主
ゴドヴィーノ:ミーナを誘惑した冒険家
ブリアーノ:敬虔な修道士
その他
「スティッフェーリオ」とほぼ同じ内容の序曲が、最初に演奏されます。
素晴らしいメロディと、ドラマティックな展開がなされる聴きごたえのある1曲です。
<第1幕>
ところはイングランド南東部のケント。
ここにあるエグベルトの居城の客間。
十字軍の遠征から戻ってきたアロルドを称える合唱が、舞台の奥から聞こえてきます。
その部屋に、アロルドの妻ミーナが駆け込んできます。
彼女は夫がいない間にゴドヴィーノという男と不倫の関係を持ってしまい、後悔にさいなまれています。

ミーナは、神へ救いを祈り、歌います。
そこへアロルドが入ってきます。
ブリアーノという修道士も一緒です。
ブリアーノは、瀕死の重傷を負ったアロルドを救った命の恩人だそうです。
ブリアーノが部屋を出て二人きりになるとアロルドは、久しぶりに会えたのに、妻があまり嬉しそうでないことが気になっています。

折しも今日は二人の結婚記念日です。
ミーナは喜ぶどころか泣き出している。
アロルドが優しく、ミーナの手を取ると、その手に指輪をしていない!
アロルドは激しく問い詰めます。
「母から授かったあの指輪はどこだ!?」
答えられないミーナに怒りが爆発しそうになるアロルドでしたが、ブリアーノが、
「アロルドの部下が客人として来ましたよ」
と呼びに来るので、いったん怒りを収めてそちらへ向かいます。
1人になったミーナは、これ以上苦しみに耐えられないと、夫に全てを白状する手紙を書きますが、部屋に入ってきたミーナの父エグベルトに手紙を奪われます。
「アロルドがこんな手紙を読んだら、絶望で死を選んでしまいかねない。そんなことはさせんぞ!」
と言う父と、アロルドに嘘をつき続けなければいけないなんて!と嘆く娘の二重唱となります。
場面変わって、エグベルト邸宅内の広間。

ゴドヴィーノがそっと忍び入ります。
彼はミーナへの愛を諦められずにいます。
2人の連絡手段として、鍵がかけられる分厚い本に手紙を隠してお互い読み合う、ということをしていたので、ゴドヴィーノはそっとその本にまた手紙を入れて、鍵を掛けます。
その様子を、修道士ブリアーノが陰から見ていました。
ですが、本に鍵をかけていたのが誰かは暗がりでよく見えませんでした。
やがてこの広間に祝宴のため人々が大勢入ってきます。
その時、ミーナの従兄弟エンリーコが鍵をかけた例の本に触れるので、ブリアーノは、
「先ほどの男はエンリーコだ、エンリーコがこそこそミーナに言い寄っている!」
と勘違いしてしまいます。
そしてブリアーノは広間に来たアロルドに、耳打ちします。
「あの本に、あなたの名誉を汚すものが入っています。」
「何!誰の仕業だ?」
「あいつです」
と、ブリアーノはエンリーコを指さすので、アロルドは怒ります。
アロルドは、客人たち全員の前で、その鍵のかかった本を手に取り、ミーナに鍵を開けるよう命じます。
ミーナが開けようとしないので、アロルドは自ら鍵を壊すと、中から手紙が出てきます。
すると、瞬時にエグベルトがその手紙を拾います。
アロルドは「それを渡してください!」
と言いますが、エグベルトは拒絶。
「老いた父の行動をご理解ください!」
とアロルドに頼み込むミーナ。
エグベルトは娘の不倫相手がゴドヴィーノだと知っていたので、そこにいたゴドヴィーノに陰で決闘を申し込みます。
一同の感情が歌われて、第1幕が終わります。
<第2幕>
ミーナが、亡くなった母のお墓の前で、必死に祈ってアリアを歌います。
そこへ当の不倫相手ゴドヴィーノが現れます。

ミーナは、
「その指輪を返して、ここから立ち去って!」
と言います。
ゴドヴィーノに指輪を渡してしまっていたのですね。
ゴドヴィーノは「あなたを愛しているんです!」と言って聞き入れません。
そこに、エグベルト父さん登場。
怒りに震えるエグベルトは、ミーナに立ち去るよう命じ、ゴドヴィーノへ改めて決闘を挑みます。
初めは躊躇するゴドヴィーノでしたが、エグベルトから執拗に侮辱の言葉を浴びせられ、ついに堪忍袋の緒が切れ、決闘が始まります。
騒ぎを聞きつけてアロルドがやって来ます。
「なんて騒ぎだ!ここは神聖な場所ですよ!」
と、決闘する二人を止めます。
しかし、エグベルトの言葉と態度で、妻ミーナの不倫相手はどうやらこのゴドヴィーノらしいとわかり、今度はアロルドが怒りを爆発させてしまいます。
ミーナが戻ってきますが、彼女の態度からも、不倫確定、今度はアロルドがゴドヴィーノに決闘を挑みます。
ゴドヴィーノもアロルドが憎いわけではないので、「いや、それだけはダメです!」と、拒否します。
そこに、近くの教会から讃美歌の声が聞こえてきます。
はっ!!と息をのむアロルド。
やってきた修道士ブリアーノに落ち着くよう諭され、アロルドは苦悩のあまり、その場で気を失ってしまうのでした。
こうして第2幕が終了します。
<第3幕>
城の中にあるエグベルトの部屋
エグベルトが、娘が自分の一族にもたらした不名誉を恥じています。

エグベルトは、自分の指輪に仕込んだ毒を飲んで自殺しようと考えています。
「娘は、昔は純粋な天使だったのに!」
と嘆いてアリアを歌います。
指輪の毒を飲もうかというその時、修道士ブリアーノが来て、
「逃亡していたゴドヴィーノがまたこの城へ戻って来るらしい」と告げます。
エグベルトは再び怒りが湧いてきて、「自分が始末をつけてやる!」といきり立って部屋を出て行きます。
入れ替わりに、アロルドが入ってきて、やがてゴドヴィーノもやって来ます。
アロルドがゴドヴィーノを呼び出したのでした。
アロルドはゴドヴィーノに
「もしミーナを自由にするとしたら、あなたはどうしますか?」
と問いかけます。アロルドは自ら身を引こうというのです。
返事をためらうゴドヴィーノ。
アロルドはゴドヴィーノを隣の部屋にいるよう促し、ミーナを呼び出します。
やってきたミーナにアロルドは、離縁を言い渡し書類にサインをするよう求めます。
驚き、悲しむミーナ。
泣きながら離婚届にサインしたうえで、アロルドに訴えかけます。
「あなたのことを今でも心底愛しています!神様がそれをご存知です!ゴドヴィーノには無理矢理迫られたのです!」
アロルドはミーナがまだ自分を愛していることに驚きと戸惑いを隠せません。
そして、ゴドヴィーノを問い詰めようとしますが、その時部屋からはエグベルトの姿が。
「もう奴はこの世にいない」
エグベルトは既にゴドヴィーノを殺害してしまったのでした。
そこへ修道士ブリアーノが現れ、アロルドを慰めようと、彼を教会へと連れて行きます。
ミーナはその場で気を失ってしまいました。
ここで第3幕が終わります。
<第4幕>
場所がイングランドから変わって、スコットランドの森の中です。

村人や猟師たちの合唱が聞こえます。
暗くなりがちなこの作品の中で、やけに明るく心が和む1曲です。
そこにある小屋に、アロルドとブリアーノの姿があります。
2人はここで、隠者、世捨て人のようになって日々を過ごしていました。
その夜、嵐が起こり、岸に船が打ちあがり、救助されたのは、エグベルトとミーナでした。
エグベルトは殺人の、ミーナは不倫の罪を抱えて懺悔しながら、故郷を離れて放浪の旅に出ていたのです。
2人は救助されて、村人に
「そこの小屋に世話になるといい」と勧められます。
小屋の扉をエグベルトが叩くと、そこから出てきたのはなんとアロルド!
驚く一同。
ミーナは、「死ぬ前にどうか、私の罪をお許しください!」
とアロルドに懇願します。
アロルドはまだ怒りと苦しみから逃れられないでいます。
ですが、ミーナとエグベルト、父と娘の必死の懇願と、ブリアーノの
「聖書にあるでしょう、”罪なき者からまず石を投げよ”と」
という言葉を聞いて、神から啓示を受けたようにアロルドの怒りはとけていきます。
アロルドはミーナを許し、二人は固く抱き合い、村人たちが彼らを祝福して、オペラ全体の幕が下ります。
いかがでしたでしょうか?
「スティッフェーリオ」と似た部分がほとんどですが、設定が変更されたほか、最後の場面などは、嵐の表現もされて、音楽的にもドラマ的にも派手さがあり、楽しめること請け合いです。
なかなかマニアックと言わざるを得ない作品ではありますが、イタリアオペラが好きな方にはぜひともお勧めしたい1作です。
観て聴いて、決して損はありません。
ぜひ、「アロルド」検索などして、触れてみてください。
ありがとうございました。
髙梨英次郎でした。
参考文献(敬称略)
小畑恒夫「ヴェルディ 人と作品シリーズ」「ヴェルディのプリマ・ドンナたち」
ジュゼッペ・タロッツィ「評伝 ヴェルディ」小畑恒夫・訳
永竹由幸「ヴェルディのオペラ」
髙崎保男「ヴェルディ 全オペラ解説」


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