オペラ全曲解説、あらすじ編の文字起こしです。
聴きながら読むと分かりやすい!音声はこちら↓
こんにちは!テノール歌手の髙梨英次郎です。
本日もオペラをざっくり解説して参ります。
オペラって面白いですよ!
今回は、モーツァルト作曲オペラ「Don Giovanni ドン・ジョヴァンニ」の内容とストーリーについてお話しいたします。
後世の人々から“オペラの中のオペラ”とも称えられたこの作品、どうぞ最後までお楽しみください。
それでは参ります。
「ドン・ジョヴァンニ」
全2幕
登場人物
ドン・ジョヴァンニ:スペインの騎士
レポレッロ:ドン・ジョヴァンニの従者
ドン・オッターヴィオ:騎士、ドン・ジョヴァンニの同僚
ドンナ・アンナ:オッターヴィオの婚約者
騎士長:アンナの父親
ドンナ・エルヴィーラ:婚約していた自分の元から逃げたドン・ジョヴァンニを追う貴族の女性
マゼット:村に住む平民の男
ツェルリーナ:村娘、マゼットの婚約者
まずは序曲が演奏されます。
「フィガロの結婚」( ① https://tenore.onesize.jp/archives/133 ② https://tenore.onesize.jp/archives/134 ) までのオペラしか知らない状態でこの序曲を、最初の10数秒間だけでも聴いたら、度肝を抜かれるのではないでしょうか。
物語のクライマックス、”ドン・ジョヴァンニの地獄落ち”場面からの音楽を、序曲のど頭で提示しているのですが、その音楽はただ事ではありません。
2度のオーケストラによる叫びの後には、この世ならぬ者たちが地を這ってくるような音楽。
神の怒りや運命の無情さを表したかのような音表現がひと段落するとテンポアップして、いかにもモーツァルトといった軽快な音楽となります。
そして明確なエンディングがないまま、第1幕へとなだれ込んでいきます。
<第1幕>
スペインのとある街、夜の庭園。
ドン・ジョヴァンニの従者であるレポレッロがぶつぶつと文句を言うところから物語は始まり、導入曲♪として演奏されます。
主人のドン・ジョヴァンニはこの近くの邸宅にいる女性のもとに忍び寄っている最中。
従者のレポレッロはここで見張りをさせられ、待たされているのです。
誰かがやってくる気配がするのでレポレッロは身を隠すと、とある女性が助けを呼ぶ叫び声を上げながら、男の腕をつかんでいます。
その女性は、ドンナ・アンナ。
腕を掴まれているのは、当のご主人ドン・ジョヴァンニ!
この時に何があったのかは、後でアンナの口から語られますが、とにかくここでは大騒ぎが起きています。
やがてアンナは家の中に逃げ込み、騒ぎを聞きつけたアンナの父親である騎士長が駆け込んできます。
ドン・ジョヴァンニも騎士の一人ですのでお互い面識があるはずですが、夜の闇とジョヴァンニの変装で、騎士長は相手が誰だかわかっていません。
騎士長は激怒し、2人は決闘となります。
しかし騎士長は年老いていることもあり、決闘はすぐに決着がつきます。
ドン・ジョヴァンニの一撃が騎士長には致命傷となり、騎士長は息絶えてしまいました。
オペラ「ドン・ジョヴァンニ」は喜劇のルールに則って作曲されているのですが、もうここで普通の喜劇とは違っています。
通常、喜劇で人が命を落とすことはないのですが、このオペラでは開始数分でサスペンス的な事件が起きてしまいました。
「レポレッロ、いるのか!?」
「いますよ、残念ながら。
誰が死んだんですか?ご老人?それともご主人様?」
「バカか、老人の方に決まってるだろ!」
ドン・ジョヴァンニとレポレッロはそっと、その場を逃げ去ります。
そこへアンナが婚約者のドン・オッターヴィオと何人かの召使いたちを連れて戻ってきます。
しかし、そこにあるのは父親の遺体でした…。
「お父様!!あぁ…!」
ショックを受けて気を失うアンナ。
オッターヴィオは騎士長の遺体を召使いたちに運ばせて、アンナを必死に介抱します。
目を覚ましたアンナは、オッターヴィオに父親の復讐を遂げることを誓わせます。
「誓いましょう!私たちの愛にかけて!」
オッターヴィオとしても、上司であり義理の父となる予定だった騎士長の仇を取ることに、一も二もなく同意します。
2人のドラマティックな二重唱♪が演奏されます。
場面が変わって、街の路上。
ドン・ジョヴァンニとレポレッロがここまで逃げてきました。
ジョヴァンニには罪の意識など欠片もなく、もう次の標的である女性のことを考えています。
ですが突然、
「静かに!女のにおいがするぞ。」
さすがのドン・ジョヴァンニ、凄い嗅覚です。
そこには本当に、ヴェールをかぶった女性が1人やってきました。
ドン・ジョヴァンニは声をかけようと近づいていきます。
その女性は、ドンナ・エルヴィーラ。
彼女は最近、愛していた男性に裏切られたようで、
「見つけたら、ただではおかないわ!」
と、アリア♪を歌います。
その歌を聴いていたドン・ジョヴァンニは
「そうかそうか、可哀そうに。俺が慰めてやろう」
レポレッロはその後ろで呟きます。
「こうやってご主人は1800人慰めてきたんだよなぁ」
しかし!
近づいたジョヴァンニとエルヴィーラが互いの顔を認識した途端、びっくり仰天!
エルヴィーラを捨てて姿を消したのは、何を隠そうドン・ジョヴァンニその人!
「とうとう見つけたわ、この大ウソつき!
あなた私を妻にすると言っておきながら、3日後には姿を消したじゃないの!!」
焦るドン・ジョヴァンニ。
「いやぁ、、これにはわけがあってだね、、、おいレポレッロお前から説明してやりなさい。」
「え、わたしが!?いやぁ、その…。」
「あなたが何を話すって言うのよ!」
エルヴィーラがレポレッロの方を向いているその隙に、ドン・ジョヴァンニは素早くその場を逃げ出します。
「だいたいあなたは…、はっ、いない!!また逃げられたわ!!」
パニックになるエルヴィーラをレポレッロは皮肉交じりに慰めます。
そしてレポレッロによって、バス・バリトンの重要なレパートリーである、いわゆる”カタログの歌”と呼ばれるアリア♪が歌われます。
レポレッロは懐からノートというか本、メモ帳のようなものを取り出します。
「お嬢さん、こちらご主人の愛の遍歴をまとめたカタログです。
イタリアで640人、ドイツで231人、フランスで100人、トルコで91人、(ジョヴァンニの母国)スペインではなんと1003人。
田舎の娘も都会の娘もいる、身分の上下も問わない、
あらゆる年齢、髪の色のご婦人方がいました。
まぁいちばん熱を上げるのは初々しい若い子ですがね。
美人でもそこそこでもお構いなし。
女性の服さえ来ていれば、あの方が何をするか、おわかりですね!」
歌い終わるとレポレッロは去っていきます。
怒りが収まらないどころか、火に油を注がれたエルヴィーラは、ドン・ジョヴァンニを再び探しに行きます。
場面変わって夜から午前くらいの時間になり、とても楽し気な音楽が聴こえてきます。
村に住む若者マゼットとその恋人ツェルリーナが結婚式を挙げようとしています。
彼らと友人たちが賑やかに歌っています。
その集いにドン・ジョヴァンニとレポレッロが近づいていきます。
ドン・ジョヴァンニは、今日これから結婚式を挙げようというツェルリーナに早速目をつけています。
「ほう、君たちは今日結婚式を挙げるのか、そいつはいいね!
君の名前は?」
「ツェルリーナです」
「あー、で、君は?」
「マゼットです」
「ではみんなを私の屋敷に招待しよう!パーッとやろうじゃないか!
レポレッロ、マゼット君たちを連れて行って時を過ごすよう計らいなさい。
…わかってるな?」
「わかっております、ご主人様。」
つまり、その間にジョヴァンニはツェルリーナを口説こうというわけですね。
ツェルリーナは、ジョヴァンニのカッコよさに魅かれたのか、身分の高い騎士とお話しできてラッキーと思ったのか、
「マゼット、私なら大丈夫だからみんなと行ってきて」
なんて言います。
マゼットは不機嫌になり、レポレッロに連れていかれるのを拒絶しようとしますが、ジョヴァンニに剣をチラつかされ、
「皆と一緒に行かないと、後悔することになるぞ」
と、なかば脅されるのでマゼットは
「わかりましたよ。行きますよ!行きゃいいんでしょ!
(ツェルリーナに)この小悪魔!ずるい女め!
勝手にしろ!」
と悪態をつくアリア♪を歌って、レポレッロたちと去っていきます。
さてまんまと二人きりになった途端、ジョヴァンニはツェルリーナを口説き始めます。
「あんな粗野な男は放っておいて、貴族であるこの私と結婚しようじゃないか」
そして、恐らくこのオペラで最も有名な音楽、”La ci darem la mano あちらで手を取り合って”という二重唱♪を歌います。
ジョヴァンニのなんとも甘く優美な誘惑のメロディに、ツェルリーナは最初戸惑うものの、曲の後半にはすっかりその気になってしまい、
あわや二人で去っていこうと…したその時、ドンナ・エルヴィーラが立ちはだかります!
「待ちなさい!この悪党!あなた、こんな男に騙されちゃダメよ!!」
これを聞いてツェルリーナもジョヴァンニの元から離れます。
ジョヴァンニはエルヴィーラをなだめようとしますが、もちろんうまくいきません。
仕方なくツェルリーナに対してジョヴァンニが弁解しようとしたところ、エルヴィーラが決然とした態度でアリア♪を歌います。
「離れなさい!裏切者!
嘘ばっかりの口と、偽りの目!
私の苦しみから学ぶのよ!」
と、ツェルリーナを引っ張ってエルヴィーラはその場を去ります。
「どうも今日は、悪魔が邪魔してるみたいにうまくいかないなぁ…。」
ドン・ジョヴァンニがぼやいていると、そこにドン・オッターヴィオとドンナ・アンナが近づいてきます!
同じ騎士としてドン・ジョヴァンニと顔見知りで、友好関係さえ築いていたオッターヴィオは、アンナと共にジョヴァンニと挨拶を交わします。
騎士長を亡き者にしたのがドン・ジョヴァンニだとは、夜の闇でのことでしたのでオッターヴィオもアンナも気づいていません。
オッターヴィオはむしろ、ジョヴァンニに対して高潔な騎士という印象を抱いている節すらあります。
しかしそこに、再びドンナ・エルヴィーラが登場!
「この悪人を信用してはいけません!!」
焦るドン・ジョヴァンニは、エルヴィーラをちょっと心を病んでしまった人、として誤魔化そうとします。
しかしエルヴィーラの毅然とした態度を見て、オッターヴィオとアンナはジョヴァンニに対して疑念を持ち始めます。
4人それぞれの気持ちが徐々に動いていくさまを表した四重唱♪となります。
エルヴィーラは言うだけ言うと、そこから去っていきます。
ドン・ジョヴァンニは、オッターヴィオとアンナに言います。
「彼女の後を追わなくては。
失礼いたします、お美しいドンナ・アンナ。
よろしければ私の邸宅にいらしてください。ではさらば!」
ジョヴァンニが去ると、アンナの顔色が突然変わり、青ざめていきます。
「オッターヴィオ、私死んでしまいそう!」
「どうしたのです!?」
「あの男の最後に発した声、彼こそが、私の父を殺した犯人です!!」
「何ですって!?」
そしてアンナはあの夜、ドン・ジョヴァンニに寝室へ忍び込まれたときのことを話しだします。
「マントを着て寝室に入ってきた男を、最初はあなただと思ってしまったのです。
その男は静かに私の方へ近づき、私を抱きしめようとしました。
私は叫び声を上げましたが誰も来ず、その口は男の手でふさがれ、もう駄目だと思いました。
でも、もがいて身をよじり、なんとか逃れたのです。」
「それならよかった」
そしてアンナは、オッターヴィオに改めて復讐を誓うよう、決然と訴えかけるアリア♪を歌います。
…しかしアンナは、本当にドン・ジョヴァンニの誘惑から逃れることが出来たのでしょうか?
このことは、初演後しばらくして、19世紀あたりから盛んに論争の種となりました。
アンナは、つまり…純潔を保つことが出来たのか。
アンナがオッターヴィオに説明したことを文字通り受け取るならピュアなままなのですが、ここでのモーツァルトの音楽を聴くと、どうもそう単純な話でもなさそうに思えてしまいます。
ジョヴァンニへの愛情が芽生えてしまっているのではないか、それをオッターヴィオの前で誤魔化しているのではないか…。
とはいえ本当の所は、台本では語られませんし、その時々の歌手、演出家たちの解釈や表現によって、そしてそれを聴衆観衆ひとりひとりがどう受け取るか、によって変わってきます。
解釈の幅が広い、ということは名作につきものではないでしょうか。
アリアを歌ってアンナが去ると、オッターヴィオは1人考え込みます。
「騎士ともあろう者がこんな罪を犯すなんて!」
そしてオッターヴィオもここでアリア♪を歌います。
「私の心の安らぎは、彼女が安らいでいるかどうかにかかっている。
彼女が好ましい気持ちでいれば私は生きていられる、
彼女を悲しませるものが、私を死に至らしめるのだ」
このアリアはプラハでの初演の時にはなく、ウィーン上演の時に書かれたものです。
初演時には無かったからとカットされることもあるのですが、私はテノール歌手ですのでこのアリアにも愛着があり、ぜひ演奏してもらいたいところです。
第2幕にあるオッターヴィオのアリアは、そこにいる何名かに向けて歌われるものですが、この歌は完全に1人でオッターヴィオの心情が歌われるアリアです。
そこには嘘や気取りはなく、ひたむきなオッターヴィオの心根が音楽的にも描かれているので、皆さんぜひお聴きください。
場面が変わり、ドン・ジョヴァンニとレポレッロが再会します。
レポレッロはマゼットたちをジョヴァンニの館に連れてきて、そこにはツェルリーナも合流し、酒を飲んでいるとのこと。
そこにエルヴィーラもやって来てさんざん文句を言っていたが、レポレッロがうまく館から追い払うことに成功した、とのことです。
それを聞いて上機嫌になったドン・ジョヴァンニは、いわゆる”シャンパンの歌”として知られるアリア♪を歌います。
2分弱で終わる、異常にハイテンションな音楽とともに、
「ワインで頭がおかしくなるぐらい、派手にパーティするぞ!
皆に酒を飲ませてダンスを躍らせろ!
その間に俺は女たちと楽しく恋をするのだ!!はっはっは!!」
ドン・ジョヴァンニとレポレッロは館に向かいます。
その館の中では。
マゼットがプンプン怒っているのを、ツェルリーナがなだめようとしています。
「ちょっと聞いてよマゼット!」
「うるさい!俺に触るな!!」
マゼットの気持ちもわからないではありません。
結婚式当日に、婚約者が自分より身分の高い男と二人きりになろうとしていたわけですから。
ツェルリーナは
「あの人には騙されていた」と弁解し、
「ぶって、叩いて、マゼット」と、素朴なアリア♪を歌います。
ツェルリーナもなかなかの小悪魔ちゃんかもしれません、こんな歌を歌われたらどんなに怒っていても許してしまいそうです。
マゼットも機嫌が直りかけた…その時、遠くからドン・ジョヴァンニの声がするのでツェルリーナは動揺します。
それを見たマゼットは、ツェルリーナがジョヴァンニとの仲がバレるのを恐れていると勘違いしたマゼットは再び逆上。
そしてここからノンストップの音楽が続く、第1幕フィナーレ♪となっていきます。
マゼットは物陰に隠れて様子を見ることにします。
そこへ館に到着したドン・ジョヴァンニが、
「みんな、楽しくやろうじゃないか!!」
招待された民衆たちを盛り上げます。
ツェルリーナを見つけたドン・ジョヴァンニは、またもや口説き落としにかかりますが、ほどなく物陰からマゼットが登場。
「おやマゼット、いたのか」
「いましたとも」
「ツェルリーナはお前無しではいられんのだ。」
「分かってますよ。」
「ほれ、一緒にあっちへ踊りに行こう!」
3人は館の奥へと入っていきます。
そこにマントと仮面をつけた3名が現れます。
それはドン・オッターヴィオとドンナ・アンナ、そしてドンナ・エルヴィーラ。
彼らは合流し、共にドン・ジョヴァンニを追い詰めようということで結託したようです。
不安を抱えるアンナを励ますエルヴィーラとオッターヴィオ。
その3人をレポレッロが見つけて、ドン・ジョヴァンニに報告します。
そして3名も宴に招待され、館の内部へと入っていくことになります。
天上の正義の神へ祈りを捧げる三重唱をしばし歌います。
この3人、アンナ、エルヴィーラ、オッターヴィオは貴族として描かれている登場人物ですので、その音楽も整ったものとなっています。
そして音楽が急激にテンポアップ!
パーティー本番!といったところです。
パーティーのホスト、ドン・ジョヴァンニがレポレッロと共に威勢よく盛り上げています。
まだドン・ジョヴァンニはツェルリーナを諦めていないようです。
ツェルリーナに目を光らせているマゼット。
「(何とかマゼットの目を盗むことはできないものか…。)」
ドン・ジョヴァンニが考えを巡らしているところへ、変装したアンナ、エルヴィーラ、オッターヴィオの3名がパーティーに合流します。
ドン・ジョヴァンニ以外は民衆たちでワイワイやっていたところへ、急に仮面とマントをつけた貴族と思しき3名が仰々しく入ってくるので、微妙な空気が流れそうになるのですが、ドン・ジョヴァンニが
「どなたでも歓迎しますよ、自由よ、バンザイ!」
と宣言するのでみなが
「自由バンザイ!」と唱和します。
このオペラが初演されたのは1787年。この2年後にはフランスでバスティーユ監獄が襲撃されてフランス革命が始まります。
モーツァルトやダ・ポンテに、そうした革命を煽るような意図はなかったと思われますが、「自由バンザイ!」と歌わせる個所は、何となく革命前夜のような雰囲気が感じられる音楽ではあるように感じます。
ドン・ジョヴァンニの合図で、優雅な踊りの音楽が始まります。
皆が踊り出している隙に、ドン・ジョヴァンニはレポレッロに
「マゼットを引き付けておけ」
と指示します。
そしてその間にツェルリーナを連れだすことに成功するドン・ジョヴァンニ。
レポレッロは、ツェルリーナがいなくなったことで騒ぎになるだろうからと、ドン・ジョヴァンニの方へ様子を見に行きます。
貴族たち3名は、何となく踊りながらもドン・ジョヴァンニたちの様子を遠くから見ていました。
マゼットはまだ、その場からツェルリーナがいなくなったことに気づいていません。
ほどなくして、遠くからツェルリーナの叫び声が聞こえてきます。
「助けて―ーっ!!騙されたわー-!!」
パーティー会場は大騒ぎに!
そこへ逃げてきたツェルリーナが駆け込んできて、続いて現れたのはドン・ジョヴァンニ、ですが、レポレッロを引き倒して剣を向けています。
「こいつがツェルリーナを襲った犯人だ!死ね!!」
「何するんですかご主人さま!!??」
物凄い誤魔化し方です。自分の行為を棚に上げまくって、従者レポレッロに罪を着せようとしています。
しかし、オッターヴィオが銃を向けてそれを制止します。
「やめなさい!!そのような誤魔化しは通用しませんよ!!」
そして仮面を脱ぐ3名。
「エルヴィーラに、ドン・オッターヴィオか!」
とうとう追い詰められたドン・ジョヴァンニ。
音楽は壮大なフィナーレとなります。
隙を見てドン・ジョヴァンニはレポレッロと逃げ出して、第1幕が終了します。
<第2幕>
路上で。陽が沈んだ頃。
いきなり音楽が始まり、レポレッロがかんかんに怒っています。
そりゃそうですよね、ついさきほど、第1幕フィナーレでレポレッロは自分が仕えている主人に、公衆の面前で殺されそうになったのですから。
「バカだな、あれは冗談だって!」
「冗談じゃないっすよ、辞めさせていただきます!!」
ドン・ジョヴァンニとレポレッロの言い合いが小さくコミカルな二重唱♪として歌われます。
「まぁ仲直りしようじゃないか、ほれ、受け取れ」
ジョヴァンニはレポレッロに、まぁまぁの額の金貨を渡します。
「これは…、受け取りますけど、いつも私が金で何でも許すと思わないでくださいよ」
「わかったわかった」
「しかし旦那、もう女のことはやめにしたらどうです?」
「お前、頭がおかしくなったのか?俺にとって女とは、空気以上に大切なものなのだ!」
…さすがです。
2人がいる路上の近くには、ドンナ・エルヴィーラが滞在する宿がありました。
ドン・ジョヴァンニは、エルヴィーラの侍女、召使いの女性に目をつけています。
この召使いの女性はオペラには登場しません。
「ああいった身分の女性は、貴族の男を見ると警戒してしまう」
と思ったドン・ジョヴァンニは、レポレッロに衣服を自分のと交換するよう指示します。
以前解説したヴェルディのオペラ「リゴレット」でも、公爵が自分の身分を学生だと偽ってジルダを口説く描写があります。→https://tenore.onesize.jp/archives/102
宿のバルコニーにエルヴィーラが姿を現します。
エルヴィーラはあれだけ罪を重ねた裏切者ドン・ジョヴァンニが、いまだ心から離れないでいる様子。
レポレッロの服を着たドン・ジョヴァンニは、ドン・ジョヴァンニの服を着たレポレッロの後ろにさっと隠れて、レポレッロに
「そこに立っていろ」
と命じます。
そしてレポレッロの後ろから、エルヴィーラを優しく口説く歌を歌い出します。
エルヴィーラが窓辺から下を見ると、急にドン・ジョヴァンニが優しく自分に向けて歌っているように見えます。
すっかり騙されるエルヴィーラ。
最初戸惑うものの、エルヴィーラが騙されているのを見て笑いをこらえるレポレッロ。
彼らの三重唱♪となります。
エルヴィーラが下へ降りてこようとしています。
その間にドン・ジョヴァンニはレポレッロに、
「俺の代わりに、俺の振りをして彼女の相手をしておけ」
と、指示して、物陰に隠れます。
外に出てきたエルヴィーラ。
彼女はもうすっかり目の前にいる男をドン・ジョヴァンニと信じ込んで、レポレッロに抱きついてしまいます。
「フィガロの結婚」第4幕でも衣装の交換によって混乱が起きますが、この時代の夜の闇では、顔で人を識別することはできません。
着ている服の感じでみな判断しているので、こういった人違いが良く起きてしまうのですね。
美しいエルヴィーラに抱きしめられて悪い気はしないレポレッロ。
すると、様子を陰から見ていたドン・ジョヴァンニが叫びます。
「やいこらー、ぶっ飛ばしてやるぞー!!」
驚いたエルヴィーラとレポレッロはそのまま2人でどこかへ逃げていきます。
これでよし、と、ドン・ジョヴァンニはエルヴィーラの侍女を窓の下から口説くことを始めます。
そしてその場で、マンドリンによる伴奏が印象的な美しいセレナード♪を歌います。
そこへ誰かがやってくる気配がします。
マゼットが、仲間を連れてドン・ジョヴァンニを捕まえようとしているようです。
そこでちょうど良くレポレッロの服を着ているドン・ジョヴァンニは、マゼットたちに近づきます。
「誰だ!?」
「私ですよ、ドン・ジョヴァンニの召使いです」
「レポレッロか!」
「私もあのごろつき主人を懲らしめてやりたいんです」
そしてドン・ジョヴァンニは、彼の抜け目の無さを表すアリア♪を歌います。
「君たちの半分はあっちへ、もう半分は反対側のあっちへ探しに行くんだ。
マゼットは俺とここに残って様子を見よう」
まんまと、敵の数を減らすことに成功したドン・ジョヴァンニ。
残ったマゼットにジョヴァンニが話しかけます。
「で、みんなでドン・ジョヴァンニ様を殺すのかい?」
「もちろんだ」
「どんな武器で殺るんだい?」
「このライフルとピストルさ」←ここでマゼットは、レポレッロに扮するドン・ジョヴァンニにその銃を渡してしまいます!
その瞬間、ジョヴァンニは剣でみね打ち、もしくは受け取った銃でマゼットをボコボコに殴り倒します。
うかつにマゼットを殺してしまうとまた罪を重ねることになるので、そこは冷静なドン・ジョヴァンニです。
ドン・ジョヴァンニはそこから悠然と去っていきます。
「あああ、いてえ、いてえよぅ。。。」
マゼットが苦しんでいると、そこにランプを持ったツェルリーナがやって来ます。
「マゼット、どうしたの!?」
「あいつにやられたんだ、レポレッロに!」
レポレッロにあらぬ濡れ衣が着せられてしまいました。
「もう、焼きもちやきすぎなんだから!
…どこが痛いの?」
「こことか…、あと、こことか…。」
威勢の良かったマゼットもすっかり弱気になっています。
そこでツェルリーナが
「見てて、いちばんいい薬をあげるから。
それがどこにあるかって?ここよ♡」
と、マゼットの手を自分の胸に押し当てます。
いや、これだけ書くと(言うと)なんだそりゃ?ってなると思いますが、これがモーツァルトによる天使のような歌と音楽によって、まさしくツェルリーナも天使のような魅力を発揮することになるアリア♪となっています。
実際、大切に思う人と触れ合うことで、オキシトシンとか色々いい物質が出ることは科学的にも証明されていることですからね。
2人はそのまま去っていきます。
場面が変わって、ドンナ・アンナの邸宅近く。
ドンナ・エルヴィーラと、ドン・ジョヴァンニの服を着たレポレッロがここに逃げ込んで来ます。
エルヴィーラはまだドン・ジョヴァンニと一緒にいると信じたまま。
レポレッロはいいかげんエルヴィーラから逃げ出したいのですが、なかなかタイミングが計れないでいます。
レポレッロが逃げようとした門から、人が出てくるのでレポレッロは慌ててそこから離れます。
そこから出てきたのは、ドンナ・アンナとドン・オッターヴィオ。
父親を失った悲しみが再び押し寄せて涙にくれるアンナをオッターヴィオが慰めています。
レポレッロはその二人に見つからないようにそっと移動し、エルヴィーラもレポレッロについていきます。
すると!そこにマゼットとツェルリーナが通りかかるので、レポレッロは見つかり、捕まってしまいます!
「ついに見つけたぞ悪党!!」
それを聞きつけたアンナとオッターヴィオもそこにやって来て、ドン・ジョヴァンニをとうとう捕まえたと皆思い、口々に責め立てます。
すると、エルヴィーラは他の4人に対して、
「私の夫を許してあげてください!!」
と、必死に命乞いを始めます。
エルヴィーラがここにいることに、そしてドン・ジョヴァンニを庇っていることに驚く4名。
しかし、「いや、こいつは死ぬべきだ!!」
と意見がまとまりそうになるので、たまらずレポレッロはその衣装を脱ぎ捨てます。
「お許しください、みなさん、、この方(エルヴィーラ)がお間違えになっているんです。。」
「こいつは…、レポレッロ!!」
皆驚き、エルヴィーラはそれはもう大変なショックです。
ドラマが進行しながら、それに見事な音楽が付随した六重唱♪でした。
台本上ではここでドンナ・アンナは門の中へ退場していきます。
皆が今度はレポレッロへ口々に問いただします。
それに対する返答として、レポレッロが言い訳をするアリア♪を歌います。
「わたしのご主人様に無理矢理、衣装を替えるよう命令されたのです。。
(エルヴィーラに)もうほんとすみませんでした!
(ツェルリーナに)マゼットのことは何にも知りません、この方(エルヴィーラ)が証人です!
(オッターヴィオに)特に申し上げることはありません…。」
ぶつぶつ釈明をしながら、後ずさりして、隙を見てレポレッロはそこから逃げることに成功します。
ドン・オッターヴィオが残った面々に訴えかけます。
「皆さん、これでドン・ジョヴァンニはドンナ・アンナの父親を殺した犯人であると確定しました。
私の大切な人を慰めてあげてください。
あの人に告げてください、私は復讐に出かけてくると!」
テノールのレパートリーとしても名高いアリア♪が歌われます。
ウィーンで上演されたバージョンでは、レポレッロの釈明アリアと、オッターヴィオのアリアが削除されて、代わりに
・ツェルリーナがレポレッロを椅子に縛り付けるコミカルな二重唱♪
・エルヴィーラが苦悩を歌うアリア♪
が演奏されます。
二重唱の方はめったにやられませんが、エルヴィーラのアリアは音楽的にも素晴らしいので演奏されることが多くなっています。
ともするとコミカルでイタい女性という印象になりかねないエルヴィーラですが、このアリアでは彼女の気高い心が表現されています。
あのドン・ジョヴァンニが3日間とはいえ妻にした女性ですから、魅力がないわけはありませんね。
さてまんまと逃げおおせたドン・ジョヴァンニ。
そこには、こちらも何とか逃げてこられたレポレッロもいました。
再び主人のせいで殺されそうになったので、レポレッロは怒っています。
ドン・ジョヴァンニは、逃げてくる道すがら、自分のことをレポレッロと勘違いした女性、と楽しく過ごしてきたようです。
が、レポレッロによるとその女性は、レポレッロの妻、だということです。
それを聞いてドン・ジョヴァンニが高笑いしたその時、、!
「夜明け前にはお前の笑いもおさまるだろう!」
と、どこからともなく声が聞こえてきます…。
…。
「今誰が喋ったか」「…ぼ、亡霊では…!」「バカ言え!!」
2人が合流したところには、1つの石像が建っていました。
それはなんと、ジョヴァンニが亡き者にした騎士長の石像でした。
このオペラは喜劇の法則に則って台本が書かれていますので(物語は1日のうちに起きたことが描かれる)、本来、亡くなってから半日ほどで石像が建つというのもおかしなところなのですが、もしかしたらそのこと自体、超常現象的な何か、を表しているのかもしれません。
ドン・ジョヴァンニはレポレッロに、石像の下に書かれている碑文を読ませます。
「私を地獄の河へ導いた邪悪な男への復讐のため、ここで待つ」
それを読んで震えあがるレポレッロ。
ドン・ジョヴァンニも動揺しつつも、強気を保ちレポレッロに
「我が邸宅での晩さん会に招待する、と言え!」
と命じます。
嫌々ながら命じられた通り石像に向かって話しかけるレポレッロ。
すると石像が何と頭を縦に動かし、うなづきました!
さらにドン・ジョヴァンニが石像に話しかけると、はっきり
「行く!!」
と返事が。
物語がクライマックスへ動き出していることを示す、二重唱+アルファ♪でした。
場面が変わって、復讐に出かけたはずのドン・オッターヴィオがドンナ・アンナに訴えかけています。
オッターヴィオはアンナとの結婚を早く形にしたくて、焦っているように見受けられます。
アンナがドン・ジョヴァンニの存在に心が捕らわれていることを、オッターヴィオは何となく察知しているのかもしれません。
そんなオッターヴィオをアンナは受け入れられずにいます。
そこでついオッターヴィオが口走ってしまいます。
「ひどい人だ!!」
それを受けて、アンナの壮大かつ技巧的なアリア♪が始まります。
「ひどい人ですって!!
…私はあなたを本当に愛しているのです。
そんなことをおっしゃらないで。」
ここにアリアがあるのは、プリマドンナがフィナーレ前の最後のアリアを歌う、という慣習に則っています。
場面はいよいよ、第2幕の、そしてオペラ全体のフィナーレとなります。
ドン・ジョヴァンニの館。
食卓の用意が整いつつあります。
ドン・ジョヴァンニが楽師たちに曲を演奏させ、1人で食事を始めます。
オペラ「ドン・ジョヴァンニ」が当時の現代劇として作られたことの根拠となるのがこの場面です。
というのもここで、楽師たちが演奏するのが当時ヒットしていたオペラからの1節だからです。
3曲目には、モーツァルト自身の「フィガロの結婚」から、フィガロの第1幕アリア”もう飛ぶまいぞこの蝶々”の1節が登場します。
「フィガロ」が大ヒットしていたプラハでの初演ということで、モーツァルトとダ・ポンテがサービスしたものと思われます。
そこへやってきたのは、ドンナ・エルヴィーラ。
あれだけドン・ジョヴァンニに騙され、侮辱されたにもかかわらず、まだジョヴァンニへの愛を捨てきれないエルヴィーラ。
彼女はジョヴァンニに自堕落な生活を改めるよう訴えかけます。
その真摯な訴えに
「もうこの人には泣かされるよ。。」と、思わずつぶやくレポレッロ。
しかしドン・ジョヴァンニは聞く耳を持ちません。
エルヴィーラの訴えをあざ笑い、
「何なら一緒に食事しないか?」
と誘いかけるのでエルヴィーラはほとほと呆れ果て、その場を去っていこうとします。
その時!!
何かを見つけたエルヴィーラの悲鳴が聞こえます!
「きゃあああああああ!!!!」
「何だ、何という悲鳴だ!レポレッロ、見てこい!!」
「うわあああああああ!!!!」
「何だ、どうしたというのだ!!?」
「旦那、外に出ちゃダメです!!石…の、人間…、石が、、、歩いて…
その足音と言ったら、、、だんだんだん!!って……」
「全くわからん!!気でも狂ったのか!!」
すると本当に扉を叩く重い音が響きます。
ドン・ジョヴァンニは命じます。
「扉を開けろ!!」
レポレッロが恐怖に震えるばかりなので、仕方なくドン・ジョヴァンニ自ら扉を開けに行きます。
物陰に隠れるレポレッロ。
そしてドン・ジョヴァンニが扉を開けるとそこから!!
序曲冒頭の恐ろしい音楽と共に、騎士長の石像が姿を現します!!
オペラ「ドン・ジョヴァンニ」の大クライマックス、”地獄落ち”場面の始まりです!
「ドン・ジョヴァンニ!!
貴様と夕食を共にするようわしを招いたな。
この通りやって来たぞ」
動揺するものの、ドン・ジョヴァンニは努めて冷静に、レポレッロへ食事を用意するよう命じます。
しかし、
「我々天上の者は、地上の物を口には入れぬ。
それよりもっと重大な望みを果たすため、この世に舞い戻ったのだ」
「望みとはなんだ、言ってみろ!」
「お前を我が方の晩餐に誘いたい」
つまり、あの世に一緒に来いと言っているわけですので、ドン・ジョヴァンニは死を目前にしていると言えます。
ドン・ジョヴァンニは誇り高い騎士であるので、誘いを受けて断るのは礼儀にもとる、とその誘いを受けてしまいます。
騎士たるもの、たとえ死が目の前に迫っていようと、堂々としていなくてはいけないのです。
レポレッロはジョヴァンニを止めようとしますが、ジョヴァンニは聞き入れません。
そしてジョヴァンニが握手をした石像騎士長の手が何と冷たいこと!
そして騎士長は問います。
「悔い改めるか?この最後の時、今までの生活をお前は改めるのか!?」
ここで「はい、悔い改めます。すみませんでした」
と心から言えば、死ななくて済むか、せめて天国に行ける可能性はあったかもしれません。
しかしドン・ジョヴァンニとは、そのような人物ではありません。
「いやだ!!!」
レポレッロも騎士長と一緒になって、せめて悔い改めると言ってください!!と懇願します。
しかしドン・ジョヴァンニは渾身の力で叫びます!!
「Noooooooooooo!!!!!!」
…事は決しました。
あちこちから炎が燃え上がり、煙が立ち込めてきます。
そして地の底から地獄の住人たちの声が聞こえてきます。
「お前の罪に比べれば、他の罪などチンケなもの。
来い、ここにはもっとひどい災いが待っているぞ」
そしてドン・ジョヴァンニは騎士長に手を引かれ、もしくは地獄の住人たちに引きずられ、恐ろしい叫び声と共に、そのまま永遠の苦しみが待つ地獄へと落ちていくのでした…。
炎や煙が収まったところに、ドンナ・アンナ、ドン・オッターヴィオ、ツェルリーナ、マゼット、ドンナ・エルヴィーラが駆け込んできます。
「あの悪党はどこにいった?」
残されたレポレッロが事の顛末を皆に話します。
ドン・ジョヴァンニが地獄へ落ちたと聞いて、それぞれがリアクションし、それぞれこれからどうしていくかを歌っていきます。
オッターヴィオはアンナに、改めて結婚を申し込むのですが、まだ気持ちの整理がつかないアンナは
「1年待ってください」
とオッターヴィオに頼みます。
仕方なくそれを受け入れるオッターヴィオ。
エルヴィーラは、修道院に入って、神様と共に生きる決意をします。
ツェルリーナとマゼットは、「早く家に帰ろう」と、平和な新婚生活に向けて歩み出します。
レポレッロは、宿屋にでも行って、新しいご主人を見つけよう、と歌います。
皆が一斉に歌います。
「これが悪人の最後だ。
ひどいことをした者たちの死は、
生きている時と同じようにひどいものだ!!」
こうしてオペラ「ドン・ジョヴァンニ」全体の幕が下ります。
いかがでしたでしょうか。
最後の場面はいかにも取ってつけたような印象を受けますが、喜劇の作法としてはこのようにめでたしめでたし、と終わるのが一般的でした。
しかしウィーン・バージョンの台本では、この最後のシーンはカットされていて、ドン・ジョヴァンニの地獄落ちで物語が終わるかのように書かれています。
本当にそのように上演されたかどうかの記録はないそうなのですが、モーツァルトがより斬新な作品にしようとしてそのように変更して上演した可能性があるわけです。
しかしそうなると、ウィーンでの上演がプラハでの初演ほどにはヒットしなかったわけが少しわかりそうです。
当時の聴衆達には恐らく、あまりにも斬新すぎて受け入れられにくかったのではないでしょうか。
ともあれこの「ドン・ジョヴァンニ」、前回も申し上げた通り、その後多くの作曲家、のみならず文学などにも影響を与え続け、今なお輝きを失わず上演され続けています。
「フィガロの結婚」同様、こちらのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」もぜひ、人生で一度は触れて味わっていただきたく思います。
ありがとうございました。
髙梨英次郎でした。
<参考文献>(敬称略)
松田 聡「モーツァルトのオペラ 全21作品の解説」
名作オペラブックス「ドン・ジョヴァンニ」
スタンダード・オペラ鑑賞ブック [3]「ドイツ・オペラ 上」
ヨアヒム・カイザー「モーツァルトオペラ人物事典」
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