オペラ解説配信の文字起こしです。
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こんにちは!テノール歌手の髙梨英次郎です。
本日もオペラをざっくり解説して参ります。
オペラって面白いですよ!
前作「マクベス」( https://tenore.onesize.jp/archives/93 ) まで10作、ざっくり解説を続けてきましたが、順番に流れを辿って振り返っていくことによって、より私自身の理解も深まっている気が致します。
インプットしたものをアウトプットすることで、さらに自分への、より濃密なインプットとして帰ってくるものですね。
この調子で、ヴェルディ先生のオペラを、とにかく最後まで続けていければと思います。
さて今回は、ヴェルディ11作目のオペラ「群盗 I Masnadieri」です。
ロンドンで初演されることになったこの作品。初めてのイタリア国外での新作発表です。
今ではあまり上演されませんが、ヴェルディのイタリアオペラの典型として、音楽的には他と全く引けを取らない、名作です。
まずは作曲の経緯についてお話します。
前作「マクベス」の初演前、ヴェルディは体調不良を癒すため温泉地で休息をとったのですが、その際、詩人で友達のマッフェイと温泉地で時間を共にしました。
マッフェイはヴェルディに、「マクベス」ともう一つ、シラー作「群盗」のオペラ化を薦めたとみられています。
この時期、ロンドンの国立歌劇場から依頼が来ていたので、シェイクスピアの国、英国ロンドンで「マクベス」を上演できれば本当は良かったのですが、、その時フィレンツェの劇場からも依頼が来ていて、フィレンツェでは「群盗」に必要な歌手が揃えられないので、フィレンツェで「マクベス」を、ロンドンで「群盗」を上演することになったのでした。
「マクベス」では、一部で台本を書いたマッフェイが、「群盗」では1作丸ごと書くことになりました。

「群盗」は、ドイツの作家シラー(第九の歌詞でもおなじみ)22歳の時、初めて書いて発表した戯曲です。

(シラーの作品が)ヴェルディによってオペラ化されるのは7作目の「ジョヴァンナ・ダルコ」( https://tenore.onesize.jp/archives/90 ) 以来2作目ですね。
マッフェイは、ヴェルディがともに仕事をしてきたピア―ヴェやソレーラのように、オペラ台本を書くことには慣れておらず、プロの台本作家としてのキャリアはなかったので、オペラが出来上がるには少々時間がかかってしまいました。
ヴェルディがマッフェイの台本に曲をつけようとしたときに、あまりインスピレーションが湧かなかったみたいです。
何とかロンドンのシーズン終了直前に初演が叶いました。
1847年7月22日、ロンドンのハー・マジェスティーズ劇場(国立劇場)、ヴェルディ33歳。
イギリスでもその名がとどろいていたヴェルディが、ロンドンで新作を発表するとあって、その期待と注目はもの凄かったようです。
初演の会場にはヴィクトリア女王や、フランスから来ていたルイ・ナポレオン(後のナポレオン3世)など、名だたるVIPが出席していました。
初演は、歌手が良かったこともあって、大いに成功を収めました。
当時のイタリアでは、オペラの際、今のように指揮者が真ん中で棒を振るということはあまりなく、コンサートマスターの第1ヴァイオリニストがリズムやきっかけを示すだけでした。
オペラの新作を発表する作曲家はオーケストラピットの端っこに座って、拍手が来たらそれに応える、という形がイタリアでは一般的でした。
ですが英国ではそうでなく、今のように指揮者がいることは一般的になっていて、しかも初演の場合はその作曲家が振るのが習慣でした。
ヴェルディはそうとうイヤだったみたいですが、渋々初演を指揮したようです。
ただ。ロンドンの肌寒く湿っぽい気候、当時の石炭の煙が街を覆っている感じが、ヴェルディには全くお気に召さないものであったようです。
早々にロンドンを出たヴェルディが向かった先はフランスのパリ。パリで、彼は生涯を共にするある女性と、関係を深めていくことになります。
その続きは次回作の時に!
それではオペラ「群盗」の内容に移って参ります。

「群盗」
全4幕
時は18世紀初頭
<登場人物>
マッシミリアーノ:ドイツ中南部、真ん中あたり、のフランケン地方の領主、モール伯爵とも呼ばれる
カルロ:マッシミリアーノの長男
フランチェスコ:マッシミリアーノの次男
アマ―リア:孤児だったが伯爵に姪として引き取られた、カルロの妻
ほか数名
オペラはチェロの独奏が主体となった、悲し気な前奏曲で幕を開けます。
<第1幕>
領主で伯爵のマッシミリアーノには、二人の息子がいました。
長男のカルロは、頭も良くイケメンで、父親からも愛されていました。
次男のフランチェスコはそんな兄へのコンプレックスからか、性格もひねくれてしまい、父親からもあまり愛されず、自分が領主になって、いつか父と兄を見返してやろうと思っていました。
当時の習慣から言えば、当然領主の座は長男のカルロに譲られるところだったのですが、カルロは理想主義に燃えてしまうところがあり、大学生の時に、その時代の封建主義的な社会に反発して、家出して、結婚していたのですがその妻も捨てて、いわゆる不良グループの仲間に入ってしまいました。
そんなカルロでしたが、オペラの幕が上がった時には、いくらか反省して、父に許しを請おうと手紙を送っていました。
妻のアマ―リアのことも気にかかります。そんな気持ちを歌うアリアから、オペラは始まります。

そこへ仲間たちが、実家からの手紙を持ってきます。
差出人は弟のフランチェスコ。
そこには、
「帰ってこない方がいい。父さんは兄さんを許さず、牢獄に入れるつもりだ」
と書かれていました。カルロは動揺します。
最早やけっぱちのカルロは、仲間たちとギャング団、つまり群盗を結成して、そのリーダーになることを誓います。
相当こじれてしまいましたね!
ここまでテノールのアリアの場面です。
場面変わって、フランケン地方モール伯爵のお城の一室で
次男のフランチェスコが、1人、よからぬことを企んでいます。
彼は、兄カルロが父親マッシミリアーノに宛てた手紙を、勝手に書き換えて、反省なんかしてませんみたいに書いたのですね。
それで父親を怒らせたうえで、カルロにもにせの手紙を送っていました。
さっきの手紙は嘘だったのです。
フランチェスコはひねくれてしまったあまり、兄にも父にも復讐しようとしているのです。
よほど愛情を受けずに育ってしまったのでしょうか…。
父である伯爵に、兄カルロは戦争に参加して戦死しました、と、嘘の報告をしようとしています。
わざわざアルミーニオという家来を、外から来た使者に変装させて、嘘の報告に真実味を持たせようとしています。変装させないと、父伯爵に、城にいる家来アルミーニオじゃないか、とバレてしまいますからね。
ここまで、次男フランチェスコの野望のアリアといった場面です。

城の別の部屋では、カルロの妻アマ―リアが、年老いた伯爵、おじでもあり義理の父でもあるマッシミリアーノが眠っているのを優しく見守っていました。
自分を捨てたカルロとの思い出がよみがえって、アマ―リアはソロを歌います。

やがて目を覚ました伯爵。心身ともに衰弱して、命の灯が今にも消えてしまいそうです。
そこへ、次男フランチェスコが、使者に変装した家来アルミーニオと共に登場。
カルロが戦死した、と嘘の報告をします。
しかも、フランチェスコはカルロの遺品であるという剣をアマ―リアに渡します。
そこには、「自分の死後は、アマ―リアはフランチェスコと結婚するように」ということが、血で書かれていました。
フランチェスコはこんな小道具まで用意して、アマ―リアも横取りしようというわけですね。
絶望する伯爵父さん、半狂乱のアマ―リア、ほくそ笑むフランチェスコ、後悔するアルミーニオの四重唱です。
気を失った伯爵を見て、皆は伯爵が息絶えたと思いました。
ここで第1幕が終了します。
<第2幕>
第1幕からしばらくたった後
次男フランチェスコはまんまと新領主に就任し、アマ―リアと強引に結婚式を上げようとしています。
その結婚式からアマ―リアは抜け出してきて、伯爵の墓の前で悲しみを歌います。
マッシミリアーノ伯爵、ショックで亡くなってしまったのでしょうか。

そこへ家来アルミーニオが駆け込んできます。
「お許しください!」
「どうしたの?」
「カルロさまは…生きておられます!」
「何ですって!」
「そして、、あなたの叔父様も…」
と言うや否や、アルミーニオは去ってしまいます。やはり良心の呵責に耐え切れなくなったようです。
カルロが生きている!ということに喜びを歌うアマ―リア。
それにしても、マッシミリアーノも生きてるとはどういうことでしょう?
ではこのお墓は何なのでしょう??
そこに悪の次男、フランチェスコ登場。
「なぜ祝宴から逃げたのだ?」
などと言ってアマ―リアをなじるフランチェスコとアマ―リアの二重唱です。
アマ―リアは彼にいったん抱き着くふりをして、その腰から剣を抜き取り、自らの身を守ってその場から逃げ去ります。
続いての場面は、プラハの街が見えるボヘミアの森

ここで、カルロのギャング仲間が捕らわれていましたが、カルロに助けられ、無事に戻ってきました。
仲間と現れたカルロ。
1人になって、犯罪集団のリーダーと言う自分の立場に苦悩しつつ、アマ―リアへの消えない思いを歌います。
その時、仲間が駆け込んできて、自分たちが森で軍隊に囲まれているとの知らせ。
よし武器を取って、戦おう!とその場を走り去ります。
この場面、合唱が活躍するかっこいい音楽です。
以上で第2幕が終了です。
<第3幕>
伯爵の城に近い森のそばの廃墟辺りで

アマ―リアは、何とかここまで逃げてきました。
「ここはどこ?何か、盗賊たちの声みたいなのも聞こえてきて、、ああ、怖い…。」
そこに1人の男が現れます!
「ああ!もうだめ!」
「アマ―リア!」
「なんで私の名前?あなた誰??」
「僕だよ!見て!」
「誰??日焼けしててわからない…」
「カルロだよ!」
「カルロ!!??」
久しぶりの再会に抱きしめ合う二人。
アマ―リアはこれまでのいきさつをカルロに話します。
「フランチェスコ、あの悪党め!」
となるのですが、カルロは自分が群盗のリーダーだとは、アマ―リアに言えないでいます。
場面は森の中に変わります。夜です。
盗賊たちの陽気で勇壮な合唱曲が歌われます。
リーダーであるカルロがみんなのもとに現れて、
「みんなもう寝てくれ。俺は起きてるから」
で、1人物思いにふけります。
カルロは、今の状況に絶望しています。彼は本当は賢くて育ちもいいので、こんな犯罪者集団と行動を共にするのは本意ではないのです。
持っていたピストルを見つめて、自殺を考えますが、思いとどまります。悩める青年といった感じですね。
その時、伯爵家の家来アルミーニオが、古い塔が近くにあるのですが、その辺りにやってきます。
陰からその様子を見るカルロ。
アルミーニオは中に居る誰かに、夕食を運んできたようです。
そこへ飛び出すカルロ!
「そこにいるのは誰なんだ!」
「カルロ坊ちゃま!いけません!」
驚いたアルミーニオは、中に誰がいるか見ようとするカルロを止めようとしますが、やがて逃げ出します!
そこにいたのは、骸骨のようにやせ衰えた父親、マッシミリアーノでした…!
「父さん!!」
「カルロか…!」
墓に埋葬されたはずのマッシミリアーノが、なぜここにいるのか。
それは、次男フランチェスコが、第1幕で兄カルロが死んだと伝えて失神した父親を、無理矢理に棺へ押し込めて、表向き亡くなったことにして、自分が領主となり、父親をこの古い塔へ幽閉していたのでした。
ひどいですねー。
そのことを語り終えた父マッシミリアーノは再び気絶。
怒ったカルロは、叫びまわって仲間を叩き起こします。
「どうしたどうした?」
「あの死にかけた老人を見てくれ、あれは俺の親父だ!復讐するぞ!!」
「おおお!!」
となって、第3幕が終わります。
ヴェルディが、この作品にはいいテノールが必要だと思っただけあって、非常にかっこよく、かつ、弟への復讐ということで、どこか悲壮感もある名場面です。
<第4幕>
城の中の一室。
フランチェスコが悪夢にうなされています。
さすがに、やってきたことが極悪すぎて、良心がとがめているようです。
フランチェスコは家来のアルミーニオに、悪夢の内容を語って歌います。
フランチェスコは司祭を呼んで、慰めを得ようとしますが、この司祭も、フランチェスコを父殺し兄殺しの罰当たり!と非難するので、フランチェスコは怒ってしまいます。
そこにアルミーニオが飛び込んできて、城が群盗たちに襲われていることを報告します。
半ば死を覚悟するフランチェスコでした。
場面変わって、第3幕の最後の方と同じ森で
父マッシミリアーノとカルロが居ます。
マッシミリアーノ、カルロのことを息子だと認識できていないようです。
悲しい二重唱が終わると、群盗の仲間たちがやって来ます。城を攻めたがフランチェスコは見当たらなかった。逃げたのでしょう。
代わりに捕らえたアマ―リアを連れてきます。
彼女、城に戻っていたのですねー。
この辺り、シラーの原作を読んでみないと、細かい前後の過程が良くわかりません。ごめんなさい。
アマ―リアはカルロを発見して喜びます。
しかも、墓に埋葬されたはずの伯爵もいる。
しかしカルロはついに告白します。
「俺は群盗の首領リーダーになったのだ!」
仲間は
「言わなきゃいいのに!」
なんて言いますが、カルロはそのまま自首して、死刑にでもなんでもしろ!と言います。
ところがアマ―リアは、
「あなたから離れるなら、死んだほうがまし!」
と言って、天使のように愛を語ります。
カルロは、いったんはその愛にこたえて、二人で愛に生きようとします。
しかし、仲間たちは首領が組織を抜けることをよしとしません。
「俺たちに誓ったじゃないか!俺たちを裏切るのか?」
カルロがとった行動は、、、アマ―リアに、短剣を突き立てることでした!
いっそ死にたいというなら、俺があの世へ送ってやろう、、ということなのでしょうか・・・。

驚く一同にカルロは言い放ちます。
「さあ、俺を絞首台に!」
彼女を殺して、俺も死ぬ、、という悲劇。。
崩れ落ち、息絶えるアマ―リアでした…。
…これでオペラ全体の幕が下ります。
いかがでしたでしょうか?
いやー、ロマン主義ですね!
何といいますか、愛してる!でもこんな世の中では愛が叶わない!ならいっそ2人で死のう!
と言う流れが一般的なのが、ロマン主義というか、ロマン的というか…。
こういうお話が、当時のヨーロッパでは大うけだったわけです。
ヴェルディのお友達マッフェイさん、色々な文章を書いてきて、オペラを書くのも自信があったのかもしれませんが、やはりオペラ台本を書くというのは、それなりに特別な技術が必要で、ちょっと物語における場面のチョイスや繋がりに難があり、なかなか説明しづらい個所もありましたが、いつものようにヴェルディの音楽は素晴らしく、歌手がそろった録音や上演なら十分、楽しめます。
皆さんも今すぐ、「オペラ 群盗」で検索してください。
ありがとうございました。
髙梨英次郎でした。
参考文献(敬称略)
小畑恒夫「ヴェルディ 人と作品シリーズ」
ジュゼッペ・タロッツィ「評伝 ヴェルディ」小畑恒夫・訳
永竹由幸「ヴェルディのオペラ」
髙崎保男「ヴェルディ 全オペラ解説」
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