オペラ解説:ヴェルディ「イェルサレム」成立から、あらすじまで

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オペラ「イェルサレム」解説 - テノール歌手:髙梨英次郎のトークです | stand.fm
ヴェルディ12作目「イェルサレム」の解説です。 初めての、フランス語作品。 パリへの初出陣の結果やいかに? 文字起こししたブログはこちら↓ 0.00〜 概要 1.30〜 作曲の経緯 5.38〜 内容、第1幕 11.26〜 第2幕 15.51...

こんにちは!テノール歌手の髙梨英次郎です。
本日もオペラをざっくり解説して参ります。
オペラって面白いですよ!
今回は、ヴェルディ作曲「イェルサレム」です。

この作品は、4作目の「第1回十字軍のロンバルディア人」(ロンバルディ)( https://tenore.onesize.jp/archives/87 ) の改作です。つまり、アレンジ版ということですね。
なので、12作目とするかしないか、微妙なところなのですが、音楽的には「ロンバルディ」そのままのところも多いものの、登場人物の名前や設定、ストーリーなどはかなり変更されていますので、ここでは12作目として数えさせていただきます。

かなり渋い作品ですのでw、解説をするかどうかも迷ったのですが、ヴェルディ先生を全部やると決意したからには、取り上げなくてはいけません。
「イェルサレム」とは、ユダヤ教キリスト教イスラム教の聖地エルサレムのことですが、オペラ作品として検索する場合は「イェルサレム」の表記で定着していますので、このように表記します。


まずは作曲の経緯についてお話します。


前作「群盗」( https://tenore.onesize.jp/archives/94 ) はロンドンでの初演だったのですが、実はヴェルディ、ロンドン入りする前にパリを経由しています。
そして、「群盗」初演から数日後、再びパリに戻ります。
ヴェルディがパリに居る時、ある女性との再会がありました。
その名は、ジュゼッピーナ・ストレッポーニ。

UNSPECIFIED – CIRCA 1989: Italy – 19th century. Portrait of Giuseppina Strepponi (born Clelia Maria Josepha Strepponi, Lodi, 1815 – Sant’Agata di Villanova sull’Arda, 1897), Italian soprano and second wife of Giuseppe Verdi, 1840-50. (Photo By DEA / G. DAGLI ORTI/De Agostini via Getty Images)

彼女は、ヴェルディのデビュー作「オベルト」( https://tenore.onesize.jp/archives/84 ) をスカラ座支配人メレッリにプッシュしたり、「ナブッコ」( https://tenore.onesize.jp/archives/86 ) 初演でアビガイッレ役を歌ったりしたソプラノ歌手でした。
この頃には表舞台から引退して、パリで声楽教師をしていました。
「オベルト」や「ナブッコ」の頃から、ヴェルディとストレッポーニは、お互い惹かれ合うものがあったのでしょうか。
ヴェルディが最初の奥さんを亡くしてから7年がたっています。

ここパリで、二人は男女の関係となり、同棲生活が始まりました。
そしてこの関係は、死が2人を分かつまで、続くことになるのです。
結果、ヴェルディは、イタリアになかなか戻らず、パリで2年を過ごすことになります。
パリには2人の知り合いも少なく、煩わしい人付き合いをする必要もなかったので、ヴェルディにとっても居心地が良かったのかもしれません。


何年か前から、ヴェルディはパリのオペラ座から連絡を受けていて、いよいよその依頼を受けることになります。
当時、パリはヨーロッパ文化の中心。
パリで成功することは音楽家だけでなく、全芸術家にとってステータスとなる時代でした。
ヴェルディの先輩、ロッシーニやドニゼッティもパリでオペラを上演してヒットしています。
ですが、夏に依頼が来て、秋には上演したいという劇場の意向で、まっさらの新作を準備するにはもう時間がありません。
そこで、過去の作品を改定して発表することにしました。
こうした改作の発表は、ロッシーニやドニゼッティも行っていて、よくあることではありました。
こうして、最初に述べたように、「ロンバルディ」をフランス風にアレンジした「イェルサレム」が作られることになりました。
台本は、ロワイエとヴァエズというフランス人2人の共作。ロッシーニやドニゼッティのフランス語作品の台本も手掛けてきたコンビです。
ヴェルディ初めてのフランス語台本、ということになります。


初演は1847年11月26日、パリ・オペラ座、ヴェルディ34歳。

主役のテノールには、初めて裏声ではない高いド、いわゆるハイCを出したジルベール・デュプレが出演したこともあって、初演は大成功。
フランス国王ルイ・フィリップから勲章をもらうほどでした。
ちなみにヴェルディはパリで、著作権のシステムを知り、作曲家への収入の面でより安定をもたらすこの考え方を、イタリアにも持ち込もうと、今後劇場や出版社と交渉を重ねていくことになります。


それでは、オペラ「イェルサレム」の内容に移って参ります。

「イェルサレム」
全4幕
時は11世紀末


登場人物
ガストン:ベアルヌ子爵
トゥールーズ伯爵
ロジェ:トゥールーズ伯爵の弟
エレーヌ:伯爵の娘、ガストンと婚約
ほかにローマ教皇特使のアデマール、ガストンの従者レーモン、エレーヌの侍女イゾールなど
オペラは、「ロンバルディ」の前奏曲よりも少し長めの、導入曲で始まります。


<第1幕>

舞台は南フランス、トゥール―ズにある領主の宮殿内で。夜明け前です。

Image

子爵ガストンと伯爵の娘エレーヌが人目を忍んで語り合っています。
ガストンとエレーヌは愛し合う二人でした。
ですが、両家は敵対しています。

はい、ロミオとジュリエット状態です。
ガストンは伯爵家に父親を殺されていました。
しかし、この頃十字軍が結成されるとあって、両家も和解して、共に戦おうということになり、これから和解の式典が開かれようというところです。

ガストンに扮するデュ・プレ


ガストンが去って、エレーヌは両家の和解と、ガストンと無事に結婚できますように、ということを祈って、アヴェ・マリアを歌います。

Image of Hélène

やがて朝日が昇って、宮殿内礼拝堂へ大勢集まってきます。

Image


式典が始まります。
トゥールーズ伯爵は、ガストンら子爵家を迎え、和解を宣言します。
そして、娘エレーヌをガストンと結婚させることも告げます。
喜ぶ一同。
しかし、1人苦虫をかみつぶしていたのが、トゥールーズ伯爵の弟ロジェ。
ロジェは、自分の姪に当たるエレーヌを密かに想っていたのです。嫉妬に狂っています。
ロジェはガストンを亡き者にしようというようです。
ロジェはいったんその場を去ります。何か企んでいるようです。
そこへローマ教皇の特使のアデマールが現れて、伯爵が教皇から、十字軍の司令官に任命されたことを告げます。

伯爵は、婿となるガストンに、自分が着ていた聖なる紋章が着いた白いマントを、誓約のしるしとして渡し、ガストンに着せます。
一同ばんざい!
ここまで、ロジェ以外の全員で歌う派手な場面です。


そこへこっそり戻ってきたロジェ。
1人の兵士を、ガストン暗殺の実行犯として連れてきました。
礼拝堂では、伯爵と、伯爵からもらった白いマントを付けたガストンが並んで祈っています。
ロジェは兵士に指示します。

「白いマントを着ていない方を殺せ」

ロジェは、伯爵がガストンにマントを譲ったところを見ていなかったのです!
今マントをつけていないのは、伯爵です!どうなってしまうのか。
やがて礼拝堂の中で犯行が行われ、大騒ぎに。

「うわあああ」「誰だ貴様ーー!」「待てーーーー!!」

逃げる犯人を捕まえようと真っ先に駆け込んだのは、ガストン!

「えええ、生きてる!!」
ガストンを殺したと思ったロジェは驚き、震えます。
重傷を負って運ばれていったのは、自分の兄、伯爵!
兵士は捕まって、引っ立てられてきます。
その兵士にロジェは近づいて、必死に耳打ちします。
「間違えた!!殺してほしいのはあいつだった(ガストンを指して)!あいつに指示された、あいつがたくらんだと言え!!」
周りが聞きます。
「首謀者は誰だ!?」

「彼です」

ガストンは驚きます。

「は?俺??」
すると周りは、それを信じてしまうのです。
「ガストン、おまえかーーー!!」
もともと敵対していた家同士でしたから、やっぱり憎んでたのか!と、もう疑いのバイアスがかかってしまって、あいつならやりかねない、と思われていたのかもしれません。
ローマ教皇特使アデマールもそれを信じて、ガストンを破門、追放の処分にしてしまうのでした。
ここで第1幕が終了します。


<第2幕>
パレスチナの山の中で。第1幕から数年後。

伯爵の弟ロジェは事件を起こした後悔から、罪を償うための巡礼の旅をして、修行や祈りに明け暮れる、隠者としての日々を過ごしていました。

Image of Roger

外見もすっかり変わっています。
その敬虔な暮らしぶりで、周辺の人々から尊敬を集めるようになっていました。
洞窟で、ロジェが祈りを捧げています。
そこへ、今や追放の身となっているガストンの従者レーモンが、息も絶え絶えで現れます。
ロジェはレーモンに
「ほら、水を飲みなさい」

「ありがとうございます。近くで仲間たちが道に迷っています」

それを聞いてロジェは、その仲間たちがいる方へ向かいます。


入れ違いに、伯爵の娘エレーヌが侍女と共に洞窟へやって来ます。
ガストンがパレスチナで死んだという噂を聞いて、この辺りで有名な隠者さんなら、何か知っているのではないかしら、とここまで来たのでした。
そこで、ガストンの従者レーモンと再会!
そこで彼は、ガストン様は死んでおらず、アラブ人との戦いに敗れ、ラムラという地(今はイスラエル内)で捕らわれていることを告げます。

「彼が生きている!」
喜び、ラムラへ行く決意を固めるエレーヌでした。
今度はそこへ、疲れ果てた巡礼者たちがたどり着きます。
ここで、「ロンバルディ」第4幕で歌われる大ヒット合唱曲「おお主よ、故郷の家から」が、音楽はほぼそのままで、歌われます。
すると、勇壮な行進曲と共に十字軍の一行が到着。
率いているのは、ローマ教皇特使アデマールと、トゥールーズ伯爵。伯爵は一命をとりとめていました。
戻ってきたロジェは、伯爵を見て驚愕!ひざまずきます。
伯爵や特使アデマールは、ひざまずく隠者が行方不明のロジェとは気づきません。

ロジェは
「この罪人を、あなた方十字軍に加えてください!私も戦います」
と願い、皆はそれを受け入れて、戦いに向かうのでした。


場面変わって、ラムラの首長の宮殿で

Image


捕らわれのガストンが居ます。
エレーヌを想い、アリアを歌います。
ラムラの首長が来て、逃げれば死あるのみだぞ、と脅されます。
そしてそこへ連れてこられたのは、エレーヌでした!
彼女はアラブの衣装に変装しています。

ガストンを探しに来たのでしょうか。

怪しい女として、首長たちに捕まえられたようです。
思わぬ再会に喜ぶガストンとエレーヌ。

しかしここで二人が知り合いだとはあまりバレてはいけないのですが…。
ラムラの首長たちは疑いの目で見ています。

なので、首長たちはあえてその場からいなくなり、秘かにその様子を部下に監視させていました。

人目が無くなったと思ってしまったガストンとエレーヌは、抱き合って、愛の二重唱を歌います。

しばらくすると、十字軍が攻めてきた音がするので、チャンスだ!と、二人で逃げようとしますが、ラムラの首長たちに阻まれて、2人とも捕まってしまいました。

ここで第2幕が終了します。


<第3幕>
ラムラのハーレム、日本風に言えば大奥に、エレーヌは入れられてしまいました。
悲しむエレーヌを、女たちがからかいます。


そして、ここでヴェルディが初めて手掛けたバレエ音楽が演奏されます。
パリ・オペラ座では、バレエのシーンは必須でした。
踊るための音楽ですから、聴いているだけでも楽しめます。


十字軍が攻めてきたら、お前を殺してやると、ラムラの首長に脅されたエレーヌ。
ひたすら神のご加護を祈ります。
そこへ、ガストンが駆け込んできます。

エレーヌを救いに来たのですが、それとほぼ同時に、攻め込んできた十字軍がなだれ込んできます。
十字軍を率いてきた伯爵は、娘と、追放したガストンが一緒に居るのを見て、激怒!

ガストンは、今度は十字軍たちに連れ去られてしまいます。
エレーヌは必死にガストンの無罪を訴えますが、父伯爵たちは聞き入れません。


場面は、ラムラの町にある広場。
悲しげな葬送行進曲が演奏されます。
ガストンが引き立てられてきて、裁判のようになります。
ガストンも無実を訴えるソロを歌いますが、教皇の特使アデマールは死刑を宣告。

Image of Gaston

処刑の前に、ガストンの騎士としての身分も剥奪する、ということで、兜や鎧、剣を砕かれてしまいます。
ああ、なんて不名誉な…。
これで、第3幕が終了します。


<第4幕>
エルサレムの近くの谷にある十字軍陣営で。

Image


戦いに参加しているロジェが、命を捨てる覚悟をしています。
遠くから巡礼者や十字軍たちが、祈りを捧げる歌を合唱で歌いながらやってきます。


巡礼者たちが去ると、ロジェは、処刑前のガストンに最後の慰め、救済を与えるよう、教皇特使アデマールに頼まれます。
エレーヌが物陰からそのやり取りを見ていたのですが、連れてこられたガストンを見て、思わず駆け寄ってきます。

ロジェは心が痛いのなんの。なにせ、真犯人ですからね。
「あなたを救うには、私のこの手も罪にまみれています…。」

「まぁ、聖なるお人!」

いや、エレーヌ、その隠者は謙虚に、私は罪深い人間です、と言ってるわけじゃなくて、そいつが真犯人ですよ!
「聖なるお人」じゃない!
となりそうですが、まあ抑えてください。
ロジェは型どおりのキリスト教における祝福を与えるのではなく、ガストンに剣を渡します。

「この剣で戦うのだ!」
「わかりました、戦って死ぬことで名誉を!」
と、ガストンとロジェ、二人ともに戦場へ向かいます。
戦いの末、ついに十字軍が勝利しました。
伯爵の陣営にある天幕、大きなテントで、喜ぶ一同。

皆の前で、先頭に立って勇敢に戦い、賞賛された戦士が兜を脱ぐと、それはガストンでした。
エレーヌは
「それでもこの方を処刑するのですか?」
と父伯爵に詰め寄ります。
そこに、瀕死の重傷を負った隠者、に扮したロジェが天幕へと運ばれてきて、
「お待ちを…!」
と叫びます。

「伯爵、私はあなたの弟ロジェです。」
「ロジェか!」
「ガストンは無実です…。あなたを傷つけた犯人は私です…。」

!!

驚く一同。
しかし、ここまでの尽力や、隠者としての暮らしぶりを知る人々、そして兄の伯爵は、彼の罪を許したのでした。

「死ぬ前に、、聖地を見せてもらえますか…?」
天幕を開けると、そこには解放された聖地エルサレムが見えます。

罪を許され、天へと召されるロジェ。
神への感謝を歌う一同でした。
これでオペラ「イェルサレム」全体の幕が下ります。


いかがでしたでしょうか?
ヴェルディのパリ・オペラ座への初出陣。
まっさらの新作ではなく、改訂版での勝負となったわけですが、当時はこれが大成功。

壮大でありながら、「ロンバルディ」よりも幾分わかりやすくなり、フランスでのお約束事や、フランス的な響きも感じられる音楽にアレンジされ、フランス風グランドオペラを目指した作品として大変興味深いものになっています。

イタリア語に訳された「ジェルザレンメ」として、イタリアでも上演されますが、現在でもイタリアで人気があるのは「ロンバルディ」の方です。
やはり物語の舞台が「イェルサレム」ではフランスのトゥールーズで始まるのと、「ロンバルディ」でのイタリア・ミラノで始まるのとでは、愛着の度合いが違うのでしょうか。

世界的にもどちらかというと、「ロンバルディ」の方が上演機会は多いような気がいたします。

聴き比べてみると、一層面白いですよ!
「イェルサレム」、検索すれば出てきますので、皆さんもぜひこの作品に触れてみてください。
レターやコメントもお待ちしております。

ありがとうございました。

髙梨英次郎でした。


参考文献(敬称略)

小畑恒夫「ヴェルディ 人と作品シリーズ」

ジュゼッペ・タロッツィ「評伝 ヴェルディ」小畑恒夫・訳

永竹由幸「ヴェルディのオペラ」

髙崎保男「ヴェルディ 全オペラ解説」

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