オペラ解説:ヴェルディ「1日だけの王様」成立から、あらすじまで

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音声配信で流した、オペラ解説配信をこちらのブログで文字起こしして参ります。

聴きながら読むと分かりやすい!今回の音源はこちら↓

オペラ「1日だけの王様」解説 - テノール歌手:髙梨英次郎のトークです | stand.fm
文字起こしはこちら→ ヴェルディ2作目のオペラ「1日だけの王様」をざっくり解説しました。 なかなか上演されない、レアな作品です。 0.00〜 ヴェルディそれまでの人生 4.25〜 オペラ内容 第1幕 12.53〜 オペラ内容 第2幕 参考文...

『1日だけの王様』

こんにちは!テノール歌手、髙梨英次郎です

今日も、オペラ全曲ざっくり解説やって参ります。

今日はヴェルディの2作目、「1日だけの王様 Un giorno di regno」です。

この作品、前回のオベルト ( https://tenore.onesize.jp/archives/84) 以上に上演されない作品です。なぜか?

その初演が大失敗に終わったということが大きいのではないでしょうか。そんな作品の解説に需要はあるのか?…だからこそやるんです!聴けばわかる!行きます!


ヴェルディ

初演は、1840年9月5日、ヴェルディまだ26歳の頃。ミラノのスカラ座でした。

このオペラは、ヴェルディの数ある作品の中で2作しかない、喜劇のうちの1つです。ハッピーエンドで終わるんですね。

喜劇のオペラで、伝統的な様式に則ったものを特にオペラブッファといいますが、この作品はいわば、ヴェルディ唯一のオペラブッファです。半世紀後の最後の作品ファルスタッフは、ブッファの枠には収まりきれないスーパー喜劇です。ですので、ブッファには入れません。

作品の内容に行く前に、そこまでのヴェルディの人生についてお話します。

デビュー作オペラ「オベルト」は一定の成功を収めました。

オベルトを採用してくれたスカラ座の支配人メレッリに、次はブッファを書いてくれと頼まれました。メレッリがヴェルディのために用意した台本は、スカラ座の倉庫から引っ張り出してきた古いものでした。

契約上、それでも嫌とは言えないヴェルディは、中ではマシだと思えるものを選びました。それがこの作品です。

これ(この台本)は、1818年に別の作曲家がすでに(曲をつけて)発表しました。22年前の作品をリメイクするということになります。2021年現在、1999年のドラマを、この今の世相など反映せずにリメイクしたようなものでしょうか。22年経つと、だいぶ世の中も変わっていますからね。

作曲を始めてしばらくすると、またもや不幸がヴェルディを襲います。子供が相次いで天に召され、憔悴しきっていた妻マルゲリータも、病で亡くなってしまいました。

彼女はもともと、故郷に近い町ブッセートで、ヴェルディのミラノ留学やその他の金銭的援助をしてくれたパトロン的存在の裕福な商人、バレッツィの娘でした。マルゲリータは、夫の才能を信じて疑わない、とても良い奥さんだったんです。

そんな彼女を失って不幸のどん底にあったヴェルディ、それでも頑張って作曲をして、いざ初演、これが大失敗…。スカラ座の会場はブーイングの嵐。加えて、この頃のミラノは、喜劇がヒットするような雰囲気でもなかったんです。ハプスブルク家で有名なオーストリアにミラノはこの頃支配されていました。そのことへの不満が溜まっていて、そのことで、その後のイタリア独立への精神的土壌が出来つつありました。

初演のあまりの不評に、メレッリは1回の上演でこの作品を取り下げました。ヴェルディは大変なショックを受けます。その後、最後のオペラ作品「ファルスタッフ」まで、実に半世紀以上喜劇を書きませんでした。

でも、実際にこの「1日だけの王様」聴いてみれば、十分楽しい音楽です。台本に問題があるとか言われてますし、当時の批評によれば、演奏も自体もあまり良くなかったらしいです。練習不足だったんですかね?

ただ、他の都市でも上演はされて、特にヴェネツィアでは割と評判が良かったそうです。

なので、先入観を取り払って、皆さんもぜひ触れてみていただきたい、そんな作品です!それでは、オペラの内容に移っていきます。


「1日だけの王様」

時は1733年、ところはフランス北西部の港町。

この物語の前提となるお話があります。

当時ポーランドの国王だったスタニスラオは、外国との戦いに敗れ王位を下ろされて、国を追われて、フランスに亡命していました。なぜフランスかというと、彼の娘がフランス国王ルイ15世の妻だったからです。

王スタニスラオ

それでもなんとか祖国ポーランドへ戻りたい王スタニスラオは、馬車の運転手に変装して入国しようと計画します。そこにポーランドへ向かう間、フランスで自分が変わりなく暮らしていると見せかけるため、身代わりを立てることになります。その身代わりが、この物語のメイン人物、ベルフィオーレです。彼は、青年騎士という身分です。顔が王と似ていたんでしょうか?

そしてこのお話は、歴史的事実に基づいています。オペラにこの王・スタニスラオは登場しません。

オペラで名前がある役は8人居ますが、メインとなるのはその中の6名です。

偽の王ベルフィオーレ、

その恋人ポッジョ侯爵夫人、

若いカップルのエドアルドと

ジュリエッタ、

エドアルドの伯父の財務官ラ・ロッカ氏、

ジュリエッタの父親、ケルバール男爵、

以上の6名です。


物語は、ケルバール男爵の屋敷の中。

今夜ここで2組の結婚パーティがあげられる予定です。1組は男爵の娘ジュリエッタと、町の財務官のラ・ロッカ氏。エドアルドはどうしたんでしょうか?

もう1組の結婚は、男爵の姪であるポッジョ侯爵夫人とよそから来る伯爵です。ベルフィオーレは、こちらもどうしたんでしょうか?

男爵と、婿になる財務官は喜び合っています。

「やあ、婿どの、よろしくね!」

そこへ、ポーランド国王が到着したと告げられます。

ポーランド王は、今日の結婚パーティーにお客様として呼ばれています。そのポーランド王、ここでは偽者です。ベルフィオーレ君ですね。

Image of Belfiore

やってきたベルフィオーレは、男爵に

「今日は誰と誰が結婚するのかな?」

と尋ねたところ、私の娘とこの財務官、ポッジョ夫人と…、とこの名を聞いて驚くベルフィオーレ。このポッジョ夫人はベルフィオーレ君の恋人なんですが、もちろんここでは言えません。王様の振りをしていますので。

ベルフィオーレは1人になり、ポーランドにそろそろ着くであろうという本物の国王・スタニスラオに急いで手紙を書きます。

「親愛なる王よ、私の役目を解いてください、でないと私は恋人を失ってしまいます!」

そこへ、エドアルド君が登場します。

Image of Edoardo

彼は彼で財務官の甥なんですけれども、ジュリエッタと相思相愛なのに、伯父にそのジュリエッタを取られてしまうというところですね。エドアルド君、絶望しています。

ニセ王に

「僕をポーランドに連れて行ってください」

と願います。命を捧げる覚悟のようです。それに対して、

「いいよ」

と気軽に許可するにせ国王。

彼は、エドアルドとジュリエッタが想い合っているのを知っているので、何とか若者たちを助けてやりたいと思っています。

彼らが去ったところへ、ポッジョ夫人がそっと入ってきます。

ところでこの人、ファーストネームが書かれていないので、何とお呼びすればわからないのですが、ポッジョ夫人とここでは呼びます。まぁデヴィ夫人みたいなものですね。そのポッジョ侯爵は亡くなっていて、未亡人になっています。こういうところもデヴィ夫人と同じでしょうか。

彼女はにせ国王を見て、あれはどうやら、ベルフィオーレじゃないかと見破ったようです。ベルフィオーレは王から密命を受けたので、突然彼女の前から姿を消しました。

なので彼女にしてみれば、

「裏切られた、突然いなくなった!」と思っているので、伯爵との結婚を進めてベルフィオーレがどう出るか、試すことにします。

Image of La Marchesa del Poggio

場面変わって、屋敷の庭。

ジュリエッタが悲しそうにしています。

「あんな年寄りと結婚なんてイヤ、若くて素敵な人がいい」

…そりゃそうでしょう。

Image of Giulietta

そこへ男爵と財務官が来て、沈んでいるジュリエッタに声をかけます。ほどなくそこに、にせ王ベルフィオーレがエドアルドを連れて登場します。にせ王は、男爵と財務官に

「君たち、こっちでちょっと、政治的軍事的な話をしよう、その間エドアルド、お前はこちらのお嬢さんのお相手をしていなさい」

若い二人を二人きりにしてやろうという配慮です。

仲が良さそうな二人を見て、財務官は気が気でありません。かといって、国王の話をさえぎるわけにはいかない。

「あいつら近すぎる!離れろ!」

「おやおや財務官、君、話に集中していないね」

「いえいえ、そのようなことは」

こうやって話しているところへ、ポッジョ夫人がやってきます。

焦るベルフィオーレ。男爵たちはベルフィオーレを、こちらポーランド王です、なんて紹介します。

ポッジョ夫人は、「あれーー?」と、その正体に気づきつつも、空気を読んでその場では型どおり挨拶します。   

「こんにちは国王」

…という、面白い六重唱ですね。

にせ王と男爵、財務官は別の場所へ。若いカップル2人が侯爵夫人に助けを求めます。

そのポッジョ侯爵夫人は、さっき見たポーランド王がやはりベルフィオーレではないかと気になって、それどころではないんですが、とはいえ、ポッジョ夫人は若い二人に協力することを約束します。

場面は庭からまた屋敷の中へ。

にせ王ベルフィオーレは、財務官に、

「君はやっぱりとても優秀だから、ジュリエッタとの結婚をやめてくれれば、ポーランド王女と結婚させて、君を大臣にしてあげよう」

なんてことを言うんですね。そんなこと言っていいんでしょうか。にせ王なのに。

財務官はまんまと喜び、承諾します。

にせ王がいったんその場を去ったところへ、男爵が登場します。財務官は、

「ポーランド王から大臣の位と王女とのご縁談をいただいたので、この婚約は破棄しまーす」

なんてことを言うんですが、男爵は激怒。

「ふざけるな!貴様!決闘だ!」

暴れる男爵、うろたえる財務官。みんなが駆けよってきます。

「どうしたのですか?何の騒ぎですか?」

「こいつが娘を拒否したのだ!」

ジュリエッタは喜びます。ポッジョ夫人も、

「それだったら、この若い男エドアルドと結婚させちゃえば?」

なんて言うんですが、男爵は

「いや、だめだ!」

なんて、また暴れています。

そこへにせ王が現れて、その場をとりなします。みんながにせ王に何とかしてください、と口々に願うフィナーレとなって、第1幕終了です。

ここまで大丈夫ですか?(笑)


続いて、第2幕。

屋敷では、召使いたちが、どうやら今夜の結婚式はなくなるんじゃないかと噂しています。そこへエドアルドが現れます。エドアルド、テノールなので、ここでテノールのアリアを歌います。一筋の希望が見えている、なんてことを言うんですね。

一方、にせ王ベルフィオーレは、ジュリエッタから、父親である男爵がなぜエドアルドとの結婚に反対するのか、というと、男爵自身が貧しくてですね、財務官の財産が目当てだったからと聞きます。そこでにせ王は、その場にいた財務官に、

「君の財産とお城の、たくさんあるうちの一つを、君の甥であるエドアルドに譲りなさい」

と、約束をさせます。もうなんだか、にせ王なのにやりたい放題ですね(笑)。

財務官1人になったところへ、またがやって来ます。まだ怒っているようです。いろいろ言い争った挙句、決闘になりかけて、逃げる財務官、追う男爵

さてポッジョ夫人、にせ王といよいよ対面しますが、やはりどう見てもベルフィオーレよね、とは思いつつ、にせ王と会話します。

「私を捨てて去っていった、とある騎士を私は許しません」

「(彼女、俺がベルフィオーレだって、気づいてるよな)いやいや、その騎士を許してやったらどうかね」

お互い、相手がどうやらとぼけているようだと悟りながらも、腹を探り合っています。若いエドアルドとジュリエッタのカップルとの対比で、こちらの二人はなんだか大人の恋愛、駆け引きの妙、が描かれているような気がします。

そこへ男爵が、ポッジョ夫人が今日結婚する予定の伯爵が間もなく到着する、ということを告げます。

夫人はベルフィオーレへの当てつけに、予定通り結婚する素振りを見せます。にせ王ベルフィオーレは、

「あの、例の騎士のことは、どうするんだね?」

なんてことを言うんですが、

「私をその騎士が愛しているなら、ここに現れて止めるでしょうけどね」

困ったベルフィオーレ。

「(どうすりゃいいんだ!任務は破れない!)」

一方、エドアルドとの結婚が上手くいきそうで嬉しそうなジュリエッタ。そこへエドアルドが駆け込んできて、そろそろ出発するポーランド王に、自分もついていかなくてはならないと告げます。驚くジュリエッタ。

私も一緒に行く、王にお願いする!と宣言して、にせ王のもとに2人で向かいます。

伯爵が到着し…この伯爵、ここしか出番がない役なんですが、ポッジョ夫人と結婚しようと、伯爵が到着しました。彼女は、

「1時間以内にベルフィオーレがここに現れなければ、この伯爵と結婚します」

なんてことを言います。

さあベルフィオーレ、いよいよ焦るんですが、そこへ、本物のポーランド王から手紙が届き、

「自分は無事にポーランドのワルシャワに到着した、ベルフィオーレ、お前の役目を解いてあげよう」

との知らせが来ました。ようやくにせ王は、自分を騎士ベルフィオーレだと名乗り、喜ぶポッジョ夫人。

それを聞いて、男爵や財務官はだまされた!と驚いて気づくんですが、まあでも、仕方ないか、と諦めます(笑)。

で、とうとう、ポッジョ夫人とベルフィオーレ、そして若い二人エドアルドとジュリエッタの2組の結婚が皆に祝福されたのでした。

めでたしめでたし!

ということで、いかがでしたでしょうか?

この作品、最後は無理矢理なハッピーエンドという気もするんですが、特にこの時代のオペラ・ブッファには、こういうことはよくあるんですね。

この作品、オベルト以上に資料が少なくてですね、しかも喜劇を言葉で説明するというのは、めちゃくちゃ大変です。大変でした(笑)。ですが、ちゃんと演奏されれば、明るい曲想の中に後のヴェルディの音楽性も垣間見れるようなとても面白い作品です。

で、これは、どなたかが書いていたことですが、この作品が仮にヒットしていたら、その後の、我々が知るヴェルディ作品はあり得たんだろうか。

そんなことも、なるほどな、と思うんですが、今こそ、フラットな感じで聴いてみてほしいと、そういう作品ですね。

皆さんも検索などして、ぜひこの作品に触れてみてください。

ありがとうございました。

髙梨英次郎でした。

参考文献(敬称略)

小畑恒夫「ヴェルディ 人と作品シリーズ」

ジュゼッペ・タロッツィ「評伝 ヴェルディ」小畑恒夫・訳

永竹由幸「ヴェルディのオペラ」

髙崎保男「ヴェルディ 全オペラ解説」

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