オペラ解説:ヴェルディ「シモン・ボッカネグラ」①成立、初演、改訂

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オペラ全曲ざっくり解説の文字起こしです。

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オペラ「シモン・ボッカネグラ」解説①作曲、初演、改訂 - テノール歌手:髙梨英次郎のトークです | stand.fm
ヴェルディ21作目「シモン・ボッカネグラ」作曲の経緯と初演、改訂版に至るまでの解説です。 味わってみれば、芳醇な香り漂う渋めの大名作! 文字起こしブログはこちら↓ 参考文献(敬称略) 小畑恒夫「ヴェルディ 人と作品シリーズ」「ヴェルディのプ...

こんにちは!テノール歌手の髙梨英次郎です。
本日もオペラをざっくり解説して参ります。
オペラって面白いですよ!

今回は、ヴェルディ作曲21作目のオペラ「シモン・ボッカネグラ」を取り上げます。
なかなか渋い作品ですが、一般的なオペラ解説本の中に入ることもある名作です。
斬新なオペラを作ることを目指していたヴェルディが、実在した人物、シモン・ボッカネグラの苦悩と人生をドラマティックに書き上げました。

詳しくお話していきます。


Giuseppe Verdi

前作「シチリアの晩鐘」( https://tenore.onesize.jp/archives/109 ) 初演を終えたヴェルディは、2年間のパリ滞在を終え、パートナーのジュゼッピーナと再び、故郷に近いサンタアガタの自宅に戻ってきました。
しばらくは農園経営にいそしんだヴェルディでしたが、やがて、また色々な契約で忙しくなっていきます。
その一つが、ヴェネツィアのフェニーチェ劇場との契約でした。
選んだ題材は、スペインの作家グティエレス原作の「シモン・ボッカネグラ」。
グティエレスは、「イル・トロヴァトーレ」(① https://tenore.onesize.jp/archives/103 ② https://tenore.onesize.jp/archives/104 ) の原作者でもあり、2度目の登場です。
台本作家はいつもの、ピア―ヴェ。

Piave

ところが、ヴェルディはピア―ヴェが書いた台本になかなか満足せず、何度も書き直しを要求します。
ようやく完成したオペラは、1857年3月12日、ヴェネツィアのフェニーチェ劇場で初演されました。ヴェルディ43歳。
初演は、ヴェネツィアの一般の聴衆には理解されませんでした。
あまりにも斬新すぎる音楽性とドラマだったのです。
その後の上演回数は、かつて「大失敗」とヴェルディが自ら言った「ラ・トラヴィアータ」(① https://tenore.onesize.jp/archives/107 ② https://tenore.onesize.jp/archives/108 ) を下回る6回で終わり、その後のミラノの上演でも評判とはなりませんでした。
ですが、批評家からはおおむね良い反応を得ます。


それから年月が流れて、1871年に「アイーダ」(① https://tenore.onesize.jp/archives/122 ② https://tenore.onesize.jp/archives/123 ) を初演し終えたヴェルディは、

「できることはもう全てやった、これでオペラを書くことから引退だ」

という気分になっていました。

ところが、出版社リコルディは、ヴェルディにまた新作を発表してもらって利益をもたらしてほしいと思っていて、ヴェルディの友人たちもしきりにヴェルディへ作曲を勧めていました。
幸い、年老いてもヴェルディは心身ともに元気でいました。
ヴェルディに良質な台本を提供できる人物として白羽の矢が立ったのが、アッリーゴ・ボーイトという人物でした。

Arrigo Boito

ボーイトは、自ら台本を書く作曲家として既にデビューしており、他の作曲家にも台本を提供していました。
ボーイトは自らを、新しいオペラ芸術の担い手だ、と自負していました。
そんなことから若気の至りとでも言いましょうか、ついにはヴェルディのオペラを「あれはもう古い」と批判した記事が話題になったことがあり、ヴェルディもそれを目にして、
「若い奴が生意気言いやがって」と、ある程度不愉快に感じて、お互い気まずい関係になってしまっていました。
でしたが、リコルディ社社長ティト・リコルディが仲立ちをして、1870年代終わりに、ヴェルディとボーイトはそれまでのしがらみを忘れて、仕事を共にすることになりました。
ボーイトの提案で、シェイクスピアの「オセロー」をオペラ化しようという計画が持ち上がりましたが、そちらはゼロから作るわけですので、とてもじっくり時間をかけていくことになります。
その前に共同作業の小手調べとして、ヴェルディは、世間にあまり理解されなかった「シモン・ボッカネグラ」を改訂してみたいと思うようになりました。
ボーイトもそれに応じて、2人で改訂作業を進めていくことになります。
改訂版は初演から24年後、1881年3月24日、ミラノのスカラ座で上演されました。ヴェルディ67歳。
スター歌手がそろったこともあって、公演は大成功を収めました。


以後、現代に至るまで「シモン・ボッカネグラ」が上演される際はこの改訂版が用いられることがほとんどです。
ヴェルディの期待通り、もしくはそれ以上の仕事を果たしたボーイトはこの後、「オテッロ」と「ファルスタッフ」※という、ヴェルディの最後の大傑作2つを残すことになります。

※「オテッロ」(① https://tenore.onesize.jp/archives/125 ② https://tenore.onesize.jp/archives/126)

「ファルスタッフ」(① https://tenore.onesize.jp/archives/127 ② https://tenore.onesize.jp/archives/128)


ここまで初演版と改訂版の成立についてお話しました。
内容とストーリーは、かなり説明が長くなってしまいますので、本日はここまでとさせていただきます。

ありがとうございました。

髙梨英次郎でした。


参考文献(敬称略)

小畑恒夫「ヴェルディ 人と作品シリーズ」「ヴェルディのプリマ・ドンナたち」

ジュゼッペ・タロッツィ「評伝 ヴェルディ」小畑恒夫・訳

永竹由幸「ヴェルディのオペラ」

髙崎保男「ヴェルディ 全オペラ解説」

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