オペラ全曲ざっくり解説の文字起こしです。
聴きながら読むと分かりやすい!音声はこちら↓

こんにちは!テノール歌手の髙梨英次郎です。
本日もオペラをざっくり解説して参ります。
オペラって面白いですよ!
今回は、ヴェルディ27作目のオペラ「オテッロ」の内容とストーリーをお話いたします。

「オテッロ」
ときは15世紀末
登場人物
オテッロ:ヴェネツィア共和国の軍人でムーア人(黒人)、キプロス島に司令官として赴任することになります
イアーゴ:ヴェネツィア軍の旗手(旗を持つ人)。オテッロに対し激しい嫉妬と憎しみを抱いています
デズデーモナ:オテッロの妻、純粋な心の持ち主
エミーリア:イアーゴの妻、デズデーモナの侍女
カッシオ:ヴェネツィア軍の隊長、オテッロの副官
ロデリーゴ:ヴェネツィアの貴族、デズデーモナに片想い
その他
<第1幕>
幕が上がると、序曲や前奏曲もなく前触れなくバー―ン!といきなり物語と音楽が始まります。
舞台は地中海東側のキプロス島。
海は嵐に見舞われています。
海沿いにある居酒屋の周りにキプロスの人々が集まっています。
海には司令官オテッロを乗せた船が見えます。

オテッロ率いるヴェネツィア軍とトルコ軍が海戦、海での戦いをしていたのでした。
大砲の音も聞こえてきます。
聴いただけで嵐の海が想像できるような、素晴らしい情景描写の音楽となっています。
様子を見ている人々の中には軍隊の旗手、イアーゴの姿もあります。
ぼそっと呟きます。
「あの海があいつの墓場になればいいのに」
どうやらイアーゴは、オテッロに憎しみを抱いているようです。
やがてオテッロを乗せた船は無事に岸へとたどり着き、オテッロが颯爽と登場します。

「みな喜べ!トルコ軍は海に沈んでいった。嵐がやつらを打ちのめしたのだ!」
「勝利だ勝利だ!」
オテッロ登場のソロはわずか12,3小節の短いものですが、これだけでオテッロがいかに英雄的かを表すことが出来るものとなっています。
歌い終えるとオテッロは去っていきます。
喜ぶ民衆の片隅で、イアーゴが貴族ロデリーゴに話しかけます。
ロデリーゴは、オテッロの妻デズデーモナに惚れていて苦悩していました。
オペラでは描かれませんが、デズデーモナは父親の反対を押し切って、駆け落ち同然でオテッロと結婚したのでした。
オテッロは結婚式もせぬまま、ヴェネツィア総督の命令で、トルコとの戦争に臨んでいました。
今夜はオテッロがデズデーモナとようやく2人きりで過ごすことが出来る結婚初夜でもあるのです。
イアーゴは落ち込むロデリーゴに、
「いつかはあの夫にも飽きるでしょう、私があなたに協力して差しあげますよ。
私はあのムーア人(オテッロのこと)が大嫌いなのです。」
なぜ大嫌いなのか、そこに現れたオテッロの副官カッシオを指して、またイアーゴは語り出します。
「あのキザな副官殿が私の地位を奪ったのです。
私の方がたくさん戦で成果を上げたのに!」
と、カッシオが自分を差し置いて副官になったことで、イアーゴはカッシオもオテッロのことも憎んでいるのです。
オテッロに対しては、根底に肌の黒いものへの差別心があり、オテッロが公私ともに順調であることに対してあからさまに嫉妬をしています。
ここから、物語はイアーゴがいかにオテッロたちをおとしめていくか、復讐していくかということが軸となっていきます。
ヴェルディは途中まで、タイトルを「オテッロ」ではなく「イアーゴ」にしようとしていたぐらい、このイアーゴという人物の表現に力を注いでいます。
人々が居酒屋の中や外に集まり、外では焚火を囲んで、楽しく祝杯を挙げています。
イアーゴはロデリーゴと共に、カッシオへ
「もっと飲みましょうよ」
と誘いかけます。
すでにイアーゴによるオテッロへの復讐計画は始まっていて、酒に弱いカッシオを酔わせて失態を演じさせようとしています。
イアーゴ主導で、「オテッロ」版”乾杯の歌”が歌われます。
その音楽はただ楽しいものではなく、なんともダークな曲調で、根底にはイアーゴの悪だくみがどす黒く流れているかのようです。
まんまと飲まされたカッシオはすっかり酔っ払ってしまい、もうフラフラです。
イアーゴはロデリーゴに、
「カッシオに喧嘩を吹っかけて騒ぎにするのです。そうすればオテッロたちの初夜もむちゃくちゃになりますよ」
とけしかけます。
酩酊状態のカッシオを見て、前の司令官で厳格な軍人モンターノが呆れます。
ロデリーゴに挑発されてバカにされたカッシオは、ついに剣を抜きます。
それを止めようと、モンターノも剣を抜き、カッシオと切り合いになります。
ロデリーゴはイアーゴに指示を受け、
「暴動だ暴動だ!」
と騒いで鐘を鳴らし、ことを大きくしていきます。
モンターノはカッシオに切られて負傷してしまいました。
騒ぎがどんどん大きくなっていったところへ、
部屋着のまま現れたオテッロが一喝します。
「剣をおさめよ!!」
一瞬にして騒ぎが静まります。
「何があった!?イアーゴ、説明してくれ」
「いやぁ…、さっきまで楽しく飲んでいたのに、なぜだかわからないのですが、急にこのような騒ぎが起きまして…」
イアーゴ、めちゃくちゃとぼけます。素知らぬ顔です。
カッシオはすっかりしゅん、となっています。
モンターノが負傷しているのを見て、オテッロは驚きます。
しかもあまりの騒ぎに新妻デズデーモナまでもが眠りから覚めて外に出てくるので、オテッロはもう激怒。
カッシオを副官の座から降ろすことを告げます。
イアーゴは、カッシオがショックで落とした剣を拾いながら、「勝利だ!」とほくそ笑みます。
オテッロは皆に帰宅するよう命じます。
2人になったオテッロとデズデーモナが、穏やかに語り合います。

穏やかでありつつ愛の情熱と喜びにもあふれた二重唱。
オテッロはその肌の黒さゆえに周りから差別を受けてきました。
しかしデズデーモナはそんなオテッロの苦しみを憐れみ、だからこそ、オテッロは自分に寄り添ってくれたデズデーモナを深く愛しています。
しかし、最後に口づけを交わす音楽が、オペラの最後でなんとも悲しく繰り返されることになります…。
こうして第1幕が終了します。
<第2幕>
城の中、庭園につながる大広間
イアーゴが今度は、副官を辞めさせられてしょげているカッシオに近づきます。
「オテッロ将軍の奥方デズデーモナ様にとりなしてもらいなさい。
あの方はお優しいから、きっと将軍にあなたのことを許してもらうよう、取り計らってくれますよ」
カッシオをにこやかに送り出したイアーゴは、彼が去ったとたん表情を変え、音楽も一気に悪魔的になります。

そこからいわゆる”Credo 信条”とも題される、イアーゴのアリアが歌われます。
彼は神を無慈悲な存在と位置付けていて、人間は神によって作られた取るに足らぬ存在と思っています。
「俺は悪人だ、なぜなら人間だからだ!」
ヴェルディとボーイトは、イアーゴを演じるにあたって
「わざとらしく悪を演じないでほしい」と注釈を書いています。
ヴェルディは「善人面をしたイアーゴ」という表現をいたく気に入り、そのように描きました。
このアリアは、そんなイアーゴがその邪悪な本音を高らかに宣言する唯一の箇所として、非常に興味深いものです。
庭の方に、デズデーモナが現れます。
侍女のエミーリアが付き従っています。
このエミーリアはイアーゴの妻なのですが、エミーリアは夫がなにかよからぬ事を企んでいそうだとは察しますが、具体的にはわかりません。
イアーゴは戻ってきたカッシオに、デズデーモナの方へ行くよう指示して、その様子を遠くから眺めます。
「カッシオとデズデーモナがにこやかに話し合っているな、よしよし、ここにオテッロが来れば…」
そこへちょうどよくオテッロが通りかかってきます。
イアーゴはオテッロに気づかないふりをして呟きます。
「いやぁ、困ったなー…。」
「おいどうした?」
「あ、いいえ、なんでもございません…!あなたがここにいらっしゃるとは!」
「妻と話して離れて行ったのは、カッシオか?」
「カッシオ?いやー、どうでしょう、かねー。ぶっちゃけオテッロはカッシオを信用なさってますか?」
「お前はあいつが誠実だとは思わないのか?」
「誠実だとは思わないのかですって?」
「何か隠しているのか?」
「何か隠しているのかですって?」
「マネすんな!!」
イアーゴはもうほんとにいやらしーく、オテッロの心に少しずつ疑念を植え付けていきます。
「一体何なんだ!お前そういえば、『困ったなー』とか呟いていたな。言え!」
「いやーもうほんとにね、嫉妬ってものには気を付けたほうがよろしいですよねー」
と、奥歯にものをはさみながらイアーゴはオテッロに話していきます。
だんだんとカッシオへの嫉妬に心をむしばまれていくオテッロ。
「何か証拠を持ってくるのだ!」
遠くではデズデーモナがキプロスの島民たちから花を贈られている平和な声が聞こえます。
闇に落ちて行くオテッロとの対比となっています。
島民たちが去ると、デズデーモナはオテッロに話しかけます。
イアーゴは遠くからその様子を見ています。
「あなた、カッシオがひどく落ち込んでいますわ、彼のことをお許しになっていただけませんか?」
イアーゴから心に毒を注がれているオテッロは、妻の言葉を聞いて苛立ちます。
「だめだ!」
なぜ夫がいら立っているのか、デズデーモナはわかりません。
心の動揺からかオテッロは汗をかいてきます。
デズデーモナは汗をぬぐおうとハンカチをあてがいますが、オテッロはその手を振り払い、ハンカチは地面に落ちます。

そのハンカチは侍女エミーリアが拾ったのですが、イアーゴは妻の手からそのハンカチを半ば強引に奪い取ります。
このハンカチはオテッロが妻に贈り物として与えたものでした。
そのハンカチをイアーゴは悪事の小道具にしようというようです。
ここはとても興味深い四重唱となります。
デズデーモナとエミーリアが去ると、オテッロは力なく椅子にへたりこんでしまいます。
オテッロの心はすっかり、デズデーモナへの疑念で溢れています。
オテッロは設定として、年齢が40代を過ぎているとあり、年下の妻に対して自分の男性としての能力にもコンプレックスを抱いている節があります。
だから若いカッシオと不倫に至ったのか…!
イアーゴは手にしたハンカチを、カッシオの家にこっそり置いておこうと計画しているようです。
イアーゴの姿を見たオテッロは怒りをぶつけます。
「確かな証拠を持ってこい!でないとお前の頭上に稲妻が落ちるぞ!!」
怒りのあまりオテッロはイアーゴにつかみかかり引きずり倒します。
イアーゴも大芝居を打ちます。
「あーもう、神様!こんなことになるのなら言わなきゃよかった!
もう軍の旗手も辞めます!正直でいるのは危険なものですね!!失礼します!!」
去ろうとするイアーゴをオテッロは止めます。
「ちょっと待て!お前は正直なのかもしれない…。」
「嘘つきでいられた方がよっぽどよかったです!」
「俺は信じたいんだよ、妻も、おまえも…。」
そんなオテッロにイアーゴは話していきます。
「カッシオのやつ、寝言でデズデーモナ様のことをつぶやいていたのです。『僕たちの愛は秘密にしていよう』とかなんとか…。
それで、デズデーモナ様が持たれていたハンカチを、持っていたのです、…カッシオが!」
ここまで聞いたオテッロはついに怒りを爆発させます!
ついにオテッロは復讐の鬼と化してしまいました。
「血だ!血だ!!血を見るのだ!!!」
神に復讐を誓うオテッロ、イアーゴも一緒になって復讐を歌う、非常にドラマティックな二重唱となって、第2幕が終わります。
<第3幕>
第2幕とはまた違う、城の大広間。奥にバルコニーがあります。

オテッロとイアーゴがいます。
伝令が、ヴェネツィアから大使たち一行を乗せた船が海にいて、こちらに向かっていることを告げます。
伝令が去ると、イアーゴはオテッロに、
「ここへカッシオを連れてきて、本音を喋らせましょう」と提案します。
しかしその前にデズデーモナが近くにやって来るので、イアーゴはその場を去ります。
デズデーモナは再びオテッロにカッシオを許してもらうよう頼もうとしますが、カッシオの名前を聞いた途端、オテッロは苦しみます。
ハンカチをまた当ててくれ、と頼まれてデズデーモナは第2幕の時と違うハンカチを出しますが、オテッロは
「それじゃない!おれがあげたやつだ!あれはどこにやった!?」
と問いただします。
「どこかへ落としてしまったのかしら、いま無いのです…」
「なくしたのか!?ただではおかないぞ!ハンカチは、ハンカチはどこだ!?」
その怒りようにデズデーモナは怯えます。
オテッロは、しまいには涙を流しながら
「お前は俺を裏切ったんだろう、さがれさがれ!お前は娼婦か!」
デズデーモナは大変なショックを受け、必死に否定します。
「違います!私はあなたを裏切ってなどいません!」
しかしもはや聞く耳を持たないオテッロは、デズデーモナにひどい言葉を投げつけます。
「いや、悪かった。お前が娼婦だと思っていたもんでね!!」
たまらずデズデーモナは広間を出て行きます。
やがてドラマティックなオーケストラ演奏のあと、1人になったオテッロは、途切れ途切れに苦しみを独白していきます。
その絶望が頂点に達した時、イアーゴが告げます。
「カッシオが来ました」
オテッロは「Oh, gioia!! 嬉しいことだ!!」と叫びますが、これはもちろん、言葉とは裏腹の感情を歌ったものです。
イアーゴはオテッロに柱の陰に隠れているよう指示します。
そうしてイアーゴは、カッシオと会話をして、それを隠れているオテッロに聞かせようというわけです。
イアーゴはカッシオに
「あの女性のことを教えてくださいよー(小さな声で)ビアンカさんの」
ビアンカとは、カッシオが実際に愛人として付き合っている女性のことです。
ビアンカは原作には出てきますが、オペラには登場しません。
イアーゴは、ビアンカの名前だけ小さな声で言ったので、隠れて会話を聞いているオテッロはすっかり、カッシオがデズデーモナのことを話していると誤解してしまいます。
カッシオはのろけて笑うので、オテッロの怒りは募るばかりです。

カッシオは続けます。
「そういえば、見知らぬ人から贈り物が届いてね、これが誰からのものか知りたいんだよ」
「それをお持ちですか?」
「これなんだけどさ」
そう言ってカッシオが懐から取り出したのは、あのハンカチでした!
もちろんイアーゴがカッシオの家にこっそり届けさせたのです。
イアーゴはそれをカッシオから借りて手に取り、隠れているオテッロに見えるように振り回します。
「(あのハンカチだ!!もうおしまいだ!!)」
オテッロとしては、もうデズデーモナとカッシオの不倫の罪が確定した瞬間です。
カッシオはイアーゴから返されたハンカチを、ビアンカちゃんからかなぁ、と愛し気に持っています。
ドラマ的に緊張感のある三重唱です。
そこへファンファーレが鳴り、ヴェネツィア大使の一行が到着したことが知らされます。
イアーゴはカッシオを去らせます。
オテッロは自分を裏切った妻を殺す決意を固めてしまいました。
イアーゴの進言に従い、デズデーモナを寝室で亡き者にすることを決意します。
イアーゴは、「カッシオは私がやります」と告げます。
オテッロはイアーゴを自分の副官に任命すると、ヴェネツィアの大使一行を出迎る準備をします。
やってきたヴェネツィア大使一行。
広間に人々が集まってきます。
大使のロドヴィーコはヴェネツィア総督からのメッセージをオテッロに渡します。
そこにオテッロの妻デズデーモナも現れます。
大使ロドヴィーコが、ここにいないカッシオのことをイアーゴに尋ねてデズデーモナが答えていると、急にオテッロが逆上して「黙っていろ!!」と妻に声を荒げます。
大使ロドヴィーコは「これがあの英雄オテッロなのか」と、オテッロの妻に対する横暴さを見て不審に思います。
オテッロはカッシオを呼び出して、皆に告げます。
「ヴェネツィア総督の命で、私はヴェネツィアに帰還することになった。
私の後任としてキプロス島の司令官に任命されたのは、カッシオだ!」
これはオテッロにとってもイアーゴにとっても驚きの人事でした。
そしてオテッロは、デズデーモナに荒々しく言い放ちます。
「明日出発だぞ、おら、ひざまずいて泣け!!泣きゃいいだろうが!!」
要は、お前が愛するカッシオと離れることになって悲しいだろう、ということですね。
デズデーモナからしたら何のことやらわからず、急に人々の面前で夫から罵声を浴びせられ、大変なショックを受け地面に倒れこんでしまいます。

周りの人々もわけがわからぬまま呆然として、それぞれの心情を歌います。
イアーゴはオテッロに、妻の殺害を今夜にでもするよう耳打ちし、またカッシオの殺害は貴族ロデリーゴにやらせようと、彼をそそのかします。
オテッロはやがて怒りを抑えきれなくなり、半狂乱で人々を追い出します。
そして「あのハンカチが、ハンカチが…!!」とつぶやきながら、ひきつけを起こしたように気を失って倒れてしまいます。
その様子を
「俺の毒が回ってきたようだな」と、冷たく見下ろすイアーゴ。
外からは民衆がオテッロを
「ばんざい、オテッロ!ヴェネツィアの獅子!」
とたたえる歌を歌っていますが、イアーゴは倒れているオテッロを見ながら
「これがその獅子だよ」
と言い放って、、第3幕が終了します。
<第4幕>
その日の夜。オテッロとデズデーモナ夫婦の寝室。
デズデーモナは、落ち着きを取り戻したかに見えるオテッロから、寝室で支度を整えて待っているよう言われていました。
支度を手伝う侍女エミーリアとの対話です。

「婚礼の時に来ていた白いドレスとヴェールを広げておいて。
私が死んだらこのヴェールと一緒に埋葬してね」
エミーリアは
「そんなことおっしゃらないでください!」とたしなめます。
昔デズデーモナの家に仕えていた女中が男に捨てられて、その時に歌っていた”柳の歌”を、デズデーモナも歌い出します。
その歌はとても物悲しく、歌の最後には
「私は彼を愛するために、そして死ぬために、歌いましょう」
とあり、先ほどの発言からも、デズデーモナは何となく死が迫っている予感がしているようです。
部屋を出て行くエミーリアに別れを告げるのも、まるで今生の別れのようにドラマティックな叫びと音楽が演奏されます。
1人になったデズデーモナは”アヴェ・マリア”を祈りながら歌います。
やがて浅い眠りについたデズデーモナ。
そこへ扉からオテッロが静かに入ってきます。
重々しい音楽はオテッロの心の暗い奥底を表しているかのようです。
やがて音楽は第1幕最後の”口づけのテーマ”となり、オテッロは妻にそっと口づけをします。
目を覚ますデズデーモナ。
しかしオテッロは妻への暗い殺意を抱いたままでした。
殺す前に罪を告白させようと、カッシオのことを問いただします。
「あいつのことを愛していたのか?」
「いいえそんなことはありません!」
「ハンカチをカッシオに渡しただろう?」
「渡してません!カッシオを連れてきてください」
「あいつは今頃死んでいる」
「そんな…!」
「お前は死ぬのだ」
そして、ついに、オテッロは妻の首を物凄い力で絞めあげてしまいます…。

そこに扉を激しくたたく音、エミーリアの声がします。
「開けてください!」
駆けつけてきたエミーリアによると、カッシオは自分を殺しに来たロデリーゴを返り討ちにしたとのこと。
「カッシオは生きているのか!」
そしてエミーリアは力なく倒れているデズデーモナを発見します。
デズデーモナは虫の息で、最後の言葉を発します。
「私は、、無実の罪で、、死ぬのよ…。」
「そんな!誰がこんな事!」
「俺がやったのだ」
「どうしてこんなことを!?」
「この女はカッシオと不倫していたのだ」
「誰がそんなことを!?」
「イアーゴに聞いてみろ」
「バカなことを!あの男を信じたのですか!?誰か!誰か来て!!オテッロ様が奥様を殺したわ!!!」
やがて大使ロドヴィーコやカッシオ、モンターノたちが駆けつけてきます。そこにはイアーゴの姿も。
オテッロは剣を手にします。
エミーリアは夫イアーゴの悪事を皆にばらします。
「あのハンカチはこの男が、私から力ずくで奪い取ったのです!」
イアーゴがカッシオ暗殺をけしかけたロデリーゴも、死に際にイアーゴのことを白状したとのこと。
全ての罪が明るみになった瞬間、イアーゴは尻尾を巻いてその場から逃げ去ります。
自分のしたことに愕然とするオテッロ。
持っていた剣を渡すよう、大使ロドヴィーコに言われて、オテッロは途切れ途切れに歌い出します。
「皆、私を恐れなくていい。
私が歩んできた道は、栄光は、オテッロは、もう終わりだ…。」
オテッロは剣を地面に落とします。
「敬虔な女よ、デズデーモナ、こんなに冷たくなって…ああ、死んでしまった…。
…武器はまだある!!」
そういって懐から短剣を出し、オテッロは自らの胸に突き立てます!!
そして”口づけのテーマ”がもう一度流れる中、オテッロはデズデーモナの横に倒れ、口づけしようとしつつもかなわず、息絶えるのでした。
こうしてオペラ全体の幕が、静かに下ります。
いかがでしたでしょうか。
その音楽は「アイーダ」 ( ① https://tenore.onesize.jp/archives/122 ② https://tenore.onesize.jp/archives/123 ) までのものとは全く違うのに、ヴェルディのカラーを微塵も失っていない素晴らしいものです。
それまでのイタリアオペラは曲の番号で区分されていることがほとんどでしたが、この「オテッロ」では幕の間中、音楽はほとんど途切れることがありません。
ボーイトという類まれなる知性を持った文学者的台本作家を相棒に迎えたことで、ヴェルディのオペラはより高い次元へ発展することが出来ました。
巨匠ヴェルディが73歳にして世に生み出した究極のイタリアオペラ「オテッロ」、多くの皆様に触れていただけることを願っております。
ありがとうございました。
髙梨英次郎でした。
<参考文献(敬称略)>
小畑恒夫「ヴェルディ 人と作品シリーズ」「ヴェルディのプリマ・ドンナたち」
ジュゼッペ・タロッツィ「評伝 ヴェルディ」小畑恒夫・訳
永竹由幸「ヴェルディのオペラ」
髙崎保男「ヴェルディ 全オペラ解説」
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