オペラ全曲ざっくり解説の文字起こしです。
聴きながら読むと分かりやすい! 音声はこちら↓
こんにちは!テノール歌手の髙梨英次郎です。
本日もオペラをざっくり解説して参ります。
オペラって面白いですよ!
今回は、ヴェルディ26作目のオペラ「アイーダ」の内容とストーリーに移って参ります。
ヴェルディ作品の到達点にして大傑作「アイーダ」、どうぞお楽しみください。
それでは参ります。
「アイーダ」
古代エジプトのお話です。
<登場人物>
アイーダ:エチオピアの王女だが、エジプト王女アムネリスの奴隷となっている
アムネリス:エジプト国王の娘
ラダメス:エジプトの将軍
アモナズロ:エチオピア国王、アイーダの父親
ランフィス:祭司長
エジプト王:アムネリスの父親
その他
オペラは短い前奏曲で始まります。
静かなヴァイオリンの音が、アイーダのキャラクターを表現した旋律を奏で、そこにエジプトにおける宗教の祭司たちを表す不穏な音楽が差し込まれる、物語の導入として申し分のない曲です。
<第1幕第1場>
古代エジプトの首都メンフィスにある王宮内の広間
エジプトの宗教で一番偉いお坊さんであるランフィスと、将軍ラダメスの対話です。
エジプトと敵対関係にあるエチオピアが再び攻めてこようとしています。
迎え撃つ軍勢の最高指揮官を誰にするかをランフィスは女神イシスに聞いてきました。
日本で言う卑弥呼の時代にあったような、占い祈祷のような儀式が行われたのでしょう。
神の言葉が誰を指名したかの結果を将軍ラダメスは早く聞きたいのですが、ランフィスはまず王に報告しなくてはいけないので、ここでは言いませんが、それとなくラダメスが選ばれたであろうことを匂わせて、退場します。
ラダメスは
「もし俺が指揮官に選ばれたなら、その勝利をアイーダに捧げよう!」
と、自分が愛する女性の名前、主人公アイーダの名前を出して、「清きアイーダ」として有名なアリアを歌います。
アイーダは敵国エチオピアの王女、国王の娘なのですが、ラダメスはそのことをまだ知りません。
でも、アイーダがエチオピア人であることはわかっているはずですので、エチオピアと戦っての勝利を捧げられても、アイーダも困ってしまうでしょうね。
そういったところからも、愛に対してまっすぐ過ぎるラダメスの性格が表されています。
そこにエジプト国王の娘アムネリスが登場します。
アムネリスはラダメスに想いを寄せているのですが、ラダメスがぽーっとしていたのを見て、彼の想いが自分に向いていないことを察します。
ラダメスとしては、敵国の娘を愛していることがよりにもよって王女アムネリスにバレてしまうと、ただでは済みません。
アムネリスに何を考えていたのかを聞かれたラダメスは、一生懸命誤魔化します。
「私が、最高指揮官に選ばれればいいなーと考えておりました。。」
そこに折悪しく、アムネリスに奴隷として仕えているアイーダが入ってきます。
ラダメスはアイーダが目に入ると、非常にわかりやすく動揺します。
アムネリス王女はラダメスの反応を見逃さず、
「もしや私のライバルはアイーダ!?」
と早速気づいてしまいます。
アイーダは気落ちしていて、その理由を、
「自分の故郷エチオピアとエジプトが戦争を始めようとしているからです」
とアムネリスに説明しますが、心の内ではそれだけでなく、自分にとっては敵国の将軍ラダメスを愛してしまっていることに苦悩しているのでした。
探りを入れるアムネリス、困りつつ追及をかわすアイーダ、2人の間で冷や汗をかくラダメスの三重唱です。
そこにファンファーレが鳴り響いて、エジプト国王が登場します。
大勢の衛兵たち、ランフィスを始めとする僧侶たちを従えています。
1人の伝令が、エチオピア軍がエジプトの国境を越えて町を襲い、進軍してきているとの知らせを告げます。
しかも、エチオピア国王アモナズロが自ら兵を率いているとのこと。
それを聞いたアイーダは密かに驚きます。
「(お父様!)」
アモナズロはアイーダの父、アイーダは国王の娘、エチオピアの王女です。
ラダメス以外のエジプト勢も誰一人、アイーダがエチオピアの王女だとは知りません。
「戦いだ!戦うぞ!」
皆一斉に声を上げていきます。
そして、神に選ばれた最高指揮官の名前が発表されます、それは、ラダメス!
喜ぶラダメス。
全員がラダメスに向けて唱和します。
「Ritorna vincitor !! 勝者としてお戻りください!」
意気揚々と出陣の準備に向かうラダメス、そして一同はその場を去っていきます。
そこに1人残ったアイーダ。
ラダメスを愛しているアイーダも、つい皆と一緒に「勝者としてお戻りください!」
と声を上げましたが、ラダメスが勝つということは、父親のエチオピア軍が負けるということ。
父親を取るか恋人を取るか、祖国か愛か。
矛盾した心に苦しみながら、アイーダは神々へ祈りを捧げるアリアを歌います。
<第1幕第2場>
エジプトにおける火を司る神の神殿で。
ランフィスや僧侶たち、巫女さんたちがエジプト軍の勝利を祈っています。
巫女さんたちの神聖な踊りが披露されます。
やがてそこに出陣直前のラダメスが入ってきて、全員で、厳かな儀式風のフィナーレとなって、第1幕が終了します。
<第2幕第1場>
エジプト王女アムネリスの宮殿内の一室。
エジプト軍がエチオピア軍を打ち負かした知らせが既に入ってきています。
アムネリスと取り巻きの女性たちが喜びつつ、祝宴の準備をしています。
ここで少女たちによるダンスが踊られます。
そこへ、沈んだ表情のアイーダが入ってきます。
アムネリスは取り巻きの女性たちを下がらせ、アイーダと二人きりになります。
アイーダの祖国エチオピアが負けたことを、アムネリスは表向きの優しさで慰めます。
しかしアムネリスの本心は、アイーダがラダメスを愛していることをなんとか探り出そうというものでした。
アムネリスは
「ラダメスは、戦死しました。あなたの国の者どもに殺されたのよ!」
と告げると、アイーダは大層驚き、悲しみます。
アイーダが、敵側であるエジプト将軍の死をこんなに悲しむなんて、
「やはりあなたラダメスを愛しているのね、死んだなんて嘘よ!」
アムネリスはアイーダを試したのでした。
こうなっては、アイーダもラダメスへの愛を隠しません。
「あなたがライバルなのですね。でもあなたはエジプトの王女、私は奴隷。あなたの方が幸せです!」
そこへ、祝典が間もなく始まるであろう合唱と音楽が外から聞こえてきます。
アムネリスはラダメスを独占することをアイーダに宣言して、祝典に向かいます。
アイーダはひたすら神に祈りつつ、アムネリスの後を追っていきます。
女性同士の緊張感あふれる駆け引きが見どころ聴き所の二重唱でした。
<第2幕第2場>
いよいよ、「アイーダ」で最も有名なシーンが始まります。
ラダメス率いるエジプト軍の凱旋です。
広場は群衆で埋まっています。
歓喜の合唱が歌われる中、エジプト国王、王女アムネリス、彼女に従うアイーダ、ランフィスを始めとする僧侶たちが次々と入場して、ついにあの華々しい凱旋行進曲が演奏されます。
演出によってはここで本物の馬や、会場によっては象が登場したりと、一番お金がかかるシーンでもあります。
そして、いかにもエジプトっぽい雰囲気の音楽でバレエダンスが踊られて、再び歓喜の合唱となり、そこに、勝利の栄光に輝いたラダメスが堂々と入場します。
エジプト国王はラダメスに
「お前が望むものを何でも与えよう。」
と告げるので、ラダメスはまず、捕虜としたエチオピアの人々をここに連れてこさせます。
その中の一人を見てアイーダは驚愕します!
「お父様!!」
それはアイーダの父で、エチオピア国王アモナズロだったのです。
駆け寄ったアイーダにアモナズロは、即座に耳打ちします。
「俺の正体を言うんじゃないぞ…!」
アモナズロは士官の服を着て変装しており、
「我がエチオピアの王アモナズロは戦死しました」
と嘘をつきます。
誰もエチオピア王の顔を知らないのでそれができるのですね。
アモナズロやアイーダは、捕虜となった自分たちの命を助けてもらうよう懇願します。
しかしランフィス達僧侶は、
「いけません、この者たちを生かしておいては災いの元です」
と反対します。
ラダメスはエジプト国王に、
「褒美として、この者たちの命を助けてやっていただきたいのです。」
愛するアイーダのこともあって、ラダメスはそんなお願いをするのです。
何でもあげる、と神に誓った国王は、ラダメスの願いを聞き入れます。
そして、王女アムネリスと結婚する許可を与え、恐らく国王に息子はいないのでしょう、将来エジプトをお前が支配するのだ、と告げます。
エジプトの将軍としては、もうほんとこれ以上ない名誉なわけですが、アイーダを愛する純粋なラダメス君は内心困ってしまいます。
アムネリスはラダメスと結婚できることを心から喜んでいます。
アイーダは、父親の命は助かったものの、ラダメスがアムネリスのもとに行ってしまう、とガックリしています。
アモナズロは虎視眈々と、復讐の機会をうかがっているようです。
それぞれの思いが交錯して、第2幕が終わります。
<第3幕>
夜、ナイル川のほとり、近くには神殿があります。
神殿からは巫女や祭司たちが歌う声が聴こえます。
アムネリスが婚礼の祈りを捧げに神殿へ入っていきます。
その様子を物陰から見ていたアイーダが現れます。
ラダメスとここで逢引する約束をしているのですが、アイーダの心は不安に苛まれています。
彼女は、故郷エチオピアの青い空、そよ風、緑の丘を懐かしむ素晴らしいアリアを歌います。
そこに現れたのは恋人ラダメス、ではなく、なんと父親アモナズロでした。
アモナズロは娘の様子から、ラダメスのことを愛していると察していました。
「思い出せ!かつて我がエチオピアにエジプトが攻めてきて、神殿を焼き払い、老人子供を殺され、女性たちをさらっていったことを。」
その時にアイーダ自身もさらわれ、それ以降アムネリスの奴隷となっていたのです。
そしてアモナズロはアイーダにあることを命じます。
「エジプト勢がまたもエチオピアに攻め込もうとしている。
その軍勢がどの道から攻めてくるのかがわかれば、そこを避けて、その間にエジプトの首都メンフィスへ我がエチオピア軍が攻め込むことが出来る。
お前がラダメスから、どの道を通るのか聞きだすのだ!」
「そんな!だめです!できません!」
「そうか、それならもうエチオピアはおしまいだ、お前は俺の娘でもなんでもない!」
と激しく罵倒され、亡き母親のことも持ち出され、とうとうアイーダはアモナズロの指示に従うことを約束します。
それを聞いたアモナズロは、ラダメスがやってくる気配を察知して木の陰に隠れます。
そして、愛の想い全開といった感じでラダメス登場です。
「愛しいアイーダ!」
「嘘、あなたは王女アムネリス様と結婚なさるのでしょう」
「そんなことないって!愛しているのは君だけだ!
エチオピアとの戦争がまたあるから、それに勝てば、また王様から褒美がもらえる。
そうしたら、アイーダ、君とのことを打ち明けるよ!」
「アムネリス様が怖くないのですか?」
「俺が守るさ!」
「いえ、それより、ここから2人で逃げましょう!」
「逃げるだって!?」
ラダメスはエジプトでの栄光を捨てていくことに戸惑いますが、アイーダに
「私のことを愛していないのね!」
なんて言われてしまったので、ついに決心します。
「わかったよ!一緒に逃げよう!!」
「逃げるには、エジプトの軍隊を避けなくては。軍隊がいないのはどの道ですか?」
「ナパタの谷だ」
「ナパタの谷だな!」
と、木陰からアモナズロが姿を現します!
「お前は!?」
「アイーダの父にして、エチオピアの国王だ!!」
それを聞いたラダメスは気が動転してしまいます。
「お前が…アモナズロ!?…エチオピアの王!?…俺は何を言ってしまったのだ…、嘘だ…これは夢だ…」
アイーダとアモナズロに促され、ラダメスもそこから立ち去ろうというその時!
神殿から出てきたアムネリスとランフィス達僧侶にその場を取り押さえられてしまいます!
「裏切者!!」
恋敵と一緒に行こうとしたラダメスをアムネリスは怒りと嫉妬でそう叫びます。
アモナズロはとっさに、アムネリスへ刃を向けようとしますが、ラダメスに止められたので、仕方なくアモナズロはアイーダと共に逃げていきます。
ラダメスは、無抵抗のまま、
「俺はここに残ります!!」
と叫んで、祭司長ランフィスへ自分の身をゆだねるのでした。
こうして第3幕が終了します。
<第4幕第1場>
王宮内の広い部屋。
王女アムネリスが悲し気にたたずんでいます。
ラダメスは次期国王の座から一転、国を裏切った罪人として裁かれようとしています。
国も自分も裏切ったラダメスを、アムネリスはそれでも愛していました。
何とか彼を助けたい!
アムネリスは牢獄にいるラダメスを呼びに行かせます。
やってきたラダメスは、既に死を覚悟しています。
そんな彼にアムネリスは、弁明して死刑を免れるよう、必死に頼みます。
「あなたは私との愛に生きるのよ!私のすべてをあなたに捧げるわ!」
「いいえ、名誉も何もかも失いました。生きていく意味はありません。
アイーダの命も奪ったのでしょう?」
ラダメスはエジプト勢によってエチオピア勢が打ち負かされたと聞いていたので、アイーダも死んだと思ったのですね。
ところが、アモナズロは殺したが、アイーダは取り逃がしたとのこと。
「彼女が生きている!」
「あなたを救うから、もうあの女には会わないと誓って!」
というアムネリスにラダメスは
「できません!アイーダのために死ねるなら、本望です!」
そしてラダメスは衛兵によって、再び牢獄へ連れて行かれます。
1人、絶望してその場に残るアムネリス。
やがて奥から裁判が始まる声がして、ラダメスは法廷に連れて行かれます。
奥から裁判が進行していくのが聴こえます。
祭司長ランフィスがラダメスに罪状を3回問いただしますが、ラダメスは3回とも無言のまま。
そのたび、司祭たちはいっせいに「裏切者!」となじります。
その様子をただ聴いていることしかできないアムネリス。
ラダメスへの刑が決定しました。
それは、怒れる神の祭壇の下に閉じ込められ、重ーい石の蓋をされて出てこられないようにする、いわば生き埋めの刑です。
牢屋のような空間はありますが、恐らくすぐに酸素が薄くなって死に至ってしまうでしょう。
判決に納得がいかず、耐え切れなくなったアムネリスは、ランフィスを始めとする司祭達に必死にラダメスの助命を懇願しますが、受け入れられません。
アムネリスはランフィス達に叫びます。
「あなたたちなんて呪われてしまえばいいのよ!!」
こうしてこの場面が終わります。
<第4幕第2場>
祭壇の下の地下牢、今まさにラダメスが閉じ込められたところです。
ラダメスが人生を1人で終える覚悟をしつつ、アイーダのことを思い起こしたその時!
地下牢にいるはずのない人影が…
あれは…
「アイーダ!!!??」
「そうよ!」
なんとアイーダは、ラダメスの判決を察知して、一足先にこの地下牢に隠れてラダメスを待っていたのでした。
「そんな!アイーダ、君が若くしてこんなところで死ぬなんて!」
アイーダは、出版社リコルディの設定によると、20歳だそうです。
ラダメスは石の蓋を開けようとしますが、とても人の力で持ち上がるような重さではありません。
「もういいのです、私たちはここで、地上での生を終えていくのです…」
そして2人は、お互いを抱きしめ合いながら、この上なく美しい旋律を歌って、地上の世界に別れを告げます。
その石牢の上では、王女アムネリスが、死にゆくラダメスの魂を慰めようと、祈りを捧げています。
その下ではラダメスとアイーダが抱き合っていることも知らずに…。
石牢の上と下、二重構造で見せる舞台は、作曲家ヴェルディ自身が考案したとされています。
こうして、静かに、オペラ全体の幕が下ります。
いかがでしたでしょうか。
石牢にアイーダが現れるのは、ラダメスが死の間際に見た幻影だという説もありますが、いずれにしても最後の音楽は、魂が天に昇ってゆく様を現した大変美しいものです。
このオペラを観に行った際は、どうか拍手をフライングすることの無いよう、音の余韻を楽しんで少しずつ拍手をしていただけたらと思います。
この「アイーダ」で、ヴェルディが手掛けてきたイタリアオペラの表現形態は、一つの頂点を迎えた感があります。
フランスのグランドオペラ形式を踏まえつつも、複雑すぎないシンプルなストーリーと、ドラマティックかつ繊細な歌と音楽。
人生で一度は観て聴いて体験していただきたいオペラ「アイーダ」。
多くの皆様に触れていただけることを願っております。
ありがとうございました。
髙梨英次郎でした。
<参考文献(敬称略)>
小畑恒夫「ヴェルディ 人と作品シリーズ」「ヴェルディのプリマ・ドンナたち」
ジュゼッペ・タロッツィ「評伝 ヴェルディ」小畑恒夫・訳
永竹由幸「ヴェルディのオペラ」
髙崎保男「ヴェルディ 全オペラ解説」
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