オペラ解説:ヴェルディ「ファルスタッフ」解説② 内容、あらすじ

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オペラ全曲ざっくり解説の文字起こしです。

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オペラ「ファルスタッフ」解説②内容、ストーリー - テノール歌手:髙梨英次郎のトークです | stand.fm
㊗️ヴェルディ全曲解説配信、達成!! ヴェルディ作曲28作目のオペラ「ファルスタッフ」の解説第2弾、内容とストーリーをお話します。 0.00〜内容 2.00〜 第1幕第1場 7.36〜 第1幕第2場 12.07〜 第2幕第1場 15.36〜...

こんにちは!テノール歌手の髙梨英次郎です。
本日もオペラをざっくり解説して参ります。
オペラって面白いですよ!


今回は、ヴェルディ28作目にして最後のオペラ「ファルスタッフ」の内容とストーリーをご紹介いたします。
ヴェルディが自分自身を投影して描いたとされるファルスタッフ。
巨匠が楽しんで作曲した喜劇のストーリーをぜひお聴き(ご覧)ください。
それでは参ります。

「ファルスタッフ」
ときは15世紀初め
イングランドのウィンザーという場所が舞台です。
登場人物
サー・ジョン・ファルスタッフ:騎士。お腹が太鼓のように大きく、酒好き女好きの困ったおじさん。英国王ヘンリー5世が若い頃の遊び仲間でした。
フォード:裕福な商人
アリーチェ:フォードの妻
ナンネッタ:フォードとアリーチェの娘
フェントン:ナンネッタと恋仲にある青年
ドクター・カイウス:医者。ナンネッタと結婚したがっています
メグ・ペイジ:アリーチェと仲良しの人妻
クイックリー夫人:アリーチェやメグの友人、シェイクスピアの複数の劇に登場するキャラクターです
バルドルフォ、ピスト―ラ:ファルスタッフの従者


<第1幕>
・第1場
「オテッロ」 ( ① https://tenore.onesize.jp/archives/125 ② https://tenore.onesize.jp/archives/126 ) と同じように、序曲も前奏曲もなくいきなり始まります。
幕が開くとそこは居酒屋ガーター亭。
居酒屋といっても赤ちょうちんがあるようなお店ではなく、昔のヨーロッパの、酒屋と宿屋が一緒になったようなところです。

Image of Falstaff

ファルスタッフが従者のバルドルフォ、ピスト―ラと酒を飲んでいたようです。
ファルスタッフは何やら、2通の手紙に封をしています。
そこにドクター・カイウスが怒鳴り込んできます。
「ファルスタッフ!こらー!!」
冒頭の音楽はカイウスがドタドタとやって来る様を表しています。
カイウスは、酔っぱらったファルスタッフがカイウスの家の使用人や馬に乱暴をはたらいたことに文句を言いに来たのでした。
またバルドルフォには酒をたくさん飲まされて酔わされた、ピスト―ラはカイウスの金をくすねた、などと次々に主張するのですが、当のファルスタッフたちはどこ吹く風。
カイウスは、
「もうお前たちのような奴とは金輪際飲まないからな!」
といった捨て台詞と共に去っていきます。

Image of Dr.Caius

そこへ酒屋の主人がお勘定書きを持ってくるので、ファルスタッフは払おうと思ったのですが全然お金が足りません。
ファルスタッフは従者2人に八つ当たりしてその場を誤魔化します。
「俺の腹は、俺の王国だ!どんどん大きくしていくのだ!」
と言っているところの音楽がやたら大げさなのが面白いところです。
どこか、ヴェルディはこの「ファルスタッフ」の作中ところどころに、過去の自分の作品群のエッセンスを散りばめていて、自分自身へのパロディとしているものと思われます。
恐らくここのお勘定はツケとなるのでしょうが、とにかくお金を用意するためにファルスタッフはある計画を従者たちに打ち明けます。
街で有名なお金持ち、フォードには、美人の妻アリーチェがいます。
ファルスタッフは、たまたま近所を通りかかったときにアリーチェに微笑まれただけですっかり惚れてしまい、しかも
「彼女の方も俺に気があるのだ!」
と思っているようで、そしてなんともう一人、ペイジ夫人メグという女性も、
「俺の魅力のとりこになっている」
とファルスタッフは思い込んでいて、
「その人妻二人はどうやら家の財布を握っているらしい、よし、彼女たちの相手をしてやって、金も払ってもらおう」
というわけですね。
もう一度言いますが、ファルスタッフは太鼓腹の60歳前後のおじさんです。
騎士という身分もあってか、相当自分に自信を持っているようです。
冒頭で封をしていた手紙は、この2人の人妻へのラブレターだったのです。
ファルスタッフはバルドルフォとピスト―ラに、それぞれ夫人の元へ手紙を持っていけ、と指図しますが、2人は
「そんな使いッ走りみてえなこと、イヤです。こっちだって剣を下げた騎士なんでい。名誉にかかわりまさあね」
と断ります。

Image of Bardolfo & Pistola

怒ったファルスタッフ、
人妻たちへの手紙はたまたまそこにいた小姓の男の子に運ばせることにして、ここからファルスタッフ怒りの大演説が始まります。
「名誉だと!くだらん!!そんなものが何の役に立つのだ!?
 名誉で腹が膨れるか?ノー!
 名誉でスネのケガが治るのか?無理!
 足は?ノー!
 指は?ノー!
 髪の毛は?ノー!
 名誉なんてただの言葉だ!虚栄だ!
 お世辞で膨れ上がって、誹謗中傷で腐っていく。
 俺はそんな名誉なんぞいらん!!
 出てけー-っ!!」


この一連の演説は、ファルスタッフにヴェルディが自分を投影しているところのひとつではないかと言われています。
ヴェルディは自分への悪口を聞いたらもちろん気分を害しましたが、自分が必要以上に持ち上げられたり賞賛されすぎたりするのも好きではありませんでした。
また、ノー!ノー!と、ノーを重ねていくのは、かつて「仮面舞踏会」 ( ① https://tenore.onesize.jp/archives/115 ② https://tenore.onesize.jp/archives/116 ) を上演しようとした時に、政府の検閲に引っかかって、作品におけるあらゆる場面を却下された際、怒ったヴェルディが手紙に書いた口調とそっくりなのです。
「題名は?ノー!
 時代は?ノー!
 場所は?ノー!…」
といった具合です。
ファルスタッフ、最後にはほうきを振り回して、従者二人を酒場から追い出してしまい、この場面が終わります。



・第2場
お金持ちフォードの家の前の庭園。
フォードの家から、妻のアリーチェ、娘のナンネッタが軽快な音楽と共に出てきて、やってきたメグ、クイックリー夫人と挨拶を交わします。

Image of Alice & Meg

アリーチェは、騎士ファルスタッフから届いた手紙を出してみんなに見せるのですが、なんとメグのもとにも同じ手紙が。
アリーチェとメグが手紙を交換して読んでみたところ、全く同じ内容、同じインク、同じ筆跡、同じ封(ロウで固めるアレ)、違うのは宛名だけ。
女性陣一同大爆笑。
ファルスタッフは最近ロンドンからここウィンザーに移って来たので、アリーチェとメグが友達同士だとは知らなかったのですね。
人妻2人を同時に口説いていることが早々にバレてしまいました。
「もうなんなの、あのモンスターは!」
「とっちめてやりましょう!」
そして女性4人がそれぞれ、言いたいことを同時にお喋りする重唱となります。
この場面やこの後の場面の歌や音楽は、聴いている方は楽しいけれど、出演者は非常に集中力が要求される、ハイレベルなアンサンブルとなっています。


庭の別の一角では、この家の主人フォード、ドクター・カイウス、ファルスタッフの従者だったバルドルフォ、ピスト―ラ、そして町の若者フェントンの5人が登場して、女性陣はいったん奥に引っ込んで入れ替わります。
男性陣も既に早口で5人それぞれ喋り出すので、イタリア人でも何を言っているかわからないと思います。
「うええい、1人ずつ喋ってくれ、何だって?」
「フォードさん、私はファルスタッフの従者だったのですが、あいつ、あなたの奥様とあなたの財産を狙ってますよ」
「なに!?」
「もうすでに恋文まで送ってるんですよ、私らはそれを届けるのを断ったんです。」
バルドルフォとピスト―ラは、物語の序盤にして早くも、ファルスタッフを裏切る決意をしたようです。
お金持ちのフォードにすり寄った方が、自分たちも得をすると判断したのでしょう。
恥知らずのファルスタッフに怒るフォード。
そこへ女性陣が戻ってきます。
アリーチェは、ファルスタッフのことが嫉妬深い夫に知れたら大ごとになっちゃう、とひそひそ話します。
まさかファルスタッフの従者たちがもう既に、夫にバラしているとは知る由もありません。


女性陣男性陣それぞれ別方向へ消えていくのですが、若いナンネッタとフェントンだけ残ります。
この2人は既に愛し合う仲。
大人たちの目を盗んで、いちゃいちゃし始めます。
総勢9名のがちゃがちゃしたアンサンブルから、一転して爽やかな二重唱となります。
まるで年老いたヴェルディが若いカップルを微笑ましく見ているかのようです。
大人の女性たちが庭に戻ってくるので、フェントンは隠れていったんイチャイチャは中断されるのですが、大人たちがまた引っ込んで、またイチャイチャが再開されます。

Image of Fenton & Nannetta

人の出入りが目まぐるしいのですが、それだけオーディエンスは観てて飽きないシーンとなっています。
再び男性陣が戻ってきて、ファルスタッフへの復讐計画が話し合われます。
フォード自ら、ファルスタッフのいる居酒屋へ乗り込むつもりのようです。
女性陣も別の一角に集まり、こちらもファルスタッフを懲らしめる計画を話し合います。
男性陣女性陣それぞれに相手をうかがいながら、九重唱が歌われるすさまじいアンサンブルとなって、男たちが去り、最後は女性陣たちが楽しそうに計画を企むところで、第1幕が終了します。


<第2幕>
・第1場


再び居酒屋兼宿屋のガーター亭。
ファルスタッフが酒を飲んでいます。


横にはバルドルフォとピスト―ラがいて、ファルスタッフに後悔したフリをして謝罪しています。
彼らはフォードたちのスパイのような役割をしていくようです。


そこへ、クイックリー夫人が現れます。
「Reverenza ごめんくださいまし」と、滑稽なほどに丁寧な挨拶をします。
夫人はアリーチェの使いとしてここに来ました。
「アリーチェさんは、あなたへの愛で苦しんでおいでです。
 嫉妬深い夫は、2時から3時の間なら外出してますわ。」
「おおそうか!!では、その時間に必ず参るぞ」
「メグさんもね、あなたに首っ丈になっちゃったけど、あそこは旦那が外出しないからダメなの」
「そうかそうか、2人によろしくな」

Image of Mistress Quickly

そうしてクイックリー夫人が出て行くと、ファルスタッフはもう有頂天です。
「アリーチェは俺のものだ!!
 行け、老いぼれジョン、行くのだ、お前の道を!」


そこへ今度は、フォードがやって来ます。彼はフォンターナという偽名を名乗って、変装しています。
先ほどのクイックリー夫人が女性陣の企みなら、今度は男性陣の番というわけです。
変装したフォードは言います。
「わたくし、フォード家のアリーチェという人妻に惚れているのです。
 でも全然相手にしてもらえません。」
そしてフォードはファルスタッフに多額の金を払い、
「あなたにお金を払いますから、アリーチェをあなたが口説いてください。
 あなたが成功すれば、きっと私にもチャンスが巡ってきます」
と、よくわからない理論でファルスタッフに奇妙な依頼をするのですが、要は、ファルスタッフがアリーチェを口説こうとするところを取り押さえて、ボコボコにしてやろうという魂胆です。
ところがファルスタッフによると
「わかりました。あなたのご希望をかなえてあげましょう。
 何ならもう成功したようなもんですよ。
 さっきアリーチェから使いが来て、間抜けな夫は2時から3時には家を空けているから、来てちょうだい♡なんて言ってきてるんだ。」
「何ですって!?」


そしてファルスタッフが着替えをしにいったん去ると、フォードはふつふつと怒りが湧いてきます。
「これは夢かまことか?アリーチェが本当に浮気してるのか!?…許さん!!」
ここはフォードを歌うバリトンによる、このオペラでは数少ない、アリアとして取り出せる歌の一つです。
たまに「オテッロ」のような音楽表現が出てきますが、あくまでこれは喜劇、やはりパロディ的に扱われています。

Image of Ford

派手に着飾って戻ってきたファルスタッフと、心に復讐を誓うフォードは連れだってガーター亭から出て行き、この場面が終わります。


・第2場
フォードの家の一室。

Image

女性陣のもとにクイックリー夫人が戻ってきて、ファルスタッフが罠にかかったことをいきいきと報告します。
「あの男、2時から3時の間に来ますよ」
「あらもう2時じゃない、すぐ準備しないと!」
と、アリーチェたちはドッキリ企画の準備をあわただしく始めようとしますが、どうも娘のナンネッタが落ち込んだ様子です。
「あらナンネッタ、どうしたの?」
どうやら、父親のフォード氏は娘をドクター・カイウスと結婚させようとしているようです。
大人の女性たちは
「あんな学者ぶった男と?」
「あんなおバカと?」
「あんな年寄りと?」
「だめよだめだめ!!」
カイウス、散々な言われようですが、娘が涙ながらに嫌がっているので、仕方ないですね。
アリーチェたちがみんな味方になってくれたので、ナンネッタも元気を取り戻します。


ドッキリの準備再開です。
何やら大きな洗濯カゴが運ばれてきます。
アリーチェは運んできた使用人たちに、
「私が合図をしたらそのかごを窓から、下のテムズ川に放り投げてちょうだい。」と指示します。
アリーチェ以外の女性たちが配置について、アリーチェはリュート(昔のギターのような楽器)を弾き始めて、ファルスタッフの到着を待ちます。
アリーチェのリュートに乗せて、ファルスタッフが歌いながら登場します。
もうすっかりアリーチェをものにした気でいます。
熱烈にアリーチェを口説くファルスタッフ、抱きしめようとどんどん近づいていきます。
そこへクイックリー夫人が突然
「メグさんが来ましたわ!!」
と告げに来るので、ファルスタッフは仰天。
とんだ修羅場になってしまう!!
アリーチェはファルスタッフを、つい立ての裏に隠します。
そしてメグが駆け込んできます。
「アリーチェ!大変!あなたのご主人が血相を変えて、男たちを連れて怒鳴り込んでくるわー!」
実はこの流れ、女性陣によるドッキリの計画に沿ったもので、この後ファルスタッフに
「嘘でしたー!!ドッキリ、だーいせーいこう!!」
となるはずっだのですが、そこにクイックリー夫人がまた駆け込んできます。
「フォードさんが大声をあげながらこちらにやって来ますわ!!」
「え、お芝居じゃないの?」
「ほんとに来てるのよ!!」
まさかほんとにフォードたちが来るなんて!
さあ女性陣たちも大慌てとなります。


そこにフォード、カイウス、ファルスタッフの従者だったバルドルフォやピスト―ラ、その他大勢の男たちが一斉になだれ込んできます。
何しろフォードは本気で怒っていて、浮気男を探せ!!と、家じゅう大捜索が始まります。
ファルスタッフは衝立の裏で震えあがっています。
隠れたままなので、怒鳴り込んできたフォードが、先ほど自分にアリーチェとのことを依頼してきたフォンターナだとは気づいていません。
フォードは洗濯カゴをチェックしますが、ここにはいません。
フォードたちが部屋からいなくなった一瞬のスキをついて、女性たちはファルスタッフをついたてから、洗濯カゴの中に移します。
一度チェックしたところを、また調べることはないだろうということですね。
メグの姿を見たファルスタッフは、
「愛しているのはあなただけだ、助けてくれ!」
なんて言いますが、メグの方もそれどころではありません。
女性たちはなんとかファルスタッフを洗濯カゴに押し込んで、洗濯前の肌着などをそこに突っ込んで隠します。
そんな騒ぎの隙に若いカップル、フェントンとナンネッタが、ファルスタッフが隠れていたついたての裏に入って、またもいちゃいちゃし出します。
そこに戻ってきたフォード達。
「あの野郎どこにいるんだ!?」
みんなが殺気立っているところに、ついたての裏から「チュッ!!」と物音が!
本当は若い二人の熱烈なキスの音なのですが、とにかくそこから物音がしたということで、少しの沈黙の後、男たちはソロリソロリとついたてに近づいていきます。
「そこにいたのか…!!」
みんながついたてに注目している中、ファルスタッフは洗濯カゴの中で、暑いわくさいわで、苦しんでいます。
ファルスタッフは何度か顔を出すものの、女性たちに再び押し込まれるさまがなんとも気の毒でおかしいところです。

そして、せー-の!でフォードがついたてを倒すと、中に居たのは自分の娘と若造フェントンだったので、一同大混乱。
フォードは激怒、
「お前となんか結婚させるか!!」と、二人を引き離します。
男たちが再び大騒ぎとなる中、アリーチェの合図で、使用人たちが洗濯カゴを運んでいきます。
そして、近くのテムズ川に向けてカゴをドボーン!!
ファルスタッフはしっかりと、人妻を口説いた罰を食らってしまったのでした。
その様子を見たフォード、アリーチェの不倫は誤解だったと分かり、ひとまず「ドッキリだーいせーいこう!!」
とみんなが大笑いとなって、第2幕が終わります。


<第3幕>
・第1場
場面は、居酒屋兼宿屋のガーター亭の前にある広場です。
ずぶ濡れのファルスタッフが、ひとりぼやいています。
「おいマスター、熱いワインを持ってきてくれよ。
 ちくしょう、ひどい世界だ、ハックション!
 長年騎士として生きてきて、その結果がこれか…。
 どぶ川にカゴごと放り込まれるなんてよぅ。
 行け、ゆけ老いぼれジョン、おまえの道を・・・ってか。
 あまりに太って、白髪も増えちまったなー。あーあっと。」
ですが、ワインを飲んでいくうちにだんだん機嫌も直ってきます。
「あー旨い!飲んでりゃ嫌なことも忘れさせてくれる!」


そこにまたもやクイックリー夫人が登場します。
「Reverenza! ごめんくださいまし!」
ファルスタッフ、飲んでいたワインをブーッと噴出さんばかり。
「おまえら地獄に落ちろ!!もうだまされんぞ!!」
「違うんですよ、あれは使用人たちが勝手にやったことで。
 アリーチェさんは泣きながら悔やんでいるんですよ。
 …これをお読みくださいな」
と、夫人はファルスタッフに手紙を渡します。


その様子を、いつのまにか物陰から、アリーチェやフォード、メグ、ナンネッタ、カイウス、フェントンが見ています。
「ファルスタッフ、手紙を読んでいるな」
手紙には
「真夜中、国立公園でお待ちしています。有名な樫の木のところへ、黒い狩人の格好で来てください」
そこの樹には夜、妖精やら幽霊やらが現れてそれを見たのが鹿の角を頭につけた黒ずくめの狩人、という伝説がある、いわば恐怖スポットなのですが、そういうところでコスプレをして楽しみませんか、というわけですね。
ファルスタッフ、それはなかなかドキドキしていいかも、と思ってしまったのでしょうか。
彼は根が単純なのでしょう、またもドッキリに引っかかってしまっているようです。
詳しい話を聞こうと、ガーター亭の中にクイックリー夫人を連れて入って行きます。


中に入ったファルスタッフ、クイックリー夫人と入れ替わるようにアリーチェたちが姿を現します。
真夜中の公園にやってきたファルスタッフを、妖精やら幽霊やらに仮装したみんなで驚かせて、叩きのめしてやろう、というわりとハードめなドッキリの相談をします。
みんなが準備のためにいったん帰っていく中、フォードがこっそりとドクター・カイウスに耳打ちします。
「娘の仮装を覚えていますか?」
「バラの冠、白いドレスですね?」
ドッキリ騒ぎのどさくさに紛れて、フォードはナンネッタをカイウスと結婚させてしまおうと計画しています。
ところがそれをクイックリー夫人が陰で聞いていました。
「そうはさせないわよ」
それぞれの思惑を胸に、この場面が静かに終わります。


・第2場
ウィンザーの公園、真夜中です。
辺りはぼんやりと月明かりに照らされています。

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フェントンが1人登場して、テノールのアリア、というには短いちょっとしたソロを歌います。
音楽が第1幕でイチャイチャしていた時のものになると、それに答えるようにナンネッタの声が聴こえてきます。
そして妖精の女王に扮して白いドレスをまとったナンネッタが現れると、フェントンは彼女を抱きしめます、、が、すぐにアリーチェに止められ、ドッキリの配置につくよう言われます。
フェントンは黒いマントを着せられ、まるで修道士のようです。
アリーチェたちは、フォードがナンネッタをカイウスと結婚させるのを阻止しようと、ファルスタッフへのドッキリとは別の、ある計画を思いついたようです。


真夜中12時の鐘が鳴り、狩人の格好をしたファルスタッフがやって来ます。
ここの音楽も「オテッロ」に似ています。

Image

そこに、約束通りアリーチェが現れます。
懲りずに熱烈な口説きを始めるファルスタッフですが、ほどなく、メグが悲鳴を上げてやって来ます。
「鬼が出たわ!!」
逃げていくアリーチェ。
逃げ遅れたファルスタッフは樫の木のもとへ身をかがめます。
すると奥の方から、妖精の女王に扮したナンネッタが、町の少女たちを連れて出てきて女声合唱を伴った美しい歌を歌います。
もう何だか、大勢の人々を巻き込んだドッキリとなっているようです。
仮装もできて、みなハロウィンのように楽しんでいるのでしょう。
精霊を見たら命を取られてしまう、という迷信を信じているファルスタッフは、ナンネッタ達の姿に怯えます。
続いて、他の面々が一斉に集まってきて、怯えるファルスタッフにちょっかいを出し始めます。
「人間がいるぞ!」
「うわぁ、リンゴみたいに丸い奴だ!」
「起きろ起きろ!」
ファルスタッフはその太鼓腹のせいで起き上がることが出来ません。
「ちょっとクレーンでもないと起き上がれないです」
そんなファルスタッフをみな木の枝で突いたり叩いたり、尖った植物でチクチク刺したりしていたぶっていきます。
「やっちまえやっちまえ!」
「痛い痛い痛い!!」
さらには、思いつく限りの悪口をファルスタッフは浴びせられていきます。


ここのシーン、音楽は非常に軽快で楽し気なのですが、場合によってはファルスタッフを寄ってたかって苛めているように見えてしまいがちです。
シェイクスピアの時代は、やたら騎士という権威と身分を振りかざすファルスタッフを民衆がいたぶることで、笑いになったということもあるのかもしれません。
ただヴェルディはこのシーンでも、ファルスタッフに自分自身を重ね合わせているという説が有力です。
前回お話した、50年ほど前に上演されたヴェルディの2作目「1日だけの王様」( https://tenore.onesize.jp/archives/85 )
妻と子供が相次いでこの世を去り、どん底の失意の中、一生懸命作曲した喜劇「1日だけの王様」がスカラ座で大失敗に終わった時のこと。
会場に響き渡るブーイング、自分に向けられた罵声の数々。
到底忘れられないトラウマとなったことは想像に難くありません。
ここでいたぶられているファルスタッフは、過去のヴェルディ自身そのものというわけです。
・(音声配信未収録)

「ファルスタッフ、悔い改めるか?」
というセリフにつけられた音楽は、あの「レクイエム」( https://tenore.onesize.jp/archives/124 ) の一節。オペラだけでなく、自分の「レクイエム」までパロディの対象となっています。


しかし、調子に乗って動き過ぎたバルドルフォ、かぶっていた頭巾がとれて、ファルスタッフはバルドルフォに気づきます。
そこからはファルスタッフの猛反撃。
「こーの野郎!バルドルフォじゃないか!!」
しっかり仕返しをして、罵詈雑言を投げつけて、「あー疲れた」と一息つきます。
一応はドッキリ大成功!となり、騒ぎもいったん落ち着きます。


ファルスタッフから逃げて離れたバルドルフォに、クイックリー夫人が声をかけて、奥へと連れて行きます。
実は皆がファルスタッフを小突き回し始めた直後、クイックリー夫人はナンネッタも奥へと連れだしていったのでした。
さてファルスタッフは、自分を訪ねてきたフォンターナがフォード本人だと知らされてびっくり仰天。
だんだんと、自分がドッキリにかけられまくっていたことを悟ります。
ファルスタッフは、
「おまえらみたいな安っぽい連中は、賢い俺様のおかげで、一緒になって賢くなれてるんだ」
と負け惜しみのような、それはそれで深いようなことを言ってのけます。


そしてフォードはもう一つのイベント、娘の結婚式を行おうとします。
そこにいた白いドレスを着てヴェールをかぶった自分の娘と、ドクター・カイウスを引っ張ってきます。
アリーチェが、
「もう一組、町の若いカップルも結婚したがっているから、祝福してあげて」
と、ヴェールやマスクで顔を隠した若い男女を連れてきます。
「よし、では2組の結婚式をここで行おう!さあ、マスクとヴェールを取ってください!」
ところが!
カイウスの横にいて白いドレスをまとっていたのは、なんとバルドルフォ!!
カイウスは悲鳴を上げます。「何だこりゃー!!」
アリーチェが町の若いカップル、と紹介した方が、本物のナンネッタ、そしてフェントンでした!
驚くフォードとカイウスを見て一同大爆笑。
フォードもすっかり、女性陣のドッキリに引っかかってしまったのでした。
こうなってはフォードも致し方ありません。
フォードはナンネッタとフェントンの結婚を許し、これにて全て一件落着!


そしてフィナーレは、ヴェルディがこのオペラを構想した際に一番初めに作曲したフーガ。
1つの旋律を追いかけていくように、糸が紡がれていくかのような壮大な音楽。
喜劇の終わりがこんな素晴らしい音楽であったことがこれまでにあったでしょうか。
しかもそこでの台詞は
「世の中すべて冗談だ、みんなふざけ合ってる愚か者、だけど結局、最後に笑ったもん勝ちさ!」
10人のソロと合唱による究極のフィナーレで、ヴェルディ最後のオペラ「ファルスタッフ」全体の幕が賑やかに下ります。



いかがでしたでしょうか。
ここまで28作のオペラとレクイエム1つを、ヴェルディの生涯を追いかけながらご紹介して参りました。


イタリアオペラを代表する存在となったヴェルディ、その最後の作品「ファルスタッフ」の自筆楽譜の最後にヴェルディ自身が書き残した言葉があります。
作中でファルスタッフが発する台詞に基づいていますが、まるでヴェルディが自分自身をねぎらうかのような、とても味わい深い言葉となっています。
この解説も、こちらのヴェルディ先生ご自身のお言葉で締めくくりとさせていただきます。
オペラ評論家の小畑恒夫先生による日本語訳となります。
「すべては終わった。行け、行け、老いぼれジョン、行けるところまでおまえの道を行け。
 愉快な小悪党め。
 おまえはいつでも、どこでも、いろんな面(ツラ)を見せて、永遠に誇り高いんだな!
 行け、行け……進め、進め……さらば!」
(ジュゼッペ・タロッツィ・著『評伝ヴェルディ』小畑恒夫・訳より)


「ファルスタッフ」、多くの皆様に触れていただけることを願っております。
ありがとうございました。

髙梨英次郎でした。


<参考文献(敬称略)>

小畑恒夫「ヴェルディ 人と作品シリーズ」「ヴェルディのプリマ・ドンナたち」

ジュゼッペ・タロッツィ「評伝 ヴェルディ」小畑恒夫・訳

永竹由幸「ヴェルディのオペラ」

髙崎保男「ヴェルディ 全オペラ解説」

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