オペラ解説配信の文字起こしです。
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こんにちは!テノール歌手、髙梨英次郎です。
本日もオペラ全曲解説やってまいります。
オペラって面白いですよ!
脈々と続いてまいりました、ヴェルディのオペラ解説。
今回は8作目「アルツィーラ」です。
題名は、主役ソプラノ、ヒロインの名前です。
16世紀半ばごろの、今の中南米ペルー辺り、インカ帝国の末裔たちと、それを統治するスペイン人たちの争いを描いています。
なかなか上演されない演目なのですが、他の作品に決して引けを取らない、素晴らしいオペラです。
しかも、短い!正味90分ちょいで終わっちゃいます。
2時間の映画やドラマより短いです。
それでいてわかりやすい、これぞイタリアオペラという音楽。わかりやすいストーリー。
もっともっと聴かれるべき作品、それがこの「アルツィーラ」です。
では、作曲の経緯についてお話します。
ミラノ、ヴェネツィア、ローマで新作を発表してきたヴェルディが、いよいよナポリに進出しようというところです。
ナポリは、17世紀から18世紀にかけて、ナポリ楽派と呼ばれるほど、オペラにおいて独自の発展を遂げてきた街です。
この頃のナポリは、北イタリアとは実質、別の国、外国のようなものでした。
商業的習慣なども北と南で違う点が多いため、ヴェルディも契約の面では色々と苦労したようですが、1845年にサン・カルロ劇場で新作を打つことが決定しました。

伝統と格式のサン・カルロ劇場での新作ですから、ヴェルディも気合は相当入ったはずです。
台本を書くのは、ドニゼッティの「ルチア」など、数々の名作を手掛けてきた大ベテランの、カンマラーノ。

「アルツィーラ」の題材もカンマラーノが用意しました。
ヴェルディとしては、この大ベテランと仕事ができることは嬉しいことだったようです。
ピア―ヴェという台本作家にはいろいろと注文を付けたのですが、カンマラーノには、あまりうるさくダメ出しなどをすることはありませんでした。
原作となったのは、フランスの大作家ヴォルテールの作品です。
ですが、オペラ化に際して、だいぶ話の内容は変えられているようですので、あくまで参考程度に。
初演は1845年8月12日 ナポリ、サン・カルロ劇場。ヴェルディ31歳。

初演こそ熱狂で迎えられたものの、その後あまり再演されることはなく、ヴェルディ自身が、
「『アルツィーラ』はあんまり良くないオペラだね」
と発言したこともあって、その後日の目を見なくなってしまうのですが、先程も言ったように、短くギュッとまとまった、それでいて音楽的にも非常に面白い作品ではないかと思います。
ちなみに、我々テノール族の話題としては、この作品でザモーロという役を初演したフラスキーニというテノールは、当時大変人気を博していた人で、その後もヴェルディの作品の初演を何作も歌い演じていきます。
私が個人的に大好きなオペラ「仮面舞踏会」(① https://tenore.onesize.jp/archives/115 ② https://tenore.onesize.jp/archives/116 ) リッカルド役も彼が初演することになります。
それでは、オペラの内容へ移って参ります。

アルツィーラ
プロローグと全2幕 場合によっては、全3幕
時は16世紀、1500年代半ばごろ
登場人物は、主役級は3名、他数名
グスマーノ:スペインのペルー総督
アルヴァ―ロ:前のペルー総督で、グスマーノの父
アタリーバ:ペルー原住民の族長
アルツィーラ:アタリーバの娘
ザモーロ:ペルー原住民の若き族長、アルツィーラと恋仲にあります
オペラはしっかり目の序曲で幕を開けます。
伝統と格式のナポリですから、やはり気合の入った音楽です。
<プロローグ>
南米ペルーはこの頃、スペインの統治下にありました。
ペルーの海沿い真ん中あたり、今はペルーの首都リマの、とある平野にて。
ペルー総督のスペイン人アルヴァ―ロが、原住民たちに捕らえられ、今にも殺されそうになっています。
そこに1人の男が登場。それは、スペイン軍に捕らわれていた、インカの戦士ザモーロでした。
皆は彼が死んだと思っていたので喜びます。

ザモーロは、捕らわれのアルヴァ―ロを逃がしてやります。
その際、
「お前たちが野蛮人と呼ぶ、そのうちの一人に助けられたと、お前の仲間に伝えろ」
と言って、アルヴァ―ロはその慈悲に感謝して、去っていきます。
ザモーロはこれまでの苦しみを歌いますが、族長の娘で、ザモーロと相思相愛のアルツィーラが、彼女の父親と共に捕らえられていると知ると、怒って、命に代えても取り返すと誓います。
ここで、プロローグは終了です。
<第1幕>
リマの広場
スペインの兵隊たちが集まっています。
命を救われたアルヴァ―ロが戻ってきていました。皆に宣言します
「私は年老いたので、総督の地位を息子のグスマーノに譲りたい」
グスマーノは皆の歓声を受けて、前に出ます。

「先住民たちと平和にやっていきたい、と私は思う。」
と話します。
捕虜になっている族長のアタリーバは、グスマーノやスペイン軍に忠誠を誓っています。アルツィーラの父親です。
忠誠を誓っていると言っても、誓わされているのかもしれません。
新総督となったグスマーノは、族長アタリーバの娘アルツィーラに恋をしていました。
彼女と結婚すれば、スペイン人と先住民は仲良くなれるよね、と思っていたのですが、肝心のアルツィーラは、ザモーロを愛していますので、グスマーノには見向きもしません。
愛を勝ち取れない、と悩むグスマーノでした。
場面変わって総督の宮殿内にある、捕虜のアタリーバやアルツィーラに当てがわれた部屋で。
その部屋にアルツィーラがいます。妹のズーマや侍女たちが慰めています。


アルツィーラは、ザモーロが死んだと思っています。それでも彼のことが忘れられないのですね。
ザモーロを夢で見たのよね、ということを歌います。
そこに父親アタリーバが入ってきて、娘に、スペイン総督グスマーノとの結婚を勧めます。
アルツィーラはもちろん嫌がりますが、アタリーバとしては、自分の原住民一族が生き残る道は他にないので、
「それでも従ってもらうからな」
と言い残して部屋を去ります。
そこへ妹のズーマが1人のインカ人を案内してきます。
それは、死んだと思っていた恋人ザモーロでした!
喜び抱き合う二人。愛の二重唱が歌われます。
いやー、よかった!
しかし、その現場を新総督グスマーノが発見して激怒!
ザモーロを捕えて死刑にしようとします。
ですが、グスマーノの父アルヴァ―ロが、
「彼は私の命を救ってくれた恩人だ。許してやってくれ」
と頼んできます。
苦悩するグスマーノ。
そこに、インカ原住民、ザモーロの仲間達の軍勢が、ザモーロを解放するよう要求して迫ってきているとの知らせ。
グスマーノは意を決して、ザモーロを釈放し、戦いで決着をつけようと誓います。
これがフィナーレとなって第1幕終了です。
<第2幕>
大きく3つの場面に分かれています。
・第1場
グスマーノ率いるスペイン軍と、ザモーロたちインカ原住民軍の戦いは…、スペイン軍の勝利に終わりました。
ザモーロやアルツィーラは再び捕らわれの身となってしまいました。
リマの要塞で、スペイン兵たちが楽しそうに飲んで騒いでいます。

ザモーロは今度こそ、火あぶりで処刑されることになりました。
アルツィーラが、グスマーノのもとに、ザモーロの命を救うよう頼みに来ます。
グスマーノは
「やつの命を救いたいなら、俺と結婚してくれ」
と要求します。
いやーな選択ですね。
アルツィーラは、最初は死んだほうがまし!と思うのですが、ザモーロの命を救うため、仕方なく承諾。
グスマーノは婚礼の準備を部下にさせます。
・第2場
暗い洞窟
インカ原住民の残党たちが話し合っています。

監視の兵を買収して、ザモーロと仲間たちをスペイン兵に変装させて脱走させることに成功したとのことです。
そこへ、やつれたザモーロが来てアルツィーラへの想いを歌います。
ですが、遠くに見える光がアルツィーラとグスマーノの婚礼パーティのものだとわかり、激怒。
今ちょうどスペイン兵の服を着ているので、そのまま紛れ込んでパーティをぶち壊そうと決意します。
・第3場
総督宮殿の大広間
ここでアルツィーラとグスマーノの結婚式が行われようとしています。

グスマーノがアルツィーラの手を取って祭壇へ向かおうとしていました。
そこに!変装したザモーロが近づいて、グスマーノに短剣を突き立てます!
取り押さえられるザモーロ。
しかし、グスマーノは死の淵で、ザモーロの行いを許し、アルツィーラをザモーロのもとに促します。
「神の声が聞こえる…、二人で幸せに生きろ…。」
と、彼は真のキリスト教徒として、復讐ではなく慈悲の心を示したのです。
感動する一同。
グスマーノは父アルヴァ―ロの腕の中で息を引き取ります。
皆は彼に向かって、敬意を表してひざまずくのでした…。
これでオペラ「アルツィーラ」全体の幕が下ります。
いかがでしたでしょうか?
演奏されないからいい作品ではない、というのは、先入観なくこのオペラを聴けば、それが間違いであることがわかると思います。
伝統と格式のナポリにヴェルディ初参戦と言うことで、これは私の感覚ですが、ナポリなどの南イタリアの聴衆は保守的な人が多い印象がありますので、彼らにブーイングを食らわないよう、若きヴェルディとしては、オペラの様式を大幅に外すことはしていません。しかし、ドラマティックな内容と音楽をぎゅっと凝縮したこのオペラ「アルツィーラ」。
後の「イル・トロヴァトーレ」( ① https://tenore.onesize.jp/archives/103 ② https://tenore.onesize.jp/archives/104 ) にも通ずる雰囲気をもった、ヴェルディ渾身の1作です。
ぜひ皆さんもこの魅力的なオペラに触れてみてください。
ありがとうございました。
髙梨英次郎でした。
参考文献(敬称略)
小畑恒夫「ヴェルディ 人と作品シリーズ」
ジュゼッペ・タロッツィ「評伝 ヴェルディ」小畑恒夫・訳
永竹由幸「ヴェルディのオペラ」
髙崎保男「ヴェルディ 全オペラ解説」


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