オペラ解説:ヴェルディ「シチリアの晩鐘」成立から、あらすじまで

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オペラ全曲ざっくり解説の文字起こしです。

聴きながら読むと分かりやすい! 音声はこちら↓

オペラ「シチリアの晩鐘」解説 - テノール歌手:髙梨英次郎のトークです | stand.fm
ヴェルディ20作目のオペラ「シチリアの晩鐘」解説です。 フランスのグランドオペラ形式による壮大な意欲作! 0.00〜 概要 1.16〜 作曲、初演の経緯 6.46〜 内容、第1幕 11.46〜 第2幕 15.33〜 第3幕 19.13〜 第...

こんにちは!テノール歌手の髙梨英次郎です。
本日もオペラをざっくり解説して参ります。
オペラって面白いですよ!


今回は、ヴェルディ作曲20作目のオペラ「シチリアの晩鐘」を取り上げます。
晩鐘とは、キリスト教の寺院や教会で夕暮れにならす鐘の事。
ミレーの絵画にも「晩鐘」という有名な作品があります。
「シチリアの晩鐘」は、13世紀末、当時フランスの支配下にあったシチリアで、圧政に耐えかねたシチリア人たちがフランス人たちを虐殺した実際の事件がもとになっています。
「リゴレット」、「イル・トロヴァトーレ」、「ラ・トラヴィアータ(椿姫)」※の3作を成功させたヴェルディが、「イェルサレム」( https://tenore.onesize.jp/archives/95 ) 以来、数年ぶりに大都会パリで発表した意欲作。
フランス語の台本にいちから曲をつけるのも初めてで、本格的なグランド・オペラ形式となった作品です。

※「リゴレット」(① https://tenore.onesize.jp/archives/101 ② https://tenore.onesize.jp/archives/102 )

「イル・トロヴァトーレ」(① https://tenore.onesize.jp/archives/103 ② https://tenore.onesize.jp/archives/104 )

「ラ・トラヴィアータ(椿姫)」(① https://tenore.onesize.jp/archives/107 ② https://tenore.onesize.jp/archives/108 )


では、作曲、初演までの経緯をお話します。


農園の経営による収入と、過去の作品の著作権が確立して、出版社から上演料や楽譜の売り上げの何割かがヴェルディに支払われることになった結果、ヴェルディの作曲ペースはゆっくりとしたものになっていきました。
そんな中、パリ・オペラ座との契約が再び持ち上がります。
以前から、「イェルサレム」をパリで上演した後に、新作をパリ・オペラ座で上演する契約の話があったのですが、1848年のフランスをはじめとするヨーロッパ各地で起きた革命騒ぎで立ち消えになっていました。


1853年に「ラ・トラヴィアータ」を終えたヴェルディは、パリとの契約を実行しようと、パートナーのジュゼッピーナと共にパリへやって来ます。
当時も、恐らく今も、ヨーロッパいちの都、といったら、やはりパリなのです。
パリで成功することは、日本で言えば、東京で一旗揚げて成功する、といったような感じでしょうか。
コラボレーションする台本作家は、フランスオペラ界最大の重鎮、スクリーブ (1791 – 1861)。ヴェルディよりだいぶ先輩です。
スクリーブは、フランスにおいて「グランド・オペラ形式」を確立した人で、どのような台本を書けばパリの劇場で受けるか、ばえるかを熟知しており、多くの作曲家がスクリーブの台本に曲をつけています。
オーベールやマイアベーア、アレヴィなどの作曲家による「グランド・オペラ形式」の作品、今はなかなか上演されないのですが、その理由はとにかく規模がでかいこと、にあります。
基本、5幕仕立てで、長い(笑)。
この「シチリアの晩鐘」も演奏時間は3時間半ぐらいあり、ワーグナー並です。
オケの編成も大きく、音楽もド派手。
バレエダンスのシーンが必須。
歌も技術が必要な難しいもので、合唱も大勢。
豪華な舞台装置に、煌びやかな照明。
なので、大変お金もかかるわけですので、現代では上演が難しい面があります。

Augustin Eugène Scribe

そんな形式に精通した台本作家スクリーブでしたが、その創作力は全盛期と比べると衰えてきたのか、忙しすぎたのもあったのか、一向に台本はヴェルディのもとに送られてきませんでした。
さんざん待たされて、ヴェルディが契約破棄もチラつかせたところで、ようやくヴェルディの元へ「シチリアの晩鐘」の台本が送られてきたので、ヴェルディは曲をつけることにしました。
ただその題材や内容に、ヴェルディは心からの共感を抱くことが出来なくなっていました。
15作目「ルイザ・ミラー」( https://tenore.onesize.jp/archives/98 ) 以後、登場人物の心情やドラマを描くことに力を注いできたヴェルディには、スクリーブが描く人間像が型にはまったものに思えて、いまいち興が乗らなかったようです。

またこのお話は、600年も前のこととはいえ、フランスでフランス人が虐殺された事件を題材にするということで、観客のフランス人から反感を買うのではないかと、ヴェルディは不安に思っていました。
それに加えて、パリ・オペラ座の劇場やオーケストラとの仕事は、イタリアでするのとは勝手が違う面が多くあり、その点でもヴェルディは苦労しました。

とりわけ大変だったのが、主演のソプラノ歌手が一時、行方をくらましてしまったことが大事件となり、公演が延期されてしまったことでした。

このことは、オペラ座の支配人がその後辞任するきっかけとなるほどの騒ぎとなり、ヨーロッパ中にスキャンダルとして広まりました。このソプラノが失踪していたのは、恋人の男爵とバカンスを過ごしていたというのがその理由だそうです(笑)。
ところが約1か月後、そのソプラノはひょっこり戻ってきて、延びに延びた初演は1855年6月13日、パリのオペラ座で行われました。ヴェルディ41歳。

Giuseppe Verdi

ヴェルディの心配をよそに、初演は大成功となりました。公演は40回も行われ、その後イタリア語に翻訳されてイタリアでも上演されると、こちらも大ヒットしました。
14作目「レニャーノの戦い」( https://tenore.onesize.jp/archives/97 ) 以来鳴りを潜めていた、愛国路線、スペクタクル的派手な展開があるこのオペラは、当時の観衆に受け入れられたのでした。
ただその後は、残念ながら世界的なレパートリーには、なっていきませんでした。


では続いて、内容とストーリーの紹介に移って参ります。

シチリアの晩鐘
全5幕
時は1282年。
登場人物
名前は、フランス語版に基づいてご紹介します。()内はイタリア語版の名前です。
モンフォール (モンフォルテ):フランスから派遣されたシチリア総督
アンリ (アッリーゴ):シチリアの青年
エレーヌ (エレーナ):オーストリアの公爵で前シチリア王フレデリックの、妹
ジャン・プロシダ (ジョヴァンニ・プローチダ):シチリア人の愛国者
その他

オペラは長めの序曲で始まります。
これ単体で演奏会に取り上げられることもある、ドラマティックで素晴らしい序曲です。


<第1幕>
フランス統治下にあったシチリアの中心都市パレルモの広場で。

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今日は復活祭。
統治する側のフランス兵たちが酒を飲んで騒いでいます。
一方、統治されている側のシチリア人たちは、恨み言をひっそりと歌っています。
フランス人とシチリア人、双方が対比された合唱の場面です。


そこへ公女(公爵の妹で貴族の女性)エレーヌが、喪服に身を包んで、お付きの者を2人連れて登場します。

Image of Hélène

彼女の兄はオーストリアの公爵で前シチリア王でしたが、フランス王への謀反の罪で処刑されてしまいました。
首を切るよう命じたのは、シチリアの総督であるフランス人モンフォールです。
妹のエレーヌは人質として、パレルモの宮殿でモンフォールの監視下に置かれていました。


酔っぱらったフランス兵が、エレーヌに
「この場が盛り上がる歌でも歌ってくださいよ」
と、無礼な感じで申し付けてきます。
パレルモの民衆は今でもエレーヌを慕っているので、「は?」と、一瞬その場に緊張が走りますが、エレーヌは落ち着いた態度で、求めに応じて歌い出します。
フランスへの復讐を心に誓っているエレーヌは、ここでの歌にも、遠回しに
「シチリア人たちよ立ち上がれ!」
というメッセージを込めており、それに気づいたシチリア人たちは感情を揺さぶられていきます。
エレーヌに煽られたシチリア人たちがフランス兵に襲い掛かろうとしますが、そこへフランス人シチリア総督のモンフォールが現れ、シチリア人たちは勢いを削がれてしまいます。
モンフォールはシチリアの人々に恐れられていたのでした。

Image of Montfort

モンフォールが現れた衝撃を表す無伴奏の四重唱が歌われた後、シチリアの青年アンリがエレーヌのもとへ駆け寄ってきます。
アンリと言うと女性の名前っぽいですが、英語で言うヘンリーがフランス語読みだとアンリ Henri、となるのです。
2人は久しぶりの再会を喜んでいます。
アンリは孤児として育ち、エレーヌの兄フレデリック公爵に目をかけられていました。
フレデリックが反乱の罪で捕まった際、アンリも捕らわれていましたが、裁判の結果、アンリは無罪となって放免されたのでした。


モンフォールがアンリにこの場に残るよう命じると、モンフォールとアンリの間で激しい対話がなされます。
モンフォールはどうも、アンリの素性を知りたがっている様子で、アンリは、自分には父親はおらず母もすでにこの世にいない、と話します。
アンリは、亡くなったエレーヌの兄をリスペクトしていて、また、エレーヌを密かに愛しています。
アンリの堂々とした様子を好ましく思ったモンフォールに、総督である自分の部下になれと言われてもアンリは断ります。。
「だったら貴様、宮殿には出入り禁止だ!」
と宣言するモンフォールですが、アンリは決然とその言葉を跳ね返して、エレーヌの居る宮殿へと向かっていきます。
ここで第1幕が終わります。


<第2幕>
パレルモ近郊にある海岸の谷間


シチリア人で愛国の志士のプロシダは、しばらく祖国から亡命していましたが、久しぶりに戻ってきて、その喜びを歌います。
「おお、祖国パレルモよ!」として有名なバスのアリアです。

Image of Procida

集まってきたシチリア人たちにプロシダは、志を同じくするエレーヌ公女とアンリを助けて、シチリアの独立を勝ち取ろうと歌います。
教会からエレーヌとアンリが出てきて、プロシダとの再会を喜び合います。
プロシダは、シチリア独立に際しての協力を、フランスと対立するスペインや東ローマ帝国と取り付けていました。
ですが、両国とも、シチリアで民衆が立ち上がって蜂起、反乱が起こらないと行動を起こさないので、プロシダはある計画を実行するため、その場を去ります。


2人になると、アンリはエレーヌに、秘めていた愛を告白します。
エレーヌは驚きます。
ひたすら兄の復讐を遂げることを考えていたエレーヌ。
しかし、アンリが自分に向けてくるひたむきな愛情に感動し、その愛を受け入れることを決めますが、一つ条件を付けます。
「兄の仇を取ってくれたら、結婚しましょう」
アンリは、彼女の願いをかなえることを名誉にかけて誓います。

Image of Henri


そこへフランス貴族ベテューヌが部下を連れて、総督モンフォールからの舞踏会の招待状をアンリに届けに来ます。
拒絶するアンリでしたが、武器で脅され、強制的に連行されてしまいます。
戻ってきたプロシダに、事の次第を報告するエレーヌ。
プロシダは、反乱の計画を練っていたのでした。
かねてから、シチリア人たちはフランスの圧政に苦しんで文句を言いながらも、なかなか反乱の行動に出ようとせず、そんな状況にエレーヌやプロシダは歯がゆい思いを抱いていました。
そこで、エレーヌは、シチリア人たちの怒りを増幅させるための作戦を提案し、プロシダが実行します。

彼らがいる場所に町の若い男女が集まってきて、リズミカルなダンスを踊り出します。
プロシダは、ダンスする男女を見ていたフランス兵たちに、陰でそっと、
「かわいい女性がいたら、誘惑すればいいじゃないですか」
と、そそのかします。
のせられたフランス兵たちは、めぼしい女性たちを抱きかかえて連れ去ってしまいました。
シチリアの男たちは、その場でフランス兵たちを止めることが出来ませんでした。
シチリア男性たちは自分たちの不甲斐なさを悔やみ、フランス人への復讐を誓います。
エレーヌとプロシダの作戦は成功しました。
舞台裏からは舟遊びに興じるフランス人たちののんきな歌が聴こえます。
怒りに震えるシチリア人たちとの対比となっていきます。
そしてエレーヌとプロシダたちは、仮面をつけて舞踏会に紛れ込み、総督モンフォールをそこで殺すことを決意します。
こうして第2幕が終了します。


<第3幕>
宮殿にある総督の部屋

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総督モンフォールが1人、物思いにふけっています。
ここで明かされるのですが、アンリは、モンフォールが昔さらってきたシチリア女性との間にできた息子でした。
アンリの母は、息子を連れて失踪し、息子には、会ったことのない父は憎むべき存在であると教えて育てていたのでした。
アンリの母は死の間際、息子の存在を手紙に書いて、モンフォールに知らせました。
モンフォールはアンリを息子だと知ったので、第1幕の時点から、アンリに対して憎からぬ感情を抱いていたのです。
裁判でアンリが無罪になったのも、モンフォールが手を回したからに他なりません。
モンフォールは父親でありながら息子と敵対している現状への複雑な感情を歌います。


そこへアンリが連れてこられます。
アンリへ、彼の母からの手紙を見せるモンフォール。
「そんなまさか!」
憎むべき総督が実の父親だと知って、当惑するアンリ。
息子への愛情が芽生え、共に生きたいと望む父モンフォール。
アンリとしては愛するエレーヌと誓った以上、モンフォールを殺さなくてはならないが、それは父殺しという、倫理的にもまずいこと。
アンリは、抱きしめようとするモンフォールの腕を振り切って、その場を逃げ去ります。
この二重唱は従来のイタリアオペラの形式から脱した、素晴らしい音楽となっています。


場面が変わって、宮殿大広間での舞踏会です。
パリ・グランドオペラ形式に必須の、バレエ場面です。
副題として”四季”と名がつけられていて、冬春夏秋の順にテーマが与えられ、約30分にわたって華麗なバレエダンスが繰り広げられます。

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さて、アンリは舞踏会にエレーヌとプロシダが紛れ込んでいるのを発見して、驚きます。
「あなたを救いに来たのよ」とエレーヌ。
彼らがモンフォールを暗殺しようとしていることを聞いて、戸惑うアンリ。
彼にも、父親を想う肉親の情が湧いてきていたのでした。


エレーヌとプロシダが離れて、モンフォールがアンリに話しかけてくるので、アンリはそれとなく、モンフォールに危機が迫っていることを知らせます。
そんなことは対して気に止めないモンフォール。かえって息子が自分を心配してくれていると、喜んでさえいます。
隙をついて、紛れ込んでいたエレーヌとプロシダがモンフォールを刺し殺そうとしますが、そこにアンリが立ちはだかり、モンフォールの盾となりました。


ひるんだエレーヌやプロシダはフランス兵たちに捕らえられてしまいました。
アンリがシチリアを裏切った!!
全員による思いが交錯したド派手なフィナーレとなり、第3幕が終了します。


<第4幕>
近くに牢獄がある中庭で。

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アンリが、罪人との面会状を持って現れます。
自分の運命を嘆き、

「これから面会しに来るエレーヌが自分を許さなかったら、俺はもう死ぬしかない」

と思い悩むアリアを歌います。
そこにエレーヌがやって来ます。
案の定、
「何しに来たの!この裏切者!!」
とめちゃくちゃ怒ってます。
そりゃそうです。
しかしアンリが、苦し気に、
「モンフォールは私の父親なのです!」
と告白すると、エレーヌは、アンリの苦悩を瞬時に理解します。
アンリは、

「これで息子としての義務は果たしました、あとはエレーヌやプロシダを解放することに命を懸けます!」

と訴えかけます。
しかしエレーヌは、そんなアンリを許すと同時に気高い心が芽生え、堂々と死へ向かっていくことを覚悟する、そういった内容のソロを歌います。
そこへプロシダも連行されてきました。
裏切者アンリのことは見ようともしません。
仲間からの密告で、武器をたくさん積んだスペインの船が到着していることを、エレーヌにそっと告げます。
プロシダは、アンリに対しての怒りをあらわにします。エレーヌから事情を聞いても、その怒りは収まりません。
そこへ部下を連れてモンフォール総督が姿を現します。
反逆者たちに対する処刑の準備が整ったとのこと。
アンリは必死に、モンフォールへ、エレーヌやプロシダたちの命乞いをします。
「だめだと言うなら、俺も死にます!」
モンフォールは、
「では、私のことを”父さん”と呼ぶなら、この者たちを許してやろう」
と言ってきます。
「愛する女性が憎むこの男を、父親と呼ぶなんて!」

と躊躇するアンリ。
エレーヌは「そんなこと(父さんだなんて)言わないで!」と言ってるし…。
しかし、エレーヌの処刑の時が迫ると、たまらずアンリは叫びます。
「父さん、俺の父さん!!」
それを聞いたモンフォールは喜び、一転して、処刑を中止するよう命令します。
モンフォール、よほど家族の愛情に飢えていたのか、孤独だったのでしょうか。
そして、アンリとエレーヌの結婚をも許して、「これにてフランス人とシチリア人との和解となす」

と宣言します。
結婚式はさっそく、今日の晩鐘の時間に行おう!
喜ぶアンリとエレーヌ。
その陰で、全く喜んでいないプロシダと幾人かのシチリア人がいました。
不穏な気配がしながらフィナーレとなり、第4幕が終わります。


<第5幕>
その夜 宮殿の庭園で。

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アンリとエレーヌの結婚式が間もなく行われようとしています。
彼らを祝う合唱が歌われます。


花嫁衣装に身を包んだエレーヌが、シチリアのリズムを取り入れた輝かしい音楽に乗せて、喜びを歌います。
このソロはよく演奏会でも取り上げられる有名なナンバーです。


アンリがやってきてエレーヌと愛を短く語り合います。
そしてアンリが宮殿へ入っていくと、入れ替わりにプロシダが現れます。
プロシダは、
「いやー、ありがとうございます。あなたのおかげでフランス人たちが油断しています。」
「何をする気なの?」
プロシダは全く恨みが消えておらず、この場でフランス人たちを一斉に血祭りにあげようとしています。
その合図は、婚礼の始まりを告げる晩鐘、鐘の音です。
苦悩するエレーヌ。
アンリに何も言わなければアンリやモンフォールは殺される。
かといって、シチリアの同志たちを裏切ってアンリに、反乱のことを告げることなどできない。
今度はエレーヌが板挟みとなります。


そこへアンリが戻ってきます。
悩んだ挙句エレーヌは、
「あなたとは一緒になれない!ここから去って!」
とアンリに告げます。
結婚式さえ行われなければ、反乱の合図である晩鐘も鳴ることはない。
そう思ったエレーヌなのでした。
怒りだし、もういいよ!となるアンリ。
エレーヌは、それ以上のことは言えません。
その様子を見てプロシダも、こんなの裏切りじゃないか!と、怒っています。
そこにやってきた総督モンフォール。
アンリが、

「父さん、エレーヌがこの結婚をぶち壊しました!」
と父親に告げますが、モンフォールは、

「なーにを喧嘩してんだい、エレーヌさんマリッジブルーですか?大丈夫大丈夫ほら、行きましょう!」
と、強引にエレーヌとアンリの手を取って祭壇へ連れて行きます。
モンフォールは息子が結婚することが嬉しくて、周りの空気が全く読めていません。
そしてとうとう晩鐘が鳴ってしまいます。
それを合図にシチリア人たちがなだれ込んできて、フランス人たちを皆殺しにして大混乱となり、そのままオペラ全体の幕が下ります…。


いかがでしたでしょうか。
このように、大虐殺的な場面でバババっとオペラが急に終わる、というのはスクリーブの作品の特徴の一つであります。
主人公たちの生死もその台本では明らかにされていませんが、少なくとも総督モンフォールは殺される、というところで終わる、そんな演出が多いようです。
ボリューム満点のこのオペラ、題材は初期ヴェルディの作品にありがちなものかもしれませんが、その音楽は円熟味を増しており、確立したイタリアオペラのスタイルに、フランス風味が加わった、とても素晴らしいものとなっています。
ワーグナーの一番長い作品よりは短いですから、どうぞ多くの方に触れていただきたいと思います。
「シチリアの晩鐘」どうぞ検索などしてみてください・
ありがとうございました。
髙梨英次郎でした。


参考文献(敬称略)

小畑恒夫「ヴェルディ 人と作品シリーズ」「ヴェルディのプリマ・ドンナたち」

ジュゼッペ・タロッツィ「評伝 ヴェルディ」小畑恒夫・訳

永竹由幸「ヴェルディのオペラ」

髙崎保男「ヴェルディ 全オペラ解説」

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