音声配信で流した、オペラ解説配信を、こちらのブログで文字起こしして参ります。
聴きながら読むと分かりやすい!音源はこちら↓

『オベルト,サン・ボニファーチョ伯爵』
皆さんこんにちは!テノール歌手・髙梨英次郎です!
また新しいシリーズということで、「オペラ・全曲ざっくり解説」をやっていきます!
まずは、ヴェルディ先生のオペラを、第1作目から順番に取り上げていきます。
初期の作品等は、あまり上演されないものもあるのですが、SpotifyやGoogle musicなどのサブスク音楽サービスとか、YouTubeにもありますので、ぜひみなさん、題名などを検索して聴いてみてください♪
そしてここでは、聴いているだけで、だいたいそのオペラの内容やそこに至るまでの作曲家の人生、そういうものがわかる、ということを目指してお話したいと思います。
オペラって面白いですよ‼
それでは、始めます。
ヴェルディ・オペラ第一作目、『オベルト,サン・ボニファーチョ伯爵』です。
これは、サン・ボニファーチョ伯爵という称号を持った貴族「オベルト」のお話ですね。
初演は、1839年11月、ヴェルディ26歳の時、ミラノのスカラ座で行われました。
そこまでのヴェルディの人生をざっとお話します。

ミラノで、3年程作曲などの勉強をした後、故郷にほど近い町ブッセートで音楽教師をしていました。これは、町から認定された公務員のようなお仕事です。
でもこれは自分の天職じゃない、とヴェルディはフラストレーションを抱えていました。それならいっそ、ミラノでチャレンジしようと、音楽教師を辞任して、妻と幼い子供と共に、大都会・ミラノへと旅立ちます。
幸運にも、知人の伝手で、スカラ座の支配人・メレッリに紹介され、その作品が気に入られました。それには、あるソプラノ歌手もその音楽を絶賛したことが影響しています。その歌手は、後に再婚するジュゼッピーナ・ストレッポーニさんです。彼女とヴェルディが知り合うのはまだ先の話です。
さあ、その「オベルト」、初演は喝采を浴びました。
その後、何度かの上演をされ、メレッリから次の作品も宜しく!、と契約を結ぶ事が出来ました。
ここまでは順調なデビューなんですけれども、その初演の前に、愛する子供が2人とも亡くなってしまうんです。
さらにそこから、試練は続くのですが、そこからは次回作品の時にお話します。
それでは、オペラの内容に移って参ります。
『オベルト,サン・ボニファーチョ伯爵』。

時は1228年、日本は鎌倉時代でした。
ところは、イタリアの北東、バッサーノという町。ヴェネト州といって、ヴェネツィアとかヴェローナがあるところです。そこの領主の妹・クニッツァと、よそから来た伯爵・リッカルドがまもなく結婚の予定です。
領主の屋敷では、婚礼のパーティーが始まろうというところ。
その屋敷の近くで、楽し気に、リッカルドを待っている一同が居ます。
さあ、そこへリッカルドが登場して盛り上がります。アリアとか歌うんですね。

このリッカルド、かつてレオノーラいう娘を弄び、結局、領主の妹・クニッツァと結婚するので、レオノーラを捨てた、ひどい男です。
実力者の妹と結婚すれば、出世もお金も見込めるので、リッカルドのテンションはMAXです。
パーティーの面々が会場へ移動した後、そこへ、捨てられたレオノーラがやってきます。ドラマの予感です。
レオノーラは、リッカルドと戦をして敗れたオベルトの娘です。ここで題名の「オベルト」が出てきました。

…ということは敵の娘をリッカルドは弄んだ、ヤバい奴ですね。さすがにその時は、自分の名前を偽ったそうですが…そういう問題ではありません。
レオノーラ、
「私が来るなんて、彼はきっと思ってないでしょう。」
それはそうですね、
「お父さんの分まで、復讐してやるわ!」
ですが、レオノーラ、どうもリッカルドへの愛を捨てきれてない感じがします。未練があるんですかね。
そこへ、レオノーラの父親、サン・ボニファーチョ伯爵であるところのオベルト登場です!主役がいよいよ登場しました。
もともと彼は、この辺りの町・土地の領主だったのですが、戦に敗れて、国を追われていました。そこへ、娘を探しに故郷へ戻ってきたということです。

どうやら、娘がこの辺りに居るとの情報を嗅ぎつけて探しに来たんですね。
そこで、娘を発見!再会!となりました。
「お前はこんなところで何をしているのだ。」
「お父さまこそ。」
「いいから故郷へ帰りなさい!」
「いいえ、亡くなったお母さまもきっと、私の悲しみをわかってくれているはず。復讐を望んでいます。」
「ううむ…ではよし!共に行くぞ。」
「はい!」
…ということで、2人でパーティー会場に乗り込みに行きます。大胆ですね~!
屋敷では、婚礼のパーティーが始まろうというところ。
花嫁のクニッツァが登場しました。

ちょっと大袈裟なパーティーに若干気おくれしているなんて言っているんですが、リッカルドとの未来にも不安を抱えているようです。その不安、正解‼
どうやらこのクニッツァ、悪い人ではなさそうです。
そんなクニッツァをリッカルドは一生懸命慰めるという二重唱があります。
一旦、一同別の場所へ退場するんですが…
さあ、そこへ、侵入というか、屋敷に入ってきたレオノーラ、クニッツァを呼び出してその2人が対面します。レオノーラはクニッツァに、自分が敵方、オベルトの娘であると明かして、クニッツァは驚きます。
そこへオベルトも登場。
「どうもわたくし、オベルトです。実は、あなたが結婚しようとしているリッカルド、あの男はとんでもない奴でして…」
「なんですって!」
「私の娘を・・・・・」
それを聞いたクニッツァ、やっぱり良い人でした。同情して、
「わかりました。」
とレオノーラをリッカルドに引き合わせようとします。
「一旦、お父さまは隠れてて。」
リッカルドと一同を呼び出して、
「リッカルドさん、この方をご覧ください。」
「ゲ~~~!!」地獄!
「確かにこの人を愛していたことはありますが、この女が僕を騙したんです!」
はい、最低。
レオノーラは、
「あー、やっぱりこの男最低でした。裏切者です!」
と叫べば、娘を侮辱された父・オベルトもたまらず出てきて、一同大騒ぎです。
オベルトがリッカルドに決闘を申し込んで、壮大なフィナーレとなり、前半、第1幕が終わります。
続いて後半、第2幕。
屋敷の一室で、クニッツァが侍女たちに慰められています。
クニッツァとしても、ショックでしたからね。
ひとしきり嘆いた後、
「偽りの婚約者はレオノーラのもとに戻るべきです」
なんてことを言うんですね。やっぱり良い人です。
周りの人々も、
「こんなに優しくて心の清らかな方に、あんな男ふさわしくないですよ」
と言っています。
ところ変わって、オベルト父さんが、決闘相手のリッカルドを今か今かと待っています。
「あいつ遅いな。老いたとはいえ、腕はまだ衰えてはないぞ!」
とやる気満々です。
リッカルドが一応約束どおり現れますが、
「オベルトさん、あなた、年なんだから勝ち目ないですよ、まあまあ、決闘なんてやめましょうよ。」
と説得します。
「何をこの恥知らず!お前はあれか、女には英雄気取り、戦では卑怯者ってか。」
「あ~はいはい、そこまで言いますか。じゃあ、やってやろうじゃねえか!」
と言って、リッカルドも剣を抜きます。
そこへ、クニッツァがレオノーラと一緒に止めに入ります。
一旦、時が止まったかのように、それぞれの心模様が歌われる四重唱です。
この四重唱、後の「リゴレット」の四重唱にも通じるような、4人それぞれがお互いの心を歌っているという場面です。
クニッツァは皆の前で、リッカルドに、
「レオノーラとよりを戻しなさい!責任をあなたが取りなさい。私との結婚はもういいから。」
と促します。
「はあ…」となっているリッカルドに、まだ怒りが治まらず、どうしてもリッカルドを亡き者にしたいオベルトが、耳打ちをします。
「おい、卑怯者と呼ばれたくなければ、今は従うふりをして、よりを戻すと言え!後で森の中で決着をつけるぞ!」
「よし!わかった!行くとも!」
と応えて、リッカルドはその場で
「わかりました。レオノーラとよりを戻します。」
なんてことを言うんですね。
このあたり、何でそうなるの?と言いたいような気もするんでけど、現代から見るとちょっと「?」なんですが、、
中世のこの頃の、特に騎士道においては、名誉は命より大事!という概念がありました。
この場合、決闘から逃げたら、その事が恥ずかしくて死ぬより辛い、という事だったんですね。なので、その場をささっと治めて、決闘に向かおうとリッカルドはしています。
そのことを聞いて、喜んじゃうレオノーラ。
そのことを聞いて、複雑なクニッツァ。
悔やんでももう遅い、リッカルド。
プンプン!オベルト。
といったところで、一旦解散になります。
…少し経って、森の中から剣を突き合わせる音がします。
そして、血まみれの剣を持って、リッカルドが出てきます。
やはり、年老いたオベルトは勝てず、倒れているんですね、リッカルドは罪の意識に苛まれ、ひとしきり嘆きのソロを歌った後、その場から逃げ去ります。
どうやら、イタリアから国外逃亡を図るようです。
その決闘の様子を、レオノーラは見てしまいました。つまり、父親が、想い人に、殺されたんですね。
レオノーラの嘆きと、慰めるクニッツァたちのフィナーレ。ここは主にレオノーラの大きなアリアになるのですが、それを歌った後、レオノーラは気を失って倒れてしまい、物語の幕が下ります。
完
ということでした。いかがでしたでしょうか?
やっぱり、なんか激しいお話だなあ、という気がするんですけれども、こういった悲劇的オペラっていうのは、如何に、人間の業とか運命の非情さを表現するか。それでそこにドラマティックな音楽がつくことで、観ている聴衆はある種のカタルシス、恍惚感とか、興奮とかそういうものを得る、と。日常では得られない、非日常のドラマを音楽と共に体験できるわけですね。
音楽的には、先輩のベッリーニとかドニゼッティの影響が色濃い、と、似ていると言われるのですけれども、そこに若々しい、ヴェルディの躍動感と、その後現れるヴェルディのオリジナルのヴェルディ節みたいなものが既に現れているような気がします。
魅力的な作品ですので、もっと上演されればいいのになあなんて思うのですけど、その後の作品が凄過ぎますからね。なので、機会がちょっと少ないのですが、皆さんぜひ検索などして聴いてみてください。
髙梨英次郎でした!
参考文献(敬称略)
小畑恒夫「ヴェルディ 人と作品シリーズ」
ジュゼッペ・タロッツィ「評伝 ヴェルディ」小畑恒夫・訳
永竹由幸「ヴェルディのオペラ」
髙崎保男「ヴェルディ 全オペラ解説」
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