オペラ解説:ヴェルディ「二人のフォスカリ」成立から、あらすじまで

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オペラ「二人のフォスカリ」解説 - テノール歌手:髙梨英次郎のトークです | stand.fm
オペラ全曲ざっくり解説です。 ヴェルディ6作目のオペラ「二人のフォスカリ」です。 文字起こしはこちら↓ 0.00〜 概要 0.48〜 それまでのヴェルディ、作曲までの経緯 3.57〜 オペラの内容 第1幕 10.05〜 第2幕 14.32〜...

こんにちは、テノール歌手、髙梨英次郎です。

本日もオペラ全曲をざっくり解説していきます。

オペラって面白いですよ!

今回はヴェルディ6作目のオペラ「二人のフォスカリ」です。

イギリスの有名な詩人バイロンが書いたドラマが原作です。

バイロン

オペラのほとんどで描かれている恋愛模様というものは無く、ひたすら15世紀ヴェネツィアの血生臭い政治に巻き込まれてゆく家族の、史実をもとにした悲劇と、その心の内を音楽化した、非常に意欲的な作品です。

それでは、それまでのヴェルディの人生、この作品への経緯についてお話します。

後にヴェルディ自身が「苦役の年月」と振り返るぐらいの多忙な期間が始まっていました。

イタリア中からオファーが殺到していたのですね。

このバイロン作、(原題は「The Two Foscari」)はヴェネツィアのお話なので、ヴェネツィアの劇場からの依頼にちょうどいいのでは、とヴェルディは考えていました。

ですが、内容が血生臭い政治のお話ですし、このお話での悪役の子孫がまだその当時健在で生きていたので、ヴェネツィアの劇場側がこの「フォスカリ」に関しては却下しました。なので、ヴェネツィアでの新作は前回お話した「エルナーニ」( https://tenore.onesize.jp/archives/88 ) になりました。

別の劇場、ローマのアルジェンティーナ劇場からも新作の依頼が来ていたので、そちらでこの「二人のフォスカリ」を上演することに決まりました。

Teatro Argentina

台本は前回の「エルナーニ」に続いて、ピア―ヴェが書くことになりました。

今回もヴェルディ先生、従順なピア―ヴェ君に、

「この題材はオペラ化しにくい面もあるけれど、あなた自身でよく考えて知恵を絞って、全力を尽くしていい台本にしてね」

と、プレッシャー与えまくりの手紙を書いています。

ピア―ヴェ君、プレッシャーに負けずに、原作にはなかった場面をしっかりと書き込んだりとか、頑張ってオペラの台本を仕上げました。

初演は、1844年11月3日 ローマのアルジェンティーナ劇場、ヴェルディ31歳になっていました。

初演は、まずまずの成功でした。初演よりも2日目以降、じわじわとその人気は上がっていき、その後しばらくヨーロッパの各劇場でレパートリーになっていきました。ミラノのスカラ座でも人気が出たようです。

ちなみに「エルナーニ」の初演から2か月後、ヴェルディは故郷のレ・ロンコレという村で農業用の土地を購入しています。

後に作曲しない時期は農場管理にいそしむことになりますが、その種がまかれたということになります。稼いだお金をしっかり土地という資産に変えていったのですね。しっかりしておられます。

それでは、「二人のフォスカリ」オペラの内容へ移っていきたいと思います。


全3幕

時は1457年、場所はヴェネツィア

登場人物→ほぼほぼ実在した人物

フランチェスコ・フォスカリ:ヴェネツィアのDoge →日本語で総督 この時80歳を超える高齢でした。

Francesco Foscari

ヤコポ・フォスカリ:フランチェスコの息子 この2人で「二人のフォスカリ」というわけです。

Jacopo Foscari

ルクレツィア:ヤコポの妻

ロレダーノ:十人委員会の一人 フォスカリ家の政敵(訂正:上記相関図で、兄弟を殺されたと思い、とありますが、父と叔父でした)

この時代のヴェネツィアは、政治の一番トップにドージェ(総督)がいて、また別に十人委員会(十人会議とも)が10人で物事を決めるという体制でした。

この物語の時期、その十人委員会はかなりの影響力を持っていて、総督を常に監視して、総督の提案したこともはねつけたりすることもできる、非常に権力のある組織でした。このことが、このオペラの前提となっています。


オペラは短めの前奏曲で始まります。これから始まる悲劇の内容に沿ったドラマティックな曲調です。

<第1幕>

ヴェネツィアでおそらく一番有名な場所、サン・マルコ広場に面したPalazzo Ducale ドゥカーレ宮殿内。

(Venice) Doge’s Palace facing the sea

怪しげな雰囲気の中、十人委員会や政府の役人たちが集まってきます。

これから、ヴェネツィアへの反逆罪、要人の暗殺罪に問われているヤコポ・フォスカリの処分が話し合われます。皆は会議室に向かっていきます。

ドゥカーレ宮殿内会議のイメージ

このオペラでは、主要な人物や、十人委員会の合唱それぞれに、特徴的な音楽モティーフが当てられています。

ワーグナーのライトモティーフとはまた違うのですが、これまでのヴェルディのオペラにはなかった、この人にはこの音楽、という具体的な紐づけがなされています。

悲し気なモティーフ音楽に乗って、ヤコポ・フォスカリが入ってきます。彼は、宮殿内の牢獄に閉じ込められていました。彼は政敵を暗殺した罪の容疑で、ギリシャのクレタ島に流されていたのですが、そこから故郷に帰りたいあまり、ミラノの領主に手紙を書いていました。

この時代、ヴェネツィアもミラノも独立した地方だったので、その関係性は微妙なものがあったのですね。

ヴェネツィア政府へ、ヤコポを故郷に戻すよう、圧力をかけてもらおうとしたのですが、その手紙はヴェネツィア政府の手に渡ってしまい、さらなる反逆の疑いをかけられてしまったのでした。

で、ヤコポは今ヴェネツィアに居ます。

Image of Jacopo Foscari

捕らえられた状態とはいえ、故郷ヴェネツィアに戻ってくることが出来て、その海の香りを吸い込み、感極まって涙します。そこから、無実を訴える決意の気持ちがわいてくる、というところまでがテノール、ヤコポのアリアです。


場面が変わって、総督の宮殿におけるフォスカリ家の広間で。

ヤコポの妻ルクレツィアが、侍女たちの制止を振り切って走ってきます。彼女は自らヴェネツィア政府の委員会に出席して、夫の無実を訴える!と息巻いています。

Image of Lucrezia

少し落ち着いた彼女は、神へ向けて祈りというか懇願といった想いを歌います。

そこへ仲の良い侍女が入ってきますが、それは夫ヤコポがさらなる流刑、島流しに処せられたとの知らせでした…。怒りを抑えられないルクレツィア。と、ここまでが彼女のアリアです。


場面は再びドゥカーレ宮殿。

十人委員会以下、政府の役人たちが出てきて、ヤコポの罪状を語ります。これが独立した合唱曲となっています。

そして総督の部屋の中。

フランチェスコ・フォスカリが1人苦悩しています。彼は政治を司る者として、実の息子に流刑を言い渡さなくてはなりませんでした。ヴェルディが何度も描く、苦悩する父親像です。

Image of Francesco Foscari

そこへルクレツィアが入ってきて、夫の無罪を義父に訴えます。

しかし、総督であるフランチェスコでも、政府の決定を覆すことはできません。

その2人の二重唱で、第1幕が終了します。


<第2幕>

地下の牢獄。

夜の闇の中、ヤコポ・フォスカリは、かすかにもれる光の中に、以前十人委員会によって首をはねられた人の亡霊を目にして、錯乱した状態でソロを歌います。

牢獄で1人歌うというシチュエーションは、これ以前も以後もオペラの定番の場面の1つです。「フィデリオ」や「アンドレア・シェニエ」、プッチーニの「トスカ」などにもテノールが牢獄で1人歌う場面があります。

そこに妻のルクレツィアがやって来ます。流刑の前に面会を許されたのでしょう。

正気を取り戻したヤコポは、妻を抱きしめます。

「生きながらにして、妻や子どもたち家族と2度と会えないのは、死ぬことより辛い」

と嘆きます。

外からはゴンドラ乗りたちの陽気な歌が聴こえてきて、一層ヤコポたちの悲劇が強調されます。

そこへ今度は、父であり総督のフランチェスコがやって来ました。

この第2幕第1場では、このようにヤコポのソロから始まって、1つの場所でだんだん人数が増えてくる形になります。ここで3人となりました。

抱き合う家族たち。

フランチェスコは、息子への愛情を示すものの、程なく、

「自分はもう行かなくてはならない、次は父としてではなく、総督として相対することになるだろう」

と告げます。

そしてそこに、十人委員会の1人でフォスカリ家と敵対するロレダーノが、衛兵を連れて現れます。

ヤコポを判決の場に連行しようというのでした。

ロレダーノはフォスカリ家に対して物凄い敵意を抱いています。

自分の兄弟2人(訂正:兄弟ではなく、父と叔父でした)が相次いで亡くなったのは、フォスカリ家に毒殺、暗殺されたということだと思っています。彼の兄弟(父と叔父)も同じく政治家だったのですね。

歴史的にこういった暗殺が疑われたということはあったのですが、それが真実かどうかはわかりません。わかりませんが、もともとフォスカリ家とロレダーノ家が敵対していたこともあって、兄弟たち(父と叔父)が死んだタイミングが良すぎたことは事実のようです。


場面変わって、十人委員会の会議室。

総督たるフランチェスコが席について、

「自分は被告の父親であるが、総督として法を遵守する、私情は挟まない」

と宣言します。

そこへ息子ヤコポが連行されてきます。

判決文を読んだ後、ヤコポは父親に、

「息子へ何か言うことはないのですか?」

と尋ねますが、フランチェスコは、

「法に従いなさい」

と諭すのみでした。

ヤコポが流刑先へ連行されようというとき、妻ルクレツィアが子供たちを連れて会議室の入り口に立ちはだかります。無情な判決に涙する家族たち…。

十人委員会の面々すらも哀れみの面持ちですが、政敵のロレダーノだけは、兄弟たち(父と叔父)の復讐が叶う、と満足気です。

家族と引き離されて、連行されていくヤコポでした…。

ここで第2幕終了です。


<第3幕>

サン・マルコ広場。

今日はヴェネツィアの恒例行事、レガッタというゴンドラ競技大会の当日で、賑やかです。このオペラ、唯一と言っていいほど明るい場面です。

Image

ところが、ヤコポを連行する政府の一団が入場すると、雰囲気が一変します。

ヤコポは妻と永遠の別れを惜しむアリアを歌います。そしてついにヤコポは、島へと向かう船へ連行されていきます。

一方、総督の部屋では。

フランチェスコが1人、また苦悩しています。彼にはほかの息子もいたのですが、その息子たちも亡くなっていました。

そこへ、議員の1人がある書面を持ってきました。

そこには、ある男が死に際に、ヤコポが最初に島流しになった容疑の、暗殺の罪を、自分がやったと告白した、との知らせが書かれていました。

ヤコポの無実が証明されたのです!

…しかし、喜びもつかの間、ルクレツィアが駆け込んできて、夫ヤコポが船の中で息絶えてしまったことを告げます…。

度重なる投獄と拷問でヤコポの体は衰弱しきっていたのでした…。

ルクレツィアは、悲しみよりも、政府への怒りがこもったアリアを歌って去ります。

そこに十人委員会が入場。一方的にフランチェスコへ、総督を解任する旨を告げます。

過去に2度、フランチェスコは総督を辞めたいと委員会に願い出ていましたが、その時は聞き入れられず、総督を続けさせられていました。

ところが、自分たちが無実のヤコポを流刑送りにしたうえ殺してしまったことを隠蔽するかのように、フランチェスコの地位をここで剝奪しようというのでした。

悲しみと怒りを歌うフランチェスコ。

ルクレツィアが戻ってきて、総督としての衣装や冠を奪われたフランチェスコを支えて去ろうとしますが、その時、サン・マルコ寺院の鐘の音が鳴り響きます。

フランチェスコの次の総督が決まった報せでした。とっくに次の総督は決まっていたわけですね。

息子も地位も名誉もすべて失ったフランチェスコは、あまりのショックと心労がたたってか、その場で息絶えてしまうのでした…。

ロレダーノがつぶやきます。

「これで恨みが報われた!」

以上で「2人のフォスカリ」オペラ全体の幕が下ります。


いかがでしたでしょうか?

イタリア・オペラにおいて、不条理で誰も救われないという悲劇は数あれど、恋愛模様が途中で描かれるでもなく、ここまで救いのない作品もなかなかないのですが…。

自分で好きな題材を選べる契約を劇場と結んだヴェルディが、あえてこういった作品を選んだことに、当時のヴェルディが表現したかったものが込められているのではないでしょうか。

ヴェルディ自身、我が子を失う経験をして、そうした悲しみや不条理さへの憤りのようなものをオペラで、音楽で表現できると、このバイロンの原作に触れたときに感じたのかもしれません。

音楽の構成も、それまでのイタリアオペラの様式をあえて外して、登場人物の心の内を極限まで表現しようと、色々な試みをしています。大変興味深いオペラです。

どうぞ皆さんも、この魅力的な作品に触れてみてください

この「二人のフォスカリ」、何かに似てるな、と思ったんですけど、「ゴッドファーザー」PART 1~3まで、にちょっと似てるかなと思いました。ご覧になった方、おわかりいただけますでしょうか?

アル・パチーノ演じるマイケル・コルレオーネが、PART 1から3まで、色々と汚いこともやったり、敵対勢力をどんどん駆逐していったりするんですけれども、それで恨まれて、PART 3の最後で、愛する息子を殺されて、悲嘆にくれて、一番最後、年老いたマイケルが1人死んでいく。

権力のトップに上り詰めたがゆえの、寂しさとか虚しさみたいなものも感じられて、非常に悲しい最後なんですけれど、そういったドラマのモデルに、もしかしたらこの「二人のフォスカリ」がなっているんじゃないかと思いました。

ありがとうございました。

髙梨英次郎でした。


参考文献(敬称略)

小畑恒夫「ヴェルディ 人と作品シリーズ」「ヴェルディのプリマ・ドンナたち」

ジュゼッペ・タロッツィ「評伝 ヴェルディ」小畑恒夫・訳

永竹由幸「ヴェルディのオペラ」

髙崎保男「ヴェルディ 全オペラ解説」

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