オペラ解説配信の文字起こしです。
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こんにちは!テノール歌手の髙梨英次郎です。
本日もオペラ全曲をざっくり解説して参ります。
オペラって面白いですよ!
今回はヴェルディ9作目のオペラ「アッティラ」です。
アッティラは、5世紀の中頃に実在したフン族の王で、ヨーロッパ大陸に攻め込んで、ロシア、東ヨーロッパ、ドイツの辺りまでを征服していました。

フン族は、そのルーツがモンゴルのあたりとも言われている遊牧民でしたので、定住をすることもなく、土地から土地へ移動する民族でした。
もしかするとアッティラは、チンギスハンの先祖、なのでしょうか?
ヨーロッパでは、いわゆる泣く子も黙る、といった感じで恐怖の大王的存在です。
音楽的にも非常に充実しており、ヴェルディ先生の、常に新しい表現を追求する姿勢が示された、傑作オペラです。
では、作曲の経緯についてお話します。
ヴェルディは、ヴェネツィアのフェニーチェ劇場で、謝肉祭・カーニバルの時期に新作を上演する契約を結んでいました。
今回の題材は、ヴェルディが自分で見つけた、ドイツの作家ヴェルナーの「フン族の王アッティラ」。
台本、に関しては、かなりのすったもんだがありました。
初め、ヴェルディは、「エルナーニ」( https://tenore.onesize.jp/archives/88 ) から従順にヴェルディのダメ出しにも対応してきたピア―ヴェ君に、「アッティラ」を頼んでいました。
ですが、途中から、「ナブッコ」( https://tenore.onesize.jp/archives/86 ) や「ロンバルディ」( https://tenore.onesize.jp/archives/87 ) など、スカラ座でともに仕事をしてヒットを飛ばしてきたソレーラに変更します。
ソレーラは歴史ロマン的なお話が得意なので、ヴェルディは彼に任せることにしたのですが、どうも仕事に取り掛かるのが遅い。
それでも、「アルツィーラ」( https://tenore.onesize.jp/archives/91 ) を終えたヴェルディのもとに、ソレーラから台本が送られてきました。
その台本にヴェルディはおおむね満足したのですが、一部気に入らないところがあり、ソレーラに手直しのリクエストをします。
ですが、一向に返事がない。
その頃にはソレーラは、イタリアを出て、妻と共にスペインのマドリードに移住していました。
そのうえで一向に直しを送ってくる気配がないので、とうとうヴェルディはあきらめて、再びピア―ヴェ君に、手直しの部分だけ書いてもらうよう依頼したのです。
一度依頼しておいて、ソレーラに変更して、今度はまた手直しを要求された。
にもかかわらず、ピア―ヴェ君はとってもお人好しで、文句も言わずにその仕事を引き受けて台本を仕上げます。
ヴェルディは、ピアーヴェ君の手直しを、確認のためソレーラに送ったのですが、ソレーラは
「何だこりゃ。俺の台本汚されたわー。」
とただ文句をつけ、肝心の自分の仕事はしないので、とうとうヴェルディ先生おブチ切れに。
これを機に、ヴェルディはソレーラと二度と仕事をすることはありませんでした。

ヴェルディの体調不良もあって、謝肉祭シーズンから少し遅れて、初演は1846年3月17日、ヴェネツィアのフェニーチェ劇場、ヴェルディ32歳。

初演から評判は良く、回を重ねるごとにその人気は高まり、劇場を出たヴェルディをホテルまで見送る、街宣騒ぎが起きるほどになりました。
特に当時の聴衆の心をつかんだのは、バリトンのエツィオという役がアッティラに向けて発する言葉
「世界はくれてやるが、イタリアは俺にくれ」
これがオーストリア支配からの独立を欲するイタリアの民衆に響かないはずがなく、瞬く間にイタリア中の劇場で上演されていきました。
「イタリアを俺たちに!」とみんな叫んだそうです。
それでは、オペラの内容へ移って参ります。

アッティラ
プロローグと3幕
時は5世紀の中頃
登場人物
アッティラ:フン族の王
エツィオ:ローマの将軍
オダベッラ:イタリア北東アドリア海近くの町アクイレイアの領主の娘
フォレスト:アクイレイアの騎士
レオーネ:ローマの老人
オペラは、ドラマの内容をぎゅっと凝縮した、短めの素晴らしい前奏曲で幕を開けます。
<プロローグ>
イタリア北東アクイレイアの広場
ヨーロッパを征服してきた、アッティラ率いるフン族の戦士たちは、イタリアの町アクイレイアを、激戦の末に陥落させました。

広場では勝利を喜ぶフン族の男たちが盛り上がっています。
そこへ王アッティラ登場。勝利を宣言します。

部下が捕虜となった何人かの女性を連れてきます。
その中には、アクイレイアの領主の娘オダベッラもいました。
彼女たちも、男たちと共に町を守ろうと戦っていました。
まるで大河ドラマ「八重の桜」みたいですね。
ここでオダベッラのアリアが歌われます。

彼女の祖国への愛と勇敢さに、アッティラは感銘を受けました。
「臆病者は好かぬが、強き者はあっぱれである。俺の剣をお前にやろう」
と、自分の剣をオダベッラに渡します。
オダベッラは、この剣でアッティラへの復讐を果たすことを、心に誓います。
この誓いが、後々重要になってきます。
女たちが去ったあと、入れ替わりに、ローマの将軍エツィオが、ローマからの使者として現れます。
かつてエツィオは、アッティラ軍と戦い、勝利していました。
アッティラもエツィオには一目置いています。

エツィオは人払いをして、アッティラに内密な取引を持ち掛けます。エツィオは、
「全世界はアッティラ、そなたが取りなさい、ただし、イタリアは私にくれ」
と言います。
ここに、当時のイタリアの聴衆観衆が大盛り上がりしたのですね。
ですが当のアッティラは、
「そんな取引受けるか!俺たちの勢いは止められんぞ。戦ってローマも奪ってやる!」
というので、交渉は決裂。
という二重唱でした。
場面が変わって
アドリア海沿いのぬかるんだ泥地。
ここにアクイレイアから逃れてきた人々が、戦士フォレストに連れられてやって来ます。

フォレストはオダベッラと恋仲にありましたが、今は離れ離れ。
フォレストは、オダベッラの身を案じています。
ですが、やがて祖国を取り戻す戦いに勝利するだろうと、その場にいる皆を励まして、希望を新たにします。
ここまででプロローグが終了です。
<第1幕>
アッティラの陣営に近い森の中
捕らわれのオダベッラが1人でたたずんで、悲しみのソロを歌います。
そこへ同じアクイレイアの戦士で恋人のフォレストが森へ忍びこみ、姿を見せます。
フォレストは怒っています。
彼は、オダベッラが憎きアッティラの愛人になってしまったと思っていたのでした。
オダベッラは、
「私はユディトのように、アッティラの寝首をかこうと思っているのです」
と弁明します。
ユディトとは、旧約聖書に出てくる女性で、ホロフェルネスというアッシリアの将軍を、彼の愛人になったふりをして寝室で殺害して、イスラエルを救った英雄として有名で、西洋絵画の題材にもなっています。

それを聞いてフォレストも納得し、二人で抱き合う二重唱なのでした。
場面変わってアッティラのテント
アッティラは悪夢にうなされて飛び起きます。
駆け込んできた部下に、その夢の内容を語るのでした。
(夢の中で)ローマに立ち入ろうとすると、謎の老人が現れて、
「そなたが鞭を振るえるのは人間に対してだけ。
ローマは神の土地だ。立ち去れ!」
と言われたということです。
鞭を振るうというのは、当時、アッティラの進撃が、ヨーロッパのキリスト教諸国にとって、神の鞭のように恐れられた、と言われていた史実によるものです。
やがてアッティラは気を持ち直し、ローマへの進軍を決意します。
ここまでアッティラのアリアが歌われる場面です。

すぐに第1幕のフィナーレへと移ります。
アッティラは全軍にローマへの進軍を宣言します。
出発しようというその時、どこからか声がします。
やがて、レオーネという老人を先頭に、女子供たちが行列となって現れます。

彼らは平和への祈りをつぶやいているのですが、老人レオーネを見て、アッティラは驚愕。
それは夢で見たあの謎の老人でした。
しかも夢と同じ言葉を老人レオーネは発します。
「そなたが鞭を振るえるのは人間に対してだけ。
ローマは神の土地だ。立ち去れ!」
動揺と恐怖で、アッティラは思わずその場にひざまずいてしまいます。
行列には、アクイレイアの戦士フォレストとオダベッラも混じっていて、ひざまずくアッティラの様子を見て、いずれ来る勝利を確信するのでした。
以上で第1幕が終了します。
ちなみにこのレオーネという老人。
オペラでは謎の老人。
原作本では、大司教として描かれるのですが、
史実では、当時のローマ教皇レオ1世(イタリア名レオーネ1世)が、ローマへ攻め入ろうとするアッティラを説得して、攻め入るのをやめさせた、という記録があります。

なぜやめたのか、諸説ありますが、ともかく、オペラにおいて謎の老人、とされていても、歴史を知っているヨーロッパの人々とりわけイタリア人からすれば、ああ、ローマ教皇のレオーネのことね、と暗黙の了解となっていたのでしょう。
オペラに実在したローマ教皇を登場させるというのは、はばかられるものがあったようです。
<第2幕>
ローマ将軍エツィオのもとに、アッティラと休戦の協定を結んだローマ皇帝から、ローマへ帰ってくるよう命令が届きます。
皇帝を快く思わないエツィオは、不満と怒りを覚えつつも、祖国ローマへ戻ることを決めます。
そこに、アッティラの奴隷たちがやってきて、
「エツィオ様、アッティラのもとへお越しください。」
と、要請しに来ます。
その奴隷たちの中に、アクイレイアのフォレストが混じっていました。
フォレストはエツィオに、アッティラの殺害計画を打ち明けて、協力を頼みます。
エツィオはそれを承諾し、アッティラを滅ぼすことを誓って歌います。
場面変わって第2幕のフィナーレへ。
アッティラの陣営で、休戦を祝う宴が催されています。

エツィオがアッティラに迎えられます。
アッティラの傍らにはオダベッラ。
そこへ祝いの盃が運ばれてきます。
すると突然、嵐の強風が吹いて、灯りの火を消してしまいます。
一同が恐怖におののく中、エツィオがアッティラに耳打ちします、
「再び同盟しないか」
と持ち掛けます。
アッティラはもちろんそれを拒否。
それはアッティラの注意をひくエツィオの作戦でした。
その間にフォレストは、オダベッラの手を取って、耳打ちします。
「オダベッラ、アッティラは今、仲間に毒を盛らせた盃に口をつけようとしている。毒殺するんだ。復讐が出来るぞ」
しかしオダベッラは、
「裏切り者によって殺される?ダメです、奴は私のこの剣で殺すと誓ったのです!」
プロローグで行った誓い、アッティラから譲られたこの剣で自分が復讐する、ということにオダベッラはこだわっています。
いざ酒を飲もうとしたアッティラにオダベッラが叫びます。
「いけません!毒が入っています!!」
えええ、バラしてしまいました…!
アッティラ激怒!
「だーーーーーれのしわざだーーーー!!」
そこに名乗り出たのはフォレスト!
「俺だーーーー!!」
「きーーさまかーーーー!!」
しかし、あまりに堂々としているフォレストに、アッティラは剣を振り上げることが出来ません。
するとオダベッラが、
「処罰は私にお任せを!」
と言うのでアッティラは喜び、オダベッラを妃に迎える!と宣言します。
それぞれの感情が交錯して、大変激アツの音楽となり、第2幕フィナーレの幕が下ります。
<第3幕>
第1幕と同じ森で
フォレストが怒りに燃えています。
オダベッラが花嫁としてアッティラのテントに向かったとの知らせ。
新婚初夜というわけですね。
フォレストはエツィオとも協力して、アッティラのテントを襲おうとしています。
フォレストの合図を待っていたエツィオは、彼に
「嫉妬している場合じゃないぞ、みんな待っているんだ」
と諭すのですが、フォレストは冷静さを欠いています。
フォレストとしては、オダベッラが自分を裏切って、アッティラに惚れちゃったんでしょ、と思っています。
フォレスト、ちょっと情けない気もしますが、テノール役の宿命です。
そこに花嫁衣裳のオダベッラがアッティラのテントから駆け込んできて、
「私が愛しているのはあなただけです!」
とフォレストに訴えます。どうしたのでしょう。
アッティラとの初夜を迎える直前に、アッティラに殺された彼女の父親の亡霊を見て、動揺したのでした。
やがてアッティラがオダベッラを追いかけにやってきますが、そこにはフォレストもエツィオもいる。
そしてどうやらローマの軍勢に囲まれているらしい。
激怒するアッティラ。
アッティラを刺そうとするフォレストを制止して、オダベッラが復讐の一撃をアッティラにお見舞いします。

「お前もか…、オダベッラ…」
と言い残し、アッティラは息絶えます。
復讐が完了して、喜び、神に感謝する一同でした。
以上で、オペラ「アッティラ」全体の幕が下ります。
いかがでしたでしょうか?
ストーリーをかいつまんで話すだけだと、ちょっと最後、あっけない感じもします。
この第3幕が、ピアーヴェ君による、手直しの場面なのです。
ですが、ヴェルディがつけた音楽は素晴らしいので、歌と音楽に浸ることで十分楽しめます。
こうやって作品ごとに順番を追って見ていくと、ヴェルディ先生の音楽がますますドラマティックに、繊細に、深みを増していくのがわかります。
美メロ、胸アツ展開が満載のオペラ「アッティラ」です。
皆さんもぜひ、この作品に触れてみてください。
次回はいよいよ、巨匠シェイクスピアの作品「マクベス」( https://tenore.onesize.jp/archives/93 ) に挑むことになります。
お楽しみに!
ありがとうございました。
髙梨英次郎でした。
参考文献(敬称略)
小畑恒夫「ヴェルディ 人と作品シリーズ」
ジュゼッペ・タロッツィ「評伝 ヴェルディ」小畑恒夫・訳
永竹由幸「ヴェルディのオペラ」
髙崎保男「ヴェルディ 全オペラ解説」


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