オペラ解説:プッチーニ「ラ・ボエーム」② 内容、あらすじ

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オペラ解説、音声配信の文字起こしです。

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オペラ「ラ・ボエーム」解説②、あらすじ、ストーリー - テノール歌手:髙梨英次郎のトークです | stand.fm
プッチーニ作曲オペラ「ラ・ボエーム」のストーリー、あらすじを解説! その後多くの作品にインスピレーションを与えた大傑作オペラ。ぜひ多くの皆様に触れていただきたいです♫ 0.00〜概要 1.12〜 第1幕 19.05〜 第2幕 27.47〜 ...

こんにちは!テノール歌手の髙梨英次郎です。
本日もオペラを解説して参ります。
オペラって面白いですよ!

今回はプッチーニ作曲オペラ「ラ・ボエーム」のストーリーについてお話して参ります。

プッチーニと台本作家たちが創り上げた、青春オペラの金字塔「ラ・ボエーム」。

どうぞ最後までお楽しみください。それでは参ります。


舞台は1830年頃のパリ。

登場人物
ロドルフォ:詩人で作家
ミミ:お針子(グリゼット)
マルチェッロ:画家
ムゼッタ:歌手
ショナール:音楽家
コッリーネ:哲学者
ベノア:家主
アルチンドーロ:政府の役人
パルピニョール:おもちゃ屋


<第1幕>

パリの一角にある屋根裏部屋。

序曲も前奏曲もなく、いきなりオペラの幕が上がります。
特徴的で快活な、ダダッダッダッダーンというリズムの音楽から始まります。
この音楽は若い芸術家たち(=ボヘミアンたち)のテーマとも呼べるものです。

主にワーグナーが発展させたライトモティーフという作曲技法を、プッチーニも自分の作品でふんだんに使っています。
分かりやすく言えば、このキャラクターにはこの音楽、ストーリー上重要なアイテムを表すのはこのメロディ、というように、モティーフ(日本語で動機)をそれぞれ設定しているということです。
前作「マノン・レスコー」(① https://tenore.onesize.jp/archives/903https://tenore.onesize.jp/archives/920 ) でもライトモティーフ的な作曲が成されていましたが、この「ラ・ボエーム」ではそれが一層、パズルのように組み合わさって音楽が展開していきます。

また、次々に喜劇的な場面が折り重なる作曲の仕方は、ヴェルディの「ファルスタッフ」(① https://tenore.onesize.jp/archives/127https://tenore.onesize.jp/archives/128 ) から影響を受けているとも言われています。

さて、オペラが始まってすぐに言葉を発するのは画家のマルチェッロ。

Image of Marcello


「この紅海が、俺を凍えさせるぜ!」
彼は現在、恐らく依頼のあった絵を描いているところですが、テーマは旧約聖書の一場面。
有名なモーゼの大海、のシーンです。紅海、とはその舞台となる海のこと。


ところがマルチェッロは寒さに震えて仕事が進みません。
この日はクリスマスイブ。
パリは北海道の最北端、稚内市よりも北にある都市です。この時期の寒さは尋常ではありません。
マルチェッロの指はすっかり、かじかんでいるようです。

窓に映るパリの風景を眺めていたのは、詩人で作家のロドルフォ。
ロドルフォにも特徴的なメロディのモティーフが与えられています。
「ここから見える煙突からは煙が出ているのに、うちの老いぼれ暖炉は怠けてやがる!」

Image of Rodolfo

彼らは自分たちの専門分野で多少の仕事をしているものの、この時には暖炉の薪を買うお金もなかったようで、ロドルフォとマルチェッロは寒さに震えながら、冗談を言い合っています。
ボヘミアンたちは貧しいながらも、若さと明るさを失ってはおらず、誰にでもある青春の楽しさが彼らによって表現されていきます。

やがて椅子を破壊して薪にしようとするマルチェッロをロドルフォは止めて、
「僕のドラマの情熱で部屋を暖めよう!」
と、自ら書いた芝居の台本を燃やすことにします。

そこへ、哲学者のコッリーネが外から入ってきます。
「質屋のやつ、クリスマスイブには仕事をしないんだとよ!」
コッリーネは自分が持っていた本を数冊、質屋に持って行ってお金に変えようと思ったのですが駄目だったみたいです。

Image of Colline

コッリーネも混じって3人で暖炉で暖まりますが、台本である紙の束を燃やした程度ではあっという間に暖炉の火は消えてしまいます。

そこへ意気揚々と、快活な音楽と共に音楽家のショナールが入ってきます。

Image of Schaunard


と同時にお店の若者もしくは少年が2人来て、薪や食べ物、ワインなどをたくさん持って運んできました。
ロドルフォ、マルチェッロ、コッリーネは大喜び!
ボヘミアンたちはショナールが投げたコインを拾い集めてそのコインの肖像に一言、
「ルイ・フィリップ国王に敬意を表す!」

原作およびオペラの舞台は1830年ごろのパリです。
世界史を習った方ならおなじみ、1830年のパリといえば、「七月革命」です。
名作「レ・ミゼラブル」で描かれているのと同じ時代です。
その革命によってフランス国王となったのが、ルイ・フィリップ1世。

Louis-Philippe I


彼の名前だけでなく、このオペラ「ラ・ボエーム」では1830年代パリの時事ネタがいくつか出てきます。
ですが、それらを知らなくても十分音楽とストーリーで楽しめますので、どうぞご安心を。

ショナールはどうやってお金を稼いだか、成功話を陽気に歌っているのですが、他の3人は薪に火をつけたり、食卓の用意をしていてまるでショナールの話を聞いていません。
やがてそれに気づいたショナール。
「お前らみんな悪魔にさらわれてしまえ!!」
そして、食事をとろうとする仲間たちを止めてこう言います。
「おい、ダメだって!この食べ物は備蓄しておくんだ!
 今夜はクリスマスイブだぞ!こんな日に外食しないでどうする!
 カルティエ・ラタンでは(パリの有名な地域)、どの通りにもご馳走が並んでるぜ!
 女の子たちも楽しそうに歌ってるぞ!
 いまちょっと家で飲んでから、外で食べよう!!」

みなもそれに賛成して、乾杯しようというその時…!
どんどんどん!!「すみません!!」
「誰だ?」
「ベノワです!!」

みな、うわあ大変だ!!と大慌てになります。
ベノワは、この狭い屋根裏部屋の家主。
3ヶ月分たまった家賃を取り立てに来たのです。

Image of Benoit

皆いっせいに隠れたり、ショナールが稼いできた金貨などを隠したりするのですが、個人的にツボなのは、「誰もいないよ!!」と叫ぶコッリーネ。
いや、いますよねとw

やがて部屋に入ってきたベノワ。
一計を案じたマルチェッロは、
「はいはい、払いますから、とりあえず一杯やりましょうや!」
と、半ば無理矢理ベノワにワインを勧めます。
戸惑いつつも断り切れず、飲み始めるベノワ。

マルチェッロは、
「ベノワさん、あなた歳はおいくつです?
 ずいぶんお楽しみだったみたいじゃないですか、イケナイ恋を、ね!?」
「そ、それは…!!」
「違うんですか?」
「いや、まあね、、、」
「キレイな人でしたねー」「いよっ色男!」「いたずらっ子!」
と、みんなではやし立てますw

お酒も入って気分が上がってきたベノワ。
「若い頃はワタクシ奥手でして、青春を取り戻したくてね!
 女性はあまり太り過ぎてない方が良いが、痩せた女はダメです!
 特に、、、うちの女房みたいな!」
ベノワがこういった途端、マルチェッロ始めボヘミアンたちは一斉にベノワを糾弾し始めます。
「妻がいるというのに何というフシダラな!!」
「我らの住み家にふさわしくない、つまみ出せ!!」

弁明しようとするベノワですが、酔っているため足どりもおぼつかず、とうとうボヘミアンたちにドアから押し出されてしまいました。

ベノワを追い払ったボヘミアンたちは、早速クリスマスイブで賑わう街中へ繰り出そうとしますが、ロドルフォだけは
「ちょっと雑誌の記事を書く仕事があるから、待ってて。」
と言い、残ります。
他の3人は、「下の門番のところで待ってるぞ」
と言い残し部屋を出て行きます。
途中でコッリーネが派手に転ぶ音がしますが、これはそれだけ建物の廊下が暗いということを表しています。

1人になったロドルフォですが、いまいち興が乗りません。
そこへ遠慮がちにドアをノックする音が。
「誰?」
「ごめんください。」
「女性だ!!」
ロドルフォは慌ててドアに駆け寄り開けると、そこには1人の若い女性が。
後程自分で名乗ることになりますが、この女性は通称ミミ。
男性だらけだったこのオペラにようやく女性、このオペラのプリマドンナ(女性主人公)が登場します。

Image of Mimì


ここからのプッチーニの作品、「トスカ」、「蝶々夫人」でも、女性主人公は最初に舞台裏から声だけが聞こえて、満を持して登場してくるというパターンが続きます。

さてこのミミ。
人物紹介ではお針子、とご紹介しましたが、日本文化歴史におけるお針子と、パリのそれとは意味合いが少々違います。
19世紀パリを描いた芸術作品によく登場するこれらの若い女性たちは、グリゼットと呼ばれています。
グレーっぽい服をよく来ていたところから付けられたグリゼット。
ヨーロッパで産業革命が広がっていった1800年代、パリのような大都市で暮らす場合、身分の低い女性がつける仕事は極端に少ないものでした。

そんな中、内職やお針子などをして少ない収入を得ていた女性たちがグリゼットと呼ばれていました。
身分の高いお嬢様たちと違って、こうしたグリゼットたちは身分の高い男性たちにとって格好の自由恋愛の対象となっていました。
グリゼットの側も、うまくいけば貴族やお金持ちに見初められて良い暮らしができるかもしれない、と積極的に男性の方へアプローチをしていきました。

やってきたミミも、そんなグリゼットのひとり。
ミュルジェールの原作小説では、かなり奔放に男性から男性へと渡り歩いていくミミの様子が描かれています。
しかし、プッチーニたちが創り上げたミミは、奔放な印象は減り、原作の別エピソードであるフランシーヌという女性の性格がミミといわば合体した可憐な女性へと変貌を遂げています。

ここから第1幕は前半とは雰囲気ががらりと変わり、急激にラブ・ストーリーの色を帯びていきます。

さてミミはボヘミアンたちの屋根裏部屋があるのと同じアパートの住人で、ロドルフォの所へ、ろうそくの火を貰いに来たようです。
舞台となっている1830年頃のこの時代、手軽なマッチはまだ一般に流通していませんでした。
ロウソクが消えたのは口実で、ミミは他の3人が出て行ったのを見計らって、以前から気になっていたロドルフォの所へやって来たのでは、という解釈も可能ですが、このオペラにおいてはあまりそのような深読みをし過ぎない方が良い気も致します。

部屋に入ってきたミミは身体が弱いのか、階段を上ってきたことで息が切れて、椅子に座るとそこで気を失ってしまいます。
その際、ミミの手から彼女の部屋の鍵が床に落ちます。
ロドルフォは鍵には気づかず、ミミの顔を濡らしたハンカチで拭いつつ、その青白い顔に見とれます。
残念ながらこの青白さは、結核の兆候でもあるのですが…。

気が付いたミミはロドルフォからロウソクの火を貰い、帰ろうとします。
しかしそこで、部屋の鍵を落としてしまったことに気づきます。
ここから音楽が活気を帯びて、聴いているだけでこれから恋が始まる予感がするような気がしてきます。
戸口にいるままのミミにロドルフォは
「そこにいたら風で火が消えてしまいますよ」
「あっ、消えてしまいました。また火を貰えますか?」
すると、ロドルフォのロウソクの火も風で消えてしまい、
「しまった、僕のも消えてしまいました!」
すると部屋は暗くなり、2人はミミの部屋の鍵を手探りで探すことになります。

演出にもよりますが、ロドルフォは自分のロウソクをふっと吹いて消すことが多いです。
それに、部屋にはショナールが運んできた薪、および火をつけるものもあるはずですが、いいんです、そんなことは。

ロドルフォは途中で鍵を見つけますが、
「ありました!?」
「…いえ。」
と、見つかっていない振りをします。

そしてロドルフォは、まだ探しているミミにゆっくりと近づいて、彼女の手を取り、、
「Che gelida manina 何と冷たい手」と、アリアを歌い出します。
全テノールのアリアの中でも屈指の名曲で、最後には高いド、High-Cの聴かせどころもある難曲でもあります。
ここでロドルフォが歌う内容は、最初は詩人である自分の単なる自己紹介。
ですが、
「僕が詩に書いてきた空想や夢は、2つの美しい瞳に奪い去られてしまいました。
 でも構いません。代わりに希望を残しておいてくれたのですから!!」
と、音楽と共に大変ドラマティックな歌となって、
「さあ、あなたも話してください、どうか」
と、ミミに続きを促してロドルフォのアリアが終わります。

そしてミミが遠慮がちに身の上話を語り始めます。
ここからはソプラノの名アリア「Si’, mi chiamano mimi’ 私はミミと呼ばれています」が歌われます。
ここで初めてこの女性がミミという名前だと明かされますが、本名はルチアとのこと。
これはつまり、ミミが先ほど申し上げたグリゼットとしての通り名だということ、源氏名のようなものであることを表しています。
ここで歌われる歌と音楽は、とても美しいもの。
「私、素敵なもの、愛とか春、夢や空想について語る詩というものが好きなんです」
そう歌われて、詩人のロドルフォは喜びます。
その後ミミが語ることは、何気ない春の喜びを歌うものですが、詩人ロドルフォの歌が詩人であるがゆえに幾分作為的であったのに対し、ミミは心から歌った歌が結果的に詩になったという印象を受けます。
後の2幕でロドルフォが皆に言うことですが、彼にとってはミミが詩そのものとして目の前に現れたのです。
2人が恋に落ちるのは必然であると言えるでしょう。

さてミミのアリアが終わると、外から男たちの声がします。
そう言えばマルチェッロ、ショナール、コッリーネの3人は、アパートの外でロドルフォを待っているのでしたね。
「おい、ロドルフォ、あほ詩人!早くしろよ!何しているんだ、一人で?」
極寒のパリの屋外で待たされていた3人に、ロドルフォは応えます。
「1人じゃないんだ、2人だよ」
「うえええい!!」
何が起きたかすぐに3人は察して、はやし立てます。
「先にカフェ・モミュスで席を取って待っててくれ!僕たちも後から行くから」
「モミュス!モミュス!いなくなってやろうじゃないか。あいつは詩を見つけたんだ!」
なんと良い仲間たちでしょう。
こういった仲間とのやり取りも非常に”青春”を感じさせるところです。

そしてロドルフォがミミの方へ振り返ると、月明かりが差し込むように第1幕クライマックスの二重唱へと突入していきます。
ロドルフォが歌い出してミミの声が重なり、愛が盛り上がろうかというところで、ミミは身体を離し、
「だめ、お願い」
「もう僕を追い払うの?」
「違うの、、あなたと一緒に行ってもいい??」
「何だってミミ!?ここにいた方が寒くないよ?」
「あなたのそばにいるから。。。(寒くないほど近くにいるということでしょうか)」
「戻ってきたら(何するの)?」
「知りたがり屋さん!」

…こんな会話が繰り広げられます。
ミミの「あなたと一緒に行ってもいい?」のところでロドルフォに”驚いて”というト書きがあるのですが、先ほど仲間たちに「後から僕たちも行くから!」と言っていたのに、なぜロドルフォはミミに「私も一緒に行く」と言われて驚くのでしょう??「今すぐ行くの?ここでもう少し一緒にいてからじゃないの?」という驚きでしょうか??答えをご存知の方はぜひコメントください。

そうして二人は外へと出かけていき、舞台裏から二人が「Amor Amor !!」と文字通り愛を叫んで、しっとりと第1幕が終わります。


<第2幕>

パリ、カルティエラタン(ラテン通り)
実在する、昔から学生街として有名なこの通りは、クリスマスイブの夜ということで盛り上がっています。

街がにぎわう様子を音楽化したものとして、この「ラ・ボエーム」第2幕は屈指の完成度を誇っていると言ってもいいのではないでしょうか。

このオペラで合唱が派手に歌われるのもこの第2幕のみ。(第3幕の合唱はほんの少し)
子供の合唱も必要としていて、物を売る人や買う人、子どもたちの親、皆が勝手に騒いでいるようでいて、音楽的には奇跡のようにまとまっている。
幕が開いたと同時に聴いているだけでウキウキしてくること間違いありません。

そんな群衆に、ボヘミアンたちも混ざっていきます。
音楽家ショナールは、買おうとしていた狩猟用ホルンのレの音が変だ、と言っていますが、恐らくわざと下手に鳴らして、値切ろうとしているのではないかと思われます。
哲学者コッリーネは、マントのような古着のコートを買おうとしています。
離れたところではカップルになったばかりのロドルフォとミミが楽しくデートをしています。
マルチェッロは周りのカップルや若い女子たちを見るにつれ、何やらぶつぶつ言っています。
第1幕でも名前が出ていた、ムゼッタという女性のことを忘れようにも思い出してしまう、そんな状態のようです。

ロドルフォはミミに、ピンクのボンネットを買ってあげます。
ボンネットとは、車の前面のことではなく、昔のご婦人が被っていた帽子の一種です。

(追記:車の方は、帽子のボンネットが語源となっているようです)


そしてほどなく、2人はカフェ・モミュスで先に待っていたボヘミアンたちと合流。
ロドルフォは仲間たちに新しい恋人、ミミを紹介します。
仲間たちはラテン語を駆使して、厳粛っぽい雰囲気を作り出してまるで儀式のようにミミを迎えます。
彼らは、モーツァルトも入会していたフリーメイソンのような、秘密結社ごっこをして楽しんでいるわけです。

さあ席について注文をしようという時、外ではおもちゃ屋のパルピニョールの声がします。
ここで子供たちが欲しがるものは、楽器や馬のおもちゃ、そして兵隊の人形など。

Image of Parpignol

第1幕でもお話しましたが、「ラ・ボエーム」の舞台となっているのは1830年代のパリ。
七月革命そのものについて詳しくは論じませんが、この頃の革命に向かう民衆のエネルギーがこの第2幕で表現されているようです。
この後1848年にも革命を控えているパリ。
子供たちが戦争ごっこをするのが日常であるほどに、そうした革命の雰囲気は色濃くパリの町を覆っていることが窺えます。

さてボヘミアンたちは、七面鳥やらワインやらロブスターやら、食べたいものを食べたいだけウェイターに頼んでいる状態。
そして料理が運ばれてくると、ロドルフォとミミのイチャイチャ話となり、マルチェッロはだんだんとイラついてきます。
「私、マルチェッロを怒らせちゃったかしら?」ミミがロドルフォに尋ねると、
「彼は今、恋の喪中なのさ。」
つまり、昔の恋人ムゼッタを忘れらないでいるのですね。
「まあとにかく、乾杯!!」

となったその瞬間、けたたましい女性の笑い声!
「ラ・ボエーム」もう一人の女性主人公、ムゼッタが登場します。
噂をすれば、ですね。
ムゼッタは歌手で、派手な衣装に身を包み、パリでも有名な女性のようです。
あらゆる点でミミと対照をなすキャラクターのムゼッタ。
今はどうやら政府の役人アルチンドーロがパトロンとなっている様子。
買い物などに付き合わされたのでしょう、ムゼッタにあちこち連れ回されて、息を切らしています。
2人もボヘミアンたちがいるカフェ・モミュスに入ってきました。
「ここにお座り、ルル!」
「その呼び方は二人だけの時にしてくれないかね…。」
アルチンドーロはルル、とまるで犬や猫のような名前を付けられています(笑)

Image of Musetta and Alcindoro

ムゼッタはあえて、元カレのマルチェッロを始めとするボヘミアンたちから見える席につきます。
ミミにムゼッタの説明を始めるマルチェッロ。
「あいつはムゼッタ。苗字は誘惑。
 恋人を次から次にとっかえひっかえ、
 奴は心臓を食べるのさ、俺も食われて、心(臓)がないって有様だ!」

一方ムゼッタ、
「なによマルチェッロ、こっちを見ないで意気地なし!
 みんなであたしをバカにするのね!」

そこでムゼッタはマルチェッロの気を引こうと、
「このお皿、汚れてるじゃないの!!」
と言いながら皿を地面にたたきつけて割るのですが、マルチェッロは相変わらずこっちを見ません。

アルチンドーロは街で有名なムゼッタを愛人にできて鼻高々、と思いきや、ムゼッタのおしとやかとは言えない行動にヤキモキしています。
彼は政府の役人であることから、周りの目が気になっているものと思われます。

ムゼッタとしては、アルチンドーロに買い物もさせたことだし、それ以上のことをさせるつもりは毛頭なく、そろそろマルチェッロのもとへ戻ろうとしています。
彼女が本当に愛しているのは、マルチェッロひとりなのです。

一向にこちらを向かないマルチェッロにしびれを切らしたムゼッタ。
マルチェッロ以外の皆の注目を一気に集めて、有名なアリア「Quando men vo 私が街を歩くと」を歌い出します。
「ムゼッタのワルツ」とも呼ばれ、多くのソプラノ歌手が歌ってきたこの歌。
艶やかでありつつも下品にはなり過ぎないメロディと、イタリアオペラなのにパリの香りが漂う色彩のある音楽でムゼッタの魅力が全開となる1曲です。

マルチェッロもどんどんムゼッタへの愛情に逆らえなくなっていきます。
ひとしきりすると、突然ムゼッタが叫び始めます。
「いたあああい!!」
「何事だ!??」
「靴ずれがして痛いの!あそこの靴屋で新しいのを買ってきて!!」(もちろん足が痛いのは嘘です)
と、ムゼッタがアルチンドーロに命じている間、マルチェッロは喜びでムゼッタが歌っていたメロディを引き継いで熱く歌い出します。
ムゼッタが痛いと言って見せつけた足首にマルチェッロはすっかりやられてしまいました(この時代、女性が足を見せびらかすのは、はしたないこととされていました)。
そしてマルチェッロは、ムゼッタがアルチンドーロに対して愛情など抱いておらず、とっとと追い払おうとしていることが分かって再びムゼッタへの愛が燃え上がったのです。

邪魔者がいなくなってムゼッタとマルチェッロは熱く抱き合います。
他のボヘミアンたちがそれを見て余韻に浸っている時、ウェイターがやって来てカフェの飲食代が書かれたお会計を彼らに渡します。
「え、高っっ!!」
彼らの所持金は色々な買い物をした結果、とても足りません。
そこでムゼッタ
「その伝票、ちょっと貸して!」
そして自分とアルチンドーロのテーブルの分も合わせて、
「あとはあのおじ様が払うわ!」
哀れアルチンドーロは全員分の会計を後で払わされることになってしまいました。

そのやり取りの間、カフェの外ではフランス軍による鼓笛隊が行進してきています。
街の人々や子供たちは軍隊を見ようと集まってきます。
その騒ぎに紛れて、ボヘミアンたちはさっさとカフェを後にしてしまいます。
軍楽隊の行進曲が盛り上がり最高潮に達した瞬間、新しい靴を抱えたアルチンドーロがカフェへ戻るも、大変な額のお会計を渡されて、大ショック!!
チャンチャン!!

上質な喜劇のラストシーンさながら、第2幕が終わります。


<第3幕>

場所はフランスのアンフェールというところにある関税徴収所。
人や物が通行するのを見張っていて、いわば関所のようなところで出入り口には門があり、門の近くには居酒屋があります。
居酒屋の看板としてかかっているのは、マルチェッロが第1幕で書いていた旧約聖書モーゼの紅海の絵。
その絵には太く「マルセイユの港にて」と文字で書かれており、マルチェッロが芸術として描いた絵が、タイトルも題材も変えられて寒空で看板としてぶら下がっている、ということにマルチェッロの夢と現実との葛藤、諦めが見えてくるようです。

時間は夜明け後すぐの早朝。
フランス北部の冬は大変厳しいもので、大抵は雪景色が舞台上で表現されています。
ここでもプッチーニの作曲手腕は冴えわたっていて、音楽だけでそのフランスの厳しい冬の寒さが伝わって来るようです。

居酒屋からはムゼッタが歌う声が聞こえてきて、お客たちも盛り上がって歌っています。

門が開いて何人か通行人が通り過ぎた後、ここにミミが1人でやって来ました。
何やら思いつめた様子で、たどり着いたのは良いもののミミは激しく咳込んでいます。

ミミはマルチェッロがここの居酒屋で働いていることを聞き出し、外に出てきた居酒屋の店員に頼みます。
「すみません、中にいるマルチェッロを呼んでもらえますか?
 ミミが待っていると伝えてください。」

出てきたマルチェッロは驚きます。ここからミミとマルチェッロの二重唱です。
「ミミ!」
「あなたがここにいると思ってたの」
「そうなんだよ、ひと月前からここにいて世話になってるんだ。
 ムゼッタは客に歌を教えて、俺はこういった絵を描いているのさ。
 いやー、寒っ、中に入ろうよ」
「ロドルフォがいるんでしょ?」
「ああ」
「だったら私は入れないわ」
「え、なんで??」
途端にミミは激しく、マルチェッロに救いを求めます。

どうやらロドルフォはミミを愛しすぎるがあまり嫉妬深くなってしまい、怒りとなってミミに当たり散らしてしまうようなのです。
第2幕でムゼッタがアリアを歌う前、ロドルフォはミミに「僕はあんな風にされたら許さないからね」と言っていて、ロドルフォが嫉妬に耐えられない性格だということが伏線のように歌われていました。

相談を受けたマルチェッロは
「関係性がそんな風になったら、俺だったら別れるけどね」
と、わりとドライな返しをミミに投げかけます。
ほどなく、マルチェッロもムゼッタへの嫉妬が爆発することになるのですが…。

ロドルフォは夜明けの1時間ほど前に居酒屋に来て、ベンチで眠っているとのこと。
やがてロドルフォは起き上がって、どうやらマルチェッロを探している様子。外に出てくる様子が窺えます。
ここでもめ事を起こされたくないマルチェッロは、ミミを隅の方へ押しやって、
「もう帰りな」と促します。
しかしミミは帰らずに、物陰へと身を隠します。

やがて出てきたロドルフォ。マルチェッロを見つけると、
「俺はもうミミと別れようと思うんだ」
と話し始めます。

マルチェッロはミミに続いて、ロドルフォと、カップル双方の話を順繰りに聞くことになりました。
程なくミミが、彼らの後ろにある木の陰に移動して話を立ち聞きし始めます。

マルチェッロが
「お涙ちょうだいの恋愛なんて良くないぜ。
 もっと笑ったり輝いたりしてなくちゃ。
 だいたいお前は嫉妬深いんだよ」
とけしかけると
「いや、ミミは浮気っぽいんだ。
 子爵が色目を使ってくると、彼女もそれに応えようとしたりする。」

この子爵(貴族の若者)とミミの関係性は原作にも出てきますが、プッチーニのオペラではあまり詳しく掘り下げられません。

強がっていたロドルフォも、マルチェッロに促されてとうとう本音を話しだします。

「僕はミミを愛してる、でも怖いんだ!!
 ミミは、、ひどい病気なんだ!
 咳が止まらず、
 僕の貧乏暮らしでは彼女の病気は治らない。
 彼女が笑顔でいるたび、僕は罪の意識にさいなまれる!
 僕のせいだ!!」
 
涙ながらに語るロドルフォ、その話を後ろで聞いていたミミは号泣し、やがて咳込んでしまいます。
ミミに気が付いたロドルフォ。
「ミミ!なんでここに!話を聞いていたのか!?」

そんな中、居酒屋からはムゼッタのけたたましい笑い声が聞こえてきます。
マルチェッロはムゼッタが他の男と楽しくしていることに腹を立て、居酒屋の中に駆け込んでいきます。

ミミはロドルフォへ告げます。
「さようなら」
「え!?」

ここからミミによる短いアリア「D’onde lieta あなたの愛の呼ぶ声に」が歌われます。
「あなたと楽しい時を過ごした部屋に、一人で戻ります。
 私の荷物はまとめておいてね。
 あなたが買ってくれたピンクのボンネット、
 良ければ愛の思い出にあなたが取っておいて。」
穏やかな歌い出しから、ボンネットのところになると一気に想いがあふれ出す、感動的な音楽となっています。

そしてロドルフォは静かに語り掛けます。
「では、これでおしまいなんだね。君は行ってしまうんだ。
 さようなら、愛の夢。」
そこからロドルフォとミミは、これまでの思い出をゆっくりと歌い出していきます。

ところがロドルフォとミミから少し離れたところに、マルチェッロとムゼッタが居酒屋から飛び出してきます。
「おいあの男と何を話していたんだ!?」
「何が言いたいのよ!」
ロドルフォとミミはしっとり別れ話をしている横で、マルチェッロとムゼッタの痴話げんかが始まります。
ここから第3幕のフィナーレとも言えるような、四重唱が演奏されます。

やがてマルチェッロとムゼッタはお互い罵声を投げつけて、けんか別れしてしまいます。
ロドルフォとミミは、
「冬に一人でいるのは死ぬほどつらいから、春になったら別れよう」
という結論に達します。
なんというか大人の別れ方、という気も致しますし、フランス北部の冬の厳しさを思えば仕方がないとも思えます。
ともかく、ロドルフォとミミはそこで再び寄り添い、楽譜上には2人は舞台から退場して、最後の歌声は舞台裏から聞こえることになっています(最近はそうでない演出も多いですが)。
これは第1幕で愛が芽生えた二人の声がして幕が閉まるのと、第3幕では別れが前提となって二人の声が聞こえる、というところでの対比となっています。

ここで第3幕がしっとりと終了します。


<第4幕>

舞台は第1幕と同じ屋根裏部屋。
第3幕から3,4ヶ月が経っています。

音楽の形も第1幕と全く同じように始まり、そこにはロドルフォとマルチェッロ。
ロドルフォはムゼッタを見かけた、という話をしてマルチェッロを動揺させ、マルチェッロはミミを見かけた話をして、ロドルフォを動揺させます。
ムゼッタもミミも、馬車に乗っていたということで、誰かお金持ちもしくは貴族などのもとに身を寄せている状態のようです。

「仕事に戻ろうぜ」
と、ロドルフォとマルチェッロはそれぞれ物書き、絵を描くことに集中しようとしますが、できません。
「なんて役立たずのペンだ!筆だ!」
とそれぞれペンと筆に八つ当たりをしますが、やがてマルチェッロはムゼッタがしていたリボンを、ロドルフォは第2幕でミミに買ってあげたボンネットをそれぞれ手に取って恋の思い出に浸り、二重唱を歌い出します。
こちらも大変ロマンティックな美しい音楽となっています。

そこへショナールとコッリーネが入ってきます。
どうやら二人は今日の食料を調達しに行っていたようです。

パンとニシン、飲み物は水だけの食事を、4人のボヘミアンたちは大層大げさなパーティであるかのようにおどけながら食べ始めます。
ここにも、貧しいながらも楽しさを忘れない、ボヘミアン達の信条が現れているようです。
そしてショナールが杯を手に、乾杯の歌を歌おうとしますが、、他の3人たちに
「うるせー!やめろ!!」
となじられ、
「ではダンスはいかが?」
「いいぞ!」
と、愉快なダンスのシーンとなります。

実はこの場面、台本の構想段階ではこのままショナールの乾杯の歌がソロとして歌われる予定だったのですが、プッチーニが
「いや、やはり早くその先のストーリーにいきたいし、ここにソロはいらないだろう」
と、カットされてしまったのでした。

ダンスがやがて、おふざけの乱闘騒ぎになってシッチャカメッチャカになったその時!
突然、ムゼッタがドアを開けて叫びます。
「ミミが、ここに来ているの、具合が、、とても悪くて…」
慌ててロドルフォはミミを迎えに行きます。

ここで場面がボヘミアンたちの明るいおふざけから深刻な雰囲気に変わるところは、本当に観ている方も気分がガラリと変わる、天才的な音楽と台本になっています。

ショナールとコッリーネはベッドを運び、そこにロドルフォがミミを寝かせます。
「ロドルフォ!あなたと一緒にいてもいい?」
「ミミ!!ずっと、ずっといておくれ!」

ムゼッタによると、ミミは第3幕でも名前が出ていた子爵のところにいたものの、そこから逃げ出し、具合も悪くなり身を引きずるようにして歩いていたところをムゼッタに発見されたとのこと。

ショナールがミミを見て、「もう30分も持たないんじゃないか」と思うほど、ミミの具合は悪い状態です。
「手が冷たいの、マフがほしいわ。。」
マフは毛皮などで作られた、手を入れる防寒具ですが、高価なものなのでもちろんこの屋根裏部屋にはありません。


ミミは小さな声で喋りかけます。

「マルチェッロ、ショナール、コッリーネ、ごきげんよう。
 マルチェッロ、ムゼッタはとても良い人よ。。」
「わかってる、わかってるよ」と応えるマルチェッロ。

ムゼッタは自分のイヤリングを外し、
「これで薬を買ってきて。お医者さんも呼んできて!
 私はマフを取って来るから!」
そうしてムゼッタとマルチェッロは出て行きます。

部屋の隅で考え込んでいたコッリーネは、自分が来ていたコートを脱いで、歌い出します。
「Vecchia zimarra, senti 古いコートよ、聞いてくれ」の歌い出しで知られる、コッリーネによるバスのアリアです。
そのポケットには様々な哲学書が入っていた、コッリーネにとって思い出がつまったコートを、彼は質屋に売ろうとしています。
そのお金は、自分のアクセサリーを売ったムゼッタに渡すつもりでいるようです。
不器用ながらも優しいコッリーネの心根がうかがえる1曲です。

そしてコッリーネはショナールへ
「俺たちが出来ることをしよう。俺はコート、お前は、彼らを二人にしてやることだ。」
「哲学者、その通りだな。そうするよ」
コッリーネとショナールも部屋を出て行きます。
彼らが出て行くときには、第1幕でショナールが勢いよく入って来た時の音楽が、彼の優しさを表すかのように穏やかなテンポで演奏されます。

そして音楽はそこから、第1幕でロドルフォが歌ったアリアの音楽へ。
2人きりになったミミとロドルフォは抱き合い、ミミが話し始めます。
「彼らはもう行った?わたし、眠ったふりをしていたの。
 あなたは私の愛、人生の全てよ!」
「ああ、ミミ!!」
そしてミミは第1幕で自分が歌った「Si, mi chiamano mimi 私はミミと呼ばれています」を口ずさみます。
ロドルフォが持っていた思い出のボンネットをミミに渡すと、いっきに二人が出会った時のことが思い出されます。
ロウソクが消えて、鍵を探した時のこと…。
「今だから言っちゃうけど、あなたすぐに鍵を見つけていたわよね」
「運命がそうなるように手助けしたのさ…」
そしてミミが、ロドルフォのアリアを口ずさみます。
「Che gelida manina… なんて冷たい手…」

しかし、ほどなくミミは激しく咳込んでしまいます。
「ミミ!!」
声に驚いてドアの外にいたショナールも駆け込んできます。
「何でもない、大丈夫よ。。。」
「いいからもう休んで!」

そこにムゼッタとマルチェッロも戻ってきます。
ムゼッタはミミに持ってきたマフを渡してやります。
「ああ、、何て柔らかくて暖かいの。
 あなたがこれを持ってたの?」
とミミはロドルフォに聞きます。
ムゼッタは即座に、
「そうよ!」
と応え、自分が持ってきたにもかかわらずロドルフォが用意したことをミミに信じさせてあげます。
思わず涙するロドルフォ。

「泣いてるの…?私は大丈夫なのに、どうして…??ここに…あなたが…いつも一緒に…暖かいから…眠るわ…」

穏やかに眠りに落ちるミミ。
沈黙の後、悲し気な和音が鳴り響きます。

ミミが眠ったのを見届けたロドルフォはマルチェッロに尋ねます。
「医者は何て?」
「来るよ」とだけ答えるマルチェッロ。

ロドルフォとマルチェッロ、ショナールがごく小さい声で話している間、ムゼッタは気付け薬をアルコールランプで温めながら、祈りの言葉をつぶやいています。

ふとミミの様子を見たショナールは、、気づいてしまい、急いでマルチェッロに小声で告げます。
「マルチェッロ、彼女の息がない…!」

その間にコッリーネが戻ってきて、ムゼッタにコートを売ったお金を渡します。
音楽がやみます。
コッリーネはロドルフォに聞きます。
もう歌ではなく、喋り声によるセリフです。
「様子はどうだ?」
「落ち着いているよ。」
しかし、仲間たちはみな、ミミが既に亡くなっている事実を知り、動揺しています。
彼らの様子に気づいたロドルフォ…
「なんだよ、様子がおかしいぞ、なんでそんな風に僕を見るんだ…!?」

たまらず叫ぶマルチェッロ。
「しっかりするんだ!!」

ついに感情が爆発したような音楽と共に、ロドルフォはミミのもとへ駆け寄ります。
「ミミ!!!」

ロドルフォも、仲間たちもみな泣き崩れ、大きな悲しみに舞台が覆われて、静かにオペラ全体の幕が下ります。。


いかがでしたでしょうか。

前作「マノン・レスコー」も、この後に続く「トスカ」も「蝶々夫人」も、ヒロインの死によってオペラが締めくくられることになります。
結核による死ということでは、ヴェルディの「椿姫」(① https://tenore.onesize.jp/archives/107https://tenore.onesize.jp/archives/108 ) からの影響も少なからずあると思われます。

悲しい物語ですが、このオペラ「ラ・ボエーム」はそのとにかく美しい音楽と歌によって、現代まで人々に愛される作品となっています。
なぜ人は悲しい物語と音楽に惹かれるのでしょう。
そうした悲しさに浸ることで、我々はもしかしたら、逆に自分の人生を明るくして行こうと思えるものなのかもしれません。
若い頃このオペラを観た時は舞台上で描かれる青春を我がことのようにして共感し、年齢を重ねて観ると、ミミの死=戻らない青春と解釈出来て心に迫るものがある、個人的にそんな気がしております。

それまでのオペラと比べれば異色作であるものの、触れやすさ、取っつきやすさではトップクラスの作品なのではないかと考えます。
プッチーニのオペラ「ラ・ボエーム」、どうぞ多くの皆様に届きますように。


ありがとうございました。
髙梨英次郎でした。


<参考文献>(敬称略)

「ジャコモ・プッチーニ」ジュリアン・バッデン (大平光雄・訳)

「プッチーニ  作曲家・人と作品シリーズ」南條年章  

スタンダード・オペラ鑑賞ブック [1] 「ラ・ボエーム」 南條年章

「プッチーニ ボエーム」アッティラ・チャンバイ、ディートマル・ホラント編

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